転生国主興国記

hinomoto

文字の大きさ
上 下
212 / 253
本章

じごく

しおりを挟む
“良い策士は戦う前に決着を着ける。”

誰の何の本に書かれたか、読んだ言葉だと思う。
思うが、それには二通りの事を指すのだろう。
一つは策略による食糧を兵馬を使えない様にする事。
もう一つは天災や無謀な行動によって起こる事になる。
今回のいくさ?逝くさ?いや、遠征か。
グリーンシティに向かっての行軍は、まさに後者である。

食糧は最低限で、百万の軍隊と二万の貴族とその家族及び国民達が付き従っていた。
国が攻めてきたと騒ぐ事だが、それだけの人数になると一日で10キロ進むのがやっとである。
砂漠化のお陰で皇国の砂漠地帯が百キロと五十キロの先に緑があるのだが、砂漠を越えるまでに時間が掛かり過ぎるのだ。

進軍したが、残された人々がいた。
孤児や貧乏人、病人と老人である。
盗賊などの犯罪者も砂漠に向かったのだ。
その為に暗く酷いながらも助け合いではあるが、風前の灯火でありながらも、表面的に明るくはあるが、内心は怯えていたのだ。
生きている以上、死は恐ろしいのだ。

二日後。
進軍が始まり、町に残された人しか居なくなって二日で死を悟った人が多い。
それは食糧だけでなくて、生活面で不都合が多くなっているからだ。
町なら家はあるが、着替えがない。
飲み水すらまともに無いのだ。
砂漠が水を吸うからだ。
飲み水が無くなれば死を待つだけとなる。
次の日が恐くなる。

3日目に、あり得ない事が起こった。
旅人が来たのだ。
旅をしたいからであろうが、此処に食事、飲み水がないのだからどうする事もないのだが、旅人は病人から救済に入ったのだ。
旅人は一人だけでは無く、20人は居るだろう。
いや、それ以上かも知れないが、人々を手なずけてしまった。
理由など知らないが、餓える事が無くなるのだ。
彼等がいる場所では。


ーーーーーーーーーー


進軍とは名ばかりの進行は野望に見あった行軍は出来ていない。寧ろ後退しているのだ。
停滞なんて事もない、後退だ。
それは、進軍して四日目。
砂漠地帯で、70キロを過ぎた頃に先頭の兵と魔物が戦い出した。
最初はゴブリンの群れで、五十匹程度の獲物であった。
実はゴブリンを狙うのは人だけは無い。
ワーム系が狙っていたのだろう。
小規模な戦いが勝手に拡大するのは何時もの事になるのだが、その熾烈な戦いに変わってしまうのに時間が掛からなかった。
次から次へと魔物が襲い、それを兵が押し返す。
進行が止まり、攻防一体を続けるのは砂漠である。
百万の軍隊も暑い陽射しの中の戦闘で疲労困憊となる。
それだけではない、疲労は貴族、その家族、着いて来た国民達も同じであった。
それも5日で終るのだから。
被害だけで、撤退できる程なのだ。
生きて新たな土地を得る事だけがこの進軍の意義なのだから、撤退の二文字は無い。進軍だけが生きる希望だから。

だが、そんな妄想は続かなかった。
一人づつ倒れて行った。
多くの人を切り捨てたが、既に貴族及び家族と皇帝一派と兵士だけで、約三万。
水、食糧も既に底になり、まともに動ける兵はいない。
しかし、貴族達と皇帝一派は水を食糧を無造作に食べていたのだ。
そして、それらの物が人の血と肉になるのに時間は掛からなかった。
付き従って来た兵は、血も肉も皇帝の為に捧げた事になる。

悪夢から覚める時が来た。
それは水のような色をしていた。
大きな水溜まりだった。
誰もが我先にと水にありついたと思った。
一人がうめき声を立てると、連鎖のように水を飲んだ人間はうめき声をあげ出した。
無味無臭の水溜まりから百メートル離れた場所から、魔物が現れた。
魔物の名前を分かり易く言うと、ポイズンウォーターリザード。
無味無臭の麻痺毒を作る魔物で、大きさは牛程ある。ランクはCなのだが、一匹なら手を掬う程の量しか出ないので集団で襲うのが特長である。
大きな水溜まりなので、かなりの数が砂に潜んでいたのだ。
弱肉強食。
食い残しも無く、約三万の人が消えたのだ。
皇国はこうして勝手に滅びてしまったのだった。

一人、ルミエッタは手紙を書いていた。
ナインの事をどう伝えたら良いか悩みながら。
一生懸命に考えて、両親に送る手紙を書いていた。
嬉しそうに、時にはハニカミながら、想いも告げない様に書いていたのだ。
自分の手紙でどうなったのかも知らずに。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

処理中です...