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新たな時代の始まりです
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私がイグニス王子を気絶させ、そのみっともない姿を彼の無駄に豪奢な馬車の上に晒したことで戦争は完全に終結しました。
その後、フォルスト辺境領軍に降伏した国軍はそのほとんどが強制的に徴兵されてきた民たちなのもあって、私たちの提案に一も二も無く飛びつくとフォルスト辺境領軍の一員に加わったのです。
「お嬢様。他の辺境伯から連絡がございました」
侍女のイザベルがどこからともなく現れると、元王国軍兵士に向けてこれからの作戦を説明していた私はその任を別の者に任せて作戦本部へ向かいます。
作戦本部といっても、せいぜい十人が入れば一杯の急ごしらえのテントですが。
どうせすぐにこの場所から移動するのですからこれで十分なのです。
「さて、他の辺境伯の方々。それと王家に冷遇され中央の横暴に苦しんでいた貴族の方々が私の作戦に合わせて行動を開始してくれたようです」
その言葉を静かに聴いていた者たちの中から一人が声を上げます。
「アンネ。ということはこのまま進軍するということだな」
我が父フォルスト辺境伯でした。
その口元には凶悪な笑みが浮んで、これから始まる『宴』が楽しみで仕方が無いと言わんばかり。
老いたりとはいえ、幾多の外敵を屠ってきたその顔には深い傷が何個も刻まれています。
中央の箱入り令嬢辺りが父のこの顔を見たならば、その夜はきっと悪夢にうなされることでしょう。
「ええ、一気に王都を攻め落とします。これで最後ですわ」
私はきっぱりとそう返事をすると一同の顔を見回してから「いきますわよ」と立ち上がり、テントを飛び出したのでした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
せっかくの『宴』でしたが、その内容は余りに拍子抜けでした。
ほとんど抵抗という抵抗すら受けず、私たちと協力してくれた他の貴族の軍は数日で王都を攻め落としたのです。
いいえ、攻め落とすという言葉すら恥ずかしいですわね。
私たちの軍が王都を囲んですぐに王はあっさりと白旗を揚げ降伏を申し出てきたのですから。
「こ、降伏する! その代わり命だけは……」
「情けなさ過ぎますわ」
王自ら私の前に平伏して命乞いをする姿は余りに無様で。
長年この王を頂いた国を命がけで守ってきていたのは何だったのかと誰もが表情を無くすほどでした。
「でも無駄に抵抗して民に被害を出さなかったことだけは誉めて差し上げますわ」
その後、私たちは王族から身分を剥奪し辺境での軟禁生活を申し渡しました。
死刑にされなかっただけでも良かったと思うべきなのですが、裁判ではかなり非道い罵詈雑言を私に浴びせてきました。
あれだけ必死に命乞いをしたのをもう忘れているのでしょうか。
ですが、そんな負け犬の遠吠えなど私に効くわけがありません。
王族に取り入って私腹を肥やしていた商人や貴族たちも全て財産を没収するなどの処分を課し、新たな王が誕生するまで私の仕事は続きました。
いえ、実際にはその後も私にはこの国を素晴らしいものにしていくという仕事が課せられたのですけれど。
なぜなら、この国の新しい王に……いえ、女王として全ての辺境伯や残った貴族たちによって推薦され担ぎ上げられたのは――
「アンネ様、万歳!」
「女王様の誕生だ!」
「新たな時代の誕生だ!」
私、アンネ=フォルストだったのですから。
~Fin~
**** お 礼 と 告 知 と お 願 い *****
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ぜひ感想などでご意見を頂けますと嬉しいです。
次世代ファンタジーカップに向けて新作ファンタジーを連載開始しました。
応援よろしくお願いいたします。
「召喚勇者とミストルティン ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/409404883/365622638
※「水しか出ない神具【コップ】~」アルファポリスコミック版 2巻 絶賛発売中!
※アルファポリス公式サイトにて絶賛連載中なのでお手空きの時にでも読んで下さいね。
※ピッコマでも「待てば無料」で配信中。
その後、フォルスト辺境領軍に降伏した国軍はそのほとんどが強制的に徴兵されてきた民たちなのもあって、私たちの提案に一も二も無く飛びつくとフォルスト辺境領軍の一員に加わったのです。
「お嬢様。他の辺境伯から連絡がございました」
侍女のイザベルがどこからともなく現れると、元王国軍兵士に向けてこれからの作戦を説明していた私はその任を別の者に任せて作戦本部へ向かいます。
作戦本部といっても、せいぜい十人が入れば一杯の急ごしらえのテントですが。
どうせすぐにこの場所から移動するのですからこれで十分なのです。
「さて、他の辺境伯の方々。それと王家に冷遇され中央の横暴に苦しんでいた貴族の方々が私の作戦に合わせて行動を開始してくれたようです」
その言葉を静かに聴いていた者たちの中から一人が声を上げます。
「アンネ。ということはこのまま進軍するということだな」
我が父フォルスト辺境伯でした。
その口元には凶悪な笑みが浮んで、これから始まる『宴』が楽しみで仕方が無いと言わんばかり。
老いたりとはいえ、幾多の外敵を屠ってきたその顔には深い傷が何個も刻まれています。
中央の箱入り令嬢辺りが父のこの顔を見たならば、その夜はきっと悪夢にうなされることでしょう。
「ええ、一気に王都を攻め落とします。これで最後ですわ」
私はきっぱりとそう返事をすると一同の顔を見回してから「いきますわよ」と立ち上がり、テントを飛び出したのでした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
せっかくの『宴』でしたが、その内容は余りに拍子抜けでした。
ほとんど抵抗という抵抗すら受けず、私たちと協力してくれた他の貴族の軍は数日で王都を攻め落としたのです。
いいえ、攻め落とすという言葉すら恥ずかしいですわね。
私たちの軍が王都を囲んですぐに王はあっさりと白旗を揚げ降伏を申し出てきたのですから。
「こ、降伏する! その代わり命だけは……」
「情けなさ過ぎますわ」
王自ら私の前に平伏して命乞いをする姿は余りに無様で。
長年この王を頂いた国を命がけで守ってきていたのは何だったのかと誰もが表情を無くすほどでした。
「でも無駄に抵抗して民に被害を出さなかったことだけは誉めて差し上げますわ」
その後、私たちは王族から身分を剥奪し辺境での軟禁生活を申し渡しました。
死刑にされなかっただけでも良かったと思うべきなのですが、裁判ではかなり非道い罵詈雑言を私に浴びせてきました。
あれだけ必死に命乞いをしたのをもう忘れているのでしょうか。
ですが、そんな負け犬の遠吠えなど私に効くわけがありません。
王族に取り入って私腹を肥やしていた商人や貴族たちも全て財産を没収するなどの処分を課し、新たな王が誕生するまで私の仕事は続きました。
いえ、実際にはその後も私にはこの国を素晴らしいものにしていくという仕事が課せられたのですけれど。
なぜなら、この国の新しい王に……いえ、女王として全ての辺境伯や残った貴族たちによって推薦され担ぎ上げられたのは――
「アンネ様、万歳!」
「女王様の誕生だ!」
「新たな時代の誕生だ!」
私、アンネ=フォルストだったのですから。
~Fin~
**** お 礼 と 告 知 と お 願 い *****
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ぜひ感想などでご意見を頂けますと嬉しいです。
次世代ファンタジーカップに向けて新作ファンタジーを連載開始しました。
応援よろしくお願いいたします。
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