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異界の地にて
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爆音と物が燃える匂いが余りに漂い、なんとも言えない緊張感が辺りを包む。
眼前に広がるのは広大な戦場、お互いがお互いを殺し合うべく選ばれた場所だ。
遥か地平の向こうで光り輝く光線を目にしつつ、男達は静かに行動を開始する。
総勢で8人、全員が重装備を着用しているが、だと言うのに驚くほどその存在感はない。
「ダメだなこりゃ」
双眼鏡で光の元を見ていた男がそう呟くと、周囲の男達も肯く。
全員が固まって動くその仕草はいっそ岩を彷彿とさせる程で、気配は無いのに威圧感はあるという矛盾を孕んでいた。
「魔法か……夢も現実になったら案外大したことないな」
火や水が辺り一帯を蹂躙し、地に伏して倒れていく兵士達はかつて見たものと大差ない。
標的が大きいか小さいか、言うなればそれだけの違いだろう。
人類が追い求め、そしてようやくたどり着いた理想郷。
だがそこはやはり理想郷というには程遠く、だが男達にとっては故郷のような場所であった。
#
特殊作戦機動部隊、通称特戦。
2026年7月21日火曜日1200に内閣総理大臣の指示のもと新たに組織され、日本国内において最も様々な行動を許可されている舞台があった。
地対空全てにおいて最高峰の練度と知識を保有し、日本国内における軍事予算のおよそ10%を自由に扱う権利を持っているその部隊の名は八咫烏。
その名の通り彼等は道標であり異形の物、だがその実態は敵を食い散らかす鳥である。
隊員の入隊条件は三つ。
一つ、戦闘における全てにおいて誰よりも強いという自負があること。
二つ、その自負に裏付けを取れるだけの実力があること。
三つ、四カ国語以上の言語の習得、ならびに特殊状況下の訓練を終了済みのものとする。
ただ上記三つは八咫烏に参加する条件を満たしているというだけであって、この三つを満たしているから即刻参加できるわけでは無い。
入隊条件を満たした物達は八咫烏隊員のいる部隊に配属され、そこで新たに性格や将来性などを審査され、それを終えてようやく強制入隊によって八咫烏に加入することとなるのだ。
そうして選び出された300人以上にも登る八咫烏部隊は、様々な状況下において国からもそれ以外からも頼られる存在である。
『目標を確認、起動段階に入っている』
日本国内某所。
通信設備に問題がない事を再確認しつつ、八咫烏の隊長は指示を仰ぐ。
彼らの目の前にあるのは、3メートルはあろうかと言うほどのクリスタル。
森林地帯の奥深く、山岳部に辺りを囲まれたここは民間人の立ち入りが禁止され、軍の中でも極秘情報として扱われている。
蛍光色に光ながら少しずつ回転しているそのクリスタルは、日本国内における正式名称を次元転移鉱石。
数年前から存在を確認されているこの鉱石は、数年周期で周囲数十メートルのものを巻き込んで異世界へと転移させる効果が観測されている。
数十年後には枯渇すると言われている様々なエネルギー資源、それら全てを賄い今後数百年以上の安泰を全世界にもたらせる程のエネルギーがそこにはあると言われているのだ。
だがこのクリスタルには三つの問題がある。
一つ目は生物が着用、ないしは手元に持つ物とその生物が異世界へと転移するということ。
二つ目は転移できる人数には限りがあり、8人までしか転移できないということ。
これに関しては何故八名なのか、その理由すらもわかっておらず、ただ一つだけ分かっているのは種族によって転移できる数が違うということだけである。
猿ならば20匹、犬や猫は四十匹の転移が確認されている。
三つ目はこのクリスタルの転移は一方通行であるというところだ。
現時点で上記二度の転移が確認されており、どちらも帰ってきてはいない。
何故二度のみでこちら側に転移できないことが分かったのかと聞かれれば、その答えは単純でクリスタルが物を転移させる際に未知のエネルギーによって作り出される光は向こう側の世界へとしか向かっておらず、こちら側の世界にエネルギーが向かっているのが一度も確認されていないのだ。
『a.b.c班手筈通り散開。気を付けろよどこの国が来てるかもわからん』
『事前に指定されたメンバーは範囲内に入れ、後は俺達が周りを見ておく』
『悪いね。それじゃあお言葉に甘えて、さよならみんな。楽しかったよ』
『行ってらっしゃいませ隊長、ご武運をお祈りしております』
月明かりが更に強くなった様な光がクリスタルから発され、隊長を含む8名の男達はその場から姿を消す。
世界最高峰の特殊作戦機動部隊、その中でも300人から選りすぐられた8名が異世界へと向かったのだった。
#
光が収まっていくと男達はすぐにその場で陣形を組み、辺りの警戒を開始する。
周りは森林、視界はかなり遮られており、目視による敵の確認はできそうに無い。
時間にしておよそ3秒、それだけあれば彼等からすれば十分すぎる時間であるといえるだろう。
「敵影なし。半径500m以内に生物反応なし、点呼するぞー」
「「うーい」」
先程までのような重々しい空気はどこに行ってしまったのやら、まるで遠足にでも来たかのような雰囲気で隊員達は列を組む。
軍隊らしいキチッとした隊列ではなくだらだらとした雰囲気を纏っているが、隊長はそれを見ても何も言わずむしろ少し楽しそうだった。
「ひぃふぅみぃ、よし全員居るな。何かまずい事になった奴はいるか?」
「問題なーし」
「け、けつに木の枝が刺さっている」
「ぶはっ! まじかよ! メディーック!」
「てめぇがメディックだろふざけんな!」
