10 / 10
一章:1000年後の世界
09
しおりを挟む
不動産屋に入りある程度の説明を受けながら値段交渉を行っていたヘクターは、相手から放たされ言葉にふと持っていたペンをポトリと落としてしまった。
「率直に言いますと無理です」
落ちたペンの音だけが部屋の中を支配し、ヘクターもその両隣にいる少女も目をパチクリとさせながら何を言われたのか理解していないというふうな顔をしている。
金額についての説明も現段階ではされていない状況で有り、この街の不動産屋のシステムについて歩いてどあらましを聞いただけにすぎない。
そんな状況下でいきなり契約は無理だと言われると驚いてしまうのも無理はないだろう。
そんなヘクターの心情を察してか店員は話を続ける。
「まず信頼情報が足りていません。身分証などはもちろん確認いたしましたが、取引相手としてこの街に来たばかりの人を相手にする以上は前金で全額納付、というのが条件になります。
次に管理についてです。あの教会は近辺の森全てをその土地保有として含めており、管理には最低でも成人男性がダース単位で必要になるんですよ。
それだけの人数を申し訳ありませんが用意できるようには見えません」
一番最初の部分である身分証の確認というのは確かに納得がいく。
ヘクターだって他所ものがいきなり大口の取引を持ちかけてきたら、相手の個人情報を握っていたとしても断るだろう。
金額を先に全部納めてから購入しろという点に関しては納得しているし、むしろそれを考えていなかったことを恥じる感情すらある。
ただ後者に関しては口を挟む余地はあるだろう。
管理に必要な人間について聞くのであれば、そもそもあの森はまともに管理されていないというのがヘクターの言葉である。
実際のところ店員が取り出してきたあの教会についての概要も一体いつのものか分からないほど古い紙に描かれたものであり、店員もその存在を知らなかったようだ。
結局のところ事務的に対処しているだけなのだろうが、だとすれば多少の融通を利かせてくれてもいいだろう。
「そうは言いますがそちらも売れない土地がいつまでもあるのは困るでしょう?」
「売れますとも、この村はかつて勇者様が立ち寄ったこともあるとの伝承があります」
「そんな話どこの街だって大体ある。それにその埃だらけの紙に書かれた土地が当時の値段で売れるなら大きな利益でしょう?」
実際は立ち寄った場所ではなく住んでいた場所であり産まれた場所なのだが、千年も経っていればまともに話が通じているとはさすがにヘクターも思っていない。
自分が行った街の数を考えれば勇者が訪れたという話が残る街など無数にあすはずで、相手が出してきている条件というのは所詮他所物を弾くための言葉に過ぎないということは少し考えればわかる。
お願いをしにきているのではなく、交渉をしにきていると相手に理解させることだヘクターはようやく会話の場所を作り出すことに成功した。
「……いいでしょう。この書面に記された金額と同額を出せたら即座に引き渡します」
「その言葉忘れないでくださいね」
実際のところ手入れもしておらず権利の保有も怪しいレベルの建物を当時の値段で売れるのであれば、店側からしてみれば大きなな利益になる。
元手が実質0だと言うと言い過ぎかもしれないが、引き渡しや管理などにかかる手続きを全て飛ばして権利だけを渡すだけでまとまった金が手に入るなら店側としても文句はないのだろう。
商談が成立したことに感謝して店員と強く握手をしたヘクターは、そうして店を出るのだった。
店を出たヘクターに対して声をかけてきたのはエヴィであり、人の世界のルールについて目新しさを感じているようだある。
「それでどうやってお金を稼ぎますの?」
「いまから商売を始めたとして、あの家を稼ぐには結構時間がかかりそうだね」
「どこの国でも簡単にすぐに稼げる場所ってのはあるんだよ。特に治安の悪いところではね」
商売を始めると言うエスペルの考えは悪いものではない。
長期的な収益を考えるのであれば、なんらかの方法で金を安定して稼ぐようにできる方法を作っておくと言うのは大きなものだ。
ただ残念なことにいまから商売を始めたところでこの世界の常識を知らないヘクター達では市場調査から始めることになり、商売に発生にする権利的な問題も加味するとかなり長い日数がかかってしまうことは想像に難くない。
