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第4章 冒険の始まり

製造方法

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「アツロウさん、ちょっといいですか?」

エミーがデュースを伴い篤郎の部屋に入ったのは、二日後の14時頃であった。

「なに?」

隠すことなくノートパソコンを開いていた。因みに電源を魔力で賄えないので、簡易ソーラーパネルで供給している。何でも魔力で、とはいかないらしい。

「聞きたい事があります。」

「ほんで?」

「この前の採取での事ですが、魔法をつかいましたよね?」

ほとんど、賭けな一言である。
デュースに篤郎が魔法を使った事を話したが、デュースは絶対に納得しなかったのだ。

「うん。」

エミーの賭けが勝った。拳を脇腹で作って喜んだ。対してデュースが話した。

「私も聞きたい。魔法の詠唱を唱えなかったと聞きましたが、本当ですか?」

「本当。」

「そんな!詠唱を唱えないで使う事なんて聞いた事がありません!」

デュースの驚きにも反応が薄い篤郎は、ノートパソコンを見ていて打ち込んだりしていた。

「はっ!そうだ、アツロウさん見せて下さい、魔法を!」

その言葉を言うと、

「はっ!?」

篤郎の頭上に水の輪ができていたのだ。輪はゆっくり流れを保つ様にして円環となった。それから、円環の流れから、丸に分裂しだして丸は動物やモンスター等の姿を模した。
デュースは灰色になりながら見ていた。いや、もう理解の範囲を軽く越えていたからだろう。
エミーは、楽しそうに見ていた。

「よし、終わり!」

ボタンを叩い音をさせて、ノートPCから音がするのだが、デュースは意識が此処に無く、エミーは幻想を楽しんでいた。

「ちょっと、出掛けるよ。」

篤郎は部屋から外に出て、薬剤師の家に行った。昨日に一度、行った薬剤師の家なので迷う事なく行ける。此処を教えて貰って分かった事がある。

ポーションには、体力回復ポーション、魔力回復ポーション、解毒ポーションとゲームでお馴染みの三種類に別れている。ポーションにするには水が必要なのだ。聖水と呼ばれているが、純水を使う。大量ではなく2滴を目安に入れたモノをポーションと呼べる物になる。問題は製造方法なのだ。

今の製造法は遅れた過去の遺物に戻っている。生のファミー草を磨り潰して聖水を入れた物を体力回復ポーション、生のヘミニー草を同じ方法で行うのが魔力回復ポーションとしていたのだ。この方法は恐ろしく不味くて苦い飲み物になる。同じモノを表現するなら、生ゴミを溶かして飲まされる感じだろうか。

私の生きた時代には改善していたはずであった。

体力回復ポーションの製造法は、ファミー草を根のまま乾燥させてから粉にしておく。ヘミニー草を絞り汁を採取する。純水を足した物になる。もう少し回復を望むなら、ヘミニー草の汁を蒸留させて抽出したものを蜂蜜を加えて物になる。
魔力回復ポーションは反対に、ヘミニー草を根から乾燥させて粉に。ファミー草を汁にして純水を入れるになる。
製造方法は似ているが作るのに手間をかけるのが、効果は2倍以上に違う。

だいたい、この製造方法が無くなっているのが変でしかないのだ。別にリザイデントが作った製造方法ではなく、世間一般に広がった製造方法である。作るのに時間が掛かるが、普通の家庭ならついでに作れる物であり、常備薬みたいにして誰もが作った物なのに、方法が知られていないのだ。忘れるにしては忘れ過ぎである。しかも、広がった製造方法がだ。四百年の年月で忘れるのかと情けなくなってしまう。
時代に残る物と消える物はある種の流行りに似ているのだろう。

因みに、薬剤師と名乗ったエレミーさん(30代で男)も知らないそうなので、出来たら大発明になるそうだ。

どうでも良いが、ポーションで儲けれると考えてしまうよ。定番のリバーシ儲けよりもポーションで儲けるの方が利得利権はデカイそうだ。趣味物よりも命に直結した物の方が高いのは当たり前だとか。ポーションで1割の利益があるそうだ。因みに現在の体力回復ポーションで一本銀貨10枚、魔力回復ポーションが、銀貨20枚だそうだが、篤郎が教えた方法なら安くて体力回復ポーションが銀貨20枚~で、魔力回復ポーションが銀貨50枚~となるそうだ。

それと、乾燥には新しい魔法を作った。と、言っても篤郎しか使えないのだが。簡単に乾燥と言っても、植物を乾燥させるにも二通りもあり簡単ではいけないのだ。云わば魔法は想像力とされているが、篤郎は日本で学んだ知識と想像の力が魔法に必要だと理解したのだ。知識があれば、乾燥もどう行って必要な養分はなにかを知って凝縮できれば良いのかが分かる。知識こそが大事なのだが、この世界では理解は出来ていないのだ。

