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いざ王都へ向けて
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商人としてこの世界を生きていくことが決まって早いことでまる一年。
僕は兄様達に様々な場所で生きていくための訓練や自衛の為の護身術などを一通り教わりながら、商人として様々な依頼に関わってきた。
兄様達から頂いた物資にはあまり手を付けていない、薬草の方はどうしても傷んでしまうので仕方なく捌いたが、定価ギリギリの値段にしかならなかったので鉱石の方はいまもしっかりと蓄えてある。
そうしていつも通り僕が商人組合へと足を運んでいると、組合長の部屋へ行くように案内された。
「失礼します」
組合長室の中へと入ってみれば相変わらず怖い目つきの組合長がこちらをじりりと睨みつけており、僕はその目線に怯えないように気をしっかりとしながら組合長の前に立つ。
本来ならば新入りがこうして組合長の前に立つという事は殆どない、面接だって本当ならば受付嬢さんがするのが定例らしかったのだが、特別に組合長さん直々に見てくれていたとの事である。
「受付で案内されたのですが僕に何か御用でしょうか」
「まぁ立ち話もなんだ、座ってくれたまえ」
「それでは失礼して」
進められるままに椅子に腰をかけ、僕は改めて今回の話が大切なのだろうということを察する。
組合長の机の上には封がされた一枚の便箋が置かれており、きっと自分が呼ばれたのはそれについてなのだろうという事は簡単に察することができた。
「さて、まずは世間話からだ。最近どうだね商売の方は」
「ぼちぼち、そう言いたいですが正直言って食べていくのが精一杯ですね。いまは近くの街で買ったものを露店で販売してますが、利益は本当に雀の涙程度です」
「商売なんて最初はそんなものさ。コネもないのにむしろ良くやっている方だと思うがね」
僕が最近やっていた商売は卸売りに近いものばかりで、移動時間や交渉の時間を足してしまうと赤字になってしまうような売上ばかりである。
だがそんな経営でも次第にお客さんは来てくれるようになったし、家のお金でご飯を食べていた頃に比べれば本当に貧相なものしか食べる事はできていないがそれでも自分のお金で食べるご飯は何者にも変え難い味であった。
宿泊先に関していえばそこは実家に甘えている形であり、恥ずかしながら少額のお金で雨風を凌げる場所を提供してもらっているというのが現実である。
「物珍しさではないでしょうか。僕を目当てにやってくるお客様も多いですから」
「確かにそれはあるかも知れないな。まぁ去年は攫われたりしなくて良かったよ、君が攫われると何かとこちらとしても困るんだ」
「この一年間常に気を張って生きてきましたので。これならある程度遠くに出てもいいかなと思ってます」
あちらの出方を伺いながらも自然な風を装って僕は便箋へと目を伸ばす。
わざわざ要件もないのにあんなものを机に置くほど、組合長が危機管理の甘い人物でない事は僕自身よく理解しているつもりだ。
僕に対しての依頼があるとすればいまここで手が空いていることを示唆し、それを受け取ることで組合長からの依頼をこなしたという実績を手に入れる事は今後にとって大きな糧となる。
「ふむ……ならばこの便箋を君に預けよう」
──来た。
予測していたよりも数テンポ早いが、ともすればそれは最初から僕に任せるつもりだったのかも知れない。
「この便箋の配達依頼ということでよろしいでしょうか?」
「いや違う。その便箋の中身は君宛のもの、もう片方の便箋…こちらが届けて欲しいものだ。外荷馬車を待たせてある、その馬車に乗ってこの便箋の中身をあらためてくれ」
渡された便箋は二つ、白い便箋がどうやら僕宛のものであったらしく宛先の欄を見ればフィオレー姉様の字が書かれていた。
もう片方の便箋にも同じようにフィオレー姉様の文字で宛名が書かれているが、宛名はあまり見たことのない人物のものである。
フィオレー姉様のことだ、遠距離の依頼になれるようにと僕のためにわざわざ依頼してくれたのだろう。
そういう事であれば姉様の期待に応えるために僕は全身全霊で頑張るだけである。
「はい、分かりました。それでは失礼いたします」
そうして部屋から退出した僕は今日この日帝国から去ることとなる。
手紙の内容を馬車に乗る前に改めるべきだったのだろうか、そう考えるがきっと見ていたところで姉からの依頼なのだから自分は行っていたのだろう。
揺れる荷馬車の中で僕はふと帝都の事を思い返すのだった。
/
フィオレー姉様から僕宛に渡された手紙、そこにはこんなことが書いてあった。
一つ目に商人として生きていく上で師匠となる人物を見つけ、その人に商売の仕方を学ぶべきであるという話である。
これはフィオレー姉様だけでなくハヒルト兄様やタラザ兄様からも口を酸っぱくして言われていた事であった。
