たった一分の勇気。

長尾 隆生

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第三話 図書館デートが夢だった小学校

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 小学生時代はボクの中ではかなり輝いていた時代だったと思う。
 なぜならボクはそれなりに足が速かったからね。
 小学生にとって足の速さってのはイコール人気度に他ならない。
 といってもクラスで一番というわけでも無く、学年でもトップ5位という微妙さがボクらしいと思う。

 その時代にボクが恋をしたのは三年生の時に同じクラスで隣の席になったマユミちゃん。
 物静かな黒髪ぱっつんのメガネっ娘だった。

 ある日、教科書を忘れてきたボクに机をくっつけて教科書を見せてくれた事で意識しだした。
 たとえそれが先生の指示だったとしても恋が始まる理由なんてそんな物。

 その年の運動会、ボクは彼女にかっこいいところを見せようとお父さんに頼み込んで50メートル走の練習をした。
 ボクとしては本当に珍しく自分から能動的に動いたと思う。
 でも、今考えると直接彼女に何か行動を示した訳でもないし空回りしてた様にも見えるけど。

 その年、ボクは初めてクラス対抗50メートル走の選手に選ばれそして二位になった。
 1位じゃ無いところが本当にボクらしいよね。

 ゴールした後、みんなが「おしかったね」「よくやった」と声をかけてくれた。
 その中に彼女の姿もあったけどみんなに褒められて有頂天になっていたボクは彼女が何を言ったのかは覚えていない。

 翌年ボクに決断の時が来た。
 小学校は四年生以降、部活か何らかの委員会に全員所属する事が校則で決まっていたんだ。
 クラス対抗リレーで二位の成績を収めたボクには陸上部顧問の先生から是非陸上部に入るべきとのお誘いを受けていた。
 でもボクは別に走ることが好きなわけでも、運動が好きなわけでもない。
 一生懸命断る勇気も出ないまま日々は過ぎていった。

 ある日ボクは隣の席の彼女が友人と話している声を聞いた。
 どうやら彼女は図書委員会に入ると決めたらしい。
 物静かでいつも小説を読んでいる彼女らしい選択肢だったと思う。

 一方ボクはと言えば先生からのお願いを断る事も出来ずにそのままなし崩し的に陸上部に入ることとなった。

 あの時ボクに先生からの誘いを断れる勇気があったなら未来は変わっていたかもしれない。

 彼女はクラスの文学少年と共に図書委員会に入り、やがて言葉を交わすことも無くなっていった。
 結局五年生になったときには彼女とはクラスが別れてしまいそれっきりになってしまった。

 陸上部に入ったあとモテたんじゃ無いかって?
 周りは本気で『走る事』を極めようとしてる人たちだよ。
 そんな中で中途半端なボクが目立てるわけはなかったんだ。

 そうして周りに埋没して行きながらボクの小学校生活は終わりを告げた。


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