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2巻

2-3

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「その競売ってのはいつでも開催かいさいしてるんですか?」

 トルタスさんがここまで言う以上、競売に出品しないという手はない。
 この世界で生きていくためにも、早めにまとまったお金は欲しい。
 なんといっても、トルタスさんからもらった護衛料を除けば無一文なのである。

「ここから北西にサーディスという大きな街があるのですが、そこで大体十日間隔で競売会が開かれているのです。場合によっては数日期間が前後しますが」
「ファルナスではやってないんですね」
「ええ。小さな街では競売は無理なので」

 トルタスさんによると、サーディスはエルフ領と他領を結ぶ交易路こうえきろが交差する場所に作られた街で、数多くの商人が市場で様々な品物を売っている賑やかな街なのだとか。
 さらには傭兵ギルドや商業ギルドの本部も置かれているらしく、俺が求めている野菜の種やなえもそこでなら確実に手に入るらしい。

「もし競売に参加するなら、サーディスでワシとファウナが懇意こんいにしている種屋もご紹介できますが」

 もしかして裏庭で育てている薬草の種の仕入先なのだろうか。
 とりあえず、俺にはこの提案を拒否する理由が思いつかない。

「ぜひお願いしたいです。頼んでいいですか?」
「わかりました。では早速、明日早くにでも商業ギルドに競売への参加申請を出しておきます」

 トルタスさんは笑顔でそう言った。
 そうして、俺はサーディスで行われる競売会へ参加することに決め、トルタスさんと簡単な打ち合わせをしてから店を後にした。
 店を出ると、来たときと違い、道を歩く人たちの数がかなり減っていた。
 時計がないのでわからないが、周囲の店もほとんどが閉まっているところを見ると、かなり長居してしまったようだ。

「それではワシの店に寄って荷物を拾ってから、タクミ様たちの宿へ向かうとしましょう」
「何から何までありがとうございます」

 お礼を言ってから、俺は歩き出した。
 トルタスさんの店でファウナさんとレリナちゃんの二人と別れ、今日の宿に向かう。
 表通りから少し路地に入ったところにあり、まだできてから一年ほどの新しい宿らしい。

「宿の主人とは同郷どうきょうでしてね。若い頃は共に旅をしたこともあります」
「同郷ってことは人間族の国ですよね」
「ええ。人間族領の南にあるヤイハという国なのですが。とても穏やかでいい国ですよ」

 若い頃、トルタスさんはそのヤイハのとある商家に、商人見習いとして勤めていたという。
 トルタスさんが勤めていたのは、ヤイハでも指折りの商家だったそうだが、色々あって独立し、エルフ領で商売を始めたのだとか。
 そんな話をしつつ、俺たちは宿に辿り着いた。
 そして俺とエレーナとエリネスさんはそれぞれの部屋に入って、すぐに眠りについたのだった。



 ★ポーションと《緑の手》★


 慣れない旅の疲れもあったのだろう。
 翌日、俺たちが目覚めたのは、既に日がかなり高くなった頃だった。
 宿にやってきたトルタスさんは、朝から商業ギルドに出向いて、既に競売への参加手続きを済ませてくれていた。
 俺のアメジストドームが出品されるのは六日後。
 競売はファルナスから馬車で三日ほど離れた場所にある、商業都市サーディスで行われる。

