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第三章 召喚阻止編
第四十話 黒き聖女
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「色々と……ごめんなさい!リラちゃん!」
翌日、リラは領地内の教会に来ていた。
目を閉じると、スーツ姿で平謝りする神の姿が映っている。
昨日は邸宅に帰った後、強制的にベッドに入れられてしまった。
その後たっぷりと睡眠をとったにも関わらず、過保護に外出を禁止され、昼過ぎにようやく教会まで行く許可が下りたのである。
「ダイヤさまが謝ることでは……それに、その格好は?」
「これは『謝罪会見』よ!私の部下とも言える教皇庁の者達が、あんな狼藉を……。それにすぐに助けてあげられなくて……関係者各位に、謝罪申し上げます」
神妙な面持ちで神が頭を下げると、どこからかパシャパシャとフラッシュが焚かれ、白い光が瞬く。
横にいるテディベアのパンジーがぐいぐいと後ろから頭を押し、勢いのまま神の額がゴンッと音を立ててテーブルにぶつかった。
リラはひとまず、その状況をスルーして続ける。
「でもどうして、すぐに出ていらっしゃらなかったのですか……?教皇庁なら、信仰も問題なく集まっていそうですが……」
おでこの赤くなった神の顔が勢いよく近づいてきて、画面いっぱいに広がった。
「そこなの!!あの子達、私に対する信仰がぜんっ……ぜん無かったのよ!降りようと思っても降りられなくて、超ヤキモキしちゃったわ!リラちゃんが私の事を想ってくれて、それで神聖力が高まってギリ行けたの」
愛ね……と、神は照れたように手でハートマークを作る。
パンジーは足元から「ハートして!」のうちわを取り出し、手に取って振り始めた。
「えっと……とにかく、助けてくださってありがとうございました……!」
控えめに手でハートを作ると、神とパンジーはズキュン!と胸を押さえて後ろにのけぞった。
リラは頭上から降ってきた砂糖菓子をワタワタと受け止め、ポシェットから取り出した小瓶に詰める。
「リラちゃん、それは……?」
「もしかしたら『いいね!』をいただけるかなと思って、用意してきました!これを食べると神聖力が高まるので、必要になった時のために『いいね!』貯金です」
「リラちゃん、なかなか……」
「ふふっ、悪役令嬢が板についてきました?」
得意げに胸を張るリラを見て、神は微笑んでうちわを振る。
「悪役令嬢というより、サフランちゃんに似てきたわね。でも、どんなリラちゃんでも推すわ!!大人になってその美貌を上手く利用し始めたら、国が傾きそうだけど……」
「……?何か仰いました?」
「何でもないわ。それで、本題は……『召喚の儀』のことね」
「はい。サクラさんが召喚されるのを、何とか止めたいと思って……」
神はうちわを下ろし、弱々しく首を振った。
「……ごめんなさい。これに関しては、ネタバレになるからノーコメントね。肝心な時に役に立たない事ばかりで、申し訳ないけれど……」
「いえ、そうだろうとは思っていました!とにかく、頑張ろうと思いますので……決意表明です」
「ええ、応援してるわ。一人で無茶をしないで、周りの人達に頼りなさい。そこにヒントもあるはずだか……痛い痛い!」
ネタバレ警察のパンジーがポカポカと叩く腕を、神は両手で掴んで止める。
「忙しくなると思うけど、話したいからまた教会にも遊びに来てちょうだい!私も頑張って『いいね!』するからね!」
プツンと音を立てて、神の映像は途切れた。
神と話して、また少し緊張がほぐれた気がする。リラは微笑んで頭を下げ、教会を後にした。
・・・・・
「……お祈りは、終わりましたか」
教会を出ると、ドアの脇には護衛でついてきたユーリが立っていた。相変わらず無表情で、何を考えているかわからない。
「はい、お待たせしてごめんなさい」
「それが仕事ですから……。お話し声が聞こえてきましたが、中に誰か?」
「あっ……ひとりごとです、ひとりごと!」
頭の中で会話をしていたつもりだったが、声に出ていたらしい。手をブンブンと振って焦るリラを、ユーリは無言で見つめている。
「あ!お待たせしてしまいましたし、これをどうぞ」
リラはポシェットをゴソゴソと漁ってから、握った拳を差し出した。
「これは……?」
「アメジスト領特産の、ルビベリーで出来た飴です!甘いものを食べたら、疲れが和らぎますよ」
「……護衛の私に、そんなに気を遣わないでください」
