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モブは陰の者となる
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リベラのリペア魔法によって村の結界魔道具も修復され、後顧の憂いを払拭した俺たちは、別れを惜しむ両親や村人たちに「時々は帰ってくるから」と告げスミク村を後にした。
ちなみに「時々は帰ってくる」という言葉は嘘では無い。
なぜならゲームではこのあと王都のイベントで転移魔法――所謂ルー○とかファストトラベルといわれるものが使えるようになる魔道具を手に入れることが出来るからである。
ただしゲームだとスミク村は既に壊滅しているため飛び先リストには表示されないのだが、この世界ではたぶん追加されると思っている。
「いやぁ、しかし私の商隊が勇者様と聖女様を乗せる名誉を授かるとは夢にも思いませんでした」
「よしてくださいよハーシェクさん。別に僕は僕で何も変わってないんですから」
「そうだよ。私だって聖女だなんて言われてもよくわかんないし」
「……」
和気藹々とした会話が、ガタゴト揺れる馬車の荷台で続いている。
ハーシェクとミラは昔からの知り合いで、ハシク村で便利屋みたいな仕事をしているミラは小さな頃から細々とした仕事を貰っていたらしい。
「はははっ、そうかい? それならそうさせて貰うが、表だった場では勇者様として扱わせて貰うよ?」
「こそばゆいけど……うん、それでお願いするよ」
「聖女様はどうしましょう?」
「私も普通にリベラって呼んで欲しいな」
「じゃあミラと同じくリベラちゃんって呼ばせてもらおうかな」
「じゃあじゃあ私はおじさんのことはおじさんって言うね」
おっさんと男装の麗人と美少女。
その三人の会話を、俺は二人から少し離れた荷台の端に置いてある荷物の陰に座り込んで眺めていた。
そんな俺のことを思い出したのだろう。
ハーシェクが声を掛けてきた。
「えっと……君はアーディくんだったね」
「あ、はい」
「二人のお付きは大変だろうけど、がんばってな」
「あはは。任せてください」
俺が愛想笑いを浮かべながら返事をすると、ハーシェクは少し首を傾げ。
「ところで君はどうしてそんな所にいるのかね?」
と尋ねた。
「俺はあんまり人前に出るのが苦手なんで」
「そ、そうなんだ。アーディはちょっと引っ込み思案というか人見知りな所があってさ。そっとして置いてあげて欲しいんだ」
「そうなのかい? 村ではそうは見えなかったが」
ミラのフォローにハーシェクは不思議そうに眉間に皺を寄せる。
「村は知り合いばっかりだから大丈夫なんだよー」
「そうなんす。俺、村以外ではこんな感じなんす」
リベラの言葉に続けて俺は雑にキャラを作って応えた。
「それなら仕方ないけど。そんな状態で勇者一行のお付きとか出来るのかい?」
「……努力するっす」
今の俺の立場は勇者パーティのリーダーではなく勇者のお付き、つまり身の回りの世話や雑用、荷物持ちをする男というものだ。
これは女神に俺の存在を気付かれないためというのが一番大きいが、俺というモブが勇者パーティの一員になることで世界の流れが更に大きく変わってしまい、これから先に仲間になるはずのキャラが仲間にならないという危険を避けるためでもある
「ところでハーシェクさん。王都にはもう連絡したんだよね?」
「ん? ああ、もちろん。スミク村を出る前に注文の品が全て届けられることと勇者一行をお連れすることを伝書バードで送ってある」
「もしかして私たちの歓迎パーティとか開かれちゃったりするのかな!」
「それはどうだろう。あまり派手な出迎えとかは恥ずかしいな」
わくわくした表情を隠さないリベラと、困惑気味のミラを見てハーシェクは苦笑する。
「はははっ、さすがにそこまで盛大にはしないだろう。なんせ魔王の復活なんて一般市民が知れば大変なことになるだろうからね」
「そういえばハーシェクさんに相談したときに言われたことを忘れてたよ」
「勇者が現れたということは即ち魔王が復活するということになる。もし全ての人々がそれを知ってしまえばパニックを起す者もすくなくないだろう」
ハーシェクが言うにはパニックや狂乱した人々による暴動、自暴自棄による被害などを防ぐためになるべく勇者のことは公にしないことに国家間で決まっているのだという。
それぞれの国の上層部や領主は言うに及ばず、ハーシェクなど各所にツテを持つ者の間では周知の事実だそうだ。
「スミク村では不可抗力とは言えすっかり勇者ミラの名が知れ渡ってしまったがね」
あれだけの騒動が起きてしまえば隠すことは出来ない。
ただ辺境の旅人すら訪れないスミク村では勇者の噂が広がる危険性はごく僅かで、ポルグスやフェルラのような村の外の人たちと交流をする可能性がある者だけを口止めすれば良かった。
「なーんだ。つまんないの」
「はははっ。でもそれは表立ってはというだけの話だよ。王城の中ではきっと盛大……とまでは行かないまでもちゃんと出迎えてくれ――」
何を期待していたのか解らないが、不満そうなリベラを見てハーシェクは笑いながらそう言いかけたとき。
ヒヒーン!
