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冒険者が依頼を受ける上で重要視することは自分の身の丈に合った依頼かどうかを見極めるという事である。
彼らにとってはそれが自分の命をつなぎとめるために大切なことであり、偶発的な遭遇でもしない限り戦闘行為をするという事はない。
だが今日は異例中の異例、自分達よりも圧倒的に強い強者をただで便利に使い、しかも相手は田舎者だから上手く言いくるめれば一角千金すらも考えられる。
事情を説明されていないと戦闘前に逃げられては困るので、なるべく詳細は省きながらヘクターに事情を説明するのはアーデンである。
「一つ目巨人の討伐依頼ねぇ」
「素材などの諸々はもちろんお二人に、我々は依頼金だけ頂く形にはなりますが、場所もわからず依頼も受けられないお二人には悪くない話かと」
冒険者組合の掲示板には一つ目巨人の討伐依頼が掲示されており、いったい当たりの賞金はイェラの銃が一本買えてしまうほどの物である。
一番金になる素材をすべて持っていかれてしまったとしても、一つ目巨人の討伐金が手に入れられるのはアーデン達にとっては飛んでもない利益だ。
断られたとしてもマイナスになるわけでもないと考えるアーデンに対し、ヘクターはあっけっからんとした態度で彼の提案を受け入れる。
「よし、じゃあ行くか」
「そんな簡単に決めていいの? 言っておいてなんだけど、強いわよ?」
「同行してもらった恩もあるし、別にいいよ。エスペルも良いだろ?」
「ああもちろん。だが一つだけ」
緑鬼種よりもよほど凶悪な相手に対しての戦闘で持ちかけられる条件ともなれば、いったいどのようなものがあるのだろうか。
生唾を飲み込んだアーデンたちは、恐る恐るながら条件を聞く。
「何かありますか?」
「戦闘は私とヘクターの二人でやる。三人は下がっていてくれ」
「いいのか? それだと俺らはただで金だけもらうことになるぞ」
「情報料と言うところだ。死なれても困るしな」
「ならお言葉に甘えさせてもらうわ」
ヘクターたちに見られないようにガッツポーズをする三人組は、そうして意気揚々とヘクターたちを一つ目巨人が発見されたと言われている地域まで案内し始める。
森は更に濃くなっていき、鳥のさえずりはあまり聞こえなくなり始めていた。
何処から何が襲い掛かってきてもおかしくないほどの状況の中で三人組はいつもより警戒を緩ませながら歩いている。
完全に気が抜けてしまっているその三人を前にして、ヘクター達は警戒を緩めずにそのあとを追いかけていた。
「一つ目巨人か……どう思う?」
「問題はないはずだ。石化の視線や飛び道具の無効化は厄介だが、一撃で殺せば問題ない」
「魔法の使用が禁止されてるのが面倒なところだな」
「仕方ないだろ、この世界の魔法技術が変貌を遂げているのはすでに知るところ。わざわざリスクを冒してまで使う必要もない」
一つ目巨人といえばヘクターでも面倒だと思う相手だ。
緑鬼種達の変化の度合いを考えれば、一つ目巨人達は更に凶悪な魔物に変貌していても不思議でない。
最も効果的であった魔法が使いにくいというのは何とも面倒なことではあるが、倒せるかどうかという点に関しては二人に不安要素はなかった。
お互いに動きを確認して戦闘になった時の想定をしていたヘクター達だったが、ふと目の前を歩いていたアーデンが振り返る。
「そろそろ着きます」
「ここがその場所なの?」
崖にぽっかりと開いた大きな穴。
4mほどもある巨大な縦穴が奥が見えないほど続いており、洞窟の手前に落ちている様々な生き物の骨で何かがいるのははっきりとわかる。
「一つ目巨人達は光に強くないから日中はこうして洞窟の中にいるんだ」
「そうなんだ。まぁいいや、行ってくるから外で待ってて」
「ご武運を」
「大袈裟だなぁ。すぐ戻ってくるよ」
まるで死地にでも送らんばかりの顔色をしている三人に軽く手を振って、ヘクター達は洞窟の中へと入っていく。
暗く湿った洞窟はところどころ血の汚れが見て取れ、洞窟の主人の食事ぶりが見て取れる様である。