「そんな!アメジスト領に来た以上、護衛も家族ですからね!疲れたら甘い物を食べて、一休みするべきです」
リラはキャンディ型の包み紙をピリリと引っ張り、出てきた飴をユーリの口に入れ込む。
「ふふん、夕食の時にルビベリーを美味しそうに食べているのを見ましたから!嫌いとは言わせません」
ユーリの口に甘酸っぱい香りと甘みが一瞬で広がり、思わず頬が緩んでしまう。それを見て、リラが心底嬉しそうに笑って手を握った。
「ほら!ユーリさんは普段無表情ですが、ルビベリーを食べた時だけ、ちょっと口角が上がるんです!ベリー系がお好きなんですか?それなら、パールベリーやラピスベリーなども……」
「あの、ベリー系が好きなのはそうですが……何故、手を?」
リラは一瞬固まった後、パッと手を離した。顔を赤くして、じわじわと後退り続けている。
「あの、護衛だと仰ったので、手を繋ぐものだと……。お父さまが護衛の時は、そうなさるので……」
「お望みならば、繋いでも問題ありませんが」
「い、いえ!大丈夫です!」
そう言うと、リラは足早にどこかへ歩き出した。邸宅とは反対方向である。
「ライラック様、どちらへ?」
「リラと呼んでくださいな。今日はこの後、王城の図書館へ……」
言い終わる前に、ガシリと腕を掴まれた。
「リラ様。サフラン様より、今日は邸宅の半径1キロ以上先へは出てはいけないと、お達しを受けています」
「ええ!?でも、一刻も早く調べ物をしなければ……」
「昨日は、魔力も神聖力も使い果たしたと聞きました。今日は家に戻って休んでください」
「うっ、あの……もう一つ、ルビベリー飴を差し上げますから……」
首を振ったユーリは、リラの身体をヒョイと持ち上げた。またしてもお姫様抱っこの形である。
「ええ!?大丈夫です、歩けますって!二日連続でお姫様抱っこなんて……そんなことありますか!?」
「マシュー様より、聞き分けない時にはこうして運ぶようにご指示を受けました。この体勢がお嫌でしたら、脇に抱えるか肩車でも良いですが……」
想像した結果これが一番マシだと判断したリラは、大人しく体を丸めて運ばれたのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そもそも『黒き聖女』って何なのですか?聖女はお姉さまなのに……」
礼拝服を着たテディが、ふくれっ面でそう尋ねる。
王の呼び出しから三日後、ようやくお許しが出たリラとテディは、王城の図書館を訪れていた。「黒き聖女」に関する記述を探すためである。
「『黒き聖女』はね……異世界から召喚された、魔力がとんでもなく強い女の人のことなんだ。その力を表すように、髪が真っ黒なんだよ」
分厚い本を捲りながら、ノアが答える。二人が王城に来たことを人伝に聞き、稽古を切り上げて手伝いに来たのだった。
リラは騎士団の服を着たノアの姿に一瞬ドキリとしかけ、そんな場合ではないと首を振る。
「『聖女』というからには、目も金色みたいだな。ほら、ここに書いてある。魔力も神聖力も強いなんて……」
たまたま居合わせ、調べ物の手伝いを申し出てくれたセレナが呟く。大臣である父親の仕事を学ぶため、自主的に図書館で勉強していたそうだ。
「リラも、魔力と神聖力どっちも高いけどね。でもそれは稀なケースで……この世界でたまに生まれる、金の目の女の子は『白き聖女』って言われるよ。神聖力の適性が高いから、大体髪色も白に近いしね」
「じゃあ、お姉さまは『白き聖女』で、これから召喚される予定の人が『黒き聖女』ってことですね?」
「そういうこと」
「そんなの……お姉さまの方が聖女にふさわしいに決まってます!だって、こんなに聖女なんですから!」
「しー!声が大きいですよ、テディ!それに、別に対決するわけじゃないんですから……」
リラが口に指を当てると、テディはむくれて黙り込む。ぽんぽんと頭を撫でると、静かに本を捲り始めた。
「歴代の、黒き聖女に関する記述の所を探せばいいんだよな?」
「そうです!ありがとうございます、セレナ!この年もやはり、聖女の力によって平和が訪れている、と……」
リラは羽ペンを使い、ノートに事象を書き留める。
ある程度溜まった所で、ノアがふうとため息をついた。
「うーん、どれもそんな感じだね。色んな理由によって『黒き聖女』は召喚されているけれど……最終的に聖女の力で魔物が討伐されて、平和が訪れてる。大体、昔と状況が同じ訳じゃないのに、どうやって未来に起こる災いを証明したら……」
「……あ!待ってください、もしかして……逆なんじゃないですか?」
ノートに顔を近づけ、リラが叫んだ。
翌日、リラは領地内の教会に来ていた。
