AVALON ON LINE

空見 大

文字の大きさ
上 下
3 / 14
序章

出発準備

しおりを挟む
ーーやはりというかなんというか、国から直接『行ってくれないかな』などとされてしまえば個人の意見などあってないようなもので、数日程の準備期間を用意された栄枯盛衰のメンバー達は、転移先で必要となるであろう資材を手に入れようとあちこちへ飛んでいた。
基本的に持っていける資材としては個人が所持できるアイテム量と、大会の賞金によって手に入る拡張ストレージ分。
後はギルドホームに貯蔵可能な物までだ。
アイテムにもよるが基本的に×99個までは同じものとして扱う事が出来るので、それほど同じアイテムがかさばるということはないだろう。
そう考えれば必要なアイテムなど個人の分とギルドホームに多少入れるだけで十分賄えるのだが、出来ればレアな素材は大量に持っていきたい。
こちらの世界で手に入る資材が、向こうの世界でそのまま手に入るという道理もないからだ。
様々なレアアイテムを出来るだけたくさんーーできれば×99個は最低限としてーー所持したいので一秒たりとも休む事など出来ない。
武器の補修や製作に使用するだろうし、向こうの世界の住人との交換にも使える可能性はある。
菜月、アルライド、バレンの三人は、他のギルドメンバーが許してくれたとは言え今回の件を勝手に行ってしまったので、その積を負う形でドロップでしか手に入らないレア素材の収集に明け暮れていた。

『菜月さん幻獣種の素材もう手に入れました!?』
『手に入れましたけど翼竜種の牙が全くもって足りてないです! アルライドさんに頼みたいんですけどいいですか』
『えぇ!? 僕ですか!? そりゃ範囲攻撃は僕の得意分野だけど、あれって確か解体にえげつないくらい時間かかるよね! いやですよ!』
『というかそもそもの話翼竜種ってなんでいるんだったか…?』
『貴方の武具がそれを使わないと直せないからですよ!! というかバレンさん超高レベルな解体スキル持ってるんですから行ってきてくださいよ!!』
『そういやそうだったな…だが俺も生憎貴方から任された仕事がまだ終わってないんでね。これが終わり次第取り組ませてもらおう』
『この人言い訳作りが異様に上手いんだけどなんなの!?』
『菜月さん! ハーミルンさんがギルドの建て替えと、菜月さんが要求してた設備に必要なアイテムとお金計算してくれたってー!』

情報がどこかから漏れる事など無いだろうし、別にバレたところでこの世界から後数日でおさらばする菜月達からすれば何も問題は無い。
だがいつもの癖でパーティ内に限定された通話をしていると、アルライドからギルドメンバーの一人に頼んでいた仕事が終わったことを告げられる。
いままで栄枯盛衰のギルドホームは、一軒家ほどの小さなギルド本部に体育館ほどの貸倉庫×2だったのだが、転移先でもし何か貯蔵しておこうと思っても一軒家程度のサイズではいつか限界が訪れる可能性が高い。
借りた当初はあまりにも広すぎて、さすがに六人で持つにはオーバーだと思っていた貸倉庫も、今となってはほとんど埋まっている。
こういった理由から先日栄枯盛衰のメンバーで緊急会議を開き、どういったギルドホームを作るか、そのために必要な資材をどう調達するかの議論がなされた。
まず前提条件として栄枯盛衰が転移先に指定したのは、魔法が使え龍などが生活している世界だ。
そうなるとやはり和風建築より向こうの世界観に合わせた洋風な建築の方がーー勝手にイメージを押し付けているだけで実際は和風テイストなのかもしれないがーー菜月達の違和感は少なく済む。
和風好きな菜月からすれば和風建築の場所に住みたくはあるが、とはいえ和風建築をしようとしてもいまから木材だなんだと集めてしまえば、明らかに時間が足りなくなってしまう。
ただでさえ他の必要なアイテムも全て回収しきれるかどうか怪しいというのに、無理して全く毛色の異なる建物を建てようとするのはさすがにわがままが過ぎる。

『どうせなら誰も作ったことのないような、でっかい建物作るとかどうでしょうか?』
『ギルマス意外と派手なの好きだよね。向こうの世界に行ってから修理とか大変そうだし、建造物だと目立ちやすいから何か他の物の方が良いんじゃない~?』
『なら地下に作るとかどうだ? 全部埋めてしまえばバレにくいし、それに地下は天候を気にしなくていいから楽だぞ?』
『バロンさんは普段から地下暮らしだからそっちの方がいいでしょうけど、地下暮らしなんて嫌ですよ僕。適当に山とかでいいんじゃないですか? それなら地下に何作っても文句言いませんよ僕』
『どうせなら…ギルドごと動けるようにしたい。アルライドの意見に付け加えて、移動できるものがいいわ』
『ハーミルンさん何気に無茶苦茶言いますよね…? 山ごと転移させようと思ったら一体どれくらい魔力がいるか……さすがに無茶ですよ』
『あ、それならさ~ギルマス天空城とかどう?』
『て、天空城ですか!?」
『アルライドの意見はちょっと無視しちゃうけど、大っきくて動かしやすいしね』
『ならそれで決定という事で』