彼等八咫烏のメンバーは全てにおいて他の兵士を凌駕する練度を誇るが、その中でも特に得意な分野をそれぞれ役職として部隊内での連携を分かりやすくしている。
300人いる八咫烏の中からその分野における最高の力をもつメンバーが8人集まっているので、少数ではあるがどの行動をするのにも問題は無い。
「とりあえずは目標通りここ来れて良かったね隊長」
「ああ。目障りになるようにわざわざ行動してよかったよ、こんな良いところに流してくれるんだから感謝しないとな」
国内において最も優遇された部隊である八咫烏、その隊長が生きて帰れない場所へ送られるなど本来ならば正気の沙汰ではない。
故にこの世界へと送り込まれるように、様々な官僚の裏情報や裏取引などの情報を掴み脅しこうなるように仕向けてきたのだ。
そもそも八咫烏の部隊結成の本当の目標は、当時八咫烏の隊長であった山形藤四郎が異世界の戦争に参加したいという思惑から作られた物であり、故に異世界へ導くものとして部隊名も八咫烏となっている。
ちなみに山形藤四郎は三年前に突如として消息を経っており、現在どこにいるかは八咫烏メンバーですらも知らない。
「とりあえず暫定目標を、隊長。これからはみんな揃ってあんたの手足だ、頭は任せる」
「雇い主を探す、今のこのメンツなら傭兵になるのが一番だろう。第一目標は金銭の確保、次に地図の作成。最終目標は後からくる隊員の為の基礎作りだな。後は名前を決めないとな、ここでもコードネームで呼び合うのは違和感が過ぎる」
八咫烏のメンバーはお互いの本名を知らない。
情報漏洩を避けるために仕方なくそうしていたが、この世界でそれをするにしても街中でお互いのことをコードネームで呼び合うのはさすがに違和感が生じるだろう。
本名を捨てた身である彼らにもはや名はないが、この世界で生きていくための名くらいは持っても良いところだ。
「なら本気のときは今まで通りコードネームで。通常時もういっそ本名で行こうか」
「そう言う事なら一人ずつ改めて自己紹介からしよう」
「そうだね。お互いの事何も知らないし、隊長からお願い」
「りょーかい。八咫烏部隊長嶹琶鴉、所属兵科は無し特技はゲリラ戦身長体重年齢全てプロフ通り」
一番最初に自己紹介を始めたのは、八咫烏のリーダーであり全てを完璧にこなすオールマイティーの嶹琶だ。
髪はかなり短くツーブロックのようになっており、黒髪と黒い瞳は闇と綺麗に同化している。
身長は180手前といったところだろうか、しっかりと筋肉が付いており分厚い壁のようにも思えた。
「八咫烏副隊長佐渡紫煙兵科は観測兵。特技は敵の発見、プロフは24だけどほんとは19歳」
ロングの黒髪をたなびかせ、思ったよりもサバを読んでいたのはスナイパーの紫煙。
身長は170前半少々痩せ形ではあるものの押せば倒れるような不安感はない。
入隊したのが6年前であった事を考えるとかなりまずいが、とはいえこの世界ではもう日本の法も関係ないので他の隊員達は特に何も口に出さない。
「八咫烏隊員レイランド・フォン・テーリングです! 兵科は狙撃兵特技はご飯をいっぱい食べる事! 身長が3センチ伸びました!」
「八咫烏隊員宮羽佐之助看護兵特技無し今年で48だ、労ってくれ」
「俺より動ける48歳がなんか言ってんなぁ? 麓山亮介工兵担当特技は爆破、隊長と同じで違い無し!」
「真島隼人歩兵だけどまぁ戦い方は特攻兵みたいなもんだよね。特技は近接戦闘、最近3キロ痩せました」
「夜乃翔です! 担当兵科は斥候、索敵が得意です!」
副隊長まで自己紹介を終えると後はそれぞれの兵科を代表としてやってきた精鋭達の挨拶が始まり、元気そうな金色の髪をした短髪の女性から初老には少し届かない程度の白い顎髭を蓄えた男性。
身長193センチ体重96キロと工兵とは思えない隊の中で一番体格のいい麓山に前髪が長く少し地味な隼人、最後に身長150センチ程のかなり小さな男性で全員の自己紹介が終わった。
少しの間お互いでお互いの名前を覚え合い、記憶が定着すると嶹琶が手を叩く。
「それでは行軍開始。ペースは全力、目標は索敵。現地住民との交流を最優先、隊列は基本の索敵隊列で」
「りょーかい」
「いつも通り斥候は頼んだよ翔」
「任せてよ隊長!」
八咫烏の移動は非常に特徴的である。
まるで地面の上を這うようにして、音も無くたとえ足場がいかに悪かろうと何事もないように進んでいく。
40キロを超える装備でありながらその移動は並みの歩兵のそれを軽く超え、地形が荒れていれば荒れているほどにその行動速度は不思議なほど上がっていく。
全速力で何十時間でも走れる彼らではあるが、この世界に来てその異質さに早くも触れる事となった。
身体が軽いのだ。
それも異様なほどに。
集中力によって身体機能を増加させる術は全員知っているが、体のリミッターが外れているわけでも無い。
この世界に来てから急激に、時間が経てば経つほどに身体能力が向上しているのを全員が実感していた。
「面白いなあこりゃ! 若かった頃の体みたいに思い通りに動く」
「ドラック系はやった事ないけど、聞いた話によるとこんな感じらしいな」
「隼人の言う通りドラック系みたいだな。それにしても身体能力の上昇だけじゃなく索敵範囲も広がっていっている、副作用がなけりゃ便利なもんだが」
「あったとしても俺には何もできないぞ」
「佐之助さんが何もできないんじゃほっとくしかないね!」
走るたびに歩幅が広がっていくのを感じる。
体から力が溢れ出し、極限まで集中せねば出せなかった筈の身体能力が簡単に出せてしまう。
随分とまた便利な力があった物だ。
走り始めて三十分、木の上をいく翔から合図があり全員がその場で立ち止まり陣形を組む。
