鬱ゲーのモブ村人に転生した俺は【禁断の裏技】でハッピーエンドを目指します~モブにはレベルキャップなんて存在しないんです~

長尾 隆生

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モブは勇者の魅力に戦慄する

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「はぁ……まさか私がそのようなことになっていたとは。ご迷惑をおかけしました」

 ガタゴト揺れる馬車の中。
 目の前で申し訳なさそうに頭を下げるハーシェクに俺は苦笑いを浮かべる。

「何事もなかったんだし、僕は気にしてないよ」
「私の魔法のおかげよね!」

 腕を組んで『えっへん』とばかりに胸を張るリベラだったが、今回は彼女がいなければもっと面倒なことになっていたかも知れないのは確かだ。
 まさか味方であるハーシェクが勇者の魅了に掛かるなんて予想外すぎる。

 ゲームであれば味方がどれだけ『みりょく』が高かろうと、それによって自分たちが魅了に掛かることはない。
 だけどこの世界はドラスティックファンタジアというゲームを元にしているが現実なのだ。

 魔物が見とれるほどの力に人が魅了されないわけがなかったということなのだろう。

「本当に。リベラがチャームブレイクの魔法を覚えていてくれたおかげだよ」
「聖女様。ありがとうございました」

 チャームブレイクは文字通り魅了破りの魔法だ。
 俺はその魔法をリベラが覚えていることは知っていた。
 なぜなら同時に覚えた『チャーム』の魔法と共に彼女は面白がってコックルに掛けまくっていたからである。

 ガサガサと籠の中で蠢くあいつらがリベラのチャームに掛かって一斉に彼女の方だけを向いて動きを止めたときは背筋に悪寒が走ったものだが。
 そのおかげで俺はハーシェクの異常と、その対処法に気付くことが出来たわけで。

「所でミラはデミゴブリンにどうして魅了攻撃をしようと思ったんだ?」

 彼女の今の実力であれば、別に魅了で足止めをする必要は無いはずだ。
 というかいつの間に魅了なんて覚えたのだろうか。

「別に僕は何もしてないんだ」
「そうなのか?」
「うん。だって僕はリベラみたいにチャームの魔法は使えないからね」

 そういえば確かにドラファンの勇者が覚える魔法の中に『チャーム』はなかった。
 となるとハーシェクが掛かったのは魔法ではなくゲームでのステータスである『みりょく』のせいかもしれない。

 といっても物理的な何かでも魔法的な何かでもない以上、それが原因だと証明出来るわけではない。
 もしかすると他に何か原因があるのかもしれないが、今の俺にはわからない。

「こういうときステータスが見れないのが困る」

 もしミラの『みりょく』が原因だとすると、この先もミラが魔物と戦う度に味方にも魅了が掛かる可能性があると言うことになってしまう。
 今回はリベラが無事だったから良かったものの、もし彼女までも魅了に掛かったらすぐに治せる者がいなくなる。

「ハーシェクさん」
「なんだい?」
「魅了耐性が付いた魔道具って取り扱ってないですか?」

 今のところ魅了それに対抗できるものとなると俺には耐性装備くらいしか思いつかない。
 ただゲームでも耐性装備は良いものであるほど値段が張ったり、ダンジョンの宝箱から探し出さないといけなかったりする。

 時間があるなら俺がダンジョンに潜って取ってきてもいいのだが、正直現実となったこの世界でダンジョンに潜るのはちょっと怖い。
 ゲームと違ってちゃんと松明かランプを保っていかなきゃいけないし、どこから魔物が襲いかかってくるか解らない。
 あと罠もあるだろうし、何よりリアルでのダンジョン探索はどれくらいの時間が掛かるのかも知らないのだ。

 もし何日もかかるとなると食料だけでなくゲームではうやむやになっていたあれやこれやについても考えなくてはならないだろう。

「そうですね。ハシクの倉庫にいくつかあったはずです」
「じゃあそれを売って貰えますか?」

 お金は持ってないが持ってきた背負い袋の中にいくつか高く売れそうな魔物素材は放り込んで持って来ている。
 前まではそんなものを俺が売りに行けばそれだけで変な勘ぐりをうけそうだったが、今は勇者様ご一行である。
 高額の魔物素材を持ち込んでも『さすが勇者様だ』ということで誤魔化せる……と思う。

 ただ耐性装備はゲームでもかなり高額だった。
 なので手持ちの素材だけで払えるかどうか不安だったのだが。

「いえ、他の人たちもこの先に同じようなことになると困るので全員分の魅了耐性装備は私が準備を用意させていただきます」

 どうやら自分が魅了に掛かってしまったことをかなり気にしているらしいハーシェクの計らいによって、その心配は無くなったのだった。


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