新規事業の開拓ができない場合は圧倒的な資金量がないと商売というのはうまくいかないというのがヘクターが教えてもらった商売の常識であり、その常識を信じているヘクターとしては商人という選択肢は頭の中になかった。
ではどのような方法で稼ぐようにするかと聞かれれば、自分が最も得意な物を使って稼ぎあげるしかないだろう。
「ここは闘技場かい? こんなところでどうやって大金を?」
「賭博だよ。多分あるはずだからさ」
ヘクター達がやってきたのは街の中にある闘技場。
基本的に人というのは血を見るのが好きな生物であり、闘技場と呼ばれるような人同士が戦えるような場所はある程度大きな街にはほとんどある。
基本的に表向きは賭博行為は禁止とされている場合が多いが、賭け事というのは一度定着してしまうと中々に離れない物であり実際のところ闘技場というのは実力者達が小銭を稼ぐ場所になっていた。
どうやって闘技場の試合に参加しようかと闘技場の周りをうろちょろとしていると、ふとエヴィが看板を見つける。
「ですが残念なことに専用のバイヤーか専属剣闘士として一年以上訓練を納めたもののみ出場を許可するとここに。それに相手を殺すのも禁止のようですわ」
「時代の流れ……か」
「魔王を倒した勇者が大衆の面前で膝を折ってるこの姿って多分すごく珍しいんじゃないかな」
「見る人が見ればお金すら払いそうですわ」
考えられる金を稼ぐ方法はこれただ一つ。
相手を殺すことを禁止とするルール自体は確かに良い物だと思うが、バイヤーか訓練を納めたものしか試合に出ることが出来なくなったのは
ただ単純にヘクターのような人間が闘技場を荒らしてまわっていたからだろう。
落ち込み膝を負っていたヘクターが看板の前で立ち往生していると、ふとそんなヘクターに声をかける存在がいた。
「なんだニイちゃん、闘技場に出たかったのか?」
「あ、はいそうなんです。久しぶりに出てみたかったんですけど出れないようで」
「帝国とかはいいらしいが、ここ王国に関していうのなら無理だからな。まぁ諦めるのが一番早いんだが……」
見るからに柄の悪い男はヘクターが持つ武器を見て、その次に両サイドに立っているエヴィとエスペルを見て何かを思いついたのかニヤリと笑みを浮かべる。
どこからどう見ても怪しい。
だがいまのヘクターからしてみればその怪しさこそ求めていたものだ。
「ここだけの話出る方法もある」
「その方法とは?」
「俺はバイヤーなんだがな? 連れてきた配下が逃げちまった。そこでお前さんってわけだ」
「なるほどなるほど」
口調や仕草からしておそらくは奴隷売買に関わっている人間だろう。
腰にぶら下げた鍵からはジャラジャラという音が聞こえてくるし、匂いを消してはいるものの鼻の奥にツンと来る匂いは風呂に入っていない奴隷がいるような場所に行ったからだ。
ヘクター達に声をかけてきたのは他所の街からいまのヘクターと同じようにして遊びにきた人間に声をかけるため。
タイミングがいいのは単純に機会を待っていたからにすぎない。
「それなりに腕に覚えがあるんだろ? なら話ははやい。利益は5対5でどうだ?」
「それで金貨100はどれくらいやれば稼げる?」
「金貨百枚? それくらい余裕だ。にいちゃんが試合に出てくれるなら前金として利益に関係なくこの嬢ちゃんたちに100枚渡しておく。どうだ?」
「乗った」
金貨百枚と言えばヘクターが生きていた頃なら一般家庭が10年は軽く生きていられるだけの金額になる。
いまの紙幣価値が昔と同じかどうかは怪しいところだが、それでも少ないという事はないだろう。
相手がこちらを利用しようとしている事を理解しつつ、それすらも問題ないと判断したヘクターは相手の言葉を受け入れる。
そうしてトントン拍子に話が進み、いつのまにかヘクターは闘技場に立っていた。
「さて皆さん準備はよろしいでしょうか!!」
砂と石塊が足元を埋め尽くしており、身体を隠せるような場所はどこにもない。
辺り一体に漂う鉄の香りはいままでここで流されてきた血の量の証明であり、砂を軽く蹴り飛ばしてみれば下から出てくるのは人の何かだ。
闘技場としては普通の光景、だがヘクターとしてはそんな闘技場の光景が懐かしく思える。
「いまから始まりますはこの王国でだけ見られる唯一のイベント! 神獣と名高いかの森の王フェンリル! その末裔と男達の戦いです!」
フェンリルの名前を聞いて観客達がどよめいた。
森の王にして月の使者であり、人がけして勝つことのできない存在と言われるフェンリル。