目を閉じると、スーツ姿で平謝りする神の姿が映っている。
昨日は邸宅に帰った後、強制的にベッドに入れられてしまった。
その後たっぷりと睡眠をとったにも関わらず、過保護に外出を禁止され、昼過ぎにようやく教会まで行く許可が下りたのである。
「ダイヤさまが謝ることでは……それに、その格好は?」
「これは『謝罪会見』よ!私の部下とも言える教皇庁の者達が、あんな狼藉を……。それにすぐに助けてあげられなくて……関係者各位に、謝罪申し上げます」
神妙な面持ちで神が頭を下げると、どこからかパシャパシャとフラッシュが焚かれ、白い光が瞬く。
横にいるテディベアのパンジーがぐいぐいと後ろから頭を押し、勢いのまま神の額がゴンッと音を立ててテーブルにぶつかった。
リラはひとまず、その状況をスルーして続ける。
「でもどうして、すぐに出ていらっしゃらなかったのですか……?教皇庁なら、信仰も問題なく集まっていそうですが……」
おでこの赤くなった神の顔が勢いよく近づいてきて、画面いっぱいに広がった。
「そこなの!!あの子達、私に対する信仰がぜんっ……ぜん無かったのよ!降りようと思っても降りられなくて、超ヤキモキしちゃったわ!リラちゃんが私の事を想ってくれて、それで神聖力が高まってギリ行けたの」
愛ね……と、神は照れたように手でハートマークを作る。
パンジーは足元から「ハートして!」のうちわを取り出し、手に取って振り始めた。
「えっと……とにかく、助けてくださってありがとうございました……!」
控えめに手でハートを作ると、神とパンジーはズキュン!と胸を押さえて後ろにのけぞった。
リラは頭上から降ってきた砂糖菓子をワタワタと受け止め、ポシェットから取り出した小瓶に詰める。
「リラちゃん、それは……?」
「もしかしたら『いいね!』をいただけるかなと思って、用意してきました!これを食べると神聖力が高まるので、必要になった時のために『いいね!』貯金です」
「リラちゃん、なかなか……」
「ふふっ、悪役令嬢が板についてきました?」
得意げに胸を張るリラを見て、神は微笑んでうちわを振る。
「悪役令嬢というより、サフランちゃんに似てきたわね。でも、どんなリラちゃんでも推すわ!!大人になってその美貌を上手く利用し始めたら、国が傾きそうだけど……」
「……?何か仰いました?」
「何でもないわ。それで、本題は……『召喚の儀』のことね」
「はい。サクラさんが召喚されるのを、何とか止めたいと思って……」
神はうちわを下ろし、弱々しく首を振った。
「……ごめんなさい。これに関しては、ネタバレになるからノーコメントね。肝心な時に役に立たない事ばかりで、申し訳ないけれど……」
「いえ、そうだろうとは思っていました!とにかく、頑張ろうと思いますので……決意表明です」
「ええ、応援してるわ。一人で無茶をしないで、周りの人達に頼りなさい。そこにヒントもあるはずだか……痛い痛い!」
ネタバレ警察のパンジーがポカポカと叩く腕を、神は両手で掴んで止める。
「忙しくなると思うけど、話したいからまた教会にも遊びに来てちょうだい!私も頑張って『いいね!』するからね!」
プツンと音を立てて、神の映像は途切れた。
神と話して、また少し緊張がほぐれた気がする。リラは微笑んで頭を下げ、教会を後にした。
・・・・・
「……お祈りは、終わりましたか」
教会を出ると、ドアの脇には護衛でついてきたユーリが立っていた。相変わらず無表情で、何を考えているかわからない。
「はい、お待たせしてごめんなさい」
「それが仕事ですから……。お話し声が聞こえてきましたが、中に誰か?」
「あっ……ひとりごとです、ひとりごと!」
頭の中で会話をしていたつもりだったが、声に出ていたらしい。手をブンブンと振って焦るリラを、ユーリは無言で見つめている。
「あ!お待たせしてしまいましたし、これをどうぞ」
リラはポシェットをゴソゴソと漁ってから、握った拳を差し出した。
「これは……?」
「アメジスト領特産の、ルビベリーで出来た飴です!甘いものを食べたら、疲れが和らぎますよ」
「……護衛の私に、そんなに気を遣わないでください」
「そんな!アメジスト領に来た以上、護衛も家族ですからね!疲れたら甘い物を食べて、一休みするべきです」
リラはキャンディ型の包み紙をピリリと引っ張り、出てきた飴をユーリの口に入れ込む。
「ふふん、夕食の時にルビベリーを美味しそうに食べているのを見ましたから!嫌いとは言わせません」
ユーリの口に甘酸っぱい香りと甘みが一瞬で広がり、思わず頬が緩んでしまう。それを見て、リラが心底嬉しそうに笑って手を握った。
