46 / 276
幼少期編:王国
囚人
しおりを挟む
時は少し遡り、エルピスが黒服の男達との戦闘を行う数分前。
エルピスとの戦闘に負けた憂さ晴らしとして祭りで遊ぼうと、あちらこちらの屋台をアウローラがフィーユを引き連れて歩き回っていた時のことだった。
アウローラ自身、ただでさえ王国祭で他所の国から大量の人間が入ってきている上に、事前に危険人物が侵入して来ている事はなんとなく聞いているので警戒はしていた。
この国を代表する貴族の娘として命を狙われたことは一度や二度ではなく、前世では馴染みのなかった暗殺者という人物たちには随分と詳しくなったものだとアウローラ本人も自覚している。
ただ今回会場に向かう際の道中も一度酔った少年達が馬車に不用意に近付き過ぎてアルキゴスに酔い覚ましパンチを食らった以外には特に何も問題はなく、加えてエルピスが開発したらしい魔法の効果によって既に怪しい人物たちのほとんどが捕縛されているため王都は前代未聞というとなんだかおかしな響きであるが、少なくとも前例がないくらいには平和な場所になっていた。
王国祭初日の目玉である次期王達の大立ち回りに参加したアウローラは、その疲れを癒すためにとお忍びで王都をぐるぐると回って数年に一度の祭りを楽しむ。
とはいえ護衛を連れていないと少し怖いので宮廷魔術師を六人、兵士を四人、こんなにも大人を周りに囲っているとなんだか悪目立ちをしてしまうが、エルピスがいない状況でしかも法皇の娘であるフィーユもまとめての外出を許して貰うためにはこれが条件だったのだ。
知っている場所知らない場所、どんどん色々な屋台を巡って行き、少しずつ自分の胸に何か違和感が溜まっていくことに気がつく。
なんなのかはわからないが嫌な予感というのは意外と当たるもので、別に当たらなくても警戒するに越したことはない。
それを一応周辺にいる兵士達にも伝えつつ、その違和感の正体を詳しく探ろうともせず進んでいくとその違和感は現実となって現れる。
人通りが明らかに減っているのだ。
大きな通りというわけでない場所を歩いていたが、それでもいまの王都で人が点在するような通りなどほとんどありえない。
違和感を感じて即座に大通りへ向かって走ってみれば、それほど広くも狭くもない通りに複数の人影がアウローラ達を取り囲む。
高低差も特になく、家々に囲まれてすこし視界は悪いとはいえ相手とこちらで明確に有利不利が分かれるほどではない。
そんな状況で相手がこちらを襲ってきたのはそれでも倒せると踏んでいるから、それを分かっているからこそアウローラを守る兵士たちの行動は速い。
「お前達は何処の国の奴等だ!? 帝国か? それとも共和国か! このお方たちを誰と思って居るのだ!! ヴァスィリオ家のご令嬢と法皇の血筋を拐ってただで済むと思っているのか!」
辺りを見回しながら兵士の一人がそう問いかけるが、帰ってくるのは殺意だけで、周りから向けられる無機質な目は目的を遂行するためだけにしか動けない機械のように思える。
宮廷魔術師の一人が空へ向かって魔法を放つと大きな花火のようなものが王都の空に打ちあがった。
一目見れば遠方からもわかる其れは救難信号であり、様々な色によって事態を現すそれが赤色に輝いているのは護衛対象に命の危機がある証でもある。
(前世の私ならもう逃げ出してるわねこれ)
この場所から逃げ出すことは簡単だ。
ここは王都、常駐する兵士の数はもちろん王国内でも最多であり叫べば即座に人がすっ飛んでくる。
赤い花火は一定の実力者以上は近寄らないように言われているため兵士たちが寄ってくることはもはやないが、それでもエルピスたちがいる方に向かって走れば間違いなくアウローラは助かるだろう。
だがいまの王都は人通りがほんの少し減っただけでアウローラが敵の攻撃だと理解できるほどに人通りが多く、そしてどうしようもなく甘いアウローラは無関係の人間に攻撃が向けられる可能性を考慮に入れると途端ににげだすという選択肢を放棄してしまう。
「お姉ちゃん………」
「大丈夫よフィーユちゃん。すぐにエルピスがすっ飛んでくるわ」
人影のように見えた周囲を取り囲むものが徐々に実態を帯びていき、そうして自分の命を狙うものたちがこちらの3倍はいることにアウローラが気付くと同時、向かいに立っていた男が全身をまとう服によって顔色すらわからせないままに言葉を紡ぐ。
「随分と腕に自信が有る様だな。この人数を相手にどう戦う?」
外見からは黒い衣装を全身に纏っているため年齢を把握できないが、相手の頭領らしき人物がそう言いながら上に上げていた手を下ろすと様々な角度から小さな短剣が飛んでくる。
だが宮廷魔術師達はそれを許すほど甘くはない。
転移の魔法を使用するには長い詠唱が必要なのでこの場から直ぐに離脱する方法は無いが、人を効率的に破壊する魔法の展開において彼らの速度は確かなものであった。
お返しとばかりに宮廷魔術師が放った魔法が数人の影を焼き倒し、相手に攻め入ることを躊躇させる。
その躊躇した一瞬、それを鍛えられた兵士たちは見逃さない。
「魔法に驚いてばかりだが、我らも忘れないでいただきたい!」
そう言いながら兵士達は周囲を取り囲む敵を吹き飛ばし、魔法使い達の盾として前衛を買って出る。
近衛兵達には及ばないにしろ、彼等は王族や貴族の護衛を任せられるほどの優秀な人材。
相手が何人居ようと亜人種の様な特例でもない限り負ける事はないと彼らは自負している。
実際彼らを倒すのは相当難しいだろう、この人数差を前にしても救援の為に時間を稼ぎきれると判断できるだけの自信を有しているのだから侮りがたい。
「だがまぁ仕事だからな、苦戦することくらい織り込み済みなんだ。――行け」
男の号令と共に確かにアウローラの目の前で戦闘が開始した。
戦術級魔法を使用するに至ったアウローラが魔法を一度放てば目の前の者達はことごとく肉に変わっただろう。
宮廷魔術師たちの魔法は確かに強く細やかで洗練されているが、暴力的な魔力消費によって放たれる戦術級魔法は彼らの作り出した戦果など一瞬で塗りつぶしてしまう。
だがアウローラが魔法を放つことはない。
エルピスとの戦闘で魔力を使いすぎたから? ――違う。王族達は既に空になった魔力だがアウローラはいまだに余力を残している。
自分以外にも誰かを巻き込むことを恐れたから? ――これも違う。魔法範囲の指定をいまさら失敗するような未熟者ではない。
彼女が魔法を使わない理由はただ一つ、人を殺すことを恐れているからである。
生き死にが身近な世界においても他者を殺すことはそれほど多いことではない。
ましてや日本からやってきたアウローラに人を殺せというのは無理難題といっていい。
それを分かっているからこそ周りの兵士達はアウローラに戦えとは言わずに自分たちが戦うのだ。
「技の冴えはさすが宮廷魔術師殿、こちらに合わせていただいてかたじけない」
「いやいや、貴殿らが抑えていてくれていればこそだ。あと数分でここに応援の魔術師が殺到する、それまで待てばいい」
そう言って仕返してやったとばかりに兵士達は青年の方を見たが、そこまで気にしてない様子である。
だがもう既に勝敗は決しているのだ。
初手で護衛を殺せなかった時点で敵は既に失敗したとそう言ってもいい。
そんな兵士の思考を読んでいたかの如く、男はにやりと笑みを浮かべて言葉を発する。
