転生国主興国記

hinomoto

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せいとと少年

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ゆったりと馬車は進んでいた。
暖かな日差しと爽やかな風が護衛兵の気も緩み、雑談をしながら歩を進めてしまう。
そんな風景をよそに、馬車の中ではハンベルグ卿は汗をかいていた。
口頭で話す言葉を一回で覚えてしまい、分からない点を聞いてくるが、これが的確で、答えに詰まってしまうこともしばしば起こってしまう。
悪い事ではないが、話を脱線してしまい楽しいのであった。
感じているのか、見ているのか、とにかく視点が違うのだ。
新しい理論が目の前で広がり、新しい考えになれる事に喜びを感じてしまう。
メインの回復魔法の講座も、教えに通ずる構想を発展させれるから彼女と過ごす日々がいとおしいのだろうか、知らず知らず彼女に傾倒していた。

「ハンベルグ卿、疲れてませんか?」

「エイトさんこそ、疲れてますよ?」

「そうですか、では休みましょう。」

「何故、貴女は休みを良く取られるのですか?」

「休むには、疲れを取る事と一人で考えを纏める事を取るために行います。」

「考えを?確かに一人なら良いですが、二人では考えは纏める事は不可能では?」

「考えには、深く考える事と浅く考える事の二面を与えます。浅く考える事で穴を探し、深く考える事で穴埋めの整合性を求めます。」

「休みながらでは、休めないのでは?」

「人は考えを止めれません。別の視点から数多の質問にアプローチを加えて理論を広げる事も重要なのでは?」

「なるほど。理論を纏めるだけでは無くて、広げる事も考えると。」

と、話が尽きない。
ただし、生徒と先生の関係も段々と逆転しているのだ。
普通ではないのだが、会話をする度に聞いてしまうが、ことごとく答えとして返ってくる。
考えは一つではない。
解釈も一つではない。
自分の考えを人にどう思われているのか、どう認識されるのか。
期待するのは間違いであり、自身の実践のみがお手本になり、言葉を発する事で形となる。
聖職者として、自分の行動を認められた感じを受けたが、終わりではないとも教えられる。
次は着いて来た従者を導かなければならないと。
身近にいるから、言わなくても分かるとは、傲慢な考えと厳しく指導される。
親しい人や身近にいる人ほど、丁寧にそして真実な言葉で話をする事を教えられる。
自身の教えが広がる感じがした。
そして、親切だから、近しい人だから、間違っている時は厳しく指導するべきだとも、教えられた。
だが、幸せな時間はいつでも早く終わりがくる。
ゆっくりと討論を重ねていたが、

「旦那様!聖都が見えました!」

御者の容赦ない、終わりを告げられたのだ。
ハンベルグ卿は涙を浮かべながら、聞こえていない振りをして談義を続けた。
彼女の言った一言も漏らさない様に、記憶するように心に残していた。

「ふふ、ハンベルグ卿は討論の果てに結果があると思いますか?結果が一つでは有りません。一つの動きで予想は出来ても、結果は分からないものです。予測が出来ても、結果が同じでない様に。一つを求める事に固執せず、複数から貴方の一つを見つけなさい。」

「でも、私の考えは!」

ハンベルグ卿の口に薬指で言葉を止められる。

「その先は『云わぬが花』です。」

ハンベルグ卿の頬が赤らむのは、聖職者よりも男が強くなってしまったのだろうか。
不覚にも彼女にときめいてしまう。

「あ、あの」

「旦那様、門に着きました!」

ハンベルグ卿は、自分が何を言おうとしたのか。
顔も赤くなり、下を向いてしまう。
この歳で何を言おうとしたのか。

「聖都はイルミナティと違って、静かですね。」

季節を感じないのだが、聖都を眺めているエイトの横顔を見てしまい、赤い顔のまま見惚れていた。
そのまま、いや、無情にも学園に着いた。
荷物がないので、そのまま降りる。
ハンベルグ卿は、その動作を馬車から見ていたのだ。
降りる姿に、挨拶をする姿、笑う姿に話す姿。
多分。

「ハンベルグ卿、ありがとうございました。では、学園に向かいます。」

礼をするエイトを見送った。
声も掛けられずにいたのは、何かが込み上げたからであろう。
馬車は学園を離れていく。

「うっ・・」

心が苦しくて痛い。

「ううっ・・・・」

この痛みは初めてである。
神を信じて、教えを広めて、沢山の人と出会い沢山の人と別れを体験してきたのに、なんで心が痛いのだろう。

「えっぐっ、えっ・・・・・・」

私は敬愛してきた神を裏切ったのだろうか。
離れたばかりなのに、あの人の事を思いだす。

「ええっえっえっえ・・・・・・・」

これは、これが恋だろうか。
私も相談され、聞かされた。
と言う事は、これが初恋が破れたというものか。
人生は長い。
経験したことに驚く事ができた。

「あはははは。」

盛大に賑やかにしてみた。
初めて敬虔な事を破ってみた。
また会う日まで。
ありがとう。さようなら。

馬車が過ぎ去って行く。
行き先は最果ての村だ。
私の気持ちを言ってもいないのに知っている従者達に感謝をしながら、聖都から離れていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「な、何で!ハンベルグ卿は本部に顔を出さないーーー!」

「分かりません!兎に角、聖都から出て離れて行きました!」

「えぇー。教皇様に何て云えば・・・・」

聖都の教会本部では、重臣達が右往左往としていた。
教会の信者も関係者も、教皇に目通りは出来ない。
卿と付く方でも、面会するのに手続きはいるが、ハンベルグ卿は長年の布教を重ねて外では人気が高い為に、面会と催しを準備をしていた。
なのに、全てを台無しにして、教皇の顔も壊してしまったのだ。
どうつくろうか悩んでいた。

「どうしよう。」

本当にどうしたら良いのか、悩みに悩むのだった。
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