「道中、何があるかわかりません。雨に降られれば、それだけでも一日旅程が伸びる可能性もあるので、早めに出発しておきましょう」

 行商人で旅には慣れているトルタスさんの言葉に従って、俺たちは明日の昼までにはファルナスを出立することに決まった。
 そうと決まれば急いで準備をしなければ。
 とりあえずの旅費を手に入れるために、俺は一人で、昨日野盗を引き渡した憲兵隊の詰め所に向かった。報奨金を受け取るためだ。
 本来であれば街の警備を行い、犯罪者を取り締まるのは衛兵えいへいの仕事である。
 だが現在、この街だけでなく、エルフ領北部の各街には、憲兵が治安維持のために駐留ちゅうりゅうしているのだとか。
 それもこれも例の水害が理由である。
 実はここ数年の度重なる水害のせいで、生活基盤を失った者たちが野盗に成り果て徒党を組み、周辺を荒らし始め、エルフ族にとって重要な貿易路をおびやかす事態となっていた。
 トルタスさんの馬車を襲ったのも、そういった野盗の一つであったわけだ。
 そんな野盗による被害を抑え、治安を回復させるためにエルフのお偉いさんたちが派遣したのが憲兵たち。もちろん衛兵でも対処可能なくらい、治安が回復するまでの期間限定ではあるが。
 ちなみにファルナスの傭兵ギルドはこの詰め所の横に併設へいせつされるように立っている。
 小さな街の場合、治安維持に傭兵が駆り出されることも多く、憲兵と傭兵で連携を取らないといけないからなのだとか。
 前世で読んでいたファンタジー小説では、魔物討伐や護衛任務を冒険者ぼうけんしゃギルドというものがあって、馬車の護衛とかは冒険者がするものだと思っていた。
 しかし、この世界には冒険者という職業も、冒険者ギルドも存在しない。
 討伐や護衛など、戦ったり守ったりする仕事を請け負うのが傭兵ギルドであり、それ以外の非暴力的な仕事を請け負うのが商業ギルドだと、昨日トルタスさんから説明を受けた。
 他にも細かな組合的なものは存在するらしいが、大きな組織はこの二つのギルドだけらしい。
 そして、ある程度大きな街には、必ず両方の支部が置かれている。
 俺が詰め所で報奨金を受け取って外に出ると同時に、隣の傭兵ギルドの扉が開いて、一人の男が出てきた。

「やぁ、君か。昨日は迷惑をかけたな」
「こんにちは、ゴンザルさん。もう体は大丈夫なんですか?」

 傭兵ギルドから出てきた男性の名前はゴンザル。
 トルタスさんの馬車の護衛をしていた傭兵の一人で、野盗に殺される直前に俺が助けた人物だ。
 かなりの打撲と刀傷かたなきずを負っていた彼だが、ファウナさんの手当てのおかげで、昨日街につくまでにほとんど怪我は治っていた。

「ああ。おかげさまで、俺のほうはもうなんともない」

 だが、ゴンザルさんの表情はえない。その理由に、俺は心当たりがあった。

「エヴァンスさんがどうかしたんですか?」

 エヴァンスさんも馬車の護衛をしていた傭兵の一人だ。
 若いエルフの男性で傭兵ギルドの新人だ。
 ゴンザルさんはそんな彼の教育係だったらしく、簡単な護衛依頼の経験を積ませるべく、トルタスさんの仕事を受けたのだと聞いた。

「どうやら思っていたより傷が深かったらしくてな。ここのギルドにある薬と設備でできる治療では、後遺症こういしょうが残るかもしれないと医者に言われたんだ」

 俺が駆けつけたとき、エヴァンスさんは既に野盗に深い傷を負わされ、血溜ちだまりに倒れ伏していた。
 ファウナさんの治療で出血は止まったが、深い傷までは治すことはできず、結局街に辿りつくまでに意識を取り戻すことはなかった。

「せめてミドルポーションでもあれば……」
「ミドルポーション?」
「知らないのか? まぁ、仕方ないか。この街では扱ってないみたいだしな」

 ポーションが存在する世界なのだから、それよりも効果の高いミドルポーションが存在していてもおかしくはないわけだ。
 となるとハイポーションやエリクサーなんてものも存在するかもな。
 後でファウナさんに聞いてみるか。
 でもゲームとかだと、ミドルポーションどころかハイポーションですら、それほど珍しいものじゃないイメージなんだけど。
 そんなことを考えながら俺は当然の質問を口にする。

「トルタスさんの店で売ってないんですか?」
「ああ。開店前に店を無理言って開けてもらって、在庫がないかと聞いてみたのだが……後々店には置く予定ではあるものの、今はまだないと言われたよ」

 トルタスさんたちは昨日この街に引っ越してきたばかりだ。
 品揃えが薄くても仕方がない。

「じゃあ、ファウナさんに調合してもらったらどうでしょう?」
「それも考えたが、そもそもミドルポーションを作るための素材自体がこの街にはないんだよ」

 いくらファウナさんがポーションを調合できるといっても、素材がなければ作ることはできない。
 無から有を生み出すような力があれば別だが。

「ポーションの原料になるのは『やしぐさ』って薬草なんだが、それは知ってるか?」
「はい、ファウナさんに教えてもらいました。けど、癒やし草ならこのあたりの森でも採れるってファウナさんも言ってましたが……」

 ファルナスに向かう馬車の中で、いくつかの薬草についてファウナさんに教えてもらったのだ。
 前世と違い、ある程度の怪我や病気は自分で治す必要がある異世界では、必須の知識だと考えたからである。
 彼女の話では、俺が住んでいる山にもこの街の近くにも、ポーションの材料になる癒やし草は生えているらしい。
 ないなら採ってくればいいだけなのではと考えたのだが、話はそう単純ではないようだ。

「確かに、普通の癒やし草なら、エルフ領ではありふれたものなんだが、ミドルポーションを作るとなると高品質な癒やし草が必要になるんだ」

 回復ポーションを作ることができる素材はいくつかあるという。
 一番ポピュラーなのが癒やし草だ。
 ちなみに品質の違いは、癒やし草が含んでいる魔力量で定められているらしい。
 癒やし草には、葉や茎に魔力を溜め込む不思議な特性がある。
 そして、どういう理屈かはわからないが、その溜め込まれた魔力が怪我を治す魔法に変化する。
 癒やしの力の効果は、溜め込まれた魔力量が多いほど強くなるため、いくら低品質の癒やし草を集めても、高品質の一本と同じ効果を出すことはできないのだとか。
 流石、異世界の植物だ。
 女神様は、元の世界と野菜はあまり変わらない的なことを言っていたが、独自の植物がしっかり存在しているじゃないか。
 やっぱりあのポンコツ女神様の言うことを鵜呑うのみにしてはいけないと、俺は改めて感じた。
 ただ彼女が言っていたことには、正しいものもある。
 それは俺が転生したこのあたりの土地は魔力が少なく、強い魔物がいないという部分だ。
 ダークタイガーに遭遇したが、あれはあくまでイレギュラー。
 もともとこの地で生まれ棲んでいたのではなく、エレーナの追手おってが転送した魔物だ。

「ここら一帯のように地中や空気中の魔力が少ない場所だと、回復力の低い癒やし草しか自生できないのだ」

 ゴンザルさんが残念そうに言う。
 強い魔物が魔力の少ない土地で生きていけないように、高品質な癒やし草も高い魔力がないと自生できないようだ。

「そのミドルポーションがあればエヴァンスさんの怪我も治せるんですね?」
「確証はない……だが、後遺症が残らない程度には回復できるはずだと医者が言っていた。俺はその言葉を信じるだけだ。だがあまり治療が遅くなると、ミドルポーションでも治せなくなると言われてな」
「じゃあどうにかして、早くミドルポーションを手に入れないと……」

 とはいえ、商人のトルタスさんがないというなら、この街で手に入らないのは間違いないだろう。

「そういうわけで、明日にでもエヴァンスを連れてサーディスに戻ろうと考えている。あそこならミドルポーションも比較的手に入りやすいからな」

 ゴンザルさんたちは、サーディスを本拠地に活動しているらしい。
 サーディスから俺たちが行く予定だった街まで別の商人を護衛し、帰りついでにトルタスさんの依頼を受けて、ここまでやってきたということだった。
 行きの道すがらでは野盗の襲撃もなく、馬車の障害になるような落石や倒木もなかったため、このあたりでの護衛任務は、エヴァンスさんの新人教育にもちょうどいいと考えたらしい。