「さすが貴族の娘、たいそうな警備だ。あぁ確かに普通ならもう無理だな」
「何を言っている……? この周辺に生命反応はもう貴様しか」
まさかまだ伏兵がいるのかと思い辺りを見回すが、周囲に脅威として認識出来るほどの強さの敵は1人もいない。
魔法によって行われる探知には周囲に人がいないと発しており、もし仮に敵がいたとしてもいまさら何人増えたところで変わらない。
ただそれでも警戒を緩めることはなく兵士達が注意深く観察していると、男が体の目の前でパンと大きく手を叩き合わせる。
「――――」
この世界では鳴るはずのない音がアウローラ達の耳に届くよりもほんの少し早く、兵士の頭部に小さな鉄の礫が突き刺さった。
回復魔法が存在するこの世界においても明確に直せないラインである脳機能の損傷、異世界人がこの場にいたならばそれがなんなのか嫌でも理解させられる。
頭を打たれた兵士は自分が攻撃されたことにも気が付かないままに絶命。
意思を失った体はその場に倒れ伏しピンクと赤の物体をあたりにまき散らしながら二度と動くことはない。
理外の一撃に頭を白くする兵士たちの前でアウローラは即座に自分がなすべきことを、この武器に対する対処法を伝える。
「全員物理障壁を展開! 早く!」
アウローラが言った通りに物理障壁を宮廷魔術師が展開したその瞬間に二発目が放たれ、障壁に深い傷跡を残す。
命を刈り取るそれを未然に防げたことで宮廷魔術師たちの顔色には安堵の表情が見て取れた。
だが続く男の言葉にその顔はすぐにゆがませられる。
「物理障壁? それなら問題ないんだよ」
「ーーまさかッ!?」
アウローラが言葉を発したその時、放たれた弾丸が小規模の爆発を発生させる。
命を奪う目的ではなく相手の非殺傷を目的としたそれから放たれた小さな破片はアウローラを守る男たちの身体に深々と突き刺さる。
気が付けばいつの間にか周りには先ほどよりも多い影が辺りを支配しており、兵士たちの顔にも暗いものが映り込み始めていた。
増援は来ているがそれでも彼らにとって銃というの物は未知の武器であり、それらに対処できない彼らでは不用意に死者を増やしてしまうだけだろう。
フィーユが居る以上アウローラには下手な行動もとれず、状況は積みと言ってもいい。
「それじゃあお嬢ちゃん、来てもらおうか」
「ーーっ!」
男の腕が自分に伸びてくる。
それがひどく怖い。
捕まれば一体どうなってしまうのか、創造力がアウローラの恐怖を刺激する。
だがフィーユの前で泣くわけにもいかず気丈に振舞うほかはないと考えるアウローラの横で、フィーユは肺に空気を出来るだけ溜めると子供特有の無鉄砲さを最大限に活用して喉を震わせる。
「お兄ちゃん――ッ!!!!!!!」
/
地面を蹴り飛ばした勢いがあまりにも強すぎて制御が効かなくなっていたエルピスは、フィーユの叫び声を頼りにして地面に着地する。
障壁を用いて周りの人間を保護することは忘れずに。
ギリギリ間に合った事に安堵しつつ、フィーユとアウローラを庇うようにして彼らの前に立つ。
「ごめん、遅れた」
いいながらエルピスは視線を周囲に回して状況を把握する。
敵の数は先程襲い掛かってきた者達より遥かに多いが、服装や鑑定結果から見てもどうやら同じ組織に所属していることに関しては間違いがないらしい。
「お兄ちゃん!!」
「エルピス! 銃に気を付けて!!」
「銃? この世界にもあったのか」
続いて味方の方に視線を向けてみれば瀕死の状態になっている人物が二人、怪我はあるが問題なく戦えそうなのが七人、そしておそらくは死んでいるのが一人。
――初めて身近で人の死を見た。
半人半龍になったことで精神性が変わったのだろう、正直そこまで大きなショックというものはない。
だがそれでも元々人間としてあるエルピスの心の弱いところが、エルピスの心を大きく揺さぶっていた。
「――本当に遅れたね、ごめん」
死者を弔う暇さえないのは辛い。
それでもいまこの場は戦場であり、目の前にいるのは敵だ。
間違っても油断するわけにはいかない。
「アルへオ家の子供か。随分と派手な登場を魅せるな?」
「おたくのところの別動隊に邪魔されたからね。イライラしてたところにこれで、正直どうすればいいのか分からない」
口にしながら、先ほどと同じように障壁を展開する。
相手を捕えて王国に引き渡すのが正しい道筋であることは理解しているのだが、半人半龍としての本能が目の前の外敵を排除しろと嘯く。
目の前のやつらは緑鬼種と同じだ。
仲間を、大切な人を、殺そうとするような相手に対してどうして我慢する必要があるというのだろうか。
拳に力を込めてこちらの隙を伺って突撃してきた敵の一人を無理やり殴りつけてみる。
「ーーーーーーーー」
声にならない音を出して吹き飛んでいく相手を見ながら、エルピスはほっと息を吐く。
どうやら間違えて殺してしまう程力加減もできなくなっているようなことはないらしい。
「さすがに強いな」
「怒らせちゃうんだもん、強くもなりますよ。どうします?」
「近衛兵達は来ないにしても、宮廷魔術師たちが集まってくるとさすがに厄介だな。悪いが過半数はここに置いていく。後は頼んだ。目標物はこちらで確保する」
そこまで言うと男たちは逃げる組とその場に残る組の二組に分かれる。
少数でも逃げ出すために何とかしようとしているところは組織としては正しい形なのだろうが、エルピスとしては逃がすわけにはいかない。
「逃げ出せると思ってるその思考にビックリしましたよ。たとえ何人いようがこの場から逃がす気はありませんよ」
「確かにいまのままじゃ無理だろうね。ただこっちには秘策があるんだよ」
言いながら男たちは懐から小さな便を取り出してその中身を口に含む。
その瞬間、男たちの体がぐらりと揺れ体中から魔力が迸り始める。
見るからに体に魔力が追いついておらず過負荷が掛かっているのが彼らの口元からあふれ出す血から見て取れるが、いったいどのような薬品だったのだろうか。
効能は分からないが少なくとも世間一般に流通しているようなモノではない事は確かだ。
「これでも、本当に、全員を守り切れるのかな?」
それだけ吐き捨てるように言うと、一斉に彼らは襲い掛かってくる。
障壁を用いて防御しているとはいえ、複数人に囲まれてリンチでもされてしまえば障壁にだって限界があるだろう。
飛び出してきた男たちを殴り飛ばしながら状況を常に更新し続けるエルピスは、いまがどのような状況なのかを理解しそれが仕方のないことだと自分に言い聞かせて剣を抜く。
いままで誰にも振るわれることのなかった聖剣は、ようやくこの場においてエルピスの手に敵を殺す意志と共に握られ振るわれる。
薬に侵されていながらも知性は保っているのか無造作に上段から振り下ろした聖剣を己の剣で受け止めようとした男は、自分に知性があったことをその数瞬後に後悔することになる。
ただの剣が聖剣を受け止める事などできるはずもなく、一切の手ごたえすら感じさせないままに一刀両断された男はその体を永久に泣き別れさせてしまう事になる。
血しぶきが辺り一帯にまき散らされ、エルピスの体も鮮血に染まった。
だがこれでいいのだ。こうすれば大切な人を守れるのだから。
「――次!」
そこから先は地獄だった。
エルピスが剣を振るい魔法を行使するたびに、人が様々な方法で死んでいく。
中には数回攻撃を耐える者も居たが、一度目の攻撃を防がれたところで苦しんで死ぬ時間が長引くだけだ。