ヘクター達が知る限り巨人は森の中に住むことはあっても、洞窟の中に住まう様なことはなかった。
単純に人と同じ身体構造をしている巨人は洞窟内での生活が不便なため外に出ていたのだが、目が退化するほどに洞窟の中にいるのならば300年前とは想像もつかない変化があってもおかしくはない。
「ふむ、やはり想像していたとおりかなり変化しているな」
「たった300百年程度で住む場所どころか生態すら変わるもんなの?」
「普通はそうならないが、戦時中が異常で元はこういった生活をしていた可能性もあるからな」
人だって戦争中は地面に穴を掘って暮らしていたのだから、彼等の生活が変貌していても確かになんらおかしくはない。
エスペルの言葉に納得しそんなものかと思いながらヘクターが止めることなく足を進めたいると、ふと開けたところにでる。
洞窟の高さは気がつけば20メートルほどで見上げなければ天井が見えないほどであり、奥行きもそれなりの広さが確保されていた。
その中で巨体をのそのそと動かす体調6メートルほどの巨人が10体。
明らかに気が付かれていないらしい巨人を前にしてヘクターがそこら辺に落ちていた石をぶつけると、巨人は自分の家に入り込んだ人という害虫の存在に気がつく。
「──────!!!」
一部の大型の魔物の中には咆哮で相手を行動不能状態にするもの達がいる。
精神に直接作用するその魔法は喰らえば即座にパーティーが壊滅するので、冒険者組合が彼ら一つ目巨人を警戒するのもその様な背景があってこそだ。
しかしその咆哮を子供の鳴き声程度にしか捉えていないヘクターがなんの躊躇もせずに手を振り払うと、横凪の雷が洞窟内を轟音と共に走り去り意図も容易く巨人達の命を奪い取る。
一個で軍すら相手にできる魔法を見せて自慢げな顔をするヘクターだったが、エスペルはそんなヘクターをノータイムではたく。
「おい魔法を使うなヘクター。外の奴らに見られたらどうするんだ」
「やっべ、そういえばダメだったんだ。手癖で魔法打ってた。やっぱ300年経ったって実感が全然ないわ」
瞼を閉じて開けたら300年。
いきなり戦闘スタイルを変えろと言われて変えれるほどヘクターは器用な人間ではない。
それを分かっているからかエスペルも深く追求する気はない様で、倒れ伏して目からぶくぶくと泡を出して焦げ付いている巨人の体を調べ始めていた。
まず最初に目についたのはゴミ捨て場の様なところに捨てられていた人の死体と、歯に挟まったおそらく人骨の様なものである。
「まぁ仕方ない、次から気をつけるんだぞ。それにしても食性すら変わってるぞこいつら、人は食わんのじゃなかったのか?」
「魔王の前で見栄張ってただけじゃない? 俺の前で昔ボリボリ行ってたよ」
「あれは食感を楽しんでいるだけで後で吐き出す。人を飲み込むと魂が汚れるだなんだと言っていたのだがな」
「まぁ人いっぱいるし仕方ないでしょ。あの三人呼んでくるわ」
最も効率よく栄養を取れる手段が肉食で、しかも弱い冒険者と呼ばれる人間がそこら辺をうろちょろしているなら食い始める巨人がいてもなんら不思議ではない。
「なぜここまで変わっている? 300年後に飛ばされたのはもしや偶然ではなく何者かの意思が──?」
エスペルの思考は何かを掴みそうになるが、荒唐無稽な話すぎて仮説を立てることすらままならない。
既にいなくなったヘクターに何か意見を求めようかとも考えたが、ヘクターのことは信頼しているがその背後に何があるかわからない以上エスペルもおいそれと簡単に物を口にできる状況ではない。
自分の胸の内に秘めておこうと考え、エスペルはうるさくなる前に壁際まで移動して三人組とヘクターにがやってくるのを待つ。
「すっげぇぇぇぇ!!!」
「山ですよこれ! 金の山だ! ひゃっほぅっう!」
「一つ目巨人がひぃふぅみぃよぉ、10体も!? どうやってこんなの──というかあの一瞬で?」
一体だけだと思っていた一つ目巨人がまさかの10体も。
三人で依頼金を割ったとして20年くらいは働かずに生活できるほどの莫大な金だ。
「倒し方は企業秘密だよ。こいつらって何が使えるの?」
