上 下
8 / 42

モブは幼馴染とイチャコラする

しおりを挟む
「ねぇアーディ。もうそろそろわたしも修行に連れていってくれない?」

 満月の夜にレベル上げのためこっそり村を抜け出していることがバレてから数ヶ月、俺は時々リベラにそう頼まれるようになっていた。
 あのときは村の外は危険で、は彼女を連れてはいけないと説得をした。
 しかも目的地までの山道は険しく、十二歳の彼女の体力ではとてもたどり着けないからと告げると、彼女は渋々ながら諦めてくれたのだが。

「わたしだってずっと体を鍛えてたんだからね!」

 そう言って腕をまくり、力こぶを見せつけるように腕を曲げるリベラに、おれは苦笑いを浮かべる。

 彼女はあの日以来、俺の言葉を真に受けてしまったらしく彼女なりに体を鍛え続けていたらしい。

 たしかに十三歳になったリベラは以前よりも体力も増え、力仕事もそれなりに出来るようになっていた。
 それに合わせて回復魔法の効果も上がっているとも聞いている。

「でも、まだプニプニじゃないか」

 俺は自慢げに見せつけてきたリベラの腕を指でつまんだ。
 マシュマロのような柔らかさが指を伝わってくる。

 いったいこの腕のどこに筋肉が隠されているのか謎なくらいだ。

「もうっ。女の子の腕を簡単に触らないでよっ」
「女の子って……ちょっと前まで一緒に風呂入ってただろうに」
「ちょ……ちょっと前って、何年前のことよ!」

 真っ赤になって怒るリベラに腕を振り払われながら、俺はそのときのことを思い出そうとした。
 が、色々な方面でアウトになりそうなので止めた。

「とにかく最近はわたしもみんなと一緒に山菜採りとか一日中してても疲れないくらいにはなったんだから、もう連れてって貰ってもいいよね?」

 照れ隠しなのだろうか。
 怒った顔のまま俺に向かって指を突きつけて迫るリベラに俺はあいまいな笑みを返す。

 実際今の俺なら彼女を守りながら狩り場に向かうどころか、彼女を背負って行くことも可能だろう。
 村の中ではゲームの強制力のせいかそこまで力が出せないが、外でなら片手でリベラを抱えて戦闘することも出来るはずだ。

 でもリベラにあのコックルを見せるのは躊躇われる。
 男の俺ですら初めてコックルの実物を見たときの衝撃はかなりのものだった。
 人によっては一生もののトラウマになりかねないアレを見せていいのだろうか。

 そんなことを考えながらリベラの追求をのらりくらりと躱しているときだった。

「あっ」
「テイラーさん。こんにちは」
「二人とも、相変わらず仲がいいな」

 村の中央広場から警備長のテイラーがやってくると、笑いながらそう言った。

「べつに仲良くなんてないもん」

 慌てた様に離れるリベラ。

「そうか? 俺には仲良くじゃれ合ってる様にしか見えなかったがな」
「じゃれあっ……」

 何か反論しようとしたリベラだったが、それを遮るようにテイラーは俺の方を向いて話を切り出す。

「っと、そんなことを言いに来たわけじゃない。アーディ、そろそろ出発する時間だろ?」
「あっ、忘れてた」
「忘れてたじゃないだろ。お前が自分でハシク村までの護衛を志願したんだろうが」

 ごちん。

 頭にテイラーのゲンコツが落ちた。

「痛てて……何も殴ることないじゃない」

 軍隊にいたせいか考え方も行動も体育会系なテイラーは子供相手でも容赦はしない。
 といっても別に本気で殴っているわけではないし理不尽に暴力を振るうわけでもないのだが。

「フェルラもポグルスも東門の前でずっとお前を待ってるんだぞ」

 まだ神託を受け覚醒する前の勇者が住んでいる隣村ハシク。
 雑魚敵相手に戦闘訓練をする必要は無くなった俺だが、それでも一度この世界の勇者を見ておきたいとハシク村へ向かう荷馬車の護衛役として志願したのである。

「す、すぐにいきます! リベラ、話の続きは帰ってからな」
「仕方ないわね。でも帰ってきたら絶対に連れてって貰うからね」
「考えとくよ」

 俺はリベラにこう答えた後テイラーに向き直ると「すみません。すぐにいきます」と頭を下げた。

「いつも素直に謝るのはお前のいいところだが……まぁいい。死ぬんじゃないぞ」
「またまた大袈裟な」

 十五歳になった俺は既に一端の狩人として村の人たちには認識されるようになっていた。
 そして馬車の護衛は村の狩人が交代交代に行う。

 本来であれば俺の担当はまだ数ヶ月先の予定だったが、早く勇者を確認したい俺は無理矢理お願いして今回の任務を任せて貰ったのである。

「それがな。このまえ村に来た冒険者から聞いたんだが、最近各地で魔物の数が増えているらしくてな」
「数が……」
「このあたりは俺が巡回した限りまだ変化は見られないが、一応用心しておいた方がいい」

 魔王が軍を上げて、この村を先兵が襲うまであと三年。
 すでに魔王がその準備を始めていてもおかしくない時期だ。

「わかりました。十分気を付けていって来ます」

 俺はテイラーにそう言ってもう一度頭を下げると急いで村の出口へ向かった。

 しかしこの時の俺は知らなかった。
 その先に待っている出会いによってこの世界が大きく揺らいでしまうことを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

処理中です...