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第9章 ミネルシルバ

言えないこと

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「ちっ!」

篤郎は目覚めた。気分が悪い目覚めだった。

「神は敵か悪魔なのか、決着を着けないとな。」

怒りは残ったままな篤郎。そんな朝は、産まれてから体験したことがない。行き場の無い怒りだけが篤郎に残っていた。
そして、ルナに、

「今日は訓練が有ったな?」

「はい、軍の新人訓練が有ります。」

「それ、俺も参加するから。」

「新人ですよ?」

「うん。なんかね。ふっふっふっふっ。」

「無茶はしないで下さい、マスター。」

「ふっふっふっふっ。」

篤郎は、黒い笑いを発していた。夢見が悪い事が原因なのだが、身体を動かさないとどうしても怒りが治まらないのだ。

「マスター、お客様です。」

「だれ?」

「ミネルシルバと名乗っていますが?」

「ぶっ!」

空間から一人のぼこぼこな顔をした駄女神が降臨した。

「えっと・・・」

篤郎の行動の方が早かった。

即座に凶悪バットを持つと、往年の片足打法を彷彿させる様に綺麗な打法で、ミネルシルバのお腹に吸い込まれて行く。ミネルシルバの顔は驚きと不細工な姿と、バットの動きに連動したくの字からの天井突き抜けて行った。

そして、バンッとガンッとバキッとピューの音が遅れて耳に届いた。

「・・・・ホームランです、マスター。」

「うーん、ビデオで見た打法なんだけど、しっくりと来ないわー。」

「飛距離は出てましたが。」

「手首の感触が、何か違う。」

「グリップの位置が身近のでは?」

「グリップ?なるほどね。」

「ミートはグリップを短くするのが基本だとアーカイブにあります。打撃と飛距離だけなら長く持たれた方が良いと思われます。」

「解った。次は気を付けるよ。」

笑顔の篤郎に釣られて、ルナも笑顔だった。

「げほっげほっ、ちょっと!酷い扱いなんですけど!」

ミネルシルバは光の粒子から姿を現した。

「二球目だな。」

「待って、本当に待って下さい!」

泣いて謝るミネルシルバ。

「何かよう?」

「あのですね。リザイデント様・・・」

「篤郎。」

「篤郎様!」

「お前、大神なんだろ?何で人間の俺に様着けするの?」

「だって、私に触れられる存在ですよ!そんな人は居ませんからね!」

「知らんがな。」

「マスターはマスターですから。」

ルナはどんな事を言われてもブレない。ただ、意味は通じ無いが。

「なんですの、その分からない言葉は?」

「ん?」

「何ですか?」

「いや、言葉使いがな。」

「当たり前です!リザイデント様ですよ!400年ぶりの再開ですよ!しかも、力は衰えて無かった・・・・」

ミネルシルバは震えていた。

そう、戻したらいけない存在が帰って来たのだ。リザイデントにもルナ達さえも知らない事がある。

『if』の世界。『もしもの』世界は存在する。一秒前の世界から存在して無限にも在るのが世界の支える。その中でも変わらない存在が神である。多重世界に存在していない人が、リザイデントである。神として神格化も無いが、神と同類の存在を張れてはいけないのだ。

「私も復活しましたし、元の世界に戻りませんか?」

「あんたにそんな力が残っているのかい?」

ミネルシルバは神である。神は汗など流せ無いのだが、汗を滝の様に流していた。

「出来るなら頼みたい事があるんだが。」

「な、なに?」

「勇者と言われる異世界の人が三人も連れて来られたのだが、彼等を元の世界に戻して欲しい。」

「元の?ではリザイデント様と一緒に帰しますよ?」

「それなんだが、俺がいた世界と違う世界から連れて来られたんだよ。」

「へっ?」

「アルテウルだっけ、他世界から人を連れて来るなんてな。神の見技かな?」

「・・・・・」

本年に困ってしまっているのだ。

神が他世界から人を拐うのは困らないが、帰すとなると大変な作業がまっているのだ。

神同士の手続きに大神の報告に、上位の方に報告に書類の山を作らなくてはならないのだ。異世界召還が人に対して禁忌とされているが、神は禁忌など無い。帰す時に悲惨な事になるのだから。

「済みません。少し上の方と相談してきます・・・・」

フラフラと消えるミネルシルバ。

「なー、ルナ。」

「はい。」

「あの対応は不味くないか?」

「そうですね。グルタン達から情報を聞き出します。」

「頼んだ。」

ルナも消えて、寂しくなるが、

「よし、訓練にでも行くかな。」

篤郎はそれでも変わらなかった。
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