闘技場にこうして出てくるのは一体いつぶりのことだろうか。
対戦相手を基本的には選べない闘技場において、唯一指名しなければ戦うことのできない相手がフェンリルなのだが、フェンリルを相手しようとする命知らずなどここ数十年一度も現れていない。
観客達が驚いたのはそんなフェンリルに対して無謀にも挑もうとする人間がまだいたことに対しての驚きだ。
「神話に語られるオオカミの力を前にして、人がどれだけ抗えるのかみてみたいとは思いませんか!?」
司会の問いかけに対して体が震えるほどの歓声が湧き上がる。
彼らが見たいのはヘクターが人としての可能性を示してフェンリルを打ち倒すところではなく、自信満々にもフェンリルとの勝負を選んだ愚かな人間が食い殺されるところだ。
フェンリルを保管していた檻が開けられ、首輪を取り付けられた白狼がその姿を表す。
野生で出会えば誇り高いその姿はいまやどこにもなく、そこにあるのは所詮人の手に堕ちてしまった獣の姿だ。
ただ目だけは腐り切っておらずヘクータを睨みつける目には光が宿っているようにも見える。
「この試合に限り生死は問わず、戦闘能力がなくなったとみなされた時点で試合は決着です! では開始ィ!!」
改めて生死不問であることが言い渡されると会場は大いに湧き始める。
そうして始まった闘技場でのフェンリルとの一騎打ち、ヘクターは自分の家を確保するためにその重い腰を上げて剣を手に取るのだった。
「率直に言いますと無理です」
落ちたペンの音だけが部屋の中を支配し、ヘクターもその両隣にいる少女も目をパチクリとさせながら何を言われたのか理解していないというふうな顔をしている。
金額についての説明も現段階ではされていない状況で有り、この街の不動産屋のシステムについて歩いてどあらましを聞いただけにすぎない。
そんな状況下でいきなり契約は無理だと言われると驚いてしまうのも無理はないだろう。
そんなヘクターの心情を察してか店員は話を続ける。
「まず信頼情報が足りていません。身分証などはもちろん確認いたしましたが、取引相手としてこの街に来たばかりの人を相手にする以上は前金で全額納付、というのが条件になります。
次に管理についてです。あの教会は近辺の森全てをその土地保有として含めており、管理には最低でも成人男性がダース単位で必要になるんですよ。
それだけの人数を申し訳ありませんが用意できるようには見えません」
一番最初の部分である身分証の確認というのは確かに納得がいく。
ヘクターだって他所ものがいきなり大口の取引を持ちかけてきたら、相手の個人情報を握っていたとしても断るだろう。
金額を先に全部納めてから購入しろという点に関しては納得しているし、むしろそれを考えていなかったことを恥じる感情すらある。
ただ後者に関しては口を挟む余地はあるだろう。
管理に必要な人間について聞くのであれば、そもそもあの森はまともに管理されていないというのがヘクターの言葉である。
実際のところ店員が取り出してきたあの教会についての概要も一体いつのものか分からないほど古い紙に描かれたものであり、店員もその存在を知らなかったようだ。
結局のところ事務的に対処しているだけなのだろうが、だとすれば多少の融通を利かせてくれてもいいだろう。
「そうは言いますがそちらも売れない土地がいつまでもあるのは困るでしょう?」
「売れますとも、この村はかつて勇者様が立ち寄ったこともあるとの伝承があります」
「そんな話どこの街だって大体ある。それにその埃だらけの紙に書かれた土地が当時の値段で売れるなら大きな利益でしょう?」
実際は立ち寄った場所ではなく住んでいた場所であり産まれた場所なのだが、千年も経っていればまともに話が通じているとはさすがにヘクターも思っていない。
自分が行った街の数を考えれば勇者が訪れたという話が残る街など無数にあすはずで、相手が出してきている条件というのは所詮他所物を弾くための言葉に過ぎないということは少し考えればわかる。
お願いをしにきているのではなく、交渉をしにきていると相手に理解させることだヘクターはようやく会話の場所を作り出すことに成功した。
「……いいでしょう。この書面に記された金額と同額を出せたら即座に引き渡します」
「その言葉忘れないでくださいね」
実際のところ手入れもしておらず権利の保有も怪しいレベルの建物を当時の値段で売れるのであれば、店側からしてみれば大きなな利益になる。