一分にも一時間にも思えるような時間が経過し、気が付けばエルピスは血だまりの中に二人を庇いながら立っていた。
途中で兵士達は邪魔になると判断し戦闘領域外まで放り投げたので、この場に居るのはエルピスからしてみれば守るべき二人と残すは敵だけである。
「凄いよ、本当にすごい。正直舐めてたよ、ここまでやるとは思っても居なかった。隊長くらい強いかもね?」
「なら大した事ないね。俺の両親は俺よりもっと強い」
「そうだね。君より君の両親はもっと強い。そんな人達がいると分かって今日この場に来たんだ、何も準備をしていないとそう思うかい?」
そう言いながら男は足を踏み出す。
飛び出す瞬間に薬をさらに服用したのだろう。
全力のエルピスですら追いつけるかどうか怪しいほどの速度で飛び出した彼に対し、だがエルピスは冷静に剣を振るう。
当てに行く必要は無く相手の移動する直線上に向かって剣を置けば、それだけで切断が可能だと判断したからだ。
事実先程までの者達と同じように呆気なく上半身と下半身で両断された男は、だがニヤリと笑う。
「かかったな英雄もどき!!」
両断されることなど織り込み済み、元より見つかったが最後。
何の犠牲もなしに勝てると彼等は思っていない。
彼はその両手に武器では無く2枚の札を手にしていた。
両断された彼女はエルピスとアウローラ達の中間地点に位置しており、初めからこれが目的だったと知った時にはもう遅い。
直感がエルピスにその札の危険性を訴える。
アウローラ達を殺すのが目的であれば、エルピスと戦う必要性はない。
そうなると彼女達を攫うことが目的だと考えるべきだろう。
ならばあの札の効果はきっと──
「アウローラッ!!」
助けなければならない。
それだけがエルピスの思考を埋め尽くし、普段は無意識下で使わないようにしている力すら使わせて己の体を酷使して追いかける。
だが後一歩、ほんの一瞬の迷いがエルピスの足を遅れさせていた。
両方を助ける事はできない。
助けられるのはどちらか片方だけだ。
法国の神に守れと言明されているフィーユか、同じ異世界人として気軽に話ができるアウローラか。
エルピスはほとんど無意識のうちにアウローラを助けるために己の持つ力を振るう事を決めた。
だが彼女は──アウローラはエルピスがそう決断する事を見越していたのだろう。
あろう事かフィーユの前に立ちはだかったのだ。
「取った! 取っ──!!」
男の持つ札が2枚ともアウローラに付けられる。
そのほんの一瞬後にエルピスによって男は血煙に変えられるが、既に発動した魔法によってアウローラの身体が徐々に発光し始めた。
「お姉ちゃん! なんで……なんで!」
「アウローラッ!!」
何故フィーユを庇ったのか。
彼女を庇わなければ少なくともアウローラだけは絶対に助けることができた。
どうしてと問いかけるエルピスに対し、彼女はどこか諦めたような表情で微笑みかける。
「気にするんじゃないわよエルピス」
それだけ言い残すと彼女は転移魔法によってどこかに飛ばされる。
残されたエルピスは自分が大切な者を守れなかった事を理解し、膝から崩れ落ちるのであった。
/
夕日が地平の彼方に沈み、静かに夜の訪れを告げる。
王族達は王城の中でも特に頑丈な一室に纏められ、その部屋の中には近衛兵全員とエルピスが。
外にはアルキゴスとマギアに、数人ほどヴァスィリオ家から派遣された兵士が立っていた。
アウローラが攫われた事を報告し、フィーユを安全な場所に送るため王城に戻ってきたエルピス。
普段は口数の多い彼もいまばかりは全く口を開こうとしない。
「……すいませんエルピスさん、僕達が居るせいでここに留めさせてしまって」
「……………大丈夫です、気を使わせてしまってすいません」
グロリアスとエルピスの会話が終わると、再び部屋の中は静寂に包まれた。
王国祭で大貴族の娘が攫われたと知られれば、他国だけでなく国の内側からも批判の声が上がる可能性がある。
その為、国王とヴァスィリオ家の夫妻は予定通り王国祭を行なっている。
薄情と言ってしまえばそれだけの事だが、上に立つものとしての義務を果たしているというのにそれを責める事は出来ない。
そうは思いながらも技能を使用して王都の外を探していると、部屋の扉が開く。
付け慣れて居ないのかどこか服装から浮いた王冠を頭につけ、儀礼用の服装を見にまとった国王が部屋に入ってくる。
その隣には彼を守るためにその傍を離れなかったアルキゴスの姿があった。
彼の姿を見た瞬間にエルピスは反射的に頭を下げようとした、そうしなければならないと心からそう思って居たから。
だがアルキゴスはそんなエルピスの行動を止める。
「アルさん……俺……俺守れって言われてたのに、アウローラを守れませんでした」
「お前が頑張って無理だったんなら、相手の方が一枚上手だっただけだ。最悪の事態を回避できただけでもお前は十分に仕事をした」
そう言ってエルピスを慰めるアルキゴスだが、その表情は暗い。
だが彼が実際口にした通り、最悪の事態というものは回避できているのである。
最も最悪なのはフィーユとアウローラ両方が攫われること。
王国にとってはアウローラとフィーユどちらが攫われたら不味いかと言えば、比べるまでもなく法国と国際問題に発展する恐れのあるフィーユの方なのは間違いない。
王国にとって最良ではないにしろ、最悪ではなかった。
だがエルピスもアルキゴスもその表情が晴れることはない。
「この場は俺に任せて、お前らはアウローラを助けるために行動しろ。俺だってイロアス達と旅をしていたくらいには強いんだ、俺がこの場に来た以上子供たちの事は自分でやる」
「良いんですか? 俺まで動いたらいよいよ問題が起きてることがバレますよ」
「祭りが始まって一日目だ。今日明日くらいならお前が忙しそうにしていても言い訳はできる。それになアル、俺だってアウローラちゃんが連れ去られた事には心底腹が立ってるんだ。間違っても逃がすなよ」
「分かってますよ。俺もエルピスも、失敗はしません」
青筋を浮かべながら怒りを浮かべる国王は、国王という立場さえなければいますぐこの場所から走り出してしまうのではないかと思えるほどだ。
アルキゴスが口にした通り、失敗は万が一にも許されない。
一秒でも早い救出を目指し、エルピス達は動き出すのであった。
#
自由に動けるようになったエルピスが一番に向かった場所は、王城の地下に秘密裏に作られた地下牢だった。
秘密裏に作られたと言っても違法性のある物と言うわけではなく、敵国のスパイなどを奪還させない為に場所が内密になっているのだ。
囚われているのはエルピスを襲ってきていた者達であり、彼等から何らかの情報を引き出すのがいまのエルピスの役目である。
「こんにちは黒服の皆さん。改めて、ご機嫌はいかがですか?」
「……最悪だよ。最悪、牢屋の中だぞ? 良い気分になる訳が無いだろ?」
「すいません気が利かなくて。何か料理をお持ちしましょうか? それとも毛布でもいりますか? 話をしてくれればお望みの物を出しますよ。共和国性の料理はあまり得意じゃないですけどね」
「――まったく面白くないジョークだな、せめて顔くらい笑って見せたらどうだ?」
原の底の怒りによって表情を変えない様に技能を使っているエルピスとは違い、コロコロと変わる相手の表情は技能を使って居ない証だ。