少ししてから紫煙の銃から乾いた音と共に薬莢が転がり、全員がその方向へと向かって銃を構える。
「敵は?」
「4人、1人ダウン」
「援護入ります?」
「大丈夫、ありがとテーリングちゃん。この距離なら問題ない」
「さっすが副隊長。頼りになる」
止まる事なく紫煙が三回トリガーを引くと、隊員達は構えるのを辞めてそのままその方向へと進んでいく。
暫くすれば飽きるほど嗅いだ臭いが鼻腔をくすぐり始め、次に生暖かい空気が肌に触れる。
どうして人が死ぬとこうも場の雰囲気が変わってしまう物なのか、それは同族を殺したが故なのかもしれないが、とはいえいまさら気にしたところで何も変わらない。
見てみれば豪華な馬車が止まっており、その付近に倒れている4人の男達とは別に華奢な体格の少女が2人、奇妙な格好に身を包み立っていた。
こちら側からすれば奇妙ではあるものの、とは言えおそらくはこの世界で一般的なのであろう長いローブを見に纏った少女二人を前にして隊員達は身体を隠さず無造作に前に出る。
「lposmdgdpor!?」
「garesa! nimonada!?」
「言語解析開始、もーちょっと待ってくれよお嬢ちゃん達」
佐之助が自らの鞄の中から取り出したのは、人工知能を基に開発された言語解析装置だ。
異世界人との会話がまともにできないことはもちろん想定済であり、数分ほど相手に喋って貰えばその規則性からどの単語がどの意味をなすのかが理解できるようになる。
とは言っても彼女達が喋った単語しか翻訳出来ないので、それ以外は聞いたことのある言語との類似性から適当に発音するだけだが。
「よし、完了だ。言葉は通じるな?」
「お前達は何者だ! 私達をどうする気だ!?」
「どうもしないからそんなに焦らないでよ、取って食うわけでもないし」
「とりあえずはありがとうだ、それだけ言ってくれれば俺達は全員納得する」
「ーー確かにどうやら助けて頂いたようで……ありがとうございます」
簡単に人は殺すし上官の事は大っ嫌いだが、八咫烏のメンバーは人一倍の正義感も持っている。
この世界に来ることが第一目標ではあったが、ありがとう、それを聴く為にも自らをここまで鍛え上げてきたのだ。
謝礼を要求する代わりに、感謝の言葉を求めるくらいはして当然のことだろう。
「ところでなんだが俺達は先ほど異世界からここにきた。この地域の事については何も、全く、赤子レベルで分からない」
「は、はぁ異世界からわざわざお越しに」
「異界の民はよくこの世界にやってきます、およそ三年から四年に一度程でしょうか。様々な種族の生命体がやってきますが、この世界に適合できなかった生命体は溶けて死ぬとの言い伝えです」
「うっひゃー運が良くて助かったってとこか」
適合できて居なければ死んでいたと伝えられ、隊員達の背中を冷たい汗が流れ落ちていく。
目の前の少女の口ぶりからしてどうやら異世界からの来訪者はそれほど珍しいようではないようで、日本で確認されたのが数年前である事を考えるとどうやら日本以外の国、もしくは星や異世界からもこの世界へと来ていたものが居たらしい。
話が早い分には大助かりなので、前例があると言うのは嶹琶からしても嬉しい誤算であった。
「そう言う事で俺達はこの世界での常識がわからない、一般的な知識を俺達に君達は教える。その代わり俺達は君達が目的地に着くまでの護衛をしよう」
「異世界人……護衛……なんだが話が大きくなってきたけれど、そう言う事ならティア、受けたほうがいいと思うわ。この人達、腕は確かなようだし」
「それについては安心してくれ。護衛任務を失敗した事はない」
「ならお願いします!」
「依頼成立だなそちらの女の子はティアというのか、そちらは?」
「私はルルーナ・ブリュセル」
「よろしく頼む」
こうして八咫烏は異世界の空を飛び回る為の足がかりを手に入れた。
彼らの名がこの世に広まるまでにはあまり時間がかからない事だろう。
最強の傭兵部隊、影で全てを動かしていた最強の兵士達は、ここ異界の地にて、その本領を発揮していくのだった。
銃種 ハンドガン二種 サブマシンガン二種 スナイパーライフル一種 アサルトライフル三種 ショットガン一種 バタフライナイフ三種
ハンドガン〇
デザートイーグル Mark XIX L5「牛」
45口径グロック21モデル 「狐」
サブマシンガン〇
MP5モデル 「蟹」
スコーピオンEVO3モデル「鼠」
スナイパーライフル〇
超長距離射撃用ライフル「黒蛇」
アサルトライフル〇
Rk 62 7,62ミリ弾使用モデル「白蛇」
5.45x39水中用弾薬 KBP A-91モデル「亀」
ベレッタ ARX160 単発式グレネードランチャー 7.62x39mm弾モデル「蜂」
ショットガン〇
ウインチェスター SXP ブラック「狼」
ナイフ〇
ブーツナイフ「鹿」
サバイバルナイフ「猿」
フォールディングナイフ「鷲」
その他装備
グレネード
スタングレネード
焼夷弾
「この言葉はこの地方の挨拶です。地方ごとによって挨拶の仕方は違うんですよ」
少女の言葉にメモを取りながら、八咫烏達は馬車の護衛をしつつこの世界での知識を蓄えていく。
向かっている先はヘンランド王国という王国らしく、君主制度がこの世界では現在進行形で行われているらしい。
森霊種や土精霊、龍やペガサスなどの日本においては幻想の生物とされて居た生き物もこの世界では現存しているらしく、今から向かう王国にも少なくない人数そう言った種族の者がいるとの事だ。
「楽しみだねー隊長! 森霊種とか土精霊とか戦ってみたいね」
「そうだな。俺らが持ってない技術を持ってるかもしれないし、それに龍とも戦ってみたい」