また、求める物も違うのである。

なまじ魔力があるから、医療も薬剤も進化する事もない。香辛料にしても衣服にしても変わらないのは、そのせいかも知れない。むしろ退化しているのかも知れない。
屋台でも、有るのは肉になる。焼き、煮、蒸すに別れるだけだ。ケバブとか、焼き鳥とか、お好み焼きなぞ有るわけが無いのだ。
そんな訳で、エレミー宅に着いた訳だ。
呼び鈴は無いので入口を叩いて、名前を呼びながら開けて入る。エレミーは薬剤師だが、発明家でもあるそうで、何かとご近所迷惑を起こしてるそうだ。お陰で一人やもめだそうな。嫌われるよりも、好かれているようで、ご近所の主婦から色々と世話になっているとか。篤郎に取っては敵にも近いのだが、金になるので手は出していない。

「エレミー。」

大声ではなく、普通に呼びかけて入って行った。

「エレミー。」

「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「エレミー?!」

声に向かって行くと、容器に向かってパニックを起こしているエレミーがいた。どうかしたのかではなく、思っていた以上のできに驚いたようだ。

「出来ました、アツロウさん。」

エレミーは振り絞るように声を出した。恍惚な顔を浮かべているのは、気のせいではない。

「これは凄いですよ!ポーション界の革命ですよ!」

篤郎の方に顔を向けると、頬を赤らめた顔を見せた。

「効果、味を鑑みても1割より、3割いや、10割の値打ちですよ!アツロウさん、天才ですか?!」

ともかく、作った物は全て良かったらしいのだ。薬剤ギルドに報告と商会ギルドに技術の既得権益を守る事をする為に出なくてはならなくなったのだ。

「では、行きますよ!アツロウさん。」

エレミーは篤郎を抱えて家を即座に出たのだ。篤郎に同意を得ずに。「ぎぁあぁ!」の言葉を残して薬剤ギルドに向かったのだ。

「済まないが、新しい体力回復ポーションと魔力回復ポーションが出来たので報告に来た。」

と、エレミーが受付の女子に頼むと、直ぐに女性の担当官が来た。

「エレミーさん、これが新しいポーションですか?」

「そうだ、ロナ。」

瓶を持ち上げて『鑑定』を行った。

「こちらが体力回復ポーションで、魔力回復ポーションが此方ですか。ふむ。」

瓶の蓋を開けて臭いを嗅いだ。

「良い匂い!魔力は甘い匂いがしますよ?!」

「そうなんだ!しかも回復率が凄いのだ!」

「えっ!本当ですか!?」

「新しくて、手軽な方法だから、広めたくてな。」 

「「流石は頼りになるエレミーさん!」」

と、エレミーを褒め称えていたのだ。篤郎は唖然とするがエレミーは調子に乗っていた。

「ギルド長にも認定して貰いたくてな。」

「分かりました、直ぐに言いますね!」

当然の様にしていて、ギルド長に通されるとエレミーは畏まっていた。

「アツロウさん、すみません。」

篤郎の顔と態度は能面の様な姿になっていた。

「エレミー!作ったのを見せてくれ。」

エレミーと同世代のこれまた二枚目な男が入って来て、エレミーの前に立った。エレミーは汗を拭きながら、商品を渡した。

「どれ、おぉ!旨いぞな、ポーションで。売れるな!」

篤郎に目も合わせずに話を進めようとしているが、エレミーはただ汗を拭いていた。

「ん、どうしたエレミー?」

「はい、あの、この製造法を伝えた方がですね、この方でして。」

汗の量が増えて、拭いても拭いても追い付かない。

「アツロウさん、こちらは薬剤ギルドの長でレイブさんです。」

顔をレイブに向けるが挨拶はしない篤郎。勿論、レイブも顔を動かさずに目だけを向ける。

「それで、これを認めたら良いんだな。」

「はい、それで良いですよね?」

篤郎は頷いた。

「では、これらのポーションを認める内容を登録しよう。」

レイブは自分の机に向かい書類に書き出した。

「エレミー、書類だ。」

エレミーはレイブから書類を受け取り、篤郎に渡した。無言で歩きだした篤郎の後ろにエレミーが着いて行くが、

「エレミー、ポーションはこちらに卸してくれるな?」

の言葉に、エレミーは悲壮な顔でレイブに話した。

「この程度のポーションなら私のを卸しますが、これ以上の品はアツロウさんに聞いて下さい。」

頭を下げて、エレミーは篤郎を追った。有頂天になって女にチヤホヤされていたが、それ以上の品は篤郎から聞き出せていない事を思いだしたが、後の祭りになっていたのだ。だが、不可能だと知ったのは追い付けないと理解した時だった。一度のミスが大きな知識を得られるチャンスを捨てた事になった。エレミーは息を切らして、地面に座ると膝を抱えて泣き出していた。
篤郎は直ぐに商会ギルドに着いて、受付で聞いたのだ。

「ブリンク商会の方か近い商会の方は居ますか?」
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