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幼少期:共和国編 改修中
道中
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王都から出て三時間ほど。
かつて魔法の訓練のために何度か訪れた草地も通り過ぎ、辺りにはエルピスが見知ったような物は一つもない。
(牧歌的だなぁ……眠い)
親がこうなる事を見越してか事前に用意してくれていた馬車に乗り、眠たくなってきた目を擦ってエルピスは見送られた時の事を思い出す。
転移魔法や通話魔法でいつでも会えると言うのに、それでも涙を流してくれた王族達。
自分を師として仰いでくれた彼等との経験は何より得難い物だとエルピスは理解している。
荷台で眠るエラ達の姿を見ながら、これから先は自分がしっかりしなくてはとエルピスが考えていると、不意に隣から声がかかる。
「それにしても、まさかあのエルピスさんから声がかかるとは思ってもいなかったな」
そう口にしたのはエルピスが雇った冒険者パーティー、美食同盟の一員であるグスタフという青年だ。
エルピスが始めて王都を訪れた時、すなわち丸飯を売り込みに行った時なのだが、彼はその時一番に手をつけてくれた人物でもある。
いまのエルピスの年齢が15歳だから、美食同盟のメンバーとあの場で出会ったのは実に六年前ということになる。
相手がエルピスの事を覚えていないのも仕方のないことではあった。
「こらグスタフ! あんたまたそんな言葉遣いして、もっと礼儀正しくしなさいよ! すいませんエルピス様、こいつも悪気があったわけじゃないんです」
同じ冒険者であり雇用主でもあるエルピスだが、そもそもそれ以前に貴族と平民という隔絶した差がそこには存在する。
礼儀正しく振る舞おうとする彼女の姿は、冒険者としては珍しいが何もおかしな行動ではない。
「構いませんよ。それに貴方方とは初対面というわけでもないですし、助けられた恩もありますから、タメ口の方がいいくらいですよ?」
「私達がエルピス様を助けた事など無いように思うんですが…」
申し訳なさそうな顔をしながらそんな事を言う彼の名前は、確かディルだったか。
美食同盟のリーダーであり行動の端々から礼儀正しさが見える彼にそう言われると、本当に覚えていないんだろうと言うことを認識させられる。
五年も経っているのだから仕方ない事だろう、そう判断したエルピスは過去に会ったときの話をした。
「覚えてませんか? 丸飯屋の小さな店員、あれ俺ですよ」
「ーーえっ! あの時の子供、エルピスさんだったんですか!?」
どうやら思い出してくれたようで、エルピスはそっと胸をなでおろす。
初対面のお偉いさんよりは一度会ったことのある子供の方が馴染みやすいという物。
過去に会って居た事をお互いに認識した事で、親近感も多少は増して随分と場の雰囲気は楽になる。
「あの時は小さかったですから、覚えてないのも無理は有りませんけどね」
思えば丸飯の販売を始めてから、かなりの時間がたった。
9歳の頃に販売を始めたのだから、六年ほどは経っているということだ。
捨てなければいけないものは捨ててきたし、捨てたとこによって見えるようになった価値観もある。
きっといまの自分と日本にいた頃の自分をつなぐものは、もう同級生と食べ物くらいしかない。
果たして久しぶりに会った同級生を見てどのような感情になるのだろうか。
考えても仕方のないことは横に置いておき、とりあえずまずはなんとかもう少し仲を深める所からだろう。
「タメ口はまぁ難しいでしょうが、もう少し砕けた口調でお願いします。三週間気を張りっぱなしなのも疲れますからね」
エルピスがそう言うと、冒険者達は困ったような顔を見せる。
貴族の位と最高位冒険者である事を示す札、その二つさえなければその要望はすんなりと通ったろうが、さすがにまだ抵抗感はある様子。
とはいえ本人にそう喋れと言われたならそうするしかなく、渋々と言った風にディルが口を開く。
「ならそうさせてもらうけど……そう言えばエルピスさんはどうして俺達を雇ったんだ? ある程度の話は聞いたが、冒険者としての知識ならそこにいる灰猫に聞けば良いと思うんだが」
そう言いながらディルが指を指すのは、エルピスの隣でスヤスヤと眠りについている灰猫だ。
本人が言っていた通り冒険者の間で噂になる程度には強いらしいこの灰猫。