「うわーっ! 魔物だ!」
「護衛は武器を持てっ」
「こんな所で魔物が出るなんて聞いてないぞ!」
突然馬車が急停車したかと思うと、馬の嘶く声と御者と護衛の怒号が馬車に飛び込んで来たのだった。
ちなみに「時々は帰ってくる」という言葉は嘘では無い。
なぜならゲームではこのあと王都のイベントで転移魔法――所謂ルー○とかファストトラベルといわれるものが使えるようになる魔道具を手に入れることが出来るからである。
ただしゲームだとスミク村は既に壊滅しているため飛び先リストには表示されないのだが、この世界ではたぶん追加されると思っている。
「いやぁ、しかし私の商隊が勇者様と聖女様を乗せる名誉を授かるとは夢にも思いませんでした」
「よしてくださいよハーシェクさん。別に僕は僕で何も変わってないんですから」
「そうだよ。私だって聖女だなんて言われてもよくわかんないし」
「……」
和気藹々とした会話が、ガタゴト揺れる馬車の荷台で続いている。
ハーシェクとミラは昔からの知り合いで、ハシク村で便利屋みたいな仕事をしているミラは小さな頃から細々とした仕事を貰っていたらしい。
「はははっ、そうかい? それならそうさせて貰うが、表だった場では勇者様として扱わせて貰うよ?」
「こそばゆいけど……うん、それでお願いするよ」
「聖女様はどうしましょう?」
「私も普通にリベラって呼んで欲しいな」
「じゃあミラと同じくリベラちゃんって呼ばせてもらおうかな」
「じゃあじゃあ私はおじさんのことはおじさんって言うね」
おっさんと男装の麗人と美少女。
その三人の会話を、俺は二人から少し離れた荷台の端に置いてある荷物の陰に座り込んで眺めていた。
そんな俺のことを思い出したのだろう。
ハーシェクが声を掛けてきた。
「えっと……君はアーディくんだったね」
「あ、はい」
「二人のお付きは大変だろうけど、がんばってな」
「あはは。任せてください」
俺が愛想笑いを浮かべながら返事をすると、ハーシェクは少し首を傾げ。
「ところで君はどうしてそんな所にいるのかね?」
と尋ねた。
「俺はあんまり人前に出るのが苦手なんで」
「そ、そうなんだ。アーディはちょっと引っ込み思案というか人見知りな所があってさ。そっとして置いてあげて欲しいんだ」
「そうなのかい? 村ではそうは見えなかったが」
ミラのフォローにハーシェクは不思議そうに眉間に皺を寄せる。
「村は知り合いばっかりだから大丈夫なんだよー」
「そうなんす。俺、村以外ではこんな感じなんす」
リベラの言葉に続けて俺は雑にキャラを作って応えた。
「それなら仕方ないけど。そんな状態で勇者一行のお付きとか出来るのかい?」
「……努力するっす」
今の俺の立場は勇者パーティのリーダーではなく勇者のお付き、つまり身の回りの世話や雑用、荷物持ちをする男というものだ。
これは女神に俺の存在を気付かれないためというのが一番大きいが、俺というモブが勇者パーティの一員になることで世界の流れが更に大きく変わってしまい、これから先に仲間になるはずのキャラが仲間にならないという危険を避けるためでもある
「ところでハーシェクさん。王都にはもう連絡したんだよね?」
「ん? ああ、もちろん。スミク村を出る前に注文の品が全て届けられることと勇者一行をお連れすることを伝書バードで送ってある」
「もしかして私たちの歓迎パーティとか開かれちゃったりするのかな!」
「それはどうだろう。あまり派手な出迎えとかは恥ずかしいな」
わくわくした表情を隠さないリベラと、困惑気味のミラを見てハーシェクは苦笑する。
「はははっ、さすがにそこまで盛大にはしないだろう。なんせ魔王の復活なんて一般市民が知れば大変なことになるだろうからね」
「そういえばハーシェクさんに相談したときに言われたことを忘れてたよ」
「勇者が現れたということは即ち魔王が復活するということになる。もし全ての人々がそれを知ってしまえばパニックを起す者もすくなくないだろう」
ハーシェクが言うにはパニックや狂乱した人々による暴動、自暴自棄による被害などを防ぐためになるべく勇者のことは公にしないことに国家間で決まっているのだという。
それぞれの国の上層部や領主は言うに及ばず、ハーシェクなど各所にツテを持つ者の間では周知の事実だそうだ。
「スミク村では不可抗力とは言えすっかり勇者ミラの名が知れ渡ってしまったがね」
あれだけの騒動が起きてしまえば隠すことは出来ない。
ただ辺境の旅人すら訪れないスミク村では勇者の噂が広がる危険性はごく僅かで、ポルグスやフェルラのような村の外の人たちと交流をする可能性がある者だけを口止めすれば良かった。
「なーんだ。つまんないの」
「はははっ。でもそれは表立ってはというだけの話だよ。王城の中ではきっと盛大……とまでは行かないまでもちゃんと出迎えてくれ――」
何を期待していたのか解らないが、不満そうなリベラを見てハーシェクは笑いながらそう言いかけたとき。
ヒヒーン!
「うわーっ! 魔物だ!」
「護衛は武器を持てっ」
「こんな所で魔物が出るなんて聞いてないぞ!」
突然馬車が急停車したかと思うと、馬の嘶く声と御者と護衛の怒号が馬車に飛び込んで来たのだった。
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