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モブはデートの約束をする
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「アーディを探してきてくれてありがとうなミラくん。これ少ないけど」
宿の中に入ると、ミラにポグルスがお金を渡しているのが目に入った。
俺を探すためのお駄賃だろう。
宿の薄暗い室内照明の中でも輝いて見える笑顔でミラの横まで行くと、俺はポグルスに頭を下げる。
「すみませんポグルスさん。お金は後で返します」
「いや、これは必要経費だから構わんよ。初めてハシクに来る若いのは決まって迷子になるから、いつも宿の近所の子供に探して来て貰うことになってるんだ」
「そうなんですか」
「村の外に出ようなんて若者は、だいたいアーディみたいに好奇心旺盛なヤツばかりですからね」
ポグルスの後ろからフェルラが顔を出し、言って俺の頭を乱暴に撫でる。
今回の場合は別に好奇心で村を彷徨いたわけではないけど。
それを説明する訳にもいかず、俺は適当にあいまいな表情を浮かべるしかなかった。
そんな俺たちのやりとりを楽しそうな表情を浮かべて見ていたミラだったが、窓の外を見ると。
「それじゃあ帰ります。また何か仕事があったら声かけて下さい」
そう言い残して宿を出て行こうとした。
だが何か忘れ物でもあったのか扉の前で立ち止まると半身だけ振り返って俺の方を見た。
その瞳はとても澄んでいて、引き込まれそうになる。
「えっと。もし良かったら明日、村の中を案内しようか?」
「は?」
「まだ何日かここに居るって聞いたから。せっかくだから村を案内してあげようかなと思ってね」
何を言っているんだろう。
「いや、俺たちは明日の昼には帰るよ。そうですよねポグルスさん」
俺は目線をミラからポグルスに移す。
だがポグルスは小さく首を振ると、予想外の答を返した。
「言い忘れていたが、スミクへ帰るのは予定より後になってしまった」
「えっ」
「本当なら今日取引する予定だった商人の一人がトラブルか何かで遅れててな」
今回の商談で一番のお得意様である商人が、ハシクに到着するのが数日遅れると伝書バードで伝えてきたらしい。
ちなみに『伝書バード』というのはこの世界での通信手段の一つで、いわゆる伝書鳩みたいなものである。
「お前もテイラーから最近魔物の数が増えているって話は聞いただろ」
「はい……まさか」
「どうやら街道沿いに魔物が出たらしくてな。そのせいで途中の村で足止めされてるらしい」
無理して魔物に対する備えもせずに先を急いだために大事な交易品どころか命を失うような危険は冒せない。
なので村でハシクに向かう他の商人を待って、護衛を増やした上で向かうと手紙には書かれていたそうだ。
「こちらも特に生ものがあるわけでも無いし、遅れた分の宿賃はあちらが持ってくれるからな」
「そうそう。休暇だと思ってゆっくりすればいいってわけさ」
ポルグスの肩に顎を乗せて笑うフェルラの顔は少し赤らんでいた。
どうやら酒をのんでいるようで、僅かにアルコールの匂いがする。
「フェルラさん、酒飲んでるんですか?」
「そうだよ。明日帰るんなら飲めなかったけどな」
この世界に飲酒運転違反とかあるのかどうかは知らないが、フェルラは御者としての仕事がある前日は酒は飲まないと決めているらしい。
詳しく聞いたことはないが、たぶん過去にそれで大きな失態でもしたことでもあるのだろう。
「それで、どうする? 案内するならしてあげるよ」
「いくらだ?」
「僕が勝手に言い出したことだし、もちろん無料でさ」
宿の中のほのかな灯りですら輝いて見える笑顔でそう答えるミラに少しドキッとしてしまう。
もしかしてコレってデート……いや、相手は男だぞ。
俺は思わず彼の笑顔から視線をそらすと「それじゃあ頼む」と、少しぶっきらぼうに返事をしたのだった。
宿の中に入ると、ミラにポグルスがお金を渡しているのが目に入った。
俺を探すためのお駄賃だろう。
宿の薄暗い室内照明の中でも輝いて見える笑顔でミラの横まで行くと、俺はポグルスに頭を下げる。
「すみませんポグルスさん。お金は後で返します」
「いや、これは必要経費だから構わんよ。初めてハシクに来る若いのは決まって迷子になるから、いつも宿の近所の子供に探して来て貰うことになってるんだ」
「そうなんですか」
「村の外に出ようなんて若者は、だいたいアーディみたいに好奇心旺盛なヤツばかりですからね」
ポグルスの後ろからフェルラが顔を出し、言って俺の頭を乱暴に撫でる。
今回の場合は別に好奇心で村を彷徨いたわけではないけど。
それを説明する訳にもいかず、俺は適当にあいまいな表情を浮かべるしかなかった。
そんな俺たちのやりとりを楽しそうな表情を浮かべて見ていたミラだったが、窓の外を見ると。
「それじゃあ帰ります。また何か仕事があったら声かけて下さい」
そう言い残して宿を出て行こうとした。
だが何か忘れ物でもあったのか扉の前で立ち止まると半身だけ振り返って俺の方を見た。
その瞳はとても澄んでいて、引き込まれそうになる。
「えっと。もし良かったら明日、村の中を案内しようか?」
「は?」
「まだ何日かここに居るって聞いたから。せっかくだから村を案内してあげようかなと思ってね」
何を言っているんだろう。
「いや、俺たちは明日の昼には帰るよ。そうですよねポグルスさん」
俺は目線をミラからポグルスに移す。
だがポグルスは小さく首を振ると、予想外の答を返した。
「言い忘れていたが、スミクへ帰るのは予定より後になってしまった」
「えっ」
「本当なら今日取引する予定だった商人の一人がトラブルか何かで遅れててな」
今回の商談で一番のお得意様である商人が、ハシクに到着するのが数日遅れると伝書バードで伝えてきたらしい。
ちなみに『伝書バード』というのはこの世界での通信手段の一つで、いわゆる伝書鳩みたいなものである。
「お前もテイラーから最近魔物の数が増えているって話は聞いただろ」
「はい……まさか」
「どうやら街道沿いに魔物が出たらしくてな。そのせいで途中の村で足止めされてるらしい」
無理して魔物に対する備えもせずに先を急いだために大事な交易品どころか命を失うような危険は冒せない。
なので村でハシクに向かう他の商人を待って、護衛を増やした上で向かうと手紙には書かれていたそうだ。
「こちらも特に生ものがあるわけでも無いし、遅れた分の宿賃はあちらが持ってくれるからな」
「そうそう。休暇だと思ってゆっくりすればいいってわけさ」
ポルグスの肩に顎を乗せて笑うフェルラの顔は少し赤らんでいた。
どうやら酒をのんでいるようで、僅かにアルコールの匂いがする。
「フェルラさん、酒飲んでるんですか?」
「そうだよ。明日帰るんなら飲めなかったけどな」
この世界に飲酒運転違反とかあるのかどうかは知らないが、フェルラは御者としての仕事がある前日は酒は飲まないと決めているらしい。
詳しく聞いたことはないが、たぶん過去にそれで大きな失態でもしたことでもあるのだろう。
「それで、どうする? 案内するならしてあげるよ」
「いくらだ?」
「僕が勝手に言い出したことだし、もちろん無料でさ」
宿の中のほのかな灯りですら輝いて見える笑顔でそう答えるミラに少しドキッとしてしまう。
もしかしてコレってデート……いや、相手は男だぞ。
俺は思わず彼の笑顔から視線をそらすと「それじゃあ頼む」と、少しぶっきらぼうに返事をしたのだった。
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