子供だからと舐められているわけでは無いだろう。
きっと誰が相手であろうと、この黒服達は同じような態度を取る筈だ。
昼間の鑑定の時点で彼らがどこの国から着ているのか割り出すことは出来ていた。
この場所に来たのは鑑定を使用して更に彼らが何らかの情報を知っていないか調べるためだったが――どうやら無駄足に終わってしまったようである。
「聞いたよ、お前大切な大切なお嬢様を結局攫われちまったんだってな。俺らの同僚をたくさんあの世に送ってくれちまって」
「友達を助けるために頑張ることはおかしいことですか?」
「その友達を助ける為なら何人殺しても良いと? 異世界人ってやつはそんなに頭のおかしい奴らだったか? 俺が知る限りはもっと能天気でほんわかしてるやつらが多かったがな。それともお前の殺人衝動は生まれ持っての物か?」
牢屋の中では常に一定の回復魔法をかけられているので、自死を現実的に不可能にされている。
だからエルピスに情報を抜かれる前に怒らせて殺してもらおうという作戦なのだろう。
頭で理解しているからこそ、エルピスは無表情のままに目の前にいる黒服を相手にしていると黒服はさらにエルピスの事を煽る。
「この世界で自分の物でもない力を振り回して好き放題、挙句の果てに子供の姿になって親に寄生たぁお前らみたいなやつらが人のフリしてるのが一番キモチ悪いんだよ。しかも人と龍の子供だ? ゲテモノの体に化け物の中身たぁそりゃお前みたいな人にすらなれないキモイ生き物が産まれるわけだ」
ドクンと体の中で血が沸き立つのを感じる。
アウローラが攫われたときに感じたものと同じ、血が目のまえの生き物を殺せと叫んでいるのだ。
血の衝動は抑えきれず、怒りが体を振るわせるがエルピスは冷静であれと思いつつも気が付けば口が勝手に反論してしまっている。
「さっきから人が黙って聞いてれば好き勝手言いますね。焦ってるんですよこっちは、これ以上ないくらいにこれまでにない程に。分かりますか? これが人生で初めての失敗です、俺はこの世界で両親に愛される為に全てを完璧にこなそうと努力して来た。メイドや執事達にああこの程度なんだと思われないように精一杯頑張って来た。なのに俺は貴方達の行いによって人生で初めて失敗し、この世界で初めてできた出来た友達を無くそうとしてるんですよ?」
襟首をつかんで来た相手の手を無理やり剥がし、渾身の力で押すことで牢屋の壁に男を叩きつける。
魔力もほとんど持っていない状態で壁に押し付けられた男は痛みから空気を漏らすが、それでも彼の目的としていた死にはまるで足りていない。
人の体というのは時に残酷なまでに頑丈なのである。
「俺にとって一番大事なのは家族、その次に友達、それ以外は正直どうだっていい。アンタらが俺の知らない人を攫うなら、俺の知らないところでやってるなら俺だって何も言いませんよ。
ただ貴方達はそうじゃなかった。俺の大事なものに汚い手をかけてあろうことかまるでゴミみたいに簡単に人を殺した。なんで冷静でいられるか? そうしないと今すぐ全員殺しちゃうじゃないですか。あなたたちに利用価値がある限り、簡単に殺すことができないんですよ本当に残念ですが」
「お前、頭おかしいよ」
「善人ぶらないで下さいよ気持ち悪い」
そう吐き捨て、エルピスは牢屋を後にする。
罵詈雑言を背中に飛ばされながらもエルピスはそれを一切気にする様子はなかった。
あれらはもはやこれから先エルピスの人生に関わってこない物、長い人生の一幕でエルピスにアウローラの情報を与えることこそが彼らがするべきだけの事。
どこの国の所属か分かり、身柄を抑えられているのであれば相手を特定しアウローラの場所を割り出すのもそう難しい話ではない。
地下牢がある場所から階段を上り上へと上がっていくと、そこには暗い顔をしたアルキゴスが立っていた。
距離はかなりある上に地下牢と外を繋ぐ扉はとても分厚く声が通るようなものではない。
だがエルピスはアルキゴスの顔色を見て彼はエルピスと名も知らない共和国の密偵との会話を聞いていたのだろうとそう思った。
「エルピス」
「――そんなにひどい顔色、してますか?」
「グロリアス様がみたら気絶しそうな顔してるよ」
急がなければいけないとそう分かっているのに、アウローラがいままさに助けを求めていると理解しているのにエルピスの身体は動かない。
こんなところで話している暇なんてないんだ、今すぐにアウローラのところに行かないと。
こんなところで自分は休んでいるわけにはいかないんだ――
Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼
アルキゴスが尋問室の前にいたのは、イロアスに頼まれてだった。
いわくエルピスはアウローラが捕まったのを自分のせいにするだろうから、あの子のことを慰めてやってほしいと。
アルキゴスはそんなイロアスに対して1時間後程度に合流予定なのだから自分の口から言えばいいと言ったしイロアスもそれを納得していたのだが、なんとなく気になってこうしてエルピスを待ってしまったのだ。
アウローラは心の底から心配だ、だがそれと同じく目の前で友達を攫われてしまったエルピスの事だって同じくらい心配なのである。
地下でのエルピスの言葉をアルキゴスは聞いていた。
その子供らしいとはとても言えない口ぶりと、尋常ではないほどの怒りを漂わせた彼は、地下から上がってきたときにはアルキゴスですら半歩下がるほどの威圧感を纏っていたのに、その双眸がアルキゴスを貫いた途端に目に見えて雰囲気が変化する。
まるで自分が失敗したことを親に知られてしまったように、取り返しのつかない失敗をしてしまったように、ひどく絶望したその顔は初めて見るエルピスの表情であった。
「エルピス、俺はお前の師匠だ。そうだな?」
一体何を言っているのだとそんな顔をするエルピスに対して、答えろとばかりにアルキゴスは首をしゃくってエルピスの答えを待つ。
するとエルピスは一瞬戸惑ったような様相こそあったが、すぐにすんなりと答えを口にした。
「そうですね、俺の剣の師匠はアルさんです」
アルさんとそう呼ばれることにも、もはや違和感すら感じない。
数か月の付き合いではあるがお互いに剣を通して会話を重ねてきたのだ、積み重ねた絆は確かなものだろう。
だからこそいまのエルピスの目がアルキゴスは気に食わなかった。
捨てられることを恐れているような目が、その目を自分に向けるエルピスが、そして何よりその眼を向けさせてしまっている自分自身が。
だからアルキゴスは自分が最も得意な方法でエルピスにものを教えることにした。
腰にある剣を抜き、エルピスの元へと投げ渡す。
王国の軍部に所属しているものならば誰もが持つその剣を渡されて、エルピスは頭の上にハテナを浮かべながらアルキゴスを見ている。
「いったい何を?」
「いまのお前じゃアウローラは救えない。俺がお前の迷いを払ってやる」
「アルさん、いまは冗談を言っているときじゃーー」
殺意を込めて剣を振るえばエルピスは無条件でそれに反射する。
アルキゴスの技術と力によってエルピスの持つ軍部支給の剣はまるで紙細工のように粉砕され、エルピスの身体を薄皮一枚切りながら剣はアルキゴスの手元に残る。
一度こうしてしまえばあとはほんの少しだけ背中を押してやるだけだ。
「お前いま、死んだぞ」
ギリッとかみしめるような音がアルキゴスの耳を貫く。