だが帝都では大商人と呼ばれるような人達と関係を持つ事はできず、駆け出しの商人数人と仲良くなる事は出来たものの師と仰げるような人物とは出会えずにいた。
これ以上帝都にいても商売を学ぶ事は難しいだろうと考えていた矢先、こうした話が舞い込んでくるのは僕にとってすごく都合のいい事であった。
二つ目に兄弟の名前が価値を持たない、もしくは持ちにくい場所で商売をするべきであるという話である。
兄様達の名前は帝国中に轟いており、もしその名前をブランドとして商品を売り出せば駆け出し商人の僕でも中堅程度の売り上げを上げることができるだろう。
だが兄様達はそれを望まない、僕だってそんな事はしたくないしするべきでないと理解している。
だが帝都で商人をしていれば自分の実力で上に上がったところで家の名前を出されるだろう。
だから一度国外で大勢してから帝国に戻ってきてはどうかというのがフィオレー姉様の提案であった。
そうしていつも身につけている手持ちの荷物と姉様から頂いた軍馬二匹に壊れかけの馬車をもらった僕は、王国に向かっているのだった。
話によればフィオレー姉様と縁のある公爵家の方が僕を鍛えてくれるのだという、公爵家の方としては僕の家との関係を強くしたいし姉様としては鍛えてくれればそれでいいというスタンスであるらしかった。
家の力を結局は頼りにしてしまう自分の力のなさに不甲斐なさを覚えるが、姉様が僕に与えてくれた大成するチャンスを逃さないためにも頑張るしかない。
「サントにバリー、もう少しだけ頑張ってね」
とりあえずは帝国から王都までの道のりを越えることが僕にとっては大切な事であり、その為に姉様から貰った二匹の軍馬に頑張ってもらうしかない。
サントとバリーは僕が小さな頃から家にいた馬で足も早く持久力もあり、何より人の言葉を理解できる知性がある。
帝都から一番近い街まで歩きでは二日かかるが、商人組合から出て早い事で3時間ほど。
すでに最初の街を超えて次の街へと到達せんばかりの勢いであった。
この分であれば来週の末には王国領に入ることができるだろう、そこから先は僕にとっては未開の領域であり危険な場所でもあった。
帝国領ならば野盗などは存在しない、最近は景気も良くなってきたし商人を狙った強盗は帝国の方で厳しく罰せられるからである。
だがいまの王国は敗戦してからまだ一年、国として安定しているかと聞かれれば当然疑問視せざるおえないし戦争孤児や職を失った元兵士だってうろうろしているだろう。
改めて気を引き締めながら王都への旅路をゆったりと駆けるのだった。
僕は兄様達に様々な場所で生きていくための訓練や自衛の為の護身術などを一通り教わりながら、商人として様々な依頼に関わってきた。
兄様達から頂いた物資にはあまり手を付けていない、薬草の方はどうしても傷んでしまうので仕方なく捌いたが、定価ギリギリの値段にしかならなかったので鉱石の方はいまもしっかりと蓄えてある。
そうしていつも通り僕が商人組合へと足を運んでいると、組合長の部屋へ行くように案内された。
「失礼します」
組合長室の中へと入ってみれば相変わらず怖い目つきの組合長がこちらをじりりと睨みつけており、僕はその目線に怯えないように気をしっかりとしながら組合長の前に立つ。
本来ならば新入りがこうして組合長の前に立つという事は殆どない、面接だって本当ならば受付嬢さんがするのが定例らしかったのだが、特別に組合長さん直々に見てくれていたとの事である。
「受付で案内されたのですが僕に何か御用でしょうか」
「まぁ立ち話もなんだ、座ってくれたまえ」
「それでは失礼して」
進められるままに椅子に腰をかけ、僕は改めて今回の話が大切なのだろうということを察する。
組合長の机の上には封がされた一枚の便箋が置かれており、きっと自分が呼ばれたのはそれについてなのだろうという事は簡単に察することができた。
「さて、まずは世間話からだ。最近どうだね商売の方は」
「ぼちぼち、そう言いたいですが正直言って食べていくのが精一杯ですね。いまは近くの街で買ったものを露店で販売してますが、利益は本当に雀の涙程度です」
「商売なんて最初はそんなものさ。コネもないのにむしろ良くやっている方だと思うがね」
僕が最近やっていた商売は卸売りに近いものばかりで、移動時間や交渉の時間を足してしまうと赤字になってしまうような売上ばかりである。
だがそんな経営でも次第にお客さんは来てくれるようになったし、家のお金でご飯を食べていた頃に比べれば本当に貧相なものしか食べる事はできていないがそれでも自分のお金で食べるご飯は何者にも変え難い味であった。
宿泊先に関していえばそこは実家に甘えている形であり、恥ずかしながら少額のお金で雨風を凌げる場所を提供してもらっているというのが現実である。
「物珍しさではないでしょうか。僕を目当てにやってくるお客様も多いですから」
「確かにそれはあるかも知れないな。まぁ去年は攫われたりしなくて良かったよ、君が攫われると何かとこちらとしても困るんだ」