元手が実質0だと言うと言い過ぎかもしれないが、引き渡しや管理などにかかる手続きを全て飛ばして権利だけを渡すだけでまとまった金が手に入るなら店側としても文句はないのだろう。
商談が成立したことに感謝して店員と強く握手をしたヘクターは、そうして店を出るのだった。
店を出たヘクターに対して声をかけてきたのはエヴィであり、人の世界のルールについて目新しさを感じているようだある。
「それでどうやってお金を稼ぎますの?」
「いまから商売を始めたとして、あの家を稼ぐには結構時間がかかりそうだね」
「どこの国でも簡単にすぐに稼げる場所ってのはあるんだよ。特に治安の悪いところではね」
商売を始めると言うエスペルの考えは悪いものではない。
長期的な収益を考えるのであれば、なんらかの方法で金を安定して稼ぐようにできる方法を作っておくと言うのは大きなものだ。
ただ残念なことにいまから商売を始めたところでこの世界の常識を知らないヘクター達では市場調査から始めることになり、商売に発生にする権利的な問題も加味するとかなり長い日数がかかってしまうことは想像に難くない。
新規事業の開拓ができない場合は圧倒的な資金量がないと商売というのはうまくいかないというのがヘクターが教えてもらった商売の常識であり、その常識を信じているヘクターとしては商人という選択肢は頭の中になかった。
ではどのような方法で稼ぐようにするかと聞かれれば、自分が最も得意な物を使って稼ぎあげるしかないだろう。
「ここは闘技場かい? こんなところでどうやって大金を?」
「賭博だよ。多分あるはずだからさ」
ヘクター達がやってきたのは街の中にある闘技場。
基本的に人というのは血を見るのが好きな生物であり、闘技場と呼ばれるような人同士が戦えるような場所はある程度大きな街にはほとんどある。
基本的に表向きは賭博行為は禁止とされている場合が多いが、賭け事というのは一度定着してしまうと中々に離れない物であり実際のところ闘技場というのは実力者達が小銭を稼ぐ場所になっていた。
どうやって闘技場の試合に参加しようかと闘技場の周りをうろちょろとしていると、ふとエヴィが看板を見つける。
「ですが残念なことに専用のバイヤーか専属剣闘士として一年以上訓練を納めたもののみ出場を許可するとここに。それに相手を殺すのも禁止のようですわ」
「時代の流れ……か」
「魔王を倒した勇者が大衆の面前で膝を折ってるこの姿って多分すごく珍しいんじゃないかな」
「見る人が見ればお金すら払いそうですわ」
考えられる金を稼ぐ方法はこれただ一つ。
相手を殺すことを禁止とするルール自体は確かに良い物だと思うが、バイヤーか訓練を納めたものしか試合に出ることが出来なくなったのは
ただ単純にヘクターのような人間が闘技場を荒らしてまわっていたからだろう。
落ち込み膝を負っていたヘクターが看板の前で立ち往生していると、ふとそんなヘクターに声をかける存在がいた。
「なんだニイちゃん、闘技場に出たかったのか?」
「あ、はいそうなんです。久しぶりに出てみたかったんですけど出れないようで」
「帝国とかはいいらしいが、ここ王国に関していうのなら無理だからな。まぁ諦めるのが一番早いんだが……」
見るからに柄の悪い男はヘクターが持つ武器を見て、その次に両サイドに立っているエヴィとエスペルを見て何かを思いついたのかニヤリと笑みを浮かべる。
どこからどう見ても怪しい。
だがいまのヘクターからしてみればその怪しさこそ求めていたものだ。
「ここだけの話出る方法もある」
「その方法とは?」
「俺はバイヤーなんだがな? 連れてきた配下が逃げちまった。そこでお前さんってわけだ」
「なるほどなるほど」
口調や仕草からしておそらくは奴隷売買に関わっている人間だろう。
腰にぶら下げた鍵からはジャラジャラという音が聞こえてくるし、匂いを消してはいるものの鼻の奥にツンと来る匂いは風呂に入っていない奴隷がいるような場所に行ったからだ。
ヘクター達に声をかけてきたのは他所の街からいまのヘクターと同じようにして遊びにきた人間に声をかけるため。
タイミングがいいのは単純に機会を待っていたからにすぎない。
「それなりに腕に覚えがあるんだろ? なら話ははやい。利益は5対5でどうだ?」
「それで金貨100はどれくらいやれば稼げる?」
「金貨百枚? それくらい余裕だ。にいちゃんが試合に出てくれるなら前金として利益に関係なくこの嬢ちゃんたちに100枚渡しておく。どうだ?」