「隊長顔怖い、いまの僕らの装備じゃ鱗は貫通できなさそうだよね。言っても人間相手の装備しか持ってきてないし」
八咫烏のメンバーが持っている装備の中で最も口径の大きいものは、テーリングの持つ12.7mmバレットM82式改造銃『黒蛇』。
テーリングが扱いやすいように様々な改造をされているが、基本的な外見は元となっているバレットM82と酷似している。
対物狙撃銃に分類されるこの銃なら獣程度は充分殺せるが、龍相手となると戦ったことが無いのでなんともいえないが、さすがに致命傷にはなり得ないだろう。
「最悪の場合は走って逃げればなんとかなりそうだな。C4もいくつかあるから気をそらすくらいは出来るだろう」
「弾無くなったら現地調達するつもりで来たは良いけど、鉄も火薬もないから無駄使いは出来ないわね」
「あのー皆さんが持っているそれってなんなんですか」
「私も気になってた」
この世界で日本と同じ方法で火薬が作れれば良いのだが、そうでない場合は銃以外の戦闘手段を確保しておかなければいけない。
次の戦闘はなるべく弾を使わないようにしようと隊員達がなんとなく意識を固めていると、ティアから疑問の声が上がる。
銃が知られて居ないということは、いよいよ持って弾の調達が難しそうだ。
そう思いつつも代表として嶹琶が説明を始める。
「これは銃という私達の世界の武器です。高速で鉄の弾を飛ばし、敵を負傷ないし殺害する事を目的とした武器になって居ます」
「先程のもそれで……?」
「はい。人相手の先頭であればこれほど便利な武器はありません」
「森霊種が使う魔弾や、土精霊が使う魔筒の進化系の様な武器ですね。もしかすると玉も手に入るかもしれません」
「本当に!? よかったね隊長!」
「いやぁよかったです本当! 私から銃取ったら何も残りませんからね!」
「テーリングちゃんどうだ? これを機に工兵として俺と一緒に活動するとか」
「嫌です」
銃が知られて居なくとも、銃に似通った物は存在して居たようだ。
実物を見て居ない以上確実なことは言えないが、これで弾の確保に希望が持てた。
「それにしてもさっきの奴らの腰に入ってたこの石、なんなんだろうな?」
隼人が掌で転がすのは、先程殺した野党が持っていた石だ。
やけに沢山袋に入って居たので、念のため持ってきて居たのだが全く用途が分からない。
色合いとしてはレッドトパーズの様ではあるが、だとしてもまさかあんな少数の野党が宝石品を持っているとは考えにくい。
「あ! それは魔石です! 魔物から取れる鉱石で魔力伝達に使えるのでよく売れるんですよ!」
「マジで!! ラッキー! なんか今日ついてるかもオレ!」
「なに独り占めしようとしてるんだ馬鹿。俺にも一口噛ませろ」
「いや二人じめもダメですからね。隊長どうします?」
「もちろん売る、売りまくる。そんな便利な稼ぐ手段があるならやらない手はない」
日本にいた時も何度か行軍先で獲得した宝石や金などをちょろまかして売買した事はあったが、この世界ではこの石を手に入れても誰にも怒られず、むしろ野党を討伐したことで喜ばれるのだ。
これ以上ない稼ぐための手段である。
だが売買するとしてこの量は少し心許ないところだ、いまこちらの手持ちにある石の数は小さな袋一つ分。
ティアの反応からして目が飛び出るほどの高額、という訳ではなさそうなのでもう少し欲しいところだ。
「無線はまだ使えるか?」
「身内のみだけど使えるよ。俺の装備に積んでおいた」
「なら俺と紫煙以外二人一組で索敵奇襲、何か必要な場合はこちらで合図を出す。敵を見つけ次第発砲を許可、もし数が多ければ無線で呼んでくれ」
「生かす? 殺す?」
「野党なんて百害あって一利なしだ。殲滅しろ」
「「うーい」」
話によると街まで朝までかかるとのことだ。
月のように見える星の位置から考えて、まだまだ夜は長いように思える。
獰猛な笑みを浮かべ飛び出していった隊員達を眺めながら、嶹琶は改めて気を引き締め直すのだった。
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「結構手に入ったな」
夜が明け、森を抜けると隊員達は元の隊列に戻り、嶹琶の手に昨夜手に入った魔石が入った袋が握られる。
最初の袋と比べてもかなり大量に取れた物だ、手に持った感じからしておよそ30キロ程だろうか。
かなり大きな盗賊団が辺りに居を構えて居たようで、巧妙に隠されて居たがおよそ九割はそこから手に入った魔石である。
「すごい量ですっ! これ程多くの魔石見たことありませんよ! お店開けるレベルです」
「凄いでしょ俺達! 中東でも結構集めたんだよー」
「中東……? まぁ確かにこれだけ有れば店も開けるかもね。それが目的で集めたの?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。隊長が言わないってことはそういうことだ、嬢ちゃん達は関わらない方がいい」
どうやら見た限り人が目の前で死ぬ事に抵抗があるようには見えないが、それでも彼女達が綺麗な商人であるのに対して、嶹琶達がなろうとしているのは汚い商人である。
なるべく関わらない方がいい。
傭兵として雇われている間はこうして一緒に行動するが、街までつけばそこからはもはや知らない人物だ。
八咫烏と関わった、それ自体が彼女等に不幸を招くのもそう遠くは無い話だろうから。
「ーーそうですか」
「やめてくださいよ佐之助さん、人の事をまるで悪の親玉みたいに悪い噂ばかり流して。
お二人には今回の事で恩が出来ました、お二人の悪いようにはしないと口約束ではありますが、約束しますよ」
約束は守るのが主義である。
八咫烏の長である嶹琶が約束した以上は他の隊員も約束は守ってくれるだろう。