「ほら!ユーリさんは普段無表情ですが、ルビベリーを食べた時だけ、ちょっと口角が上がるんです!ベリー系がお好きなんですか?それなら、パールベリーやラピスベリーなども……」
「あの、ベリー系が好きなのはそうですが……何故、手を?」
リラは一瞬固まった後、パッと手を離した。顔を赤くして、じわじわと後退り続けている。
「あの、護衛だと仰ったので、手を繋ぐものだと……。お父さまが護衛の時は、そうなさるので……」
「お望みならば、繋いでも問題ありませんが」
「い、いえ!大丈夫です!」
そう言うと、リラは足早にどこかへ歩き出した。邸宅とは反対方向である。
「ライラック様、どちらへ?」
「リラと呼んでくださいな。今日はこの後、王城の図書館へ……」
言い終わる前に、ガシリと腕を掴まれた。
「リラ様。サフラン様より、今日は邸宅の半径1キロ以上先へは出てはいけないと、お達しを受けています」
「ええ!?でも、一刻も早く調べ物をしなければ……」
「昨日は、魔力も神聖力も使い果たしたと聞きました。今日は家に戻って休んでください」
「うっ、あの……もう一つ、ルビベリー飴を差し上げますから……」
首を振ったユーリは、リラの身体をヒョイと持ち上げた。またしてもお姫様抱っこの形である。
「ええ!?大丈夫です、歩けますって!二日連続でお姫様抱っこなんて……そんなことありますか!?」
「マシュー様より、聞き分けない時にはこうして運ぶようにご指示を受けました。この体勢がお嫌でしたら、脇に抱えるか肩車でも良いですが……」
想像した結果これが一番マシだと判断したリラは、大人しく体を丸めて運ばれたのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そもそも『黒き聖女』って何なのですか?聖女はお姉さまなのに……」
礼拝服を着たテディが、ふくれっ面でそう尋ねる。
王の呼び出しから三日後、ようやくお許しが出たリラとテディは、王城の図書館を訪れていた。「黒き聖女」に関する記述を探すためである。
「『黒き聖女』はね……異世界から召喚された、魔力がとんでもなく強い女の人のことなんだ。その力を表すように、髪が真っ黒なんだよ」
分厚い本を捲りながら、ノアが答える。二人が王城に来たことを人伝に聞き、稽古を切り上げて手伝いに来たのだった。
リラは騎士団の服を着たノアの姿に一瞬ドキリとしかけ、そんな場合ではないと首を振る。
「『聖女』というからには、目も金色みたいだな。ほら、ここに書いてある。魔力も神聖力も強いなんて……」
たまたま居合わせ、調べ物の手伝いを申し出てくれたセレナが呟く。大臣である父親の仕事を学ぶため、自主的に図書館で勉強していたそうだ。
「リラも、魔力と神聖力どっちも高いけどね。でもそれは稀なケースで……この世界でたまに生まれる、金の目の女の子は『白き聖女』って言われるよ。神聖力の適性が高いから、大体髪色も白に近いしね」
「じゃあ、お姉さまは『白き聖女』で、これから召喚される予定の人が『黒き聖女』ってことですね?」
「そういうこと」
「そんなの……お姉さまの方が聖女にふさわしいに決まってます!だって、こんなに聖女なんですから!」
「しー!声が大きいですよ、テディ!それに、別に対決するわけじゃないんですから……」
リラが口に指を当てると、テディはむくれて黙り込む。ぽんぽんと頭を撫でると、静かに本を捲り始めた。
「歴代の、黒き聖女に関する記述の所を探せばいいんだよな?」
「そうです!ありがとうございます、セレナ!この年もやはり、聖女の力によって平和が訪れている、と……」
リラは羽ペンを使い、ノートに事象を書き留める。
ある程度溜まった所で、ノアがふうとため息をついた。
「うーん、どれもそんな感じだね。色んな理由によって『黒き聖女』は召喚されているけれど……最終的に聖女の力で魔物が討伐されて、平和が訪れてる。大体、昔と状況が同じ訳じゃないのに、どうやって未来に起こる災いを証明したら……」
「……あ!待ってください、もしかして……逆なんじゃないですか?」
ノートに顔を近づけ、リラが叫んだ。
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心から感謝しております。
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ありがとうございます。
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