『あれほどの手練てだれが率いる野盗が、活動しているという報告はなかったのでな。油断していた俺の不手際だ』

 ファルナスに向かう馬車の中で、ゴンザルさんがエヴァンスさんを看病しながら、そう悔しそうに唇を噛んでいたのを覚えている。

「偶然ですね。俺たちも明日サーディスに向かう予定なんです」
「そうなのか?」
「実は競売に参加することになりまして。あと野菜の種とかもあっちのほうが色々手に入るらしくて」

 俺はこの街に来た目的をゴンザルさんに話した。
 彼らを助けた街道の近くに住んでいることや、そこで暮らしていくために野菜を育てて売る商売をしたいこと。そのために必要な種や苗を買うついでに、販売路を探しにきたことなどを伝えた。

「ろくに作物を育てた経験もないのに、よくそんなことをやろうと考えたな」

 途中、呆れたようにそんなことを言われたが、正論すぎて何も言い返せなかった。
 俺だって《緑の手グリーンハンド》なんていうスキルがなければ、もっと現実的な仕事を考えただろう。

「なるほどな。命も助けてもらったし、できれば俺も君の商売の手助けをしてあげたいのだが……」
「気にしないでください。今はそれよりもエヴァンスさんの怪我を治すほうが先でしょ」
「そう言ってくれると助かる」

 ゴンザルさんはそう言って頭を下げると、そのままの格好で言葉を続けた。

「命の恩人に甘えるようで申し訳ないのだが、もしよければ俺たちも一緒にサーディスに連れて行ってもらえないだろうか?」
「いいですよ」

 俺はあっさりと承諾する。
 帰りは仕入れた荷物を積まなければならないが、行きは旅の荷物くらいしか馬車に乗せるものはないと、トルタスさんに聞いている。
 この街に来るときも、引っ越しの荷物を積んだ状態で、彼らを含め全員が乗れたわけだから問題はないはずだ。
 もちろんトルタスさんに許可を取る必要はあるけど、彼が断るとは考えにくい。
 それにもしものときは、俺たちだけ馬車の後ろについていけばいいだけだ。
 ウリドラならエレーナとエリネスさん二人を乗せても楽勝だろうし、俺はチートの種のおかげで速く走れる。

「無理を言っているのはわかっている。あつかましいのは重々承知で、頼むっ!」

 トルタスさんにどうお願いしようかと俺が考えている間にも、ゴンザルさんは頭を下げたままで、俺の返事が耳に入っていないようだった。

「困ったときはお互い様ですし、一緒に行きましょう」
「エヴァンスはまだ動ける状態ではないが、俺なら護衛だけでなく御者ぎょしゃもできる。もちろん無償……いや、こちらから依頼料も出そう」

 俺はゴンザルさんの両肩をつかむと、そのまま頭を上げさせる。

「だから、お金も何もいりませんって」

 手加減をしないと彼の肩を握りつぶしかねないので無駄に緊張してしまったが、やっと俺の声が届いたようだ。

「本当にいいのか?」
「その代わりといってはなんですが……」

 無償というのは、それはそれで気を遣わせてしまうかもしれない。
 なので、彼らの負担にならなさそうな要望を伝えることにした。

「サーディスに着いたら、街の案内をお願いしたい。いいですか?」
「そんなことでいいのか?」
「できれば美味うまくて安い食堂とか、地元民しか知らない隠れた名店とかに案内してもらえれば」

 サーディスはファルナスに比べて遥かに大きい街らしいし、地元民の案内があると心強いだろう。
 トルタスさんに案内してもらうという手もあるけど、彼は彼で仕入れやら何やらで結構スケジュールが埋まっているらしい。
 競売へ一緒に参加してもらうことにもなっているので、あまり負担はかけたくなかった。