恩を感じたのは本当のことであり、その恩を踏まえても殺さなければいけないような状況にでもならない限りは二人を守ると確約し嶹琶は森の中を進んでいくのだった。
眼前に広がるのは広大な戦場、お互いがお互いを殺し合うべく選ばれた場所だ。
遥か地平の向こうで光り輝く光線を目にしつつ、男達は静かに行動を開始する。
総勢で8人、全員が重装備を着用しているが、だと言うのに驚くほどその存在感はない。
「ダメだなこりゃ」
双眼鏡で光の元を見ていた男がそう呟くと、周囲の男達も肯く。
全員が固まって動くその仕草はいっそ岩を彷彿とさせる程で、気配は無いのに威圧感はあるという矛盾を孕んでいた。
「魔法か……夢も現実になったら案外大したことないな」
火や水が辺り一帯を蹂躙し、地に伏して倒れていく兵士達はかつて見たものと大差ない。
標的が大きいか小さいか、言うなればそれだけの違いだろう。
人類が追い求め、そしてようやくたどり着いた理想郷。
だがそこはやはり理想郷というには程遠く、だが男達にとっては故郷のような場所であった。
#
特殊作戦機動部隊、通称特戦。
2026年7月21日火曜日1200に内閣総理大臣の指示のもと新たに組織され、日本国内において最も様々な行動を許可されている舞台があった。
地対空全てにおいて最高峰の練度と知識を保有し、日本国内における軍事予算のおよそ10%を自由に扱う権利を持っているその部隊の名は八咫烏。
その名の通り彼等は道標であり異形の物、だがその実態は敵を食い散らかす鳥である。
隊員の入隊条件は三つ。
一つ、戦闘における全てにおいて誰よりも強いという自負があること。
二つ、その自負に裏付けを取れるだけの実力があること。
三つ、四カ国語以上の言語の習得、ならびに特殊状況下の訓練を終了済みのものとする。
ただ上記三つは八咫烏に参加する条件を満たしているというだけであって、この三つを満たしているから即刻参加できるわけでは無い。
入隊条件を満たした物達は八咫烏隊員のいる部隊に配属され、そこで新たに性格や将来性などを審査され、それを終えてようやく強制入隊によって八咫烏に加入することとなるのだ。
そうして選び出された300人以上にも登る八咫烏部隊は、様々な状況下において国からもそれ以外からも頼られる存在である。
『目標を確認、起動段階に入っている』
日本国内某所。
通信設備に問題がない事を再確認しつつ、八咫烏の隊長は指示を仰ぐ。
彼らの目の前にあるのは、3メートルはあろうかと言うほどのクリスタル。
森林地帯の奥深く、山岳部に辺りを囲まれたここは民間人の立ち入りが禁止され、軍の中でも極秘情報として扱われている。
蛍光色に光ながら少しずつ回転しているそのクリスタルは、日本国内における正式名称を次元転移鉱石。
数年前から存在を確認されているこの鉱石は、数年周期で周囲数十メートルのものを巻き込んで異世界へと転移させる効果が観測されている。
数十年後には枯渇すると言われている様々なエネルギー資源、それら全てを賄い今後数百年以上の安泰を全世界にもたらせる程のエネルギーがそこにはあると言われているのだ。
だがこのクリスタルには三つの問題がある。
一つ目は生物が着用、ないしは手元に持つ物とその生物が異世界へと転移するということ。
二つ目は転移できる人数には限りがあり、8人までしか転移できないということ。
これに関しては何故八名なのか、その理由すらもわかっておらず、ただ一つだけ分かっているのは種族によって転移できる数が違うということだけである。
猿ならば20匹、犬や猫は四十匹の転移が確認されている。
三つ目はこのクリスタルの転移は一方通行であるというところだ。
現時点で上記二度の転移が確認されており、どちらも帰ってきてはいない。
何故二度のみでこちら側に転移できないことが分かったのかと聞かれれば、その答えは単純でクリスタルが物を転移させる際に未知のエネルギーによって作り出される光は向こう側の世界へとしか向かっておらず、こちら側の世界にエネルギーが向かっているのが一度も確認されていないのだ。
『a.b.c班手筈通り散開。気を付けろよどこの国が来てるかもわからん』
『事前に指定されたメンバーは範囲内に入れ、後は俺達が周りを見ておく』
『悪いね。それじゃあお言葉に甘えて、さよならみんな。楽しかったよ』
『行ってらっしゃいませ隊長、ご武運をお祈りしております』
月明かりが更に強くなった様な光がクリスタルから発され、隊長を含む8名の男達はその場から姿を消す。
世界最高峰の特殊作戦機動部隊、その中でも300人から選りすぐられた8名が異世界へと向かったのだった。
#
光が収まっていくと男達はすぐにその場で陣形を組み、辺りの警戒を開始する。
周りは森林、視界はかなり遮られており、目視による敵の確認はできそうに無い。
時間にしておよそ3秒、それだけあれば彼等からすれば十分すぎる時間であるといえるだろう。
「敵影なし。半径500m以内に生物反応なし、点呼するぞー」
「「うーい」」
先程までのような重々しい空気はどこに行ってしまったのやら、まるで遠足にでも来たかのような雰囲気で隊員達は列を組む。
軍隊らしいキチッとした隊列ではなくだらだらとした雰囲気を纏っているが、隊長はそれを見ても何も言わずむしろ少し楽しそうだった。
「ひぃふぅみぃ、よし全員居るな。何かまずい事になった奴はいるか?」
「問題なーし」
「け、けつに木の枝が刺さっている」
「ぶはっ! まじかよ! メディーック!」
「てめぇがメディックだろふざけんな!」
彼等八咫烏のメンバーは全てにおいて他の兵士を凌駕する練度を誇るが、その中でも特に得意な分野をそれぞれ役職として部隊内での連携を分かりやすくしている。
