20回も暗殺されかけた伯爵令嬢は自ら婚約破棄を突きつけて自由を手に入れます

長尾 隆生

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この国を綺麗にしてしまいましょう

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「よろしかったのですか?」


 辺境領である我が領地フォルストへの帰路。
 馬車の中で侍女のイザベルがそう問いかけてきました。

 彼女は今回、王城へ一緒に着いてきてくれた侍女団のまとめ役をしている優秀な女性でした。
 
 私の侍女たちは皆容姿端麗で。
 中でもイザベルは特に人目を引く容姿をしています。

 ですので王城での滞在中は幾人にも声を掛けられて大変だったとか。

 そんな彼女たちの辺境で鍛えられた手腕からすれば、中央の平和に慣れきった男どもを手玉に取ることなど造作も無いこと。
 私の暗殺計画も、彼女たちに掛かれば数日で全ての証拠をそろえることが出来ました。

 あまりのチョロさにこの国の未来をついうれいてしまったほどです。


「よろしいもなにも。先に手を出してきたのはあちらの方ですわよ?」

「ですが、これでは王家も黙ってはいられないでしょう」

「攻めてきますかしら?」

「良くてお嬢様を差し出させて処刑の後にお家取り潰し。悪くすれば領民もろとも処刑……かもしれません」

「それは困りましたわね」


『おほほほほ』と高笑いの私にイザベルが眉をひそめました。

 ですが、そんなことは謁見の間で騒ぎを起こす前から既に覚悟していたことです。


「全く困ったようには見えませんけれど……お嬢様は本当に」

「あら? 王族が謁見の間に揃うタイミングを私に教えて早く行く様にと急かしたのはあなたではなかったかしら?」


 あの日、あの時しかチャンスは無いと伝えてきたのは当のイザベルです。
 しかも私に対する暗殺の証拠一式を私に手渡しながらなのですから完全に共犯者ではないでしょうか。


「まぁ、どちらにしろそろそろあの王族にもこの国のお馬鹿さんたちにも嫌気がさしていたところです」


 私は口元を扇で隠しながらイザベルに問いかける。


「それで、準備はもう終わってますわよね?」

「はい。全てお嬢様と辺境伯様の指示通りに進んでいると報告が来ております」

「十日後位かしら?」


 私は頭の中で王国軍の準備が揃い、我がフォルスト家に押し寄せてくるであろう時期を計算します。

 きっと先陣はあの近衛騎士団長ガラハッドでしょう。
 あんな場で恥をかかされて黙っているわけがありませんし。


「とにかく領民とお父様には少し迷惑を掛けてしまいますが、この際ですからこの国を綺麗にしてしまいましょう」

「お嬢様の邪魔をさせないよう隣国の工作はすでに完了しておりますので、ご存分に」

「あら、流石イザベルね。手の早いこと」

「お嬢様ほどではございません」

「おほほほほ」

「うふふふふ」


 馬車の中。
 そんな主従の心から愉快そうな笑い声が響いたのでした。

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