41 / 42
モブは少しだけ勇者の過去を知る
しおりを挟む
「えっ……指輪アクセサリーって二個までしか装備できないんじゃないんですか?」
「何を言ってるんだ君は。指輪は一つの指に一個ずつはめることが出来るだろ」
そう言ってハーシェクは自分の指に合計十個の指輪をはめて見せた。
「……まじか……おいリベラ」
「ん? なはに」
すでに前菜を食べ始めていたリベラが、何かを咀嚼しながら返事をする。
「ハーシェクさんに『チャーム』をかけてみてくれないか? いいですよね、ハーシェクさん」
魔法を掛けてくれと頼んだあとに、ハーシェク本人に許可を取ってないことを思い出して慌てて付け加える。
「効果を見せるのにちょうどいいし、私からもお願いするよ」
「モグモグ……んぐっ。じゃあ軽くいくよ。チャーム!」
リベラは口の中のものを飲み込むと、片手の指をハーシェクに向けて魔法を放った。
といってもチャームの魔法は炎魔法みたいに視認出来ないので、実際に発動したのかどうかが解らないが。
ぱしゅっ。
しかし次の瞬間、俺が凝視していたハーシェクの指に嵌まった指輪たちが鈍く光り、微かな音を響かせた。
どうやらあれが魔法に対して抵抗したときに起こる現象なのだろう。
「おおっ。なんかかっこいい」
あの時代のゲームで、装備のグラフィックが出るわけでもない画面では、メッセージのみでそんな効果が見えるわけではない。
なので実際に耐性魔道具というものがどういった動作をするかというのは知らなかった。
「はははっ、こういうものを見るのは初めてでしたか」
ハーシェクはそう言って笑うと。
「今の感じだと半分でも大丈夫そうですね」
と、片手の指から指輪を全て外す。
そしてもう一度リベラに「チャームをかけてください」と言った。
自分から魔法を掛けてくださいとかいう人を見ると、頭の中に前世で流行っていた超低予算TVドラマを思い出すが。
しかし指輪の数が半分になっても効果があるならそれに越したことはない。
「じゃあいくね。チャーム!」
ばしゅっ。
先ほどより少しだけ指輪の輝きと音が強くなった気がする。
一つに掛かる負担が増えたからだろうか。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんともないよ」
ハーシェクはそう言って指輪を全部外すと、袋の中に全部戻してから口を開いた。
「それにしてもリベラちゃんのおかげで、どれくらいまで数を減らせば良いのかすぐに調べられて助かるよ」
「私の魔法、凄いでしょ」
鼻高々に胸を張るリベラだったが、結局魔道具で彼女は魔法をレジストされたわけで。
実戦では使えない可能性が高くなっただけなのではなかろうか。
そんなことを考えながら俺は、ふとミラがいなくなっていることに気がついた。
「あれ? ミラは?」
「ほんとだ。どこに行っちゃったんだろ」
キョロキョロと店の中を見るが彼女の姿はどこにも見当たらない。
まさか俺たちに何も言わず店を出て行く何てことは無いだろうに。
「ミラなら調理場に行きましたよ」
「へ?」
「あの子、よくこの店でも臨時の仕事をしてましたからね。たぶん店が忙しいのを見て手伝いに行ったんじゃないかな」
確かに今日は俺たちのせいもあるのかもしれないが昼間っから店内の客はかなり多い。
ちらほら開いているテーブルはあるものの、明らかに配膳やテーブルの片付けが間に合っていないのがわかる。
「優しくて働き者の子なんですよ……あの子は」
「知ってます」
「だから私はあの子が勇者様に選ばれたとき、神様はちゃんと見ているのだなと思ったと同時に、あの子に更なる重荷を背負わせるとは神も酷いことをすると思ったのですよ」
ハーシェクはジョッキのエールを一口飲むと、今まで見た中で一番辛そうな顔をして俺たちに尋ねる。
「あの子のことを君たちはどれくらい知ってますか?」
「私は何も知らないよ。だって村に来た時に始めて知り合ったんだもん」
「……そういえば俺もミラのことはほとんど知りません」
男装をしているが女の子だということと、ハシク村で色々な仕事をしていて顔も広いこと。
