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幼少期:共和国編 改修中
共和国観光
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次の日。
共和国観光のためにそれぞれ分かれて共和国の首都を堪能するエルピス達の姿がそこにはあった。
冒険者組合からの依頼をこなすまで残り2週間。
残された時間はそれなりにあるように感じられるが、エルピスは一分一秒を見逃すことがもったいないとばかりに忙しなく動き回りながら共和国の名産である料理を楽しんでいた。
「ほれおいひいよセラ」
「食べながら喋るのは行儀悪いわよエルピス。でも美味しいわね」
セラと一緒に先程買ってきたばかりの料理を楽しみながら、エルピスは次はどこに行こうかと先程買った街の地図を広げる。
雨の量が多いからか野菜や果物を使用して作られる食事が多いここ共和国では、ケーキなどの甘いものも特産品として扱っているらしい。
道中何度か高級なスイーツ店に足を運んでみても、やはり王国にあるスイーツ店とはまた違った味わいのある店が多い。
「それにしても、本当にこうして街中歩いてると目立つな」
「昨日言った通り、本当に誰でも買えるようになっているみたいよ。兵士も件数があまりに多すぎるのか露骨に使っていない限りはもう咎めもしないみたいだし」
最初は注意されていたことが処理側の負担があまりにも大きすぎて徐々に無視され始める。
それは緩やかに治安が崩壊に向かっている証だ。
街にいる兵士達の表情を見てみればどこか疲れ気味で覇気が感じられず、事件が起きても直ぐに反応できるかと言われると正直怪しいものがある。
ジロジロ見ていたのが気に障ったのか兵士の一人に睨みつけられ長居するべきではないと判断したエルピスがその場を後にしようとすると、ふと後ろから声をかけられた。
「あ、あの、これ落としましたよ」
「気が付かなかったよ、ありがとう、お名前は?」
「私はステラっていいます!」
そう言ってステラが手渡してきたのはエルピスのポケットに入っていたはずのハンカチだ。
どうやら気が付かない間に落としてしまっていたらしく、彼女に感謝の言葉を述べながらエルピスはそれを受け取る。
見た目からして年齢は7歳前後と言ったところか。
着ている服はボロボロで、食事もまともに取れていなさそうである。
不安と期待を合わせたようなまなざしでこちらを見てくる彼女に対し、エルピスは近寄って腰を下げ目線を合わせると優しく言葉を投げかける。
「ステラちゃんか、いい名前だね。お礼をするよ、何か食べたいものはある?」
「いいの!?」
「いいよ。好きな物なんでもどうぞ」
目をキラキラと輝かせながらこっちこっちと引っ張ってくる彼女に連れられるがままエルピスはいくつかの店を訪れる。
「あ、あの、これください」
横からこれ見よがしに金を出すのも彼女に対して失礼だろう。
そう思ったエルピスが事前に渡した金を不安げに彼女が差し出すと、店主はちらりとエルピスの方を見てから言葉を発する。
「全部で銀貨4枚だ……まいどあり」
「ありがとうございます!」
店主に少し苦い顔をされながらも両手に持てるギリギリの量まで食べ物を購入した彼女は、初めて買い物をしたかのようにドキドキとした表情で商品を貰うと癖なのか辺りをきょろきょろと見まわしてからエルピス達の方へと戻ってくる。
「あの、ありがとうございます。こんなにたくさん」
「大丈夫ですよ。持っていくの大変なら手伝いましょうか?」
「あ、あの、えっと……」
エルピスからの提案を受けて戸惑うステラ。
子供一人だけでこれほどの食料を抱えていたら奪われてしまうかもしれないのが、いまの共和国の首都だ。
腰に剣を指し神域の効果で周囲を常に警戒している明らかに冒険者の様相をしたエルピスに比べて、彼女の目から見たこの街は魔物が跋扈している森の中とそう変わらないだろう。
だが大量に食べ物を購入した手前、果たして付いて来てもらっていいのかどうか。
更に付け加えればエルピスの素性もまだよくわかっていないので、ここまで親切にしてくるという事は実はだましてきている人攫いなのではと思われていてもおかしくはない。
ここで無理に押せば怪しさが増すだけ。
