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しおりを挟むひなたを公園で下ろした後、少し走ったところで車を止めて一服する。
煙で肺を満たした後、細く長く吐き出す。灰色が輪郭をぼかして消えていく様を追いながらここ数日のことを考える。俺はいったいどうしてしまったのだろうか。
自分がこれからどうしたいのか、そのために何をするべきかを考える。
夏樹が持ってきた資料にもう一度目を通す。どの家も色々と抱えているものだ。やりようはいくらでもある
道の向こうを誰かが横切るのが見えた。ひなただ。ふらふらとキャリーバッグとボストンバッグを持って公園の中に入っていく。先程ここで別れた時は帰れることに安心した様子であったというのにこの短時間で何かあったのだろうか。夏樹が調べた情報から判断するに何かあったとしてもおかしくはないはないが。
ひなたはベンチに座るとそのままただ呆然と前も見つめていた。俺も特に何かするというわけではなくそんなひなたを遠くから見ている。
砂場で遊ぶ子供達を見てここでひなたも幼い頃は遊んだのだろうか、などというどうでもいいことを考える。
すっかり日も暮れて肌寒くなってきてもひなたはまだそこを動こうとはしなかった。いつまでここにいるつもりだ。ひなたの体は細く、無駄な脂肪なんてものは付いていなかった。これ以上ここにいては身体に良くない筈だ。
どうしたものかと考えたのち
「おい」
声をかけることにしたのだ。
_________________________
_______________
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そのうちまた連れてこようとは思ってはいたがまさか今日の今日になるとは思ってもみなかった。
ひなたは車に揺られている間も俺の部屋についた後も心ここにあらずといった様子だ。
リビングのソファーに座らせるとホットミルクを作って渡す。
小さな身体を丸めてちびちびと口をつける様子はまるで子猫のようだ。
落ち着いた頃合いを見計らって口を開いた。
「それで、なんでまたあんなところにいたんだ」
「…消えてって言われたんです……」
マグカップの中を見たまま小さく言葉が返ってきた。
「お前はなんか悪いことでもしたのか」
「そう、ですね…私のせいなんです…
私のせいで父が亡くなってしまったんです」
「何があったのかは知らないがわざとだったわけじゃないんだろ」
嘘だ。何があったのかは知っている。夏樹が調べた資料に書いてあった。
ひなたの父・氷室克哉。妻と2人の娘がいる。3ヶ月前に交通事故に巻き込まれ、病院に運ばれる前に死亡。経営していた会社には借金3000万有り。借金は保険によって大部分は返済された模様。なお、__________。
ざっと目を通した資料には他にも色々な情報がのっていた。
パッと顔を上げて真っ直ぐに俺を見つめる。ポロポロと涙を流して目元は赤くなっている。
「もちろん!もちろんです…!父のこと大好きだったんです…わざとなわけないじゃないですか…!
でも、私がわがまま言ったせいで父は交通事故にあってしまったんです。私の誕生日にケーキを買ってきて欲しいってお願いしてたんです。その帰り道に事故に遭って…私が殺したと言われても否定できません…」
「それは違うだろ。事故を起こした奴が悪いんじゃないのか」
「それは…でも母も妹もみんなお前が悪いって言いますし、私自身もあのときわがまま言わなければこんなことにはならなかったって考えてますし…」
うっうっと嗚咽を漏らして泣き出してしまった。
そう、資料にあった事故の日付はひなたの誕生日のものであった。自分のせいで愛する父が死んでしまったと自責の念に駆られるのも無理もない展開だ。おまけに残された家族にも責められてそんな事ないと言える精神の持ち主の方が希少だろう。
「残された父の会社の借金があってお金が必要だったんです…だから頑張って働いてお金を用意すれば少しは許してもらえるんじゃないかって思ったんです。
でも母に出て行けと視界から消えろと言われまして…そうですよね、お金なんかあったって父は戻ってこないですし私が父の事故を引き起こしてしまった事実が消えることはありません。
でもいざ消えろと言われたら頭が真っ白になってどうしていいのかわからなくて、そもそも私に行くところなんてありませんしお金もありませんし…」