「この一年間常に気を張って生きてきましたので。これならある程度遠くに出てもいいかなと思ってます」
あちらの出方を伺いながらも自然な風を装って僕は便箋へと目を伸ばす。
わざわざ要件もないのにあんなものを机に置くほど、組合長が危機管理の甘い人物でない事は僕自身よく理解しているつもりだ。
僕に対しての依頼があるとすればいまここで手が空いていることを示唆し、それを受け取ることで組合長からの依頼をこなしたという実績を手に入れる事は今後にとって大きな糧となる。
「ふむ……ならばこの便箋を君に預けよう」
──来た。
予測していたよりも数テンポ早いが、ともすればそれは最初から僕に任せるつもりだったのかも知れない。
「この便箋の配達依頼ということでよろしいでしょうか?」
「いや違う。その便箋の中身は君宛のもの、もう片方の便箋…こちらが届けて欲しいものだ。外荷馬車を待たせてある、その馬車に乗ってこの便箋の中身をあらためてくれ」
渡された便箋は二つ、白い便箋がどうやら僕宛のものであったらしく宛先の欄を見ればフィオレー姉様の字が書かれていた。
もう片方の便箋にも同じようにフィオレー姉様の文字で宛名が書かれているが、宛名はあまり見たことのない人物のものである。
フィオレー姉様のことだ、遠距離の依頼になれるようにと僕のためにわざわざ依頼してくれたのだろう。
そういう事であれば姉様の期待に応えるために僕は全身全霊で頑張るだけである。
「はい、分かりました。それでは失礼いたします」
そうして部屋から退出した僕は今日この日帝国から去ることとなる。
手紙の内容を馬車に乗る前に改めるべきだったのだろうか、そう考えるがきっと見ていたところで姉からの依頼なのだから自分は行っていたのだろう。
揺れる荷馬車の中で僕はふと帝都の事を思い返すのだった。
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フィオレー姉様から僕宛に渡された手紙、そこにはこんなことが書いてあった。
一つ目に商人として生きていく上で師匠となる人物を見つけ、その人に商売の仕方を学ぶべきであるという話である。
これはフィオレー姉様だけでなくハヒルト兄様やタラザ兄様からも口を酸っぱくして言われていた事であった。
だが帝都では大商人と呼ばれるような人達と関係を持つ事はできず、駆け出しの商人数人と仲良くなる事は出来たものの師と仰げるような人物とは出会えずにいた。
これ以上帝都にいても商売を学ぶ事は難しいだろうと考えていた矢先、こうした話が舞い込んでくるのは僕にとってすごく都合のいい事であった。
二つ目に兄弟の名前が価値を持たない、もしくは持ちにくい場所で商売をするべきであるという話である。
兄様達の名前は帝国中に轟いており、もしその名前をブランドとして商品を売り出せば駆け出し商人の僕でも中堅程度の売り上げを上げることができるだろう。
だが兄様達はそれを望まない、僕だってそんな事はしたくないしするべきでないと理解している。
だが帝都で商人をしていれば自分の実力で上に上がったところで家の名前を出されるだろう。
だから一度国外で大勢してから帝国に戻ってきてはどうかというのがフィオレー姉様の提案であった。
そうしていつも身につけている手持ちの荷物と姉様から頂いた軍馬二匹に壊れかけの馬車をもらった僕は、王国に向かっているのだった。
話によればフィオレー姉様と縁のある公爵家の方が僕を鍛えてくれるのだという、公爵家の方としては僕の家との関係を強くしたいし姉様としては鍛えてくれればそれでいいというスタンスであるらしかった。
家の力を結局は頼りにしてしまう自分の力のなさに不甲斐なさを覚えるが、姉様が僕に与えてくれた大成するチャンスを逃さないためにも頑張るしかない。
「サントにバリー、もう少しだけ頑張ってね」
とりあえずは帝国から王都までの道のりを越えることが僕にとっては大切な事であり、その為に姉様から貰った二匹の軍馬に頑張ってもらうしかない。
サントとバリーは僕が小さな頃から家にいた馬で足も早く持久力もあり、何より人の言葉を理解できる知性がある。
帝都から一番近い街まで歩きでは二日かかるが、商人組合から出て早い事で3時間ほど。
すでに最初の街を超えて次の街へと到達せんばかりの勢いであった。
この分であれば来週の末には王国領に入ることができるだろう、そこから先は僕にとっては未開の領域であり危険な場所でもあった。
帝国領ならば野盗などは存在しない、最近は景気も良くなってきたし商人を狙った強盗は帝国の方で厳しく罰せられるからである。
だがいまの王国は敗戦してからまだ一年、国として安定しているかと聞かれれば当然疑問視せざるおえないし戦争孤児や職を失った元兵士だってうろうろしているだろう。
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