そして遅れて先ほど敵に向けられていたのと同じような質量すら伴った怒りがアルキゴスの全身に強く打ちつけられた。
「……ですか……なんなんですかっ!!」
エルピスが叫ぶと同時に近くにあった硝子は圧力に耐えられず粉々に粉砕され、扉は軋み外からは生物たちが逃げ惑う声が聞こえてくる。
いままで一度だってアルキゴスに向けてこなかった全力を確かに今だけは殺意だけでも向けられていることに、アルキゴスは自分がイロアスに頼むといわれたことを一瞬忘れかけるほどの高揚感を抱いていた。
戦士として戦うのであればきっとこのまま高揚感に身を任せて戦っていただろう。
だがこの場に師匠として立っているアルキゴスは、エルピスの力任せの拳による一撃を剣で受け止める。
「何をそんなに怯えているんだ?」
「逆になんでアルさんはそんなに落ち着いてるんですか!? アウローラが──っ 攫われたんですよ!?」
「違うだろエルピス、お前が怯えてるのはそれだけじゃない。正直になれよ、アウローラの事を大事に思ってるのは理解してる。だがそのまま怒りに身を任せて戦えば足元を掬われるぞ」
エルピスかアウローラを救おうとする気持ちが本心ではないと、そんな戯言を口にするつもりはない。
アルキゴスが問うているのはエルピスが何を恐れているのかというところであり、それをエルピスの口から聞けなければアルキゴスはエルピスを通すつもりもない。
その事を理解してかどうか、エルピスはアルキゴスの言葉を受けて静かに語り始める。
「――話、聞いてたなら分かりますよね。俺が恐れてるのは失敗です。俺はそれがいま何よりも怖い、これ以上自分が失敗してしまう事が何よりも」
「まだ、アウローラは死んでない。ならまだ俺達は失敗してない。違うか?」
「違いますよアルさん。俺は完璧じゃないといけなかったんです、両親にとって完璧でなければ」
失敗を恐れない人物などいない。
天才として認められるに十分な才能を持っているエルピスは確かに他者に比べて失敗に敏感なのだろう。
そう思って慰めたアルキゴスの言葉を本質ではないと切って捨て、エルピスはぽつぽつと言葉をこぼす。
「俺が……僕が失敗を極端に恐れるのは両親に捨てられることを恐れているからです。エルピス・アルへオとして生きる以上、あの両親の――英雄の子供として生きる以上は僕は失敗が許されません。
たとえ世界中の人間に嫌われることになったとしても、あの二人と俺をエルピス・アルへオと呼んでくれる人たちには嫌われるわけにはいかないんですよ。俺がこうして怒ってるのも、もしかしたらそれを邪魔されたからかもしれませんね」
「どうして、そう思うんだ? 俺にはあの二人がお前を捨てるなんてそうはとても思えないがな」
最大多数の幸福のために自らを切り捨てることを是とする二人だが、ことエルピスの話になると全ての優先順位をひっくり返してでもその物事に対処するというのがアルキゴスが持つ二人への感想だ。
エルピスが口にしたように世界中の人間がエルピスを嫌うようなことをしたとしても、あの二人だけはエルピスの事を嫌うことはなく悪いことをしたのならば叱るだろうと確証を持てている程である。
そんな二人にただの一度の失敗で見捨てられると考えるのであれば随分と心配性だ、あの母親の子供であると考えるならそれもおかしくはないのかもしれないがどうやらそれだけではないらしいことくらい話をしていれば自ずと理解できた。
だからアルキゴスはエルピスに素直に問う。
時間をかけてゆっくりと話をするには状況が状況だ、いまは答えを優先するしかない。
「僕だってあの二人が自分の子供を見捨てるとはとても思えませんよ。だから僕はエルピス・アルへオとして、二人の子供として恥ずかしいことはできないんです。止めないでくださいよアルさん、次からは本当に加減ができそうにないので」
窓を開けてそこに足を添えればエルピスは一息で夜空へと溶け込むほどに飛んでいけるだろう。
自分の前で話を勝手に終わらせて飛び立とうとするエルピスに対してアルキゴスはここしかないと声をかける。
「あの二人を舐めすぎだなお前。その黒い髪と黒い目の意味を、知らないわけがないだろ。まだお前がガキのままで安心したよ」
「…………」
「王都周辺は俺に任せておけ。お前はそこより外を頼む」
言葉を返すことはなくエルピスはアルキゴスに一瞬視線を移してから夜の街へと飛んでいく。
転生者としてこの世界に生まれたからこそだろう。
前の世界でいったい何があったのか、それを知らないが異常なまでの家族への固執と信頼への執着はエルピスに戦闘の動機を付けさせるには十分すぎるものらしい。
自分ではどうにもならない事を理解したアルキゴスは、エルピスを見送ってから彼を救える二人の元に向かって走り出す。
可愛い馬鹿弟子を救ってくれる、頼りになる夫婦の元へと。
エルピスとの戦闘に負けた憂さ晴らしとして祭りで遊ぼうと、あちらこちらの屋台をアウローラがフィーユを引き連れて歩き回っていた時のことだった。
アウローラ自身、ただでさえ王国祭で他所の国から大量の人間が入ってきている上に、事前に危険人物が侵入して来ている事はなんとなく聞いているので警戒はしていた。
この国を代表する貴族の娘として命を狙われたことは一度や二度ではなく、前世では馴染みのなかった暗殺者という人物たちには随分と詳しくなったものだとアウローラ本人も自覚している。
ただ今回会場に向かう際の道中も一度酔った少年達が馬車に不用意に近付き過ぎてアルキゴスに酔い覚ましパンチを食らった以外には特に何も問題はなく、加えてエルピスが開発したらしい魔法の効果によって既に怪しい人物たちのほとんどが捕縛されているため王都は前代未聞というとなんだかおかしな響きであるが、少なくとも前例がないくらいには平和な場所になっていた。
王国祭初日の目玉である次期王達の大立ち回りに参加したアウローラは、その疲れを癒すためにとお忍びで王都をぐるぐると回って数年に一度の祭りを楽しむ。
とはいえ護衛を連れていないと少し怖いので宮廷魔術師を六人、兵士を四人、こんなにも大人を周りに囲っているとなんだか悪目立ちをしてしまうが、エルピスがいない状況でしかも法皇の娘であるフィーユもまとめての外出を許して貰うためにはこれが条件だったのだ。
知っている場所知らない場所、どんどん色々な屋台を巡って行き、少しずつ自分の胸に何か違和感が溜まっていくことに気がつく。
なんなのかはわからないが嫌な予感というのは意外と当たるもので、別に当たらなくても警戒するに越したことはない。
それを一応周辺にいる兵士達にも伝えつつ、その違和感の正体を詳しく探ろうともせず進んでいくとその違和感は現実となって現れる。
人通りが明らかに減っているのだ。
大きな通りというわけでない場所を歩いていたが、それでもいまの王都で人が点在するような通りなどほとんどありえない。
違和感を感じて即座に大通りへ向かって走ってみれば、それほど広くも狭くもない通りに複数の人影がアウローラ達を取り囲む。
高低差も特になく、家々に囲まれてすこし視界は悪いとはいえ相手とこちらで明確に有利不利が分かれるほどではない。
そんな状況で相手がこちらを襲ってきたのはそれでも倒せると踏んでいるから、それを分かっているからこそアウローラを守る兵士たちの行動は速い。