確かに今まで一人で行動してきたらしいので、知識を教えて貰うには十分な相手だろう。
ぶっちゃけるとエルピスも出発前に同じ事を考えたが、今回の一件に関してはシンプルに順番の問題だ。
仮に灰猫の方を先に見つけていたなら組合に登録することもなく街を出ていたことは間違いない。
馬鹿正直にそらを告げる理由もないので適当な理由を並べ立てはするが。
「人数を集めれば盗賊が寄ってこないようになるからね。その点も危惧してだよ」
「なるほどな、確かにそれならうちのパーティーは良い具合に働けそうだ。なんてったってグスタフみたいなデカイのもいる事だしな」
「身体のデカさには自信があるぜ!」
「あと頭の悪さもね」
「言ったなこのヤロウ!」
ある程度の雑談を交わしたことで、ようやく美食同盟というパーティーの弱点と長所が見えてくる。
戦闘面に関して言えばまだ一度も見ていないのでなんとも言えないが、パーティーとしての完成度で言えばエルピスの予想していた基準値より遥かに上のようだった。
パーティー内でも男女が揃っていれば少しはギクシャクしている物だろうと思っていたが、別にそのような事はなく随分と楽しそうだ。
リーダーのディルが軽口を言い、それにサリアと呼ばれた魔法使いが軽口を重ね、グスタフにその軽口が飛んでいき、最後にアリアと呼ばれた僧侶が話を締める。
両親から理想的なパーティーは会話が円滑に進む物だと聞いたことがあるエルピスとしては、その答えが見られたようで非常に満足だ。
ーーそれから数時間後。
他愛もない雑談をしながら街道を進んでいると、不意に先行していたディルの馬の足が止まった。
「そろそろ暗くなって来たので、休めるところを探しましょうか」
「結構早く止まるもんなんですね?」
寝る場所を探し出したディルに向かって、エルピスは純粋な疑問を口にする。
別に急ぎの用があるわけでもないので止まることに問題はないが、まだ日没まではそれなりに時間があるように思えた。
「ここら一帯はまだ王都に近いから安全だけど、そろそろ盗賊達が現れてもおかしくない場所だからね。なるべく寝込みを襲われないようにここらで止まっておいたほうがいい」
「なるほどそういう事か……勉強になります!」
確かにそう言われて周囲の気配を探ってみれば、少し行った先の洞窟に人がいる気配を感じる。
おそらくこの気配が盗賊なのだろう。
ここから先に行けば盗賊達に襲われる可能性があるのは理解できたので、素直に納得してエルピス達も近くに馬車を止める。
「……ふわぁっ。今日はここで寝るの?」
「少し行った先に盗賊のアジトがあるらしいから今日はここまでだって。」
「了解っ。なんかした方がいい事ある?」
「うーん、どうだろうねぇ」
起きて来たアウローラに対してエルピスがそう言った理由は、ディル達が率先して寝床の確保などをしてくれているからだ。
魔獣などが入ってこないように障壁は既に貼ってあるし、何かあれば即座に対応できる自信もある。
食事などもここまでの道中に任せて欲しいと言われているので、正直に言ってやることが無いのが現状だ。
「まぁ手が空きそうなら料理手伝ってきたら? 材料は適当に出したやつ使っていいよ」
「分かったわ。ほらエラ起きなさい、行くわよ」
「……ね、寝てません!」
エルピスが手をつけ始めたのは魔物よけの設置である。
手のひらよりも少し大きい程度の魔石であり、両手で持たないと安定しないくらいには横幅も大きくて取り回しが悪い。
夜間に狙われないために設置するための物らしく、冒険者組合でも販売していたがこの世界で旅をするならば必需品だという事だ。
(こんなんでしっかりと効くのかな)
エルピスの手に握られているのは、少し大きめの魔石。
地面に挿せば周囲の魔力を吸うことで魔力が薄い空間を作り出すことができ、弱い魔物などはそのような空間を嫌う傾向にあるのでよってこないだとか。
実際のところどのようなものなのか分かっていないので説明された通りの効果を期待するしかないのだが、値段がそれなりにしたので大丈夫だとは思いたい。
「やっぱいいの使ってんなぁ。俺らが普段使ってる魔石とかサイズこれだよ?」
ふと横から覗き込んできていたグスタフがそんな事を言いながら魔石を取り出す。
その手の中に有ったのは5センチほどの小さな結晶で、エルピスが設置した物とは大分サイズに差がある。
「サイズによって何か違いあるんですか?」
「効果範囲が違うって聞いたけどどうなんだろうね? サリアとか詳しいイメージだけど」