「なるほど。それで俺の誘いに乗ったってわけか」
「はい…頼れる友達もいなくて…母に許してもらえるよう努力するつもりですが、しばらくは無理だと思いますし…
働いてお金ができたらすぐに出ていきます…!少しの間だけ置いてください…!」
おおよそ予想通りの展開だ。まああの母親が許すとは思えないがそれもまた俺にとっては好都合、そう言うことなら話は早い。
「行く当てがないなら好きなだけここにいろ。だがその代わり…」
トンとひなたの肩を押す
ドサッ
リビングのソファーに押し倒すとそのままその柔らかな唇にかぶりつく。クチュクチュといやらしい水音が辺りに響く。眉を歪ませてギュッと目を瞑って為されるがままのひなたを見ているとじんわりと何かが満たされていく感覚がする。
クチュ
上の歯列をなぞって、舌を絡ませて
ジュルリ
唾液を流し込み続ければやがてコクリと飲みくだす。白い喉が音を立てて動くその様が俺の劣情を掻き立てる。
「ッァ、やぁ」
本能的に逃れようとする身体を抱きとめて頭にも腕を回す。離れてしまった唇を再び重ねてもっと深くまで舌を差し込み蹂躙する。
抵抗する力も徐々に弱まり完全に俺の腕に体重を預けてなされるがままだ。
服の隙間から手を差し込んでブラのホックを外しツーと背骨に沿って指を這わせればピクピクと体を震わせて目尻に涙を浮かべる。
頬も赤く染め上げてしまって、初めての夜と比べても明らかに快楽に従順になっているようだ。
その証拠に初めは一方的に絡ませていた俺の舌にひなたのそれが絡みついてクチュクチュと激しく蠢いている。俺の手でこいつの身体を変えたのだと思うと頭がカッと熱くなった。
もっともっと深く味わって骨の髄まで貪りたい。この衝動を抑えることなく何度も角度を変えて唇を重ねる。
やわやわと胸を揉みしだきながら時折硬くなった先端に掠めるように軽く触れるとビクンと大きく腰が跳ねる。塞がれた口の合間から漏れる嬌声が俺の鼓膜を震わせる。ひなたは体が押さえ込まれてロクに身動きが取れず快感を逃すこともできないようで、与えられた快感をただ享受して俺の腕の中でビクビク震えている姿にまた頭に熱が集まる。
しばらくそうして熱が引いてきた頃、チュポンと音を立てて舌を引き抜くと名残惜しそうにひなたの赤く腫れぼったくなった舌が小さな口から顔を出した。
少しだけのつもりが思ったよりも長くしてしまった。
舌をしまうのも忘れて子犬のようにハァハァと荒い呼吸を繰り返す姿のなんと哀れなことか。だらりと腕が垂れて背をソファに預け俺を潤んだ瞳で見上げている。
「ここに置く間、お前は俺のものだ。いいな」
はだけた胸元を隠すこともしないで、整わない息のまま可哀想な獲物はこくりと頷いた。
腰が抜けてしまったひなたを抱き上げて客室のベッドまで運ぶ。
おどおどと俺を見上げる姿はあまりに滑稽だ。
「心配しなくても今日は抱かない。風呂も明日にして今日はもうゆっくり休め」
また襲われるとでも思っていたようだが今日のところはやめといてやることにする。ベッドに下ろすとそのまま客室を後にした。
身体も精神も消耗しきっている今は快楽漬けにして身体から堕とすには絶好の機会ともいえるがそれでは面白くもなんとも無い。ひなたの中で俺はすでに最低な男だ。逆に言えばこれ以上悪く思われることもそうそう無いとも言える。だからここは焦らずじっくり攻めるべきだ。優しさに飢えてるあいつに偽りの甘い餌をやって俺に依存させてしまえばいい。
どん底の人間は手を差し伸べられると無意識にその手を取ってしまう。可哀想に、自分を無理やり犯すような男が"優しい"わけがないと言うのに。そんなこともわからずにすやすやと眠っているあいつは危機意識というものがまるでない。まあ、そんなものはあったところで壊してしまえばいいのだ。
夏樹の持ってきた資料を見るに、俺が少し手を加えればあの家からひなたを追い出す段取りをつけることは容易だと判断していた。まあ、その必要もなかったわけだが。この状況はとても都合がいい。
俺のテリトリーに引き込む。ひとまずの目的は達成された。飛んで火に入るなんとやら、せいぜい俺の手の上で踊ってもらおうではないか。
街の灯りが広がる夜の景色を切り取る窓には口元が緩やかに弧を描いている夜の獣が映っていた。
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ゆっくり更新にはなりますがお付き合いいただけましたら嬉しいです^ ^