「お前達は何処の国の奴等だ!? 帝国か? それとも共和国か! このお方たちを誰と思って居るのだ!! ヴァスィリオ家のご令嬢と法皇の血筋を拐ってただで済むと思っているのか!」
辺りを見回しながら兵士の一人がそう問いかけるが、帰ってくるのは殺意だけで、周りから向けられる無機質な目は目的を遂行するためだけにしか動けない機械のように思える。
宮廷魔術師の一人が空へ向かって魔法を放つと大きな花火のようなものが王都の空に打ちあがった。
一目見れば遠方からもわかる其れは救難信号であり、様々な色によって事態を現すそれが赤色に輝いているのは護衛対象に命の危機がある証でもある。
(前世の私ならもう逃げ出してるわねこれ)
この場所から逃げ出すことは簡単だ。
ここは王都、常駐する兵士の数はもちろん王国内でも最多であり叫べば即座に人がすっ飛んでくる。
赤い花火は一定の実力者以上は近寄らないように言われているため兵士たちが寄ってくることはもはやないが、それでもエルピスたちがいる方に向かって走れば間違いなくアウローラは助かるだろう。
だがいまの王都は人通りがほんの少し減っただけでアウローラが敵の攻撃だと理解できるほどに人通りが多く、そしてどうしようもなく甘いアウローラは無関係の人間に攻撃が向けられる可能性を考慮に入れると途端ににげだすという選択肢を放棄してしまう。
「お姉ちゃん………」
「大丈夫よフィーユちゃん。すぐにエルピスがすっ飛んでくるわ」
人影のように見えた周囲を取り囲むものが徐々に実態を帯びていき、そうして自分の命を狙うものたちがこちらの3倍はいることにアウローラが気付くと同時、向かいに立っていた男が全身をまとう服によって顔色すらわからせないままに言葉を紡ぐ。
「随分と腕に自信が有る様だな。この人数を相手にどう戦う?」
外見からは黒い衣装を全身に纏っているため年齢を把握できないが、相手の頭領らしき人物がそう言いながら上に上げていた手を下ろすと様々な角度から小さな短剣が飛んでくる。
だが宮廷魔術師達はそれを許すほど甘くはない。
転移の魔法を使用するには長い詠唱が必要なのでこの場から直ぐに離脱する方法は無いが、人を効率的に破壊する魔法の展開において彼らの速度は確かなものであった。
お返しとばかりに宮廷魔術師が放った魔法が数人の影を焼き倒し、相手に攻め入ることを躊躇させる。
その躊躇した一瞬、それを鍛えられた兵士たちは見逃さない。
「魔法に驚いてばかりだが、我らも忘れないでいただきたい!」
そう言いながら兵士達は周囲を取り囲む敵を吹き飛ばし、魔法使い達の盾として前衛を買って出る。
近衛兵達には及ばないにしろ、彼等は王族や貴族の護衛を任せられるほどの優秀な人材。
相手が何人居ようと亜人種の様な特例でもない限り負ける事はないと彼らは自負している。
実際彼らを倒すのは相当難しいだろう、この人数差を前にしても救援の為に時間を稼ぎきれると判断できるだけの自信を有しているのだから侮りがたい。
「だがまぁ仕事だからな、苦戦することくらい織り込み済みなんだ。――行け」
男の号令と共に確かにアウローラの目の前で戦闘が開始した。
戦術級魔法を使用するに至ったアウローラが魔法を一度放てば目の前の者達はことごとく肉に変わっただろう。
宮廷魔術師たちの魔法は確かに強く細やかで洗練されているが、暴力的な魔力消費によって放たれる戦術級魔法は彼らの作り出した戦果など一瞬で塗りつぶしてしまう。
だがアウローラが魔法を放つことはない。
エルピスとの戦闘で魔力を使いすぎたから? ――違う。王族達は既に空になった魔力だがアウローラはいまだに余力を残している。
自分以外にも誰かを巻き込むことを恐れたから? ――これも違う。魔法範囲の指定をいまさら失敗するような未熟者ではない。
彼女が魔法を使わない理由はただ一つ、人を殺すことを恐れているからである。
生き死にが身近な世界においても他者を殺すことはそれほど多いことではない。
ましてや日本からやってきたアウローラに人を殺せというのは無理難題といっていい。
それを分かっているからこそ周りの兵士達はアウローラに戦えとは言わずに自分たちが戦うのだ。
「技の冴えはさすが宮廷魔術師殿、こちらに合わせていただいてかたじけない」
「いやいや、貴殿らが抑えていてくれていればこそだ。あと数分でここに応援の魔術師が殺到する、それまで待てばいい」
そう言って仕返してやったとばかりに兵士達は青年の方を見たが、そこまで気にしてない様子である。
だがもう既に勝敗は決しているのだ。
初手で護衛を殺せなかった時点で敵は既に失敗したとそう言ってもいい。
そんな兵士の思考を読んでいたかの如く、男はにやりと笑みを浮かべて言葉を発する。
「さすが貴族の娘、たいそうな警備だ。あぁ確かに普通ならもう無理だな」
「何を言っている……? この周辺に生命反応はもう貴様しか」
まさかまだ伏兵がいるのかと思い辺りを見回すが、周囲に脅威として認識出来るほどの強さの敵は1人もいない。
魔法によって行われる探知には周囲に人がいないと発しており、もし仮に敵がいたとしてもいまさら何人増えたところで変わらない。
ただそれでも警戒を緩めることはなく兵士達が注意深く観察していると、男が体の目の前でパンと大きく手を叩き合わせる。
「――――」
この世界では鳴るはずのない音がアウローラ達の耳に届くよりもほんの少し早く、兵士の頭部に小さな鉄の礫が突き刺さった。
回復魔法が存在するこの世界においても明確に直せないラインである脳機能の損傷、異世界人がこの場にいたならばそれがなんなのか嫌でも理解させられる。
頭を打たれた兵士は自分が攻撃されたことにも気が付かないままに絶命。
意思を失った体はその場に倒れ伏しピンクと赤の物体をあたりにまき散らしながら二度と動くことはない。
理外の一撃に頭を白くする兵士たちの前でアウローラは即座に自分がなすべきことを、この武器に対する対処法を伝える。
「全員物理障壁を展開! 早く!」
アウローラが言った通りに物理障壁を宮廷魔術師が展開したその瞬間に二発目が放たれ、障壁に深い傷跡を残す。
命を刈り取るそれを未然に防げたことで宮廷魔術師たちの顔色には安堵の表情が見て取れた。
だが続く男の言葉にその顔はすぐにゆがませられる。
「物理障壁? それなら問題ないんだよ」
「ーーまさかッ!?」
アウローラが言葉を発したその時、放たれた弾丸が小規模の爆発を発生させる。
命を奪う目的ではなく相手の非殺傷を目的としたそれから放たれた小さな破片はアウローラを守る男たちの身体に深々と突き刺さる。
気が付けばいつの間にか周りには先ほどよりも多い影が辺りを支配しており、兵士たちの顔にも暗いものが映り込み始めていた。
増援は来ているがそれでも彼らにとって銃というの物は未知の武器であり、それらに対処できない彼らでは不用意に死者を増やしてしまうだけだろう。
フィーユが居る以上アウローラには下手な行動もとれず、状況は積みと言ってもいい。
「それじゃあお嬢ちゃん、来てもらおうか」
「ーーっ!」
男の腕が自分に伸びてくる。
それがひどく怖い。
捕まれば一体どうなってしまうのか、創造力がアウローラの恐怖を刺激する。
だがフィーユの前で泣くわけにもいかず気丈に振舞うほかはないと考えるアウローラの横で、フィーユは肺に空気を出来るだけ溜めると子供特有の無鉄砲さを最大限に活用して喉を震わせる。
「お兄ちゃん――ッ!!!!!!!」
/
地面を蹴り飛ばした勢いがあまりにも強すぎて制御が効かなくなっていたエルピスは、フィーユの叫び声を頼りにして地面に着地する。
障壁を用いて周りの人間を保護することは忘れずに。
ギリギリ間に合った事に安堵しつつ、フィーユとアウローラを庇うようにして彼らの前に立つ。
「ごめん、遅れた」
いいながらエルピスは視線を周囲に回して状況を把握する。
敵の数は先程襲い掛かってきた者達より遥かに多いが、服装や鑑定結果から見てもどうやら同じ組織に所属していることに関しては間違いがないらしい。
「お兄ちゃん!!」
「エルピス! 銃に気を付けて!!」
「銃? この世界にもあったのか」
続いて味方の方に視線を向けてみれば瀕死の状態になっている人物が二人、怪我はあるが問題なく戦えそうなのが七人、そしておそらくは死んでいるのが一人。
――初めて身近で人の死を見た。
半人半龍になったことで精神性が変わったのだろう、正直そこまで大きなショックというものはない。
だがそれでも元々人間としてあるエルピスの心の弱いところが、エルピスの心を大きく揺さぶっていた。
「――本当に遅れたね、ごめん」
死者を弔う暇さえないのは辛い。
それでもいまこの場は戦場であり、目の前にいるのは敵だ。
間違っても油断するわけにはいかない。
「アルへオ家の子供か。随分と派手な登場を魅せるな?」
「おたくのところの別動隊に邪魔されたからね。イライラしてたところにこれで、正直どうすればいいのか分からない」
口にしながら、先ほどと同じように障壁を展開する。
相手を捕えて王国に引き渡すのが正しい道筋であることは理解しているのだが、半人半龍としての本能が目の前の外敵を排除しろと嘯く。
目の前のやつらは緑鬼種と同じだ。
仲間を、大切な人を、殺そうとするような相手に対してどうして我慢する必要があるというのだろうか。
拳に力を込めてこちらの隙を伺って突撃してきた敵の一人を無理やり殴りつけてみる。
「ーーーーーーーー」
声にならない音を出して吹き飛んでいく相手を見ながら、エルピスはほっと息を吐く。
どうやら間違えて殺してしまう程力加減もできなくなっているようなことはないらしい。
「さすがに強いな」
「怒らせちゃうんだもん、強くもなりますよ。どうします?」
「近衛兵達は来ないにしても、宮廷魔術師たちが集まってくるとさすがに厄介だな。悪いが過半数はここに置いていく。後は頼んだ。目標物はこちらで確保する」
そこまで言うと男たちは逃げる組とその場に残る組の二組に分かれる。
少数でも逃げ出すために何とかしようとしているところは組織としては正しい形なのだろうが、エルピスとしては逃がすわけにはいかない。
「逃げ出せると思ってるその思考にビックリしましたよ。たとえ何人いようがこの場から逃がす気はありませんよ」
「確かにいまのままじゃ無理だろうね。ただこっちには秘策があるんだよ」
言いながら男たちは懐から小さな便を取り出してその中身を口に含む。
その瞬間、男たちの体がぐらりと揺れ体中から魔力が迸り始める。
見るからに体に魔力が追いついておらず過負荷が掛かっているのが彼らの口元からあふれ出す血から見て取れるが、いったいどのような薬品だったのだろうか。
効能は分からないが少なくとも世間一般に流通しているようなモノではない事は確かだ。
「これでも、本当に、全員を守り切れるのかな?」
それだけ吐き捨てるように言うと、一斉に彼らは襲い掛かってくる。
障壁を用いて防御しているとはいえ、複数人に囲まれてリンチでもされてしまえば障壁にだって限界があるだろう。
飛び出してきた男たちを殴り飛ばしながら状況を常に更新し続けるエルピスは、いまがどのような状況なのかを理解しそれが仕方のないことだと自分に言い聞かせて剣を抜く。
いままで誰にも振るわれることのなかった聖剣は、ようやくこの場においてエルピスの手に敵を殺す意志と共に握られ振るわれる。
薬に侵されていながらも知性は保っているのか無造作に上段から振り下ろした聖剣を己の剣で受け止めようとした男は、自分に知性があったことをその数瞬後に後悔することになる。
ただの剣が聖剣を受け止める事などできるはずもなく、一切の手ごたえすら感じさせないままに一刀両断された男はその体を永久に泣き別れさせてしまう事になる。
血しぶきが辺り一帯にまき散らされ、エルピスの体も鮮血に染まった。
だがこれでいいのだ。こうすれば大切な人を守れるのだから。
「――次!」
そこから先は地獄だった。
エルピスが剣を振るい魔法を行使するたびに、人が様々な方法で死んでいく。
中には数回攻撃を耐える者も居たが、一度目の攻撃を防がれたところで苦しんで死ぬ時間が長引くだけだ。
一分にも一時間にも思えるような時間が経過し、気が付けばエルピスは血だまりの中に二人を庇いながら立っていた。
途中で兵士達は邪魔になると判断し戦闘領域外まで放り投げたので、この場に居るのはエルピスからしてみれば守るべき二人と残すは敵だけである。
「凄いよ、本当にすごい。正直舐めてたよ、ここまでやるとは思っても居なかった。隊長くらい強いかもね?」
「なら大した事ないね。俺の両親は俺よりもっと強い」
「そうだね。君より君の両親はもっと強い。そんな人達がいると分かって今日この場に来たんだ、何も準備をしていないとそう思うかい?」
そう言いながら男は足を踏み出す。
飛び出す瞬間に薬をさらに服用したのだろう。
全力のエルピスですら追いつけるかどうか怪しいほどの速度で飛び出した彼に対し、だがエルピスは冷静に剣を振るう。
当てに行く必要は無く相手の移動する直線上に向かって剣を置けば、それだけで切断が可能だと判断したからだ。
事実先程までの者達と同じように呆気なく上半身と下半身で両断された男は、だがニヤリと笑う。
「かかったな英雄もどき!!」
両断されることなど織り込み済み、元より見つかったが最後。
何の犠牲もなしに勝てると彼等は思っていない。
彼はその両手に武器では無く2枚の札を手にしていた。
両断された彼女はエルピスとアウローラ達の中間地点に位置しており、初めからこれが目的だったと知った時にはもう遅い。
直感がエルピスにその札の危険性を訴える。
アウローラ達を殺すのが目的であれば、エルピスと戦う必要性はない。
そうなると彼女達を攫うことが目的だと考えるべきだろう。
ならばあの札の効果はきっと──
「アウローラッ!!」
助けなければならない。
それだけがエルピスの思考を埋め尽くし、普段は無意識下で使わないようにしている力すら使わせて己の体を酷使して追いかける。
だが後一歩、ほんの一瞬の迷いがエルピスの足を遅れさせていた。
両方を助ける事はできない。
助けられるのはどちらか片方だけだ。
法国の神に守れと言明されているフィーユか、同じ異世界人として気軽に話ができるアウローラか。
エルピスはほとんど無意識のうちにアウローラを助けるために己の持つ力を振るう事を決めた。
だが彼女は──アウローラはエルピスがそう決断する事を見越していたのだろう。
あろう事かフィーユの前に立ちはだかったのだ。
「取った! 取っ──!!」
男の持つ札が2枚ともアウローラに付けられる。
そのほんの一瞬後にエルピスによって男は血煙に変えられるが、既に発動した魔法によってアウローラの身体が徐々に発光し始めた。