「乗った」
金貨百枚と言えばヘクターが生きていた頃なら一般家庭が10年は軽く生きていられるだけの金額になる。
いまの紙幣価値が昔と同じかどうかは怪しいところだが、それでも少ないという事はないだろう。
相手がこちらを利用しようとしている事を理解しつつ、それすらも問題ないと判断したヘクターは相手の言葉を受け入れる。
そうしてトントン拍子に話が進み、いつのまにかヘクターは闘技場に立っていた。
「さて皆さん準備はよろしいでしょうか!!」
砂と石塊が足元を埋め尽くしており、身体を隠せるような場所はどこにもない。
辺り一体に漂う鉄の香りはいままでここで流されてきた血の量の証明であり、砂を軽く蹴り飛ばしてみれば下から出てくるのは人の何かだ。
闘技場としては普通の光景、だがヘクターとしてはそんな闘技場の光景が懐かしく思える。
「いまから始まりますはこの王国でだけ見られる唯一のイベント! 神獣と名高いかの森の王フェンリル! その末裔と男達の戦いです!」
フェンリルの名前を聞いて観客達がどよめいた。
森の王にして月の使者であり、人がけして勝つことのできない存在と言われるフェンリル。
闘技場にこうして出てくるのは一体いつぶりのことだろうか。
対戦相手を基本的には選べない闘技場において、唯一指名しなければ戦うことのできない相手がフェンリルなのだが、フェンリルを相手しようとする命知らずなどここ数十年一度も現れていない。
観客達が驚いたのはそんなフェンリルに対して無謀にも挑もうとする人間がまだいたことに対しての驚きだ。
「神話に語られるオオカミの力を前にして、人がどれだけ抗えるのかみてみたいとは思いませんか!?」
司会の問いかけに対して体が震えるほどの歓声が湧き上がる。
彼らが見たいのはヘクターが人としての可能性を示してフェンリルを打ち倒すところではなく、自信満々にもフェンリルとの勝負を選んだ愚かな人間が食い殺されるところだ。
フェンリルを保管していた檻が開けられ、首輪を取り付けられた白狼がその姿を表す。
野生で出会えば誇り高いその姿はいまやどこにもなく、そこにあるのは所詮人の手に堕ちてしまった獣の姿だ。
ただ目だけは腐り切っておらずヘクータを睨みつける目には光が宿っているようにも見える。
「この試合に限り生死は問わず、戦闘能力がなくなったとみなされた時点で試合は決着です! では開始ィ!!」
改めて生死不問であることが言い渡されると会場は大いに湧き始める。
そうして始まった闘技場でのフェンリルとの一騎打ち、ヘクターは自分の家を確保するためにその重い腰を上げて剣を手に取るのだった。
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない
丙 あかり
ファンタジー
ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。
しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。
王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。
身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。
翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。
パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。
祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。
アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。
「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」
一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。
「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。
******
週3日更新です。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる