【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ

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第一話 勇者、追放される

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「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」

 御簾越しみすごしに、王が言った。

「ちょ……ちょっと待ってください!俺は今起きたばかりで、何が何だか……」

 ようやく魔王を倒した……そう思って剣を下ろした瞬間、俺は気を失い……。目が覚めたら、王城の地下の霊安室にいた。
 
 棺桶の並ぶヒヤリとした地下の空気にゾッとしていると、あっという間に王の間に連行され、この仕打ち。あまりの状況に、脳が追いつかない。

「あんた、魔王の討伐で魔力を使い果たして、三年も眠ってたのよ。その間に、状況も変わったわ」

 勇者パーティとして一緒に旅をした仲間の一人、エルフのニーナが言った。絹のような金のツインテールを揺らし、腕を組んでこちらを睨みつける。

「……ステータスを見てみて。あんた、『勇者』のスキルを失ってるのよ」

「なんだって!? まさか……」

 慌ててステータスをオープンしてみると、確かにスキルの欄が「無し」となっている。

「魔王を倒すための『勇者』ですから、魔王を倒したらお役御免、ということではないですか?」

 同じく仲間の一人だったシスター・マリアンヌが、蔑んだ目つきで俺を見つめた。旅をしていた頃と同じ真っ黒な修道服に身を包んでいるが、黒いハンカチで口元を覆っている。

「この国では、赤子ですら持っているスキルが無いなんて……恥ずかしいこと。同じ空気も吸いたくありません」

「マリア……何でそんなことを言うんだ!スキルが無いくらいで……。一緒に旅をした仲間じゃないか!」

 ニーナが、やれやれといった様子で肩をすくめる。

「あんたのこと、仲間だと思ったことは一度もないわ。『勇者』だから、仕方なく一緒に着いて行っただけ。それ以外何の取り柄もないあんたが、スキルを失ったら……文字通り、用済みなわけ」

 俺の頭に、走馬灯のように旅の思い出が蘇る。

 ・・・・・

 何度も、死にかけた。何度も、仲間に命を救われた。
 
 少ない食べ物を分け合いながら、焚き火を囲んで魔王討伐後の夢を語り合ったこともあった。
 
 マリアは「生まれた村に帰って孤児院を建てたいんです」と、呟いていた。孤児だった自分を育ててくれた村に、恩返しをしたいのだと。
 
「立派な孤児院が建てられたら、カナタさんも遊びに来てください」

 聖母のように微笑んで言った言葉は、嘘だったのか。

 膝を抱えて座り込んだニーナは、立てた膝に半分顔を埋めて、小さな声で呟いた。

「私は、お嫁さんに……」

「うん? 誰の?」

「言わせないでよ! 馬鹿!!」

 炎に照らされているせいか、真っ赤になった顔でポカポカと殴ってくるニーナの腕を、笑いながら止めたっけ。
 
 僧侶のジンは遺跡巡りに、剣士のガスターは旅人が集まる酒場を開きたいと言っていた。

「ジン、たまには王都に帰って顔を見せてくれよ。お前じゃ研究に没頭しすぎて、遺跡と一体化しかねない」

「……善処しますよ。ガスターが酒場の酒を全部飲み干さないか心配ですから、見張りに帰らなければね」

「なにをー!俺が飲みきれないくらいの大樽で酒を仕入れるから、問題ないはずだ!」

 焚き火に照らされたみんなの顔は、眩しくて、希望に溢れていた。

 魔王討伐のための寄せ集めのパーティだったけれど、決して……決して、肩書きだけで人を判断するような人達ではなかったはずだ。

 信頼……してたのに……。

・・・・・

「……そうだ! ジンやガスターは!? あいつらなら、きっと……!」

「二人とも、あんたの顔も見たくないそうよ。目が覚めたら、一刻も早く追放してくれって言ってたわ」

「そんな……そんなはずは……」

「カナタよ。国民には、勇者は魔王と相打ちになり、死んだと告げてある。立派な銅像も立ててやったのだ……これで満足だろう?」

 王がそう言うと、俺の足元に麻袋がドチャリと投げ置かれた。開かれた袋の口から、金貨が数枚こぼれ落ちる。

「国には、お前を信奉する国民も多くいる。今更戻られて、クーデターの火種となっても困るのだ。今後一切、この国の土を踏まないでくれ」
 
「そんな……。俺は、この国を……愛する国民を守る為に戦ったのです。その結果が、これですか……」

 震える声でそう言っても、王は何の反応も示さない。

「ニーナ……マリア……」

 ふらつく足で縋ろうと近づくと、ニーナは靴の底で俺を蹴り飛ばした。

「近寄らないでよ、気持ち悪い!あんたの士気を上げる為に恋人ごっこする時、ほんっと最悪の気分だったわ」

「ニーナ……」

「分かったら、早く出て行ってください。くれぐれも、帰って来ないでくださいね。察知魔法をかけておきますから……国境に踏み入れたら最後、命はないものと思ってください」

 マリアが俺の額に手をかざすと、目の前に魔法陣が現れる。涙でぼやけた視界では、それが何を表す魔法か分からなかった。

 ・・・・・

 王の間で拘束の上目隠しをされ、俺は隣国の城壁の前に捨て置かれた。砂埃が口と目に入り、思わず咳き込む。あまりに無様な姿に、涙が流れ落ちた。

 俺を馬車から投げ捨てた大柄な男が、御者台に戻ってこちらを見つめている。全身黒い服に身を包み顔も布で覆っているが、その屈強な体つきには見覚えがあった。

「ガスター……なのか?」

「……達者でな、カナタ」

 男はそれだけ呟くと、馬に鞭を入れてその場から離れて行った。
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