「その認識であってるわよ。そのサイズならよっぽど広く陣地を張ってても大丈夫なはずよ」
「知らない間に意外といいの買わされてたっぽいですね」
エルピスは収納庫から机や椅子を取り出し草原の上に置いていく。
少し遠くで別の作業をしていた三人を呼び戻し、調理された料理を並べてそれぞれ用意された席へと座る。
完璧に調理された龍の肉はこの世界において至上の肉とされているが、それが過剰な表現ではない事がまだ口にしていないと言うのに匂いだけでそれがわかる。
早く口にしたいという思いをなんとか意志の力で抑えつけながら、みんなが座ったことを確認してから料理に対して深く頭を下げた。
この世界において手を合わせたり頂きますと言ったりする文化はそもそもなく、こうして出された料理に礼をするのがこの世界においての食事のマナーなのだ。
「んー! 美味しいっ! ……そう言えばだけど、エルピスはこのお肉食べても良いの?」
出された料理に舌鼓を打っていると、不意にアウローラからそんな疑問が投げかけられる。
一体なんのことかと少し頭を捻らせると、すぐに原因は分かった。
アウローラはエルピスが半人半龍だと言うことを知っているので、それを心配してのことなのだろう。
考えてみれば確かにそう言いたくなる気持ちも分かるなと思いながら、エルピスは笑って言葉を返す。
「大丈夫だよ、半人半龍とは言ってもそもそもこれは飛龍で、僕のお母さんは龍人だからね」
「そんなもんなの?」
「そんなもんさ」
食べる事に嫌悪感などは特にないし、そもそも今は半人半龍ですら無くなっているので、忌避感がないのも仕方のない事なのかもしれない。
体感的には人と猿というよりは人と他の哺乳類程の違いだ。
その後も手が止まる事もなく食事が終わり、エルピス達は就寝の為の寝床の準備を始めた。
「そういえばセラとかエラとかずっと寝てたけど、今からまた寝られるの?」
「私は大丈夫です、寝る為の訓練は一応されていますので」
「私も問題ないです」
「なら良かった」
私も気にしなさいと言わんばかりにアウローラがエルピスの事を見るが、エルピスからしてみれば常にぐうたらしている君なら、別にいまから寝ろと言われてもすぐに寝られるでしょという感じだ。
それぞれが自分達の寝る為の設備を整えて、日が沈み少し寒くなった夜を越えるために深い眠りにつくのだった。
かつて魔法の訓練のために何度か訪れた草地も通り過ぎ、辺りにはエルピスが見知ったような物は一つもない。
(牧歌的だなぁ……眠い)
親がこうなる事を見越してか事前に用意してくれていた馬車に乗り、眠たくなってきた目を擦ってエルピスは見送られた時の事を思い出す。
転移魔法や通話魔法でいつでも会えると言うのに、それでも涙を流してくれた王族達。
自分を師として仰いでくれた彼等との経験は何より得難い物だとエルピスは理解している。
荷台で眠るエラ達の姿を見ながら、これから先は自分がしっかりしなくてはとエルピスが考えていると、不意に隣から声がかかる。
「それにしても、まさかあのエルピスさんから声がかかるとは思ってもいなかったな」
そう口にしたのはエルピスが雇った冒険者パーティー、美食同盟の一員であるグスタフという青年だ。
エルピスが始めて王都を訪れた時、すなわち丸飯を売り込みに行った時なのだが、彼はその時一番に手をつけてくれた人物でもある。
いまのエルピスの年齢が15歳だから、美食同盟のメンバーとあの場で出会ったのは実に六年前ということになる。
相手がエルピスの事を覚えていないのも仕方のないことではあった。
「こらグスタフ! あんたまたそんな言葉遣いして、もっと礼儀正しくしなさいよ! すいませんエルピス様、こいつも悪気があったわけじゃないんです」
同じ冒険者であり雇用主でもあるエルピスだが、そもそもそれ以前に貴族と平民という隔絶した差がそこには存在する。
礼儀正しく振る舞おうとする彼女の姿は、冒険者としては珍しいが何もおかしな行動ではない。
「構いませんよ。それに貴方方とは初対面というわけでもないですし、助けられた恩もありますから、タメ口の方がいいくらいですよ?」
「私達がエルピス様を助けた事など無いように思うんですが…」
申し訳なさそうな顔をしながらそんな事を言う彼の名前は、確かディルだったか。
美食同盟のリーダーであり行動の端々から礼儀正しさが見える彼にそう言われると、本当に覚えていないんだろうと言うことを認識させられる。