さすがに本当に一人で返すと何かに巻き込まれるかもしれないので、最悪は後ろから付いて行って見守るしかないだろう。
そう思って居たエルピスの横でセラが何かを小さな女の子にぽそぽそと呟くと、彼女は途端に笑顔を見せる。
「本当に!? ………なら付いて来てもらってもいいですか?」
「いいよ。さすがに一人じゃ危ないからね」
「ありがとうございます!」
受け入れてくれたのはやりやすくて大変喜ばしい事だが、いったいどんな魔法を使ったのか。
視線を向けてみてもセラから返ってくるのはただの微笑みで、何をしたのかと聞きたいもののステラも居る手前あまり踏み入って聞くこともできない。
そうして街中を案内されるがままに進んでいったエルピスは、気が付けば日の光も入ってこないような薄暗い場所に立っていた。
すれ違えば肩がぶつかる程狭い道を縫うように歩いていき、道中何度かステラが声をかけられるたびに威圧しながら進んで更に数十分。
ステラの足の速度に合わせているので時間がかかるのもあるが、それにしたってこれほどの距離を歩いて来ていたのかと思うと少し胸も痛む。
「お母さん、帰ったよ!」
外と内を隔てるにはあまりにも弱弱しいぼろ布一枚を超えて、ステラはおそらく家であろう場所に帰っていく。
元々は排水場として使われていたトンネルの跡地なのだろう。
奥を廃材で防ぎ、6畳少々の屋根がある空間をなんとかして作ったらしい。
ちらりと見えた室内には寝床もあるしテーブルのようなモノや服などを干すための場所だってある。
生活感を感じられる室内にどうやらなんとか日々の生活は送れているらしいと思いつつも、エルピスは失礼しますと先に言ってからステラの後を追って家の中へと入って行く。
「おかえりなさい……その人達は?」
ステラの母親だろう。
彼女にそっくりな女性が一人、
ベッドに横たわり母としての表情でステラを見ていた彼女は、あとから入ってきたエルピスを見つけると途端に鋭い目つきに変わりゆっくりと上体を起こす。
服装以外はまだ問題の無かったステラとは違い、親の方はどこからどう見ても何らかの病気を抱えている。
荒れた肌や髪はこの場所で生きているのだから仕方がない事だと思うが、青白くなってしまった肌や起き上がっただけで堪えているが咳も出ている。
「初めまして、私はアルへオ家長男。エルピス・アルへオと申します。こちら冒険者組合の組合証です」
「あ、アルへオ家!? それにその名前って長男の……」
「ご存じ頂けていて良かったです。お嬢さんに落とし物を拾っていただいたのでお礼として食べ物を少しごちそうさせていただきました」
「みてお母さん! こんなにあるの!」
嬉しそうに自分の手の中にある食べ物を見せるステラの姿を見て、母親も嬉しそうな顔を見せる。
こちらの立場が分かったうえに身元も割れたので多少は心を許せるようになったのか、母親の体制も先程よりは警戒する様な素振りがなくなっていた。
これでようやくまともに話が出来るかと安堵しつつ、エルピスは収納庫から椅子を取り出してその場に置き座る。
「なんとお礼を言っていいものか。本当にありがとうございます」
「いえ、こちらとしても聞きたいことがいくつかありましてね。セラ、悪いけどステラちゃんを外に連れてってもらえる?」
「ええ。ほら外でお話ししましょうステラちゃん」
セラに頼んで少女を呼び出してもらったエルピスは、警戒の色を強める母親に対してなるべく落ち着いた声音で問いかける。
「お礼の代わりと言っては何ですが、聞きたいことがいくつかあります。貴方達に関係する話も出てくるかもしれないので、いやな質問だったら答えてもらわなくても構いません。質問しても?」
「……どうぞ」
警戒心は更に目に見えて強くなった。
もう少し良い聞き方をすればよかったなと思いつつ、こういう事は苦手なのでさくっと終わらせてしまおうとエルピスは問いかける。
「それでは一つ目の質問です。最近共和国ではどうやら薬が流行っているようですが、いつからかお聞きしても?」
「……3年は前の事です。最初は噂程度だったのに、気が付けば誰しもが手をつけ始めて、気が付けば周りは薬の使用者だらけになってしまいました」
アウローラの事件が有ったのが5年ほど前。
その事件を引き起こした共和国の盟主の一人をエルピスが裏で手を引いて失脚させたのが4年前。