「そりゃもう額の角に目でしょうね。それ以外も使えますがやはりこの二つは……ふふっ、ははっ」
「じゃあそれ以外はここに置いていくか」
「なんともったいない!? 金の山ですよ!」
「そうは言っても持ち帰ることできないし」
角だけで1メートル近くはあるのでそれを10本と目玉を持って帰るだけでも随分と重労働だ。
有り余るほど金が欲しいわけでもなく、後日ここに何度も往復しに来るのも手間なので捨て去ろうとしたヘクターだが、それを止めようとするのはアーデンだ。
巨人の肉体は様々な薬品の材料になるのでキロ単価こそ角や目に比べれば安いが、それでも大きな金になる。
「なら俺らがこれを代わりに持って帰るから代金の半分! いや4分の1をくれよ!」
「ちょっとアーデン!」
「いいよ別に。でもどうやってこれ持って帰るつもりなの?」
「こんな事もあろうかと、俺らにはとっておきの魔法道具があるんだ」
「皮袋? 随分と大きいな」
「魔法の鞄さ。この中にこうして……」
どこから取り出したのか大きな袋を取り出したアーデンだが、とてもではないがそれに全部入るかと聞かれれば無理だ。
巨人の体躯に対して袋は足首まで入れれば埋まってしまいそうなもので、何をしているのかと訝しむヘクターとエスペルを前にアーデンは一切の躊躇なく作業を進める。
そうするとどうか、まるでマジックの様にするすると巨人の体は袋の中に取り込まれていく。
魔法によって空間拡張された袋はヘクター達の時代にはなかった技術であり、そんな代物をただの冒険者が持っていることに驚愕せざるおえない。
「ほら全部入った! これで今日は酒盛りだぁっ!」
「早く帰りましょう。神もそれを望まれています」
「もちろん貴方達二人も来るでしょ?」
「それがいい! 実質奢ってもらうみたいなもんだけど、俺らが金を出すよ!」
「じゃあお言葉に甘えて」
「そうと決まれば早く帰ろう! 今日は大収穫だ!!」
人の世界の進化とは、これほどまでのものだったのか。
300年の空白を紐解けば新たな歴史が見られそうだと、ワクワクしながらヘクター達は街へと帰るのだった。
彼らにとってはそれが自分の命をつなぎとめるために大切なことであり、偶発的な遭遇でもしない限り戦闘行為をするという事はない。
だが今日は異例中の異例、自分達よりも圧倒的に強い強者をただで便利に使い、しかも相手は田舎者だから上手く言いくるめれば一角千金すらも考えられる。
事情を説明されていないと戦闘前に逃げられては困るので、なるべく詳細は省きながらヘクターに事情を説明するのはアーデンである。
「一つ目巨人の討伐依頼ねぇ」
「素材などの諸々はもちろんお二人に、我々は依頼金だけ頂く形にはなりますが、場所もわからず依頼も受けられないお二人には悪くない話かと」
冒険者組合の掲示板には一つ目巨人の討伐依頼が掲示されており、いったい当たりの賞金はイェラの銃が一本買えてしまうほどの物である。
一番金になる素材をすべて持っていかれてしまったとしても、一つ目巨人の討伐金が手に入れられるのはアーデン達にとっては飛んでもない利益だ。
断られたとしてもマイナスになるわけでもないと考えるアーデンに対し、ヘクターはあっけっからんとした態度で彼の提案を受け入れる。
「よし、じゃあ行くか」
「そんな簡単に決めていいの? 言っておいてなんだけど、強いわよ?」
「同行してもらった恩もあるし、別にいいよ。エスペルも良いだろ?」
「ああもちろん。だが一つだけ」
緑鬼種よりもよほど凶悪な相手に対しての戦闘で持ちかけられる条件ともなれば、いったいどのようなものがあるのだろうか。
生唾を飲み込んだアーデンたちは、恐る恐るながら条件を聞く。
「何かありますか?」
「戦闘は私とヘクターの二人でやる。三人は下がっていてくれ」
「いいのか? それだと俺らはただで金だけもらうことになるぞ」
「情報料と言うところだ。死なれても困るしな」
「ならお言葉に甘えさせてもらうわ」
ヘクターたちに見られないようにガッツポーズをする三人組は、そうして意気揚々とヘクターたちを一つ目巨人が発見されたと言われている地域まで案内し始める。
森は更に濃くなっていき、鳥のさえずりはあまり聞こえなくなり始めていた。
何処から何が襲い掛かってきてもおかしくないほどの状況の中で三人組はいつもより警戒を緩ませながら歩いている。
完全に気が抜けてしまっているその三人を前にして、ヘクター達は警戒を緩めずにそのあとを追いかけていた。
「一つ目巨人か……どう思う?」
「問題はないはずだ。石化の視線や飛び道具の無効化は厄介だが、一撃で殺せば問題ない」
「魔法の使用が禁止されてるのが面倒なところだな」
「仕方ないだろ、この世界の魔法技術が変貌を遂げているのはすでに知るところ。わざわざリスクを冒してまで使う必要もない」
一つ目巨人といえばヘクターでも面倒だと思う相手だ。
緑鬼種達の変化の度合いを考えれば、一つ目巨人達は更に凶悪な魔物に変貌していても不思議でない。
最も効果的であった魔法が使いにくいというのは何とも面倒なことではあるが、倒せるかどうかという点に関しては二人に不安要素はなかった。
お互いに動きを確認して戦闘になった時の想定をしていたヘクター達だったが、ふと目の前を歩いていたアーデンが振り返る。
「そろそろ着きます」
「ここがその場所なの?」
崖にぽっかりと開いた大きな穴。
4mほどもある巨大な縦穴が奥が見えないほど続いており、洞窟の手前に落ちている様々な生き物の骨で何かがいるのははっきりとわかる。
「一つ目巨人達は光に強くないから日中はこうして洞窟の中にいるんだ」
「そうなんだ。まぁいいや、行ってくるから外で待ってて」
「ご武運を」
「大袈裟だなぁ。すぐ戻ってくるよ」
まるで死地にでも送らんばかりの顔色をしている三人に軽く手を振って、ヘクター達は洞窟の中へと入っていく。
暗く湿った洞窟はところどころ血の汚れが見て取れ、洞窟の主人の食事ぶりが見て取れる様である。
ヘクター達が知る限り巨人は森の中に住むことはあっても、洞窟の中に住まう様なことはなかった。
単純に人と同じ身体構造をしている巨人は洞窟内での生活が不便なため外に出ていたのだが、目が退化するほどに洞窟の中にいるのならば300年前とは想像もつかない変化があってもおかしくはない。
「ふむ、やはり想像していたとおりかなり変化しているな」
「たった300百年程度で住む場所どころか生態すら変わるもんなの?」
「普通はそうならないが、戦時中が異常で元はこういった生活をしていた可能性もあるからな」
人だって戦争中は地面に穴を掘って暮らしていたのだから、彼等の生活が変貌していても確かになんらおかしくはない。
エスペルの言葉に納得しそんなものかと思いながらヘクターが止めることなく足を進めたいると、ふと開けたところにでる。
洞窟の高さは気がつけば20メートルほどで見上げなければ天井が見えないほどであり、奥行きもそれなりの広さが確保されていた。
その中で巨体をのそのそと動かす体調6メートルほどの巨人が10体。
明らかに気が付かれていないらしい巨人を前にしてヘクターがそこら辺に落ちていた石をぶつけると、巨人は自分の家に入り込んだ人という害虫の存在に気がつく。
「──────!!!」
一部の大型の魔物の中には咆哮で相手を行動不能状態にするもの達がいる。
精神に直接作用するその魔法は喰らえば即座にパーティーが壊滅するので、冒険者組合が彼ら一つ目巨人を警戒するのもその様な背景があってこそだ。
しかしその咆哮を子供の鳴き声程度にしか捉えていないヘクターがなんの躊躇もせずに手を振り払うと、横凪の雷が洞窟内を轟音と共に走り去り意図も容易く巨人達の命を奪い取る。
一個で軍すら相手にできる魔法を見せて自慢げな顔をするヘクターだったが、エスペルはそんなヘクターをノータイムではたく。
「おい魔法を使うなヘクター。外の奴らに見られたらどうするんだ」
「やっべ、そういえばダメだったんだ。手癖で魔法打ってた。やっぱ300年経ったって実感が全然ないわ」
瞼を閉じて開けたら300年。
いきなり戦闘スタイルを変えろと言われて変えれるほどヘクターは器用な人間ではない。