五年も経っているのだから仕方ない事だろう、そう判断したエルピスは過去に会ったときの話をした。
「覚えてませんか? 丸飯屋の小さな店員、あれ俺ですよ」
「ーーえっ! あの時の子供、エルピスさんだったんですか!?」
どうやら思い出してくれたようで、エルピスはそっと胸をなでおろす。
初対面のお偉いさんよりは一度会ったことのある子供の方が馴染みやすいという物。
過去に会って居た事をお互いに認識した事で、親近感も多少は増して随分と場の雰囲気は楽になる。
「あの時は小さかったですから、覚えてないのも無理は有りませんけどね」
思えば丸飯の販売を始めてから、かなりの時間がたった。
9歳の頃に販売を始めたのだから、六年ほどは経っているということだ。
捨てなければいけないものは捨ててきたし、捨てたとこによって見えるようになった価値観もある。
きっといまの自分と日本にいた頃の自分をつなぐものは、もう同級生と食べ物くらいしかない。
果たして久しぶりに会った同級生を見てどのような感情になるのだろうか。
考えても仕方のないことは横に置いておき、とりあえずまずはなんとかもう少し仲を深める所からだろう。
「タメ口はまぁ難しいでしょうが、もう少し砕けた口調でお願いします。三週間気を張りっぱなしなのも疲れますからね」
エルピスがそう言うと、冒険者達は困ったような顔を見せる。
貴族の位と最高位冒険者である事を示す札、その二つさえなければその要望はすんなりと通ったろうが、さすがにまだ抵抗感はある様子。
とはいえ本人にそう喋れと言われたならそうするしかなく、渋々と言った風にディルが口を開く。
「ならそうさせてもらうけど……そう言えばエルピスさんはどうして俺達を雇ったんだ? ある程度の話は聞いたが、冒険者としての知識ならそこにいる灰猫に聞けば良いと思うんだが」
そう言いながらディルが指を指すのは、エルピスの隣でスヤスヤと眠りについている灰猫だ。
本人が言っていた通り冒険者の間で噂になる程度には強いらしいこの灰猫。
確かに今まで一人で行動してきたらしいので、知識を教えて貰うには十分な相手だろう。
ぶっちゃけるとエルピスも出発前に同じ事を考えたが、今回の一件に関してはシンプルに順番の問題だ。
仮に灰猫の方を先に見つけていたなら組合に登録することもなく街を出ていたことは間違いない。
馬鹿正直にそらを告げる理由もないので適当な理由を並べ立てはするが。
「人数を集めれば盗賊が寄ってこないようになるからね。その点も危惧してだよ」
「なるほどな、確かにそれならうちのパーティーは良い具合に働けそうだ。なんてったってグスタフみたいなデカイのもいる事だしな」
「身体のデカさには自信があるぜ!」
「あと頭の悪さもね」
「言ったなこのヤロウ!」
ある程度の雑談を交わしたことで、ようやく美食同盟というパーティーの弱点と長所が見えてくる。
戦闘面に関して言えばまだ一度も見ていないのでなんとも言えないが、パーティーとしての完成度で言えばエルピスの予想していた基準値より遥かに上のようだった。
パーティー内でも男女が揃っていれば少しはギクシャクしている物だろうと思っていたが、別にそのような事はなく随分と楽しそうだ。
リーダーのディルが軽口を言い、それにサリアと呼ばれた魔法使いが軽口を重ね、グスタフにその軽口が飛んでいき、最後にアリアと呼ばれた僧侶が話を締める。
両親から理想的なパーティーは会話が円滑に進む物だと聞いたことがあるエルピスとしては、その答えが見られたようで非常に満足だ。
ーーそれから数時間後。
他愛もない雑談をしながら街道を進んでいると、不意に先行していたディルの馬の足が止まった。
「そろそろ暗くなって来たので、休めるところを探しましょうか」
「結構早く止まるもんなんですね?」
寝る場所を探し出したディルに向かって、エルピスは純粋な疑問を口にする。
別に急ぎの用があるわけでもないので止まることに問題はないが、まだ日没まではそれなりに時間があるように思えた。
「ここら一帯はまだ王都に近いから安全だけど、そろそろ盗賊達が現れてもおかしくない場所だからね。なるべく寝込みを襲われないようにここらで止まっておいたほうがいい」
「なるほどそういう事か……勉強になります!」
確かにそう言われて周囲の気配を探ってみれば、少し行った先の洞窟に人がいる気配を感じる。
おそらくこの気配が盗賊なのだろう。