直接手を下しているわけではないが、今回の一件はエルピスが共和国の政治のバランスを崩した影響の延長線上にあることは間違いない。
やられたからやり返した。
そこには一かけらの後悔も無いが、こうして巻き込まれた人を相手にすれば思うところも出てくるものだ。
「そうですか。ありがとうございます。売っている人や場所が集まるところに心辺りはありますか?」
「……この水路の先、街の地下に広がる水路のどこかにアジトがあると噂はされています。ですがこの首都が出来てからいまこの瞬間まで拡張が続けられ、国の人でも全貌を知らない水路を探るなんて不可能です」
「いえ、そこまで分かれば大丈夫です。とりあえず安全のために部屋を用意しますよ、3週間ほどこちらで部屋を用意したいと思いますが、いまから動いても大丈夫ですか?」
「……………………」
母親からの返答はない。
先程までから変わらず、なぜこんなことをしてくれるのだろうかと言いたげだ。
はっきりと彼女に言ってしまうならば運がよかった、彼女の子供がよい子だったからこそ偶然が彼女達を味方した。
それ以上でもそれ以下でもなく、この街の情勢を知れるのであれば別に彼女達である必要はまるでなかったのだ。
ただそれを伝えても相手が良い気分にならない事はだれでも分かるだろう。
「アルへオ家の人間として、国が荒れているのは見ていられませんから。信用できないのであれば断っていただいても構いません」
「……分かりました、申し訳ありませんがご厚意にあずからせていただきたいと思います」
渋々といった雰囲気ではあるが、それでも少なくとも首は縦に振ってくれたのでそれでよいとしよう。
本当はもう少し関係性を深めてから話を進めるべきかもしれないが、どうにもこういった事が苦手なエルピスはとりあえず帰ってアウローラ達に相談したかった。
(アルへオ家の分家が一つでも有ったら大分楽になったんだろうけど、いつぞやの一件以来共和国からは完全に手を引いたから頼れる相手も居ないんだよなぁ)
そんなことを思いながらもエルピスは外で話をしているセラ達を連れて行くために家の外にでる。
楽しそうに遊んでいる彼女達を連れて、エルピスは一旦宿屋へと戻るのであった。
共和国観光のためにそれぞれ分かれて共和国の首都を堪能するエルピス達の姿がそこにはあった。
冒険者組合からの依頼をこなすまで残り2週間。
残された時間はそれなりにあるように感じられるが、エルピスは一分一秒を見逃すことがもったいないとばかりに忙しなく動き回りながら共和国の名産である料理を楽しんでいた。
「ほれおいひいよセラ」
「食べながら喋るのは行儀悪いわよエルピス。でも美味しいわね」
セラと一緒に先程買ってきたばかりの料理を楽しみながら、エルピスは次はどこに行こうかと先程買った街の地図を広げる。
雨の量が多いからか野菜や果物を使用して作られる食事が多いここ共和国では、ケーキなどの甘いものも特産品として扱っているらしい。
道中何度か高級なスイーツ店に足を運んでみても、やはり王国にあるスイーツ店とはまた違った味わいのある店が多い。
「それにしても、本当にこうして街中歩いてると目立つな」
「昨日言った通り、本当に誰でも買えるようになっているみたいよ。兵士も件数があまりに多すぎるのか露骨に使っていない限りはもう咎めもしないみたいだし」
最初は注意されていたことが処理側の負担があまりにも大きすぎて徐々に無視され始める。
それは緩やかに治安が崩壊に向かっている証だ。
街にいる兵士達の表情を見てみればどこか疲れ気味で覇気が感じられず、事件が起きても直ぐに反応できるかと言われると正直怪しいものがある。
ジロジロ見ていたのが気に障ったのか兵士の一人に睨みつけられ長居するべきではないと判断したエルピスがその場を後にしようとすると、ふと後ろから声をかけられた。
「あ、あの、これ落としましたよ」
「気が付かなかったよ、ありがとう、お名前は?」
「私はステラっていいます!」
そう言ってステラが手渡してきたのはエルピスのポケットに入っていたはずのハンカチだ。
どうやら気が付かない間に落としてしまっていたらしく、彼女に感謝の言葉を述べながらエルピスはそれを受け取る。
見た目からして年齢は7歳前後と言ったところか。