「詳しい予定はまた後で伝えに来ますので、それまで待っていてください」

 俺はそう言い残すと、その場を後にした。
 手にした報奨金の袋を仕舞うのも忘れて、俺はできるだけ早足で街を駆け抜けていく。

「もしかすると、なんとかなるかもしれない」

 さっき聞いたミドルポーション。その素材について、一つの可能性を確かめるべく、俺はトルタスさんの店に急いだ。


「トルタスさん、います?」

 店に到着して早々、俺は扉を開けてそう呼びかける。
 だが返事はなく、どうやら店の中にトルタスさんはいないようだった。
 正式に開店するのはサーディスでの仕入れの後になるため、まだ店内の棚には空きが目立つ。

「まだ帰ってきてないか。今日中に色々行くところがあるって言ってたしな」

 引っ越してきたばかりのトルタスさんにとって、この街での人脈作りはまだまだこれからである。
 この街の初期からの住民であったファウナさんのご両親のおかげもあって、ある程度は街の人たちとの付き合いも人脈もあるらしいのだが、商売人としての繋がりはまだとぼしいのだとか。
 そういった理由で、今日は顧客こきゃくになりそうなお店をめぐって、顔繋ぎをするのだと聞いていた。

「小さな街だし、もう帰ってきてると思ったんだけどな」

 とりあえずゴンザルさんたちをサーディスに一緒に連れて行く話は、トルタスさんが帰ってきてからでいいだろう。
 それよりも、まず確認しなきゃいけないことがある。
 俺は店の中を通り抜け、裏口の扉を開いた。
 そこには、今日もレリナちゃんとウリドラが元気に駆け回り、それをエレーナが見ているという平和な光景が広がっていた。

「ただいま」
「おかえりなさい、タクミさん。もう用事は終わったんですか?」

 昨日、宿の前で『いつまでもタクミ様って言われるのはこそばゆいので』と皆にお願いしてから、エレーナは俺のことを、さん付けで読んでくれるようになった。
 ちなみにエリネスさんがかたくなに様付けを止めてくれないのは謎だが、無理強いするのもなんなのでそのままにしている。

「大体はね」

 俺はそう答えながら、扉の横にある、昨日俺が《緑の手グリーンハンド》を試してみたプランターを確認した。
 もし《緑の手グリーンハンド》が発動していたら、きっとそこには立派な――

「あれ? 生えてない……」

 覗き込んだプランターの中には、成長した薬草どころか苗すら見当たらなかった。
 確かファウナさんはここに回復ポーションのもとになる薬草を――つまり癒やし草の苗を植えたと言っていたはずだ。
 そして《緑の手グリーンハンド》がちゃんと発動していれば、高品質の癒やし草が育っていてもおかしくないと考えていたのに。

「もしかして発動しなかったのか」

 昨日の感覚だと、確実にスキルは発動したと思ったのだが。
緑の手グリーンハンド》で植物を育てると、高品質のものができやすくなると女神様は言っていた。
 このプランターの中に高品質の癒やし草が一つくらいは育っていて、それさえあれば、サーディスまで行かずともミドルポーションが手に入るだろうと考えていたのだが、仕方ない。
 そう諦めようとしたときだった。

「そのプランターの薬草なら、少し前にファウナさんが調合室に持って行きましたよ」

 いつの間にか近寄ってきていたエレーナが、そう言って店の中を指さした。
 ファウナさんの調合室は裏口から入ってすぐ右側にある。
 どうやら、このプランターに生えていた癒やし草は、既にファウナさんの手で採取された後だったらしい。

「じゃあ、薬草が育っていたのは間違いないんだな」

 ということは、俺のスキルはきちんと発動していたということか。

「私がこの裏庭に来たときには、もう立派な薬草がぎっしりと生えてましたよ」

 ぎっしり……
 ああ、そうか。本来であれば間引きをするはずが、《緑の手グリーンハンド》で一気に成長させてしまったせいで、植えた癒やし草が全て育ってしまったに違いない。

「ファウナさんも驚いて、しばらくプランターを見つめたまま黙っちゃって。大丈夫かなと声をかけようとしたら、突然薬草を全部引き抜いて――」
「ええっ! 全部?」

 もしかして異常事態に驚いたファウナさんに、全部捨てられてしまったのだろうか?


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