ここから先に行けば盗賊達に襲われる可能性があるのは理解できたので、素直に納得してエルピス達も近くに馬車を止める。
「……ふわぁっ。今日はここで寝るの?」
「少し行った先に盗賊のアジトがあるらしいから今日はここまでだって。」
「了解っ。なんかした方がいい事ある?」
「うーん、どうだろうねぇ」
起きて来たアウローラに対してエルピスがそう言った理由は、ディル達が率先して寝床の確保などをしてくれているからだ。
魔獣などが入ってこないように障壁は既に貼ってあるし、何かあれば即座に対応できる自信もある。
食事などもここまでの道中に任せて欲しいと言われているので、正直に言ってやることが無いのが現状だ。
「まぁ手が空きそうなら料理手伝ってきたら? 材料は適当に出したやつ使っていいよ」
「分かったわ。ほらエラ起きなさい、行くわよ」
「……ね、寝てません!」
エルピスが手をつけ始めたのは魔物よけの設置である。
手のひらよりも少し大きい程度の魔石であり、両手で持たないと安定しないくらいには横幅も大きくて取り回しが悪い。
夜間に狙われないために設置するための物らしく、冒険者組合でも販売していたがこの世界で旅をするならば必需品だという事だ。
(こんなんでしっかりと効くのかな)
エルピスの手に握られているのは、少し大きめの魔石。
地面に挿せば周囲の魔力を吸うことで魔力が薄い空間を作り出すことができ、弱い魔物などはそのような空間を嫌う傾向にあるのでよってこないだとか。
実際のところどのようなものなのか分かっていないので説明された通りの効果を期待するしかないのだが、値段がそれなりにしたので大丈夫だとは思いたい。
「やっぱいいの使ってんなぁ。俺らが普段使ってる魔石とかサイズこれだよ?」
ふと横から覗き込んできていたグスタフがそんな事を言いながら魔石を取り出す。
その手の中に有ったのは5センチほどの小さな結晶で、エルピスが設置した物とは大分サイズに差がある。
「サイズによって何か違いあるんですか?」
「効果範囲が違うって聞いたけどどうなんだろうね? サリアとか詳しいイメージだけど」
「その認識であってるわよ。そのサイズならよっぽど広く陣地を張ってても大丈夫なはずよ」
「知らない間に意外といいの買わされてたっぽいですね」
エルピスは収納庫から机や椅子を取り出し草原の上に置いていく。
少し遠くで別の作業をしていた三人を呼び戻し、調理された料理を並べてそれぞれ用意された席へと座る。
完璧に調理された龍の肉はこの世界において至上の肉とされているが、それが過剰な表現ではない事がまだ口にしていないと言うのに匂いだけでそれがわかる。
早く口にしたいという思いをなんとか意志の力で抑えつけながら、みんなが座ったことを確認してから料理に対して深く頭を下げた。
この世界において手を合わせたり頂きますと言ったりする文化はそもそもなく、こうして出された料理に礼をするのがこの世界においての食事のマナーなのだ。
「んー! 美味しいっ! ……そう言えばだけど、エルピスはこのお肉食べても良いの?」
出された料理に舌鼓を打っていると、不意にアウローラからそんな疑問が投げかけられる。
一体なんのことかと少し頭を捻らせると、すぐに原因は分かった。
アウローラはエルピスが半人半龍だと言うことを知っているので、それを心配してのことなのだろう。
考えてみれば確かにそう言いたくなる気持ちも分かるなと思いながら、エルピスは笑って言葉を返す。
「大丈夫だよ、半人半龍とは言ってもそもそもこれは飛龍で、僕のお母さんは龍人だからね」
「そんなもんなの?」
「そんなもんさ」
食べる事に嫌悪感などは特にないし、そもそも今は半人半龍ですら無くなっているので、忌避感がないのも仕方のない事なのかもしれない。
体感的には人と猿というよりは人と他の哺乳類程の違いだ。
その後も手が止まる事もなく食事が終わり、エルピス達は就寝の為の寝床の準備を始めた。
「そういえばセラとかエラとかずっと寝てたけど、今からまた寝られるの?」
「私は大丈夫です、寝る為の訓練は一応されていますので」
「私も問題ないです」
「なら良かった」
私も気にしなさいと言わんばかりにアウローラがエルピスの事を見るが、エルピスからしてみれば常にぐうたらしている君なら、別にいまから寝ろと言われてもすぐに寝られるでしょという感じだ。
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