300人いる八咫烏の中からその分野における最高の力をもつメンバーが8人集まっているので、少数ではあるがどの行動をするのにも問題は無い。
「とりあえずは目標通りここ来れて良かったね隊長」
「ああ。目障りになるようにわざわざ行動してよかったよ、こんな良いところに流してくれるんだから感謝しないとな」
国内において最も優遇された部隊である八咫烏、その隊長が生きて帰れない場所へ送られるなど本来ならば正気の沙汰ではない。
故にこの世界へと送り込まれるように、様々な官僚の裏情報や裏取引などの情報を掴み脅しこうなるように仕向けてきたのだ。
そもそも八咫烏の部隊結成の本当の目標は、当時八咫烏の隊長であった山形藤四郎が異世界の戦争に参加したいという思惑から作られた物であり、故に異世界へ導くものとして部隊名も八咫烏となっている。
ちなみに山形藤四郎は三年前に突如として消息を経っており、現在どこにいるかは八咫烏メンバーですらも知らない。
「とりあえず暫定目標を、隊長。これからはみんな揃ってあんたの手足だ、頭は任せる」
「雇い主を探す、今のこのメンツなら傭兵になるのが一番だろう。第一目標は金銭の確保、次に地図の作成。最終目標は後からくる隊員の為の基礎作りだな。後は名前を決めないとな、ここでもコードネームで呼び合うのは違和感が過ぎる」
八咫烏のメンバーはお互いの本名を知らない。
情報漏洩を避けるために仕方なくそうしていたが、この世界でそれをするにしても街中でお互いのことをコードネームで呼び合うのはさすがに違和感が生じるだろう。
本名を捨てた身である彼らにもはや名はないが、この世界で生きていくための名くらいは持っても良いところだ。
「なら本気のときは今まで通りコードネームで。通常時もういっそ本名で行こうか」
「そう言う事なら一人ずつ改めて自己紹介からしよう」
「そうだね。お互いの事何も知らないし、隊長からお願い」
「りょーかい。八咫烏部隊長嶹琶鴉、所属兵科は無し特技はゲリラ戦身長体重年齢全てプロフ通り」
一番最初に自己紹介を始めたのは、八咫烏のリーダーであり全てを完璧にこなすオールマイティーの嶹琶だ。
髪はかなり短くツーブロックのようになっており、黒髪と黒い瞳は闇と綺麗に同化している。
身長は180手前といったところだろうか、しっかりと筋肉が付いており分厚い壁のようにも思えた。
「八咫烏副隊長佐渡紫煙兵科は観測兵。特技は敵の発見、プロフは24だけどほんとは19歳」
ロングの黒髪をたなびかせ、思ったよりもサバを読んでいたのはスナイパーの紫煙。
身長は170前半少々痩せ形ではあるものの押せば倒れるような不安感はない。
入隊したのが6年前であった事を考えるとかなりまずいが、とはいえこの世界ではもう日本の法も関係ないので他の隊員達は特に何も口に出さない。
「八咫烏隊員レイランド・フォン・テーリングです! 兵科は狙撃兵特技はご飯をいっぱい食べる事! 身長が3センチ伸びました!」
「八咫烏隊員宮羽佐之助看護兵特技無し今年で48だ、労ってくれ」
「俺より動ける48歳がなんか言ってんなぁ? 麓山亮介工兵担当特技は爆破、隊長と同じで違い無し!」
「真島隼人歩兵だけどまぁ戦い方は特攻兵みたいなもんだよね。特技は近接戦闘、最近3キロ痩せました」
「夜乃翔です! 担当兵科は斥候、索敵が得意です!」
副隊長まで自己紹介を終えると後はそれぞれの兵科を代表としてやってきた精鋭達の挨拶が始まり、元気そうな金色の髪をした短髪の女性から初老には少し届かない程度の白い顎髭を蓄えた男性。
身長193センチ体重96キロと工兵とは思えない隊の中で一番体格のいい麓山に前髪が長く少し地味な隼人、最後に身長150センチ程のかなり小さな男性で全員の自己紹介が終わった。
少しの間お互いでお互いの名前を覚え合い、記憶が定着すると嶹琶が手を叩く。
「それでは行軍開始。ペースは全力、目標は索敵。現地住民との交流を最優先、隊列は基本の索敵隊列で」
「りょーかい」
「いつも通り斥候は頼んだよ翔」
「任せてよ隊長!」
八咫烏の移動は非常に特徴的である。
まるで地面の上を這うようにして、音も無くたとえ足場がいかに悪かろうと何事もないように進んでいく。
40キロを超える装備でありながらその移動は並みの歩兵のそれを軽く超え、地形が荒れていれば荒れているほどにその行動速度は不思議なほど上がっていく。
全速力で何十時間でも走れる彼らではあるが、この世界に来てその異質さに早くも触れる事となった。
身体が軽いのだ。
それも異様なほどに。
集中力によって身体機能を増加させる術は全員知っているが、体のリミッターが外れているわけでも無い。
この世界に来てから急激に、時間が経てば経つほどに身体能力が向上しているのを全員が実感していた。
「面白いなあこりゃ! 若かった頃の体みたいに思い通りに動く」
「ドラック系はやった事ないけど、聞いた話によるとこんな感じらしいな」
「隼人の言う通りドラック系みたいだな。それにしても身体能力の上昇だけじゃなく索敵範囲も広がっていっている、副作用がなけりゃ便利なもんだが」
「あったとしても俺には何もできないぞ」
「佐之助さんが何もできないんじゃほっとくしかないね!」
走るたびに歩幅が広がっていくのを感じる。
体から力が溢れ出し、極限まで集中せねば出せなかった筈の身体能力が簡単に出せてしまう。
随分とまた便利な力があった物だ。
走り始めて三十分、木の上をいく翔から合図があり全員がその場で立ち止まり陣形を組む。
少ししてから紫煙の銃から乾いた音と共に薬莢が転がり、全員がその方向へと向かって銃を構える。
「敵は?」
「4人、1人ダウン」
「援護入ります?」