着ている服はボロボロで、食事もまともに取れていなさそうである。
不安と期待を合わせたようなまなざしでこちらを見てくる彼女に対し、エルピスは近寄って腰を下げ目線を合わせると優しく言葉を投げかける。
「ステラちゃんか、いい名前だね。お礼をするよ、何か食べたいものはある?」
「いいの!?」
「いいよ。好きな物なんでもどうぞ」
目をキラキラと輝かせながらこっちこっちと引っ張ってくる彼女に連れられるがままエルピスはいくつかの店を訪れる。
「あ、あの、これください」
横からこれ見よがしに金を出すのも彼女に対して失礼だろう。
そう思ったエルピスが事前に渡した金を不安げに彼女が差し出すと、店主はちらりとエルピスの方を見てから言葉を発する。
「全部で銀貨4枚だ……まいどあり」
「ありがとうございます!」
店主に少し苦い顔をされながらも両手に持てるギリギリの量まで食べ物を購入した彼女は、初めて買い物をしたかのようにドキドキとした表情で商品を貰うと癖なのか辺りをきょろきょろと見まわしてからエルピス達の方へと戻ってくる。
「あの、ありがとうございます。こんなにたくさん」
「大丈夫ですよ。持っていくの大変なら手伝いましょうか?」
「あ、あの、えっと……」
エルピスからの提案を受けて戸惑うステラ。
子供一人だけでこれほどの食料を抱えていたら奪われてしまうかもしれないのが、いまの共和国の首都だ。
腰に剣を指し神域の効果で周囲を常に警戒している明らかに冒険者の様相をしたエルピスに比べて、彼女の目から見たこの街は魔物が跋扈している森の中とそう変わらないだろう。
だが大量に食べ物を購入した手前、果たして付いて来てもらっていいのかどうか。
更に付け加えればエルピスの素性もまだよくわかっていないので、ここまで親切にしてくるという事は実はだましてきている人攫いなのではと思われていてもおかしくはない。
ここで無理に押せば怪しさが増すだけ。
さすがに本当に一人で返すと何かに巻き込まれるかもしれないので、最悪は後ろから付いて行って見守るしかないだろう。
そう思って居たエルピスの横でセラが何かを小さな女の子にぽそぽそと呟くと、彼女は途端に笑顔を見せる。
「本当に!? ………なら付いて来てもらってもいいですか?」
「いいよ。さすがに一人じゃ危ないからね」
「ありがとうございます!」
受け入れてくれたのはやりやすくて大変喜ばしい事だが、いったいどんな魔法を使ったのか。
視線を向けてみてもセラから返ってくるのはただの微笑みで、何をしたのかと聞きたいもののステラも居る手前あまり踏み入って聞くこともできない。
そうして街中を案内されるがままに進んでいったエルピスは、気が付けば日の光も入ってこないような薄暗い場所に立っていた。
すれ違えば肩がぶつかる程狭い道を縫うように歩いていき、道中何度かステラが声をかけられるたびに威圧しながら進んで更に数十分。
ステラの足の速度に合わせているので時間がかかるのもあるが、それにしたってこれほどの距離を歩いて来ていたのかと思うと少し胸も痛む。
「お母さん、帰ったよ!」
外と内を隔てるにはあまりにも弱弱しいぼろ布一枚を超えて、ステラはおそらく家であろう場所に帰っていく。
元々は排水場として使われていたトンネルの跡地なのだろう。
奥を廃材で防ぎ、6畳少々の屋根がある空間をなんとかして作ったらしい。
ちらりと見えた室内には寝床もあるしテーブルのようなモノや服などを干すための場所だってある。
生活感を感じられる室内にどうやらなんとか日々の生活は送れているらしいと思いつつも、エルピスは失礼しますと先に言ってからステラの後を追って家の中へと入って行く。
「おかえりなさい……その人達は?」
ステラの母親だろう。
彼女にそっくりな女性が一人、
ベッドに横たわり母としての表情でステラを見ていた彼女は、あとから入ってきたエルピスを見つけると途端に鋭い目つきに変わりゆっくりと上体を起こす。
服装以外はまだ問題の無かったステラとは違い、親の方はどこからどう見ても何らかの病気を抱えている。
荒れた肌や髪はこの場所で生きているのだから仕方がない事だと思うが、青白くなってしまった肌や起き上がっただけで堪えているが咳も出ている。
「初めまして、私はアルへオ家長男。エルピス・アルへオと申します。こちら冒険者組合の組合証です」