それを分かっているからかエスペルも深く追求する気はない様で、倒れ伏して目からぶくぶくと泡を出して焦げ付いている巨人の体を調べ始めていた。
まず最初に目についたのはゴミ捨て場の様なところに捨てられていた人の死体と、歯に挟まったおそらく人骨の様なものである。
「まぁ仕方ない、次から気をつけるんだぞ。それにしても食性すら変わってるぞこいつら、人は食わんのじゃなかったのか?」
「魔王の前で見栄張ってただけじゃない? 俺の前で昔ボリボリ行ってたよ」
「あれは食感を楽しんでいるだけで後で吐き出す。人を飲み込むと魂が汚れるだなんだと言っていたのだがな」
「まぁ人いっぱいるし仕方ないでしょ。あの三人呼んでくるわ」
最も効率よく栄養を取れる手段が肉食で、しかも弱い冒険者と呼ばれる人間がそこら辺をうろちょろしているなら食い始める巨人がいてもなんら不思議ではない。
「なぜここまで変わっている? 300年後に飛ばされたのはもしや偶然ではなく何者かの意思が──?」
エスペルの思考は何かを掴みそうになるが、荒唐無稽な話すぎて仮説を立てることすらままならない。
既にいなくなったヘクターに何か意見を求めようかとも考えたが、ヘクターのことは信頼しているがその背後に何があるかわからない以上エスペルもおいそれと簡単に物を口にできる状況ではない。
自分の胸の内に秘めておこうと考え、エスペルはうるさくなる前に壁際まで移動して三人組とヘクターにがやってくるのを待つ。
「すっげぇぇぇぇ!!!」
「山ですよこれ! 金の山だ! ひゃっほぅっう!」
「一つ目巨人がひぃふぅみぃよぉ、10体も!? どうやってこんなの──というかあの一瞬で?」
一体だけだと思っていた一つ目巨人がまさかの10体も。
三人で依頼金を割ったとして20年くらいは働かずに生活できるほどの莫大な金だ。
「倒し方は企業秘密だよ。こいつらって何が使えるの?」
「そりゃもう額の角に目でしょうね。それ以外も使えますがやはりこの二つは……ふふっ、ははっ」
「じゃあそれ以外はここに置いていくか」
「なんともったいない!? 金の山ですよ!」
「そうは言っても持ち帰ることできないし」
角だけで1メートル近くはあるのでそれを10本と目玉を持って帰るだけでも随分と重労働だ。
有り余るほど金が欲しいわけでもなく、後日ここに何度も往復しに来るのも手間なので捨て去ろうとしたヘクターだが、それを止めようとするのはアーデンだ。
巨人の肉体は様々な薬品の材料になるのでキロ単価こそ角や目に比べれば安いが、それでも大きな金になる。
「なら俺らがこれを代わりに持って帰るから代金の半分! いや4分の1をくれよ!」
「ちょっとアーデン!」
「いいよ別に。でもどうやってこれ持って帰るつもりなの?」
「こんな事もあろうかと、俺らにはとっておきの魔法道具があるんだ」
「皮袋? 随分と大きいな」
「魔法の鞄さ。この中にこうして……」
どこから取り出したのか大きな袋を取り出したアーデンだが、とてもではないがそれに全部入るかと聞かれれば無理だ。
巨人の体躯に対して袋は足首まで入れれば埋まってしまいそうなもので、何をしているのかと訝しむヘクターとエスペルを前にアーデンは一切の躊躇なく作業を進める。
そうするとどうか、まるでマジックの様にするすると巨人の体は袋の中に取り込まれていく。
魔法によって空間拡張された袋はヘクター達の時代にはなかった技術であり、そんな代物をただの冒険者が持っていることに驚愕せざるおえない。
「ほら全部入った! これで今日は酒盛りだぁっ!」
「早く帰りましょう。神もそれを望まれています」
「もちろん貴方達二人も来るでしょ?」
「それがいい! 実質奢ってもらうみたいなもんだけど、俺らが金を出すよ!」
「じゃあお言葉に甘えて」
「そうと決まれば早く帰ろう! 今日は大収穫だ!!」
人の世界の進化とは、これほどまでのものだったのか。
300年の空白を紐解けば新たな歴史が見られそうだと、ワクワクしながらヘクター達は街へと帰るのだった。
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