「大丈夫、ありがとテーリングちゃん。この距離なら問題ない」
「さっすが副隊長。頼りになる」
止まる事なく紫煙が三回トリガーを引くと、隊員達は構えるのを辞めてそのままその方向へと進んでいく。
暫くすれば飽きるほど嗅いだ臭いが鼻腔をくすぐり始め、次に生暖かい空気が肌に触れる。
どうして人が死ぬとこうも場の雰囲気が変わってしまう物なのか、それは同族を殺したが故なのかもしれないが、とはいえいまさら気にしたところで何も変わらない。
見てみれば豪華な馬車が止まっており、その付近に倒れている4人の男達とは別に華奢な体格の少女が2人、奇妙な格好に身を包み立っていた。
こちら側からすれば奇妙ではあるものの、とは言えおそらくはこの世界で一般的なのであろう長いローブを見に纏った少女二人を前にして隊員達は身体を隠さず無造作に前に出る。
「lposmdgdpor!?」
「garesa! nimonada!?」
「言語解析開始、もーちょっと待ってくれよお嬢ちゃん達」
佐之助が自らの鞄の中から取り出したのは、人工知能を基に開発された言語解析装置だ。
異世界人との会話がまともにできないことはもちろん想定済であり、数分ほど相手に喋って貰えばその規則性からどの単語がどの意味をなすのかが理解できるようになる。
とは言っても彼女達が喋った単語しか翻訳出来ないので、それ以外は聞いたことのある言語との類似性から適当に発音するだけだが。
「よし、完了だ。言葉は通じるな?」
「お前達は何者だ! 私達をどうする気だ!?」
「どうもしないからそんなに焦らないでよ、取って食うわけでもないし」
「とりあえずはありがとうだ、それだけ言ってくれれば俺達は全員納得する」
「ーー確かにどうやら助けて頂いたようで……ありがとうございます」
簡単に人は殺すし上官の事は大っ嫌いだが、八咫烏のメンバーは人一倍の正義感も持っている。
この世界に来ることが第一目標ではあったが、ありがとう、それを聴く為にも自らをここまで鍛え上げてきたのだ。
謝礼を要求する代わりに、感謝の言葉を求めるくらいはして当然のことだろう。
「ところでなんだが俺達は先ほど異世界からここにきた。この地域の事については何も、全く、赤子レベルで分からない」
「は、はぁ異世界からわざわざお越しに」
「異界の民はよくこの世界にやってきます、およそ三年から四年に一度程でしょうか。様々な種族の生命体がやってきますが、この世界に適合できなかった生命体は溶けて死ぬとの言い伝えです」
「うっひゃー運が良くて助かったってとこか」
適合できて居なければ死んでいたと伝えられ、隊員達の背中を冷たい汗が流れ落ちていく。
目の前の少女の口ぶりからしてどうやら異世界からの来訪者はそれほど珍しいようではないようで、日本で確認されたのが数年前である事を考えるとどうやら日本以外の国、もしくは星や異世界からもこの世界へと来ていたものが居たらしい。
話が早い分には大助かりなので、前例があると言うのは嶹琶からしても嬉しい誤算であった。
「そう言う事で俺達はこの世界での常識がわからない、一般的な知識を俺達に君達は教える。その代わり俺達は君達が目的地に着くまでの護衛をしよう」
「異世界人……護衛……なんだが話が大きくなってきたけれど、そう言う事ならティア、受けたほうがいいと思うわ。この人達、腕は確かなようだし」
「それについては安心してくれ。護衛任務を失敗した事はない」
「ならお願いします!」
「依頼成立だなそちらの女の子はティアというのか、そちらは?」
「私はルルーナ・ブリュセル」
「よろしく頼む」
こうして八咫烏は異世界の空を飛び回る為の足がかりを手に入れた。
彼らの名がこの世に広まるまでにはあまり時間がかからない事だろう。
最強の傭兵部隊、影で全てを動かしていた最強の兵士達は、ここ異界の地にて、その本領を発揮していくのだった。
銃種 ハンドガン二種 サブマシンガン二種 スナイパーライフル一種 アサルトライフル三種 ショットガン一種 バタフライナイフ三種
ハンドガン〇
デザートイーグル Mark XIX L5「牛」
45口径グロック21モデル 「狐」
サブマシンガン〇
MP5モデル 「蟹」
スコーピオンEVO3モデル「鼠」
スナイパーライフル〇
超長距離射撃用ライフル「黒蛇」
アサルトライフル〇
Rk 62 7,62ミリ弾使用モデル「白蛇」
5.45x39水中用弾薬 KBP A-91モデル「亀」
ベレッタ ARX160 単発式グレネードランチャー 7.62x39mm弾モデル「蜂」
ショットガン〇
ウインチェスター SXP ブラック「狼」
ナイフ〇
ブーツナイフ「鹿」
サバイバルナイフ「猿」
フォールディングナイフ「鷲」
その他装備
グレネード
スタングレネード
焼夷弾
「この言葉はこの地方の挨拶です。地方ごとによって挨拶の仕方は違うんですよ」
少女の言葉にメモを取りながら、八咫烏達は馬車の護衛をしつつこの世界での知識を蓄えていく。
向かっている先はヘンランド王国という王国らしく、君主制度がこの世界では現在進行形で行われているらしい。
森霊種や土精霊、龍やペガサスなどの日本においては幻想の生物とされて居た生き物もこの世界では現存しているらしく、今から向かう王国にも少なくない人数そう言った種族の者がいるとの事だ。
「楽しみだねー隊長! 森霊種とか土精霊とか戦ってみたいね」
「そうだな。俺らが持ってない技術を持ってるかもしれないし、それに龍とも戦ってみたい」
「隊長顔怖い、いまの僕らの装備じゃ鱗は貫通できなさそうだよね。言っても人間相手の装備しか持ってきてないし」
八咫烏のメンバーが持っている装備の中で最も口径の大きいものは、テーリングの持つ12.7mmバレットM82式改造銃『黒蛇』。