俺と同じように猟師としても活動していることくらいだろうか。
「そうですか。だったら私の口からはこれ以上は何も――」
ハーシェクはそういってジョッキにもう一度口を付けようとした。
「重荷だなんて思ってないよ」
だがその手はいつの間に戻ってきたのか、テーブルの横でいくつかの料理が載った皿を手にしたミラの言葉で止まる。
「だって捨て子だった僕を町のみんなはずっと優しく見守ってくれてたからね」
コトン。
テーブルの上に皿を置いて俺の横に座るミラの表情を俺は見る。
優しく微笑む彼女の表情は、その言葉が嘘では無いと物語っていた。
「詳しい話はまた後で二人にはするから。今は食事を楽しもうじゃないか。ハーシェクさんも、ね」
ミラは続けてそう言うと、自分の前に置かれたジョッキを手に取る。
中に入っているのはハーシェクと同じくエールである。
ちなみにリベラだけは成人前なので果実ジュースにしてもらっているが、俺のもエールだ。
前世では既におっさんだったから酒の味は知っている。
だがこの世界ではまだ一度も実は飲んだことが無かった。
「それじゃあ僕たちとハーシェクさんの前途を祝して!」
「祝して!」
「しゅくしてー!」
「祝して!!!」
わざと声高にミラがジョッキを掲げると、隣りのテーブルに座る仲間たちも一緒に声を上げた。
ついさっきまで漂いかけていた思い空気はどこへやら。
そんな俺たちを見て酒場の客たちも同じようにジョッキを掲げる。
彼らからしてみれば俺たちが何を祝しているのかさっぱりわからないだろうが、それでも皆楽しそうに合わせてくれたのだ。
そのことに驚いていた俺も慌てて自分のジョッキを手にするとミラを真似て掲げる。
そしてそれに合わせたようにミラがよく通る声で最後の一言を告げた。
「乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
「何を言ってるんだ君は。指輪は一つの指に一個ずつはめることが出来るだろ」
そう言ってハーシェクは自分の指に合計十個の指輪をはめて見せた。
「……まじか……おいリベラ」
「ん? なはに」
すでに前菜を食べ始めていたリベラが、何かを咀嚼しながら返事をする。
「ハーシェクさんに『チャーム』をかけてみてくれないか? いいですよね、ハーシェクさん」
魔法を掛けてくれと頼んだあとに、ハーシェク本人に許可を取ってないことを思い出して慌てて付け加える。
「効果を見せるのにちょうどいいし、私からもお願いするよ」
「モグモグ……んぐっ。じゃあ軽くいくよ。チャーム!」
リベラは口の中のものを飲み込むと、片手の指をハーシェクに向けて魔法を放った。
といってもチャームの魔法は炎魔法みたいに視認出来ないので、実際に発動したのかどうかが解らないが。
ぱしゅっ。
しかし次の瞬間、俺が凝視していたハーシェクの指に嵌まった指輪たちが鈍く光り、微かな音を響かせた。
どうやらあれが魔法に対して抵抗したときに起こる現象なのだろう。
「おおっ。なんかかっこいい」
あの時代のゲームで、装備のグラフィックが出るわけでもない画面では、メッセージのみでそんな効果が見えるわけではない。
なので実際に耐性魔道具というものがどういった動作をするかというのは知らなかった。
「はははっ、こういうものを見るのは初めてでしたか」
ハーシェクはそう言って笑うと。
「今の感じだと半分でも大丈夫そうですね」
と、片手の指から指輪を全て外す。
そしてもう一度リベラに「チャームをかけてください」と言った。
自分から魔法を掛けてくださいとかいう人を見ると、頭の中に前世で流行っていた超低予算TVドラマを思い出すが。
しかし指輪の数が半分になっても効果があるならそれに越したことはない。
「じゃあいくね。チャーム!」
ばしゅっ。
先ほどより少しだけ指輪の輝きと音が強くなった気がする。
一つに掛かる負担が増えたからだろうか。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんともないよ」