規模的にはこちらの方が圧倒的に大きいのだから、木造建築の方が簡単だと思われるかもしれないが、ギルドメンバーの一人に功績集めが趣味の人間バロンが居るのでその貯蔵物でだいたい賄えてしまうのだ。
ギルドメンバーの一人、昨日は趣味の絵描きで居なかった霊主れいしゅがデザインを決めてくれるという事で、そのデザイン待ちをしていたのだが、ハーミルンの仕事が終わったということはどうやら霊主の方も終わったらしい。
ハーミルンの手によって作成された必要な物リストと霊主から送られてきた外観とを見比べながら、どの素材がどれくらい必要かしっかりと確認する。
天空城と言っても、もちろん城以外の部分も多少あり、地下もそれなりに広い空間を作れるほどの厚みもある。
渡された城の概要は以下にも洋風と言った城の外見だが、とはいえ異世界仕様なのか金などの装飾がかなり多いし、何故かいくつかもちろん一目見てそれとは分からないがヘリポートのような場所もある。
何に使えるのかはいまいちわからないが、とはいえ書いてあるということは彼女的に必要なものなのだろうと納得しておく。
城の階層としては一階層は来客用スペースが主であり、二層は遊戯系、三層は書物や電子情報などが収められた図書館のような場所になっている。
四層から最高層は十二回層まであるのだが特に何があるというわけでもなく、おそらく適当に分けて居住区のようになるだろう。
十から上の階層に関してはかなり感覚が狭く、いい具合のスペースになっているので、出来ることなら十から十二までは使わせてもらおうと菜月は心の中で画策しながら、城の外観の方だけを閉じて必要素材リストは視界に出したまま行動する。

『ハーミルンさんありがとうございます! いまから建築ギルドまで行ってきますね!』
『それにしても本当にあのような作りのもの、いまから作りきれるのか? 出来れば無事完成してほしいものだが……』
『まーまー、なんとかなるって、雷蔵さん!ねーバレンさん!」
『ハーミルンさんや霊ちゃん達もそうだけど雷蔵さんも気に入ってたし、菜月さんも納得してくれたんだ、なんとか完成させたいな』
『バレンさん、雷蔵さんとギルマスには弱いよね~。雷蔵さんはギルド来る前から交友あったんだっけ?』
『ああ、昔はよく試合したもんだよ』
『話はいいけれど…間に合わせたいなら速くしましよう? 霊も参加して』
『はいはーい! はーちゃん援護はまっかせて~』

各々自分に課せられた仕事を精一杯こなし、そして日は沈んでいく。
とはいえ陽の光が落ちたところで、栄枯盛衰のメンバーが休める時間などまったくもってないのだが。
アメイジアの公式ギルドにて建築の依頼とそれに見合った金銭を支払った菜月は、あちらこちらのオークションやマーケット参加し必要な素材を集めながら東奔西走していた。
新しく超巨大な城を買ったことで大量の荷物を所持できるようになったわけだが、とはいえそれでも足りないくらいに必要なものというのは沢山ある。
個人が所有している武器に防具、それらを強化修繕するためのアイテム類これだけで共通で使っていた貸倉庫が溢れそうになっていたのに、そこにいままで個人で所有していた私物も入ってくる。
それでも巨大な城だけあって限界値の約二割程だが、召喚系アイテムやら悪魔・天使の進化素材、種族変更アイテムなどなど。
こちらの世界では使わなかったアイテムも、向こうの世界で使う可能性は十二分にある。
それら大量のアイテムをなんとか購入し、分別し、能力構成も切り替え、武器装備も整え、三日目の夜中にしてようやく作業が終わりそして四日目の朝ーー

「さぁいよいよ人類が別次元の世界に飛び立つ日がやってきたのです! 今回異世界へと足を進めるのは各ゲームが誇るプロ達が所属するギルド! 総勢で2461人にも及ぶこの輝かしいプレイヤー達を皆さまどうか拍手でお見送りください!!」

超大型イベント時にしか入ることのできない巨大な広場で司会役の男がそう叫ぶと、上が見えないほどに大きなゲートの中にギルドごとに分かれて続々と人が入っていく。
見た目としては街においてある転移門などに似たような風貌だが、とはいえこれから飛ぶ先はゲームの中ではなくリアルだ。
最終結果として総数で100と少しのギルドが今回の異世界旅行権を獲得し、そしてもちろんその中に栄枯盛衰も入っている。
他のギルドの者達は知り合いに手を振ったり行ってくるー! などと大声で叫びながらゲートの中を潜っていくが、この四日間の作業が辛すぎて何も考えられない菜月達は!出来たばかりの天空城に乗り込み自動操縦でゲートに向かうように設定すると、各自眠りにつくのだった。
天空城は不気味なほどの静けさを持って、その煌びやかな装飾で見るもの全ての心を奪い、そして異なる世界への扉をくぐる。
意外な程に呆気ない旅の始まりは、これから始まる劇的な物語までのしばしの間の休息なのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...