「あ、アルへオ家!? それにその名前って長男の……」
「ご存じ頂けていて良かったです。お嬢さんに落とし物を拾っていただいたのでお礼として食べ物を少しごちそうさせていただきました」
「みてお母さん! こんなにあるの!」
嬉しそうに自分の手の中にある食べ物を見せるステラの姿を見て、母親も嬉しそうな顔を見せる。
こちらの立場が分かったうえに身元も割れたので多少は心を許せるようになったのか、母親の体制も先程よりは警戒する様な素振りがなくなっていた。
これでようやくまともに話が出来るかと安堵しつつ、エルピスは収納庫から椅子を取り出してその場に置き座る。
「なんとお礼を言っていいものか。本当にありがとうございます」
「いえ、こちらとしても聞きたいことがいくつかありましてね。セラ、悪いけどステラちゃんを外に連れてってもらえる?」
「ええ。ほら外でお話ししましょうステラちゃん」
セラに頼んで少女を呼び出してもらったエルピスは、警戒の色を強める母親に対してなるべく落ち着いた声音で問いかける。
「お礼の代わりと言っては何ですが、聞きたいことがいくつかあります。貴方達に関係する話も出てくるかもしれないので、いやな質問だったら答えてもらわなくても構いません。質問しても?」
「……どうぞ」
警戒心は更に目に見えて強くなった。
もう少し良い聞き方をすればよかったなと思いつつ、こういう事は苦手なのでさくっと終わらせてしまおうとエルピスは問いかける。
「それでは一つ目の質問です。最近共和国ではどうやら薬が流行っているようですが、いつからかお聞きしても?」
「……3年は前の事です。最初は噂程度だったのに、気が付けば誰しもが手をつけ始めて、気が付けば周りは薬の使用者だらけになってしまいました」
アウローラの事件が有ったのが5年ほど前。
その事件を引き起こした共和国の盟主の一人をエルピスが裏で手を引いて失脚させたのが4年前。
直接手を下しているわけではないが、今回の一件はエルピスが共和国の政治のバランスを崩した影響の延長線上にあることは間違いない。
やられたからやり返した。
そこには一かけらの後悔も無いが、こうして巻き込まれた人を相手にすれば思うところも出てくるものだ。
「そうですか。ありがとうございます。売っている人や場所が集まるところに心辺りはありますか?」
「……この水路の先、街の地下に広がる水路のどこかにアジトがあると噂はされています。ですがこの首都が出来てからいまこの瞬間まで拡張が続けられ、国の人でも全貌を知らない水路を探るなんて不可能です」
「いえ、そこまで分かれば大丈夫です。とりあえず安全のために部屋を用意しますよ、3週間ほどこちらで部屋を用意したいと思いますが、いまから動いても大丈夫ですか?」
「……………………」
母親からの返答はない。
先程までから変わらず、なぜこんなことをしてくれるのだろうかと言いたげだ。
はっきりと彼女に言ってしまうならば運がよかった、彼女の子供がよい子だったからこそ偶然が彼女達を味方した。
それ以上でもそれ以下でもなく、この街の情勢を知れるのであれば別に彼女達である必要はまるでなかったのだ。
ただそれを伝えても相手が良い気分にならない事はだれでも分かるだろう。
「アルへオ家の人間として、国が荒れているのは見ていられませんから。信用できないのであれば断っていただいても構いません」
「……分かりました、申し訳ありませんがご厚意にあずからせていただきたいと思います」
渋々といった雰囲気ではあるが、それでも少なくとも首は縦に振ってくれたのでそれでよいとしよう。
本当はもう少し関係性を深めてから話を進めるべきかもしれないが、どうにもこういった事が苦手なエルピスはとりあえず帰ってアウローラ達に相談したかった。
(アルへオ家の分家が一つでも有ったら大分楽になったんだろうけど、いつぞやの一件以来共和国からは完全に手を引いたから頼れる相手も居ないんだよなぁ)
そんなことを思いながらもエルピスは外で話をしているセラ達を連れて行くために家の外にでる。
楽しそうに遊んでいる彼女達を連れて、エルピスは一旦宿屋へと戻るのであった。
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