テーリングが扱いやすいように様々な改造をされているが、基本的な外見は元となっているバレットM82と酷似している。
対物狙撃銃に分類されるこの銃なら獣程度は充分殺せるが、龍相手となると戦ったことが無いのでなんともいえないが、さすがに致命傷にはなり得ないだろう。
「最悪の場合は走って逃げればなんとかなりそうだな。C4もいくつかあるから気をそらすくらいは出来るだろう」
「弾無くなったら現地調達するつもりで来たは良いけど、鉄も火薬もないから無駄使いは出来ないわね」
「あのー皆さんが持っているそれってなんなんですか」
「私も気になってた」
この世界で日本と同じ方法で火薬が作れれば良いのだが、そうでない場合は銃以外の戦闘手段を確保しておかなければいけない。
次の戦闘はなるべく弾を使わないようにしようと隊員達がなんとなく意識を固めていると、ティアから疑問の声が上がる。
銃が知られて居ないということは、いよいよ持って弾の調達が難しそうだ。
そう思いつつも代表として嶹琶が説明を始める。
「これは銃という私達の世界の武器です。高速で鉄の弾を飛ばし、敵を負傷ないし殺害する事を目的とした武器になって居ます」
「先程のもそれで……?」
「はい。人相手の先頭であればこれほど便利な武器はありません」
「森霊種が使う魔弾や、土精霊が使う魔筒の進化系の様な武器ですね。もしかすると玉も手に入るかもしれません」
「本当に!? よかったね隊長!」
「いやぁよかったです本当! 私から銃取ったら何も残りませんからね!」
「テーリングちゃんどうだ? これを機に工兵として俺と一緒に活動するとか」
「嫌です」
銃が知られて居なくとも、銃に似通った物は存在して居たようだ。
実物を見て居ない以上確実なことは言えないが、これで弾の確保に希望が持てた。
「それにしてもさっきの奴らの腰に入ってたこの石、なんなんだろうな?」
隼人が掌で転がすのは、先程殺した野党が持っていた石だ。
やけに沢山袋に入って居たので、念のため持ってきて居たのだが全く用途が分からない。
色合いとしてはレッドトパーズの様ではあるが、だとしてもまさかあんな少数の野党が宝石品を持っているとは考えにくい。
「あ! それは魔石です! 魔物から取れる鉱石で魔力伝達に使えるのでよく売れるんですよ!」
「マジで!! ラッキー! なんか今日ついてるかもオレ!」
「なに独り占めしようとしてるんだ馬鹿。俺にも一口噛ませろ」
「いや二人じめもダメですからね。隊長どうします?」
「もちろん売る、売りまくる。そんな便利な稼ぐ手段があるならやらない手はない」
日本にいた時も何度か行軍先で獲得した宝石や金などをちょろまかして売買した事はあったが、この世界ではこの石を手に入れても誰にも怒られず、むしろ野党を討伐したことで喜ばれるのだ。
これ以上ない稼ぐための手段である。
だが売買するとしてこの量は少し心許ないところだ、いまこちらの手持ちにある石の数は小さな袋一つ分。
ティアの反応からして目が飛び出るほどの高額、という訳ではなさそうなのでもう少し欲しいところだ。
「無線はまだ使えるか?」
「身内のみだけど使えるよ。俺の装備に積んでおいた」
「なら俺と紫煙以外二人一組で索敵奇襲、何か必要な場合はこちらで合図を出す。敵を見つけ次第発砲を許可、もし数が多ければ無線で呼んでくれ」
「生かす? 殺す?」
「野党なんて百害あって一利なしだ。殲滅しろ」
「「うーい」」
話によると街まで朝までかかるとのことだ。
月のように見える星の位置から考えて、まだまだ夜は長いように思える。
獰猛な笑みを浮かべ飛び出していった隊員達を眺めながら、嶹琶は改めて気を引き締め直すのだった。
/
「結構手に入ったな」
夜が明け、森を抜けると隊員達は元の隊列に戻り、嶹琶の手に昨夜手に入った魔石が入った袋が握られる。
最初の袋と比べてもかなり大量に取れた物だ、手に持った感じからしておよそ30キロ程だろうか。
かなり大きな盗賊団が辺りに居を構えて居たようで、巧妙に隠されて居たがおよそ九割はそこから手に入った魔石である。
「すごい量ですっ! これ程多くの魔石見たことありませんよ! お店開けるレベルです」
「凄いでしょ俺達! 中東でも結構集めたんだよー」
「中東……? まぁ確かにこれだけ有れば店も開けるかもね。それが目的で集めたの?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。隊長が言わないってことはそういうことだ、嬢ちゃん達は関わらない方がいい」
どうやら見た限り人が目の前で死ぬ事に抵抗があるようには見えないが、それでも彼女達が綺麗な商人であるのに対して、嶹琶達がなろうとしているのは汚い商人である。
なるべく関わらない方がいい。
傭兵として雇われている間はこうして一緒に行動するが、街までつけばそこからはもはや知らない人物だ。
八咫烏と関わった、それ自体が彼女等に不幸を招くのもそう遠くは無い話だろうから。
「ーーそうですか」
「やめてくださいよ佐之助さん、人の事をまるで悪の親玉みたいに悪い噂ばかり流して。
お二人には今回の事で恩が出来ました、お二人の悪いようにはしないと口約束ではありますが、約束しますよ」
約束は守るのが主義である。
八咫烏の長である嶹琶が約束した以上は他の隊員も約束は守ってくれるだろう。
恩を感じたのは本当のことであり、その恩を踏まえても殺さなければいけないような状況にでもならない限りは二人を守ると確約し嶹琶は森の中を進んでいくのだった。
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