転生国主興国記

hinomoto

文字の大きさ
上 下
185 / 253
本章

暗殺と少年

しおりを挟む
教会本部からの使者が正式な書簡を手にイルミナティ砦についたのは、魔物との戦いがあった日から三日後であった。
使者は悠然と来たのだが、雰囲気に呑まれて教会に立ち寄る嵌めになる。

「・・・・・・と言うことで、彼女は『聖女』として民衆に広まり、また実績も積みまして、イルミナティでは『聖女』としても申し分がないでしょう。」

ホクホク顔で話すイルミナティ教会のデブリ司祭。辺境な街で信者が少ない所に居る、何の取り柄もないと使者は感じてしまいイライラが募る。

「そうか、回復魔法も出来て人々に奉仕までしている逸材で、聖女と名乗っているとは。」

由々しき事態に頭が痛くなる。
彼ら使者の目的はイルミナティ砦からエイトを連れ出し、イルミナティから離れた所で暗殺をする事である。
死ぬ前に調査をする事になってしまうが、本部に知られる前に殺さないと自分達の命はない。
殺す為に家族を人質にされてしまっていた。
それも失敗をしたらになるが、失敗などあり得なかった。
暗部暗殺エリート部隊。
聖女様の直轄であり、個人のレベルも110を超えているのだ。
“無敵の部隊”と言う名があるくらいだ。

「そうなのですが、民衆から付いた通り名ですよ?彼女は一度も宣言はしてませんが。」

「!分かっておる!その子に会いに行く!」

憤然と外に出て馬車に乗り込む。

「出せ。」

の声で動き出す。
デブリ司祭はニコニコとした顔で見送りをしていた。

「やっと、成果が出来たが、本部に良い印象を付けてくれるかな。」

まだ、実情も知らないが、本部へ自身の権限において、学園に入学させれる一名を初めて使ったのである。理由は二つある。一つ目はエイトを哀れみ後ろ楯になること、二つ目は実績を作りこの街から鞍替えを希望するためである。
この街から逃げ出したいのが本音である。
教会をないがしろにするイルミナティが嫌いなのだ。此処から出て信者が多い村に移動出来れば良いと思っていた。
彼は自分の思惑と違う動きがあることを知らない。

「取り敢えず街の情報が必要だ。」

「時間が短いですが、集めましょう。」

「砦も頼む。」

影が消えてしまい馬車には使者が残っていた。
馬車は砦に着くのだが、歓迎してる様でしていない兵に迎えられる。
会話もなく、上官達が待つ部屋に通される。
ただし貴族育ちの上官は流民の引き渡しには関心がないし、教会にも関心がない為、この場には居ない。

「遥々お越しくださいましたな、書簡を。」

「はい。それで少女は?」

挨拶も抜きで書簡を渡しながら聞いた。

「ちっ、本物か。」

すかさずノックが聞こえた。

「なんだ!」

扉が再び開き、エイトが現れた。

「何で貴女が!」

「呼ばれる手間を惜しみました。使者殿、エイトでございます。」

「あぁ・・・・・・」

使者は驚いていた。
殺す対象が、こんなにも優雅で可憐で凛としている存在とは、と感じていた。自責の念も含めて、自答をしてしまう。
良いのかと。
家族も知り合いも教団も忘れてしまいながらの自答である。
自問ではない。
殺す事は、教会も教団も決定事項である。
自分以外の事なら教会の為に何でも出来る。
我が子を我が妻を我が家族を差し出すのに躊躇いもないが、この子には直ぐに出来なかった。
もしかして、と思ってしまうが、
(教会を揺るがす存在ですよ。)
と頭に響いた。
(人生を教会に捧げたのに壊せない。)その通りだ。長年、教えを学び教皇様に可愛がられて来たのに、地位や名誉を捨てる覚悟はない。
(壊す危険人物)は殺さないととダメだ。
意識を戻し、元の顔に戻った。

「では。書簡の通り彼女を学園に連れていきます。」

「しかしですな、まだ・・・・」
「分かりました。荷物もありませんから直ぐに行けますよ。」

その凛とした姿に惚れ惚れしている上官達と、殺意が混じった使者と分かれてしまう。
殺気を抑えながらエイトに向かい、

「では、出立しましょう。」

「えっ?」

「はい。皆様、大変にお世話になりました。失礼します。」

「えっ?えっ?」

使者とエイトが並んで出ていったのだ。

「「「ええー!」」」

上官達の衝撃は凄まじかったが、エイトの制止も叶わず出ていったのだ。何も出来ないと張れたらヤバくなりそうと考えてしまい、出るのが遅れて扉のノブに手をかけた。

「ん?」

「どうした?早く開けろ。」

上官がノブを回すが扉は開かなかった。

「何故だ!鍵も無いのに開かないのは、変だぞ!」

「俺に変われ!むう!あ、開かない?!」

扉の前で叩いたり叫んだりしたのだが、扉は開かないし叫び声も届かなかった。扉が開いたのはエイトが砦でも街も通り過ぎた頃であった。

「「「エイト様ー!」」」

その声は砦の中で響いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


馬車に乗り込むまで誰にも会わずにエイトを乗り込ませたのは、上々のことである。
砦の中で会わなかったら、街でも騒ぎにもならなかったのだ。
主が我々の行動が正義の行いだと言ってるかのようだ。
止められず、妨げられずに街から離れたのは最大にして最高のシチュエーションでしかない。
しかないのだが、問題があるのだ。
影からの連絡がなかったのだ。

「すみません、学園に入るのに何か必要な事はありませんか?」

エイトからの質問が来たのは良いが、どうせ死ぬ前の話として話をしてみた。

「あぁ、一応は教会からの召喚なので、余り目立たない方が良いが要らない称号を貰ったのでそうは行くまい。取り敢えず下でに居ることと、称号の話をしないことをお薦めするな。必要な物は学園から出して貰うので、心配する事はない。寧ろ編入なのだ。注意すべきお方がいる。その、お方は聖女様候補生なのだが、聖女の付き人で次の聖女に着かれるお方だ。」

「聖女って決まってるのですね。」

「そうだ、決まっている。私も噂として聞いた話だが、聖女様の隠し種らしい。(何の話をしているんだ俺は?)逆らえば教会から、怨まれる程度で終わらない。(話してはならぬ!)イルミナティも安全でおれるか・・・・・(話すな!)教皇が父親との噂もあるからな。」

「噂ですよね?」

「噂である。」

エイトは静かに受け答えしていたが、使者は言ってはいけない事をいってしまったのだ。その為に顔は白くなり汗を流している。
言葉は平然とした口調なのに、何故言えない事を言ったのだろうと、自分が信じられなくなってしまった。

「では、学園はどのような雰囲気ですか?」

「その子が牛耳っているよ。決して関わるなと言いたい。」

「優しいのですね。」

「優しい?私が優しいかね?もうすぐ死んでしまう貴様が私を?」

「私が死ぬのですか?」

「そうだ!殺される運命なのだよ!」

「では、その定めを乗り越えたら認めますか。」

ニッコリと笑い、使者を見ていた。
その目を見た使者は恐れた。
多分、私の知る記憶はここまでだ。
この後は知らない。

しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...