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モブは修行の場へ勇者と聖女を連れて行く
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「まったく。二人揃って寝坊なんて、何考えてるのよ!」
「正直すまん」
「ごめんリベラちゃん」
案の定寝坊した俺とミラは、窓から入ってきたリベラに蹴り起された。
急いで準備してあった着替えや剣を持って家を抜け出した俺たちは、そのまま例の抜け穴を通って村の外に出る。
抜け穴に向かう道中リベラはかなりお怒りの様子で、俺たちは村を出てしばらくは彼女をなだめるために時間を費やすことになった。
「あんな抜け穴まで作るなんて、アーディは器用なんだね」
「それほどでもないさ。人一人くぐり抜けるだけなら誰でも作れるだろ」
「穴を掘るだけならね。でも穴の中が崩れないように壁とかきちんと作ってあっただろ」
村を抜け出すために掘った穴は、数年間使っているうちにどんどん強化されていった。
元々は土を掘っただけだったが、今では河岸で歩ける位の広さになっていた。
しかも木や岩を使って回りも箱型に囲んであるおかげで崩れる心配もない。
「使ってるウチにちょっと崩れてきたりしてヤバイなって思ったんだよ。それでちょいちょい補強しているうちにここまでになったってわけ」
「アーディって凝り性だもんね。服とかも自分で作るんだよ」
機嫌を直したリベラが話に割り込んでくる。
「これもアーディが作ってくれたんだ」
「そのかわいらしいエプロンってアーディが作ったものだったんだ。僕はてっきりどこかで買ってきたのかと思ってたよ」
「昔ね、私が解体作業とか手伝ってたときに服を汚しちゃって」
一年くらい前の話だ。
リベラが服を汚したとしょんぼりしていたのを見かけて、つい「俺が汚れないようにエプロンでも作ってやるよ」って言ってしまったのだ。
おかげで彼女の好みに合わせた可愛らしいエプロンを十日くらいかけて作る羽目になった。
「いいな。僕も作って貰おうかな」
リベラのエプロンを見ながらそんなことを言うミラを横目に。
「何回も作り直させられて大変だったんだぞ」
小さな声でそう呟きながら俺は空を見上げる。
今日は満月ではないが十分明るい。
これくらい明るければ火を使うことなくレベル上げをすることが出来るだろう。
だが。
「お前たち、本当にコックルを見ても錯乱しないでくれよ」
「コックルってゴッキーのでっかいやつなんでしょ? 私別にゴッキー怖くないから大丈夫だよ」
「ぼ……僕だって平気さ」
「だよねー。ミラは勇者様なんだからゴッキーくらい平気に決まってんじゃん」
月明かりだけのせいじゃなく青ざめた顔のミラには不安しかない。
「まぁ最悪ダメなら別の考えもあるし安心してくれ」
「そ、そうかい。べつに僕は平気だけどね」
「私も平気だって言ってんじゃん」
そんなことを話ながら俺たちは隠し通路にたどり着いた。
「凄いっ! こんな仕掛け初めて見るよ」
「アーディはいっつも一人でこんな面白そうな所に来てたんだ。ずるいっ」
いつものように数字を打ち込んで通路を開いてみせると、二人は興味津々に中を覗き込みながらそう言った。
通路の中は月の光は届かないので真っ暗だからか、いつもなら真っ先にこういう所を見つければ入っていくリベラもその場から動こうとしない。
俺は中に入ってすぐの所に立てかけておいた松明と火打ち石を手に取る。
「火を起すからちょっと待っててくれ」
松明を地面に置いて、その先に巻いた蝋を染みこませた布の上で火打ち石を構える。
「火なら僕が付けてあげるよ」
しゃがみ込んだ俺の背にミラの声が掛かる。
「は?」
「借りるよ」
ミラの言葉にきょとんとしていた俺の目の前から彼女は松明を片手で取り上げると自分の目に高さにかざす。
そしても片方の手の指を松明の先に向けると。
「炎よ」
たった一言そう告げた途端、一瞬で松明に火が付いたのだった。
「正直すまん」
「ごめんリベラちゃん」
案の定寝坊した俺とミラは、窓から入ってきたリベラに蹴り起された。
急いで準備してあった着替えや剣を持って家を抜け出した俺たちは、そのまま例の抜け穴を通って村の外に出る。
抜け穴に向かう道中リベラはかなりお怒りの様子で、俺たちは村を出てしばらくは彼女をなだめるために時間を費やすことになった。
「あんな抜け穴まで作るなんて、アーディは器用なんだね」
「それほどでもないさ。人一人くぐり抜けるだけなら誰でも作れるだろ」
「穴を掘るだけならね。でも穴の中が崩れないように壁とかきちんと作ってあっただろ」
村を抜け出すために掘った穴は、数年間使っているうちにどんどん強化されていった。
元々は土を掘っただけだったが、今では河岸で歩ける位の広さになっていた。
しかも木や岩を使って回りも箱型に囲んであるおかげで崩れる心配もない。
「使ってるウチにちょっと崩れてきたりしてヤバイなって思ったんだよ。それでちょいちょい補強しているうちにここまでになったってわけ」
「アーディって凝り性だもんね。服とかも自分で作るんだよ」
機嫌を直したリベラが話に割り込んでくる。
「これもアーディが作ってくれたんだ」
「そのかわいらしいエプロンってアーディが作ったものだったんだ。僕はてっきりどこかで買ってきたのかと思ってたよ」
「昔ね、私が解体作業とか手伝ってたときに服を汚しちゃって」
一年くらい前の話だ。
リベラが服を汚したとしょんぼりしていたのを見かけて、つい「俺が汚れないようにエプロンでも作ってやるよ」って言ってしまったのだ。
おかげで彼女の好みに合わせた可愛らしいエプロンを十日くらいかけて作る羽目になった。
「いいな。僕も作って貰おうかな」
リベラのエプロンを見ながらそんなことを言うミラを横目に。
「何回も作り直させられて大変だったんだぞ」
小さな声でそう呟きながら俺は空を見上げる。
今日は満月ではないが十分明るい。
これくらい明るければ火を使うことなくレベル上げをすることが出来るだろう。
だが。
「お前たち、本当にコックルを見ても錯乱しないでくれよ」
「コックルってゴッキーのでっかいやつなんでしょ? 私別にゴッキー怖くないから大丈夫だよ」
「ぼ……僕だって平気さ」
「だよねー。ミラは勇者様なんだからゴッキーくらい平気に決まってんじゃん」
月明かりだけのせいじゃなく青ざめた顔のミラには不安しかない。
「まぁ最悪ダメなら別の考えもあるし安心してくれ」
「そ、そうかい。べつに僕は平気だけどね」
「私も平気だって言ってんじゃん」
そんなことを話ながら俺たちは隠し通路にたどり着いた。
「凄いっ! こんな仕掛け初めて見るよ」
「アーディはいっつも一人でこんな面白そうな所に来てたんだ。ずるいっ」
いつものように数字を打ち込んで通路を開いてみせると、二人は興味津々に中を覗き込みながらそう言った。
通路の中は月の光は届かないので真っ暗だからか、いつもなら真っ先にこういう所を見つければ入っていくリベラもその場から動こうとしない。
俺は中に入ってすぐの所に立てかけておいた松明と火打ち石を手に取る。
「火を起すからちょっと待っててくれ」
松明を地面に置いて、その先に巻いた蝋を染みこませた布の上で火打ち石を構える。
「火なら僕が付けてあげるよ」
しゃがみ込んだ俺の背にミラの声が掛かる。
「は?」
「借りるよ」
ミラの言葉にきょとんとしていた俺の目の前から彼女は松明を片手で取り上げると自分の目に高さにかざす。
そしても片方の手の指を松明の先に向けると。
「炎よ」
たった一言そう告げた途端、一瞬で松明に火が付いたのだった。
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