ハーシェクはそう言って指輪を全部外すと、袋の中に全部戻してから口を開いた。
「それにしてもリベラちゃんのおかげで、どれくらいまで数を減らせば良いのかすぐに調べられて助かるよ」
「私の魔法、凄いでしょ」
鼻高々に胸を張るリベラだったが、結局魔道具で彼女は魔法をレジストされたわけで。
実戦では使えない可能性が高くなっただけなのではなかろうか。
そんなことを考えながら俺は、ふとミラがいなくなっていることに気がついた。
「あれ? ミラは?」
「ほんとだ。どこに行っちゃったんだろ」
キョロキョロと店の中を見るが彼女の姿はどこにも見当たらない。
まさか俺たちに何も言わず店を出て行く何てことは無いだろうに。
「ミラなら調理場に行きましたよ」
「へ?」
「あの子、よくこの店でも臨時の仕事をしてましたからね。たぶん店が忙しいのを見て手伝いに行ったんじゃないかな」
確かに今日は俺たちのせいもあるのかもしれないが昼間っから店内の客はかなり多い。
ちらほら開いているテーブルはあるものの、明らかに配膳やテーブルの片付けが間に合っていないのがわかる。
「優しくて働き者の子なんですよ……あの子は」
「知ってます」
「だから私はあの子が勇者様に選ばれたとき、神様はちゃんと見ているのだなと思ったと同時に、あの子に更なる重荷を背負わせるとは神も酷いことをすると思ったのですよ」
ハーシェクはジョッキのエールを一口飲むと、今まで見た中で一番辛そうな顔をして俺たちに尋ねる。
「あの子のことを君たちはどれくらい知ってますか?」
「私は何も知らないよ。だって村に来た時に始めて知り合ったんだもん」
「……そういえば俺もミラのことはほとんど知りません」
男装をしているが女の子だということと、ハシク村で色々な仕事をしていて顔も広いこと。
俺と同じように猟師としても活動していることくらいだろうか。
「そうですか。だったら私の口からはこれ以上は何も――」
ハーシェクはそういってジョッキにもう一度口を付けようとした。
「重荷だなんて思ってないよ」
だがその手はいつの間に戻ってきたのか、テーブルの横でいくつかの料理が載った皿を手にしたミラの言葉で止まる。
「だって捨て子だった僕を町のみんなはずっと優しく見守ってくれてたからね」
コトン。
テーブルの上に皿を置いて俺の横に座るミラの表情を俺は見る。
優しく微笑む彼女の表情は、その言葉が嘘では無いと物語っていた。
「詳しい話はまた後で二人にはするから。今は食事を楽しもうじゃないか。ハーシェクさんも、ね」
ミラは続けてそう言うと、自分の前に置かれたジョッキを手に取る。
中に入っているのはハーシェクと同じくエールである。
ちなみにリベラだけは成人前なので果実ジュースにしてもらっているが、俺のもエールだ。
前世では既におっさんだったから酒の味は知っている。
だがこの世界ではまだ一度も実は飲んだことが無かった。
「それじゃあ僕たちとハーシェクさんの前途を祝して!」
「祝して!」
「しゅくしてー!」
「祝して!!!」
わざと声高にミラがジョッキを掲げると、隣りのテーブルに座る仲間たちも一緒に声を上げた。
ついさっきまで漂いかけていた思い空気はどこへやら。
そんな俺たちを見て酒場の客たちも同じようにジョッキを掲げる。
彼らからしてみれば俺たちが何を祝しているのかさっぱりわからないだろうが、それでも皆楽しそうに合わせてくれたのだ。
そのことに驚いていた俺も慌てて自分のジョッキを手にするとミラを真似て掲げる。
そしてそれに合わせたようにミラがよく通る声で最後の一言を告げた。
「乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!
黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。
登山に出かけて事故で死んでしまう。
転生した先でユニークな草を見つける。
手にした錬金術で生成できた物は……!?
夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる