鬱ゲーのモブ村人に転生した俺は【禁断の裏技】でハッピーエンドを目指します~モブにはレベルキャップなんて存在しないんです~

長尾 隆生

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モブは悪魔と対峙する

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「ほう……俺様の名を知っているとは。貴様、何者だ?」

 ばっさばっさと翼をはためかせながら俺たちの目の前に巨体が降り立つ。
 その威圧感に圧され、リベラが俺の体を抱く力が強くなる。

「まさかお前が聖女か?」

 身を屈めるように顔を近づけ、俺を睨めつけるように見るグレーターデーモンの口から『聖女』という言葉が紡がれた。
 まちがいない。
 どうしてこんなにゲームより早い時期にこいつが現れたのかはわからないが、間違い無くスミク村襲撃イベントが始まったのだ。

「ヒッ」

 小さく悲鳴を上げてリベラが俺の後ろに隠れる。

「……」
「ん? なんだ、お前は雄ではないか。人間の雄雌はよくわからんが、聖女とやらは雌だったはず。とすると」

 グレーターデーモンは俺の後ろで震えているリベラの姿を覗き込もうとする。

 やばい。
 もしリベラが聖女だと知られたら――

 いや、ゲームでは彼女は唯一生き残ることになっている。
 だとするとここで殺されることはない。

「……私が聖女よ!」

 俺は思いっきり女っぽい声を意識してそう宣言した。

 既に実際のゲームではあり得ない時期にこいつは襲ってきた。
 つまりこの先もゲームと同じように進むとは限らない。

「アーディ……?」
「私が雄ですって? 全くもって失礼だわっ!!」

 突然しなを作ってくねくねと変な女言葉を叫びだした俺に、背後のリベラが戸惑いの声を上げる。

「私が聖女リベラよ!」
「えっ……それって私の――」
「聖女リベラの命が欲しかったら掛かってきなさい! 相手になってあげるわ!!」

 パチーン!

 俺はグレーターデーモンの顔を平手でひっぱたくと、ヤツを挑発しながら広場へ走る。

「貴様っ!? 高貴なる我の顔を平手で打つなど許されぬ所業っ!」
「えっ、ええっ」

 上手く意識を俺だけに惹きつけることが出来た。
 何が起こっているのかわからず戸惑っているリベラを置いて俺の待つ広場へ向かってくるグレーターデーモンの姿に、俺は思わずにやけそうになる顔を必死に抑える。

「アーディ!」
「えっ」

 俺はリベラに向かって俺の名を呼ぶ。

「私がこの化け物の相手をするから、アーディは酒場のみんなの様子を見てあげてっ」
「化け物だと……貴様、どこまで我を愚弄するのかっ!」

 酒場のあの状況からして既に手遅れかも知れない。
 だけどリベラなら。
 聖女である彼女なら息さえしていれば助けられるはずだ。

「でもやっぱり村の中じゃ力が出ないな」

 強制力が働かない村の外であれば先ほどの平手でもグレーターデーモンにダメージを与えられていたはずだ。
 だがこちらに迫る化け物からは一切ダメージを受けた気配は無い。

「村の外までおびき出すしかないな」

 村の出口に向かって数歩駆け出した瞬間だった。

「逃がさぬよ」

 横からそんな声が聞こえたと同時。

 ガッ。

 俺は右肩に激しい衝撃を受け、そのまま広場の端に止められていた商隊の馬車に叩き付けられた。
 馬車の側面に貼られた板が割れ、荷台からはせっかく大事に積み込んだばかりの品物が割れる音が響く。

「げはっ」

 リベラに直して貰った内蔵が圧力でまた傷ついたのだろう。
 俺の口から血が飛び散って地面を濡らす。

「ほう。我の一撃を受けて潰れぬとは、さすが聖女と言った所か」

 どしん。
 どしんとグレーターデーモンが歩み寄ってくる。

 鈍重そうな動きだが、それがフェイクだということは先ほどの攻撃を見れば明らかだ。

「鍛えて……ますから」

 俺はふらつく体を無理矢理立ち上がらせた。

 体の中と殴られた右肩から激痛が走る。
 特に右肩は骨が砕かれたのか肩から下は一切動かせそうにない。

「それは好都合。我を愚弄したことを後悔する間もなく死なれては面白くないからな」

 魔物の表情はわかりづらい。

 だが今、俺の方にゆっくりと近づいてくるグレーターデーモンの顔に浮んでいるそれはあからさまな愉悦。
 ヤツは俺をじっくりと痛めつけて殺すつもりだ。

「ゲス野郎め」
「ほざけ虫けらが」

 ゴブッ。

 次に感じたのは左脇腹への一撃。
 グレーターデーモンの放った蹴りが体を軽々と吹き飛ばし、俺はもう一台の馬車に砕けた肩から叩き付けられ、一瞬気を失いそうになった。

「畜生め」

 いくら鍛えていても村の中での俺は人を越える力は発揮できない。
 その縛りも魔王軍の襲来までにはなんとか出来ると俺は感じていた。

 実際今の俺でも普通の人間よりは村の中でも遙かに強くなっている。
 だからこそ手加減されているだろうが、グレーターデーモンの攻撃を二度喰らっても命を失わずに居られた。

「ほう。まだ我を睨み付ける気力は残っておるのか」

 顔だけを上げてグレーターデーモンを睨み付ける俺を見てヤツは嘲笑う。
 このままでは俺に勝ち目はない。

「だがもう動けまい」
「……」

 ヤツの言うとおりだ。

 俺はもう両手の感覚がないどころか腰から下すら動かせない。
 さっきの蹴りでどこか大事な部分が破壊されたのだろう。

 このまま俺も殺され、村も滅ぼされてしまうのだろうか。
 そしてリベラだけが残され――

「俺がもう少し粘れば……勇者が間に合うかも知れない」

 そうだ。
 ドラファンの中で勇者は村の救援にあと一歩で間に合わなかった。

 これがそのイベントだとすれば勇者は救援隊と共に必死にこちらに向かっている最中のはず。
 だとすれば俺がもう少し時間を稼いでそれを間に合わせることが出来れば

「ぐうっ」

 だが動かない。
 俺は必死に体を動かそうとするが、もう指一本動かすことが出来ない。

「無駄な足掻きを」
「おいグレーターデーモン! 俺をこのまま簡単に殺すだけでお前は満足なのか!!」

 体が動かせないなら口でなんとかヤツの気を引くしかない。

 そして俺は自分の身を全て時間稼ぎに使おうと口を開きかけたときだった。

「アーディ! 今助けるっ!!!」

 凜々しい救いの声が広場に響き渡ったのだった。


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