「お姉ちゃん! なんで……なんで!」
「アウローラッ!!」
何故フィーユを庇ったのか。
彼女を庇わなければ少なくともアウローラだけは絶対に助けることができた。
どうしてと問いかけるエルピスに対し、彼女はどこか諦めたような表情で微笑みかける。
「気にするんじゃないわよエルピス」
それだけ言い残すと彼女は転移魔法によってどこかに飛ばされる。
残されたエルピスは自分が大切な者を守れなかった事を理解し、膝から崩れ落ちるのであった。
/
夕日が地平の彼方に沈み、静かに夜の訪れを告げる。
王族達は王城の中でも特に頑丈な一室に纏められ、その部屋の中には近衛兵全員とエルピスが。
外にはアルキゴスとマギアに、数人ほどヴァスィリオ家から派遣された兵士が立っていた。
アウローラが攫われた事を報告し、フィーユを安全な場所に送るため王城に戻ってきたエルピス。
普段は口数の多い彼もいまばかりは全く口を開こうとしない。
「……すいませんエルピスさん、僕達が居るせいでここに留めさせてしまって」
「……………大丈夫です、気を使わせてしまってすいません」
グロリアスとエルピスの会話が終わると、再び部屋の中は静寂に包まれた。
王国祭で大貴族の娘が攫われたと知られれば、他国だけでなく国の内側からも批判の声が上がる可能性がある。
その為、国王とヴァスィリオ家の夫妻は予定通り王国祭を行なっている。
薄情と言ってしまえばそれだけの事だが、上に立つものとしての義務を果たしているというのにそれを責める事は出来ない。
そうは思いながらも技能を使用して王都の外を探していると、部屋の扉が開く。
付け慣れて居ないのかどこか服装から浮いた王冠を頭につけ、儀礼用の服装を見にまとった国王が部屋に入ってくる。
その隣には彼を守るためにその傍を離れなかったアルキゴスの姿があった。
彼の姿を見た瞬間にエルピスは反射的に頭を下げようとした、そうしなければならないと心からそう思って居たから。
だがアルキゴスはそんなエルピスの行動を止める。
「アルさん……俺……俺守れって言われてたのに、アウローラを守れませんでした」
「お前が頑張って無理だったんなら、相手の方が一枚上手だっただけだ。最悪の事態を回避できただけでもお前は十分に仕事をした」
そう言ってエルピスを慰めるアルキゴスだが、その表情は暗い。
だが彼が実際口にした通り、最悪の事態というものは回避できているのである。
最も最悪なのはフィーユとアウローラ両方が攫われること。
王国にとってはアウローラとフィーユどちらが攫われたら不味いかと言えば、比べるまでもなく法国と国際問題に発展する恐れのあるフィーユの方なのは間違いない。
王国にとって最良ではないにしろ、最悪ではなかった。
だがエルピスもアルキゴスもその表情が晴れることはない。
「この場は俺に任せて、お前らはアウローラを助けるために行動しろ。俺だってイロアス達と旅をしていたくらいには強いんだ、俺がこの場に来た以上子供たちの事は自分でやる」
「良いんですか? 俺まで動いたらいよいよ問題が起きてることがバレますよ」
「祭りが始まって一日目だ。今日明日くらいならお前が忙しそうにしていても言い訳はできる。それになアル、俺だってアウローラちゃんが連れ去られた事には心底腹が立ってるんだ。間違っても逃がすなよ」
「分かってますよ。俺もエルピスも、失敗はしません」
青筋を浮かべながら怒りを浮かべる国王は、国王という立場さえなければいますぐこの場所から走り出してしまうのではないかと思えるほどだ。
アルキゴスが口にした通り、失敗は万が一にも許されない。
一秒でも早い救出を目指し、エルピス達は動き出すのであった。
#
自由に動けるようになったエルピスが一番に向かった場所は、王城の地下に秘密裏に作られた地下牢だった。
秘密裏に作られたと言っても違法性のある物と言うわけではなく、敵国のスパイなどを奪還させない為に場所が内密になっているのだ。
囚われているのはエルピスを襲ってきていた者達であり、彼等から何らかの情報を引き出すのがいまのエルピスの役目である。
「こんにちは黒服の皆さん。改めて、ご機嫌はいかがですか?」
「……最悪だよ。最悪、牢屋の中だぞ? 良い気分になる訳が無いだろ?」
「すいません気が利かなくて。何か料理をお持ちしましょうか? それとも毛布でもいりますか? 話をしてくれればお望みの物を出しますよ。共和国性の料理はあまり得意じゃないですけどね」
「――まったく面白くないジョークだな、せめて顔くらい笑って見せたらどうだ?」
原の底の怒りによって表情を変えない様に技能を使っているエルピスとは違い、コロコロと変わる相手の表情は技能を使って居ない証だ。
子供だからと舐められているわけでは無いだろう。
きっと誰が相手であろうと、この黒服達は同じような態度を取る筈だ。
昼間の鑑定の時点で彼らがどこの国から着ているのか割り出すことは出来ていた。
この場所に来たのは鑑定を使用して更に彼らが何らかの情報を知っていないか調べるためだったが――どうやら無駄足に終わってしまったようである。
「聞いたよ、お前大切な大切なお嬢様を結局攫われちまったんだってな。俺らの同僚をたくさんあの世に送ってくれちまって」
「友達を助けるために頑張ることはおかしいことですか?」
「その友達を助ける為なら何人殺しても良いと? 異世界人ってやつはそんなに頭のおかしい奴らだったか? 俺が知る限りはもっと能天気でほんわかしてるやつらが多かったがな。それともお前の殺人衝動は生まれ持っての物か?」
牢屋の中では常に一定の回復魔法をかけられているので、自死を現実的に不可能にされている。
だからエルピスに情報を抜かれる前に怒らせて殺してもらおうという作戦なのだろう。
頭で理解しているからこそ、エルピスは無表情のままに目の前にいる黒服を相手にしていると黒服はさらにエルピスの事を煽る。
「この世界で自分の物でもない力を振り回して好き放題、挙句の果てに子供の姿になって親に寄生たぁお前らみたいなやつらが人のフリしてるのが一番キモチ悪いんだよ。しかも人と龍の子供だ? ゲテモノの体に化け物の中身たぁそりゃお前みたいな人にすらなれないキモイ生き物が産まれるわけだ」
ドクンと体の中で血が沸き立つのを感じる。
アウローラが攫われたときに感じたものと同じ、血が目のまえの生き物を殺せと叫んでいるのだ。
血の衝動は抑えきれず、怒りが体を振るわせるがエルピスは冷静であれと思いつつも気が付けば口が勝手に反論してしまっている。
「さっきから人が黙って聞いてれば好き勝手言いますね。焦ってるんですよこっちは、これ以上ないくらいにこれまでにない程に。分かりますか? これが人生で初めての失敗です、俺はこの世界で両親に愛される為に全てを完璧にこなそうと努力して来た。メイドや執事達にああこの程度なんだと思われないように精一杯頑張って来た。なのに俺は貴方達の行いによって人生で初めて失敗し、この世界で初めてできた出来た友達を無くそうとしてるんですよ?」
襟首をつかんで来た相手の手を無理やり剥がし、渾身の力で押すことで牢屋の壁に男を叩きつける。
魔力もほとんど持っていない状態で壁に押し付けられた男は痛みから空気を漏らすが、それでも彼の目的としていた死にはまるで足りていない。
人の体というのは時に残酷なまでに頑丈なのである。
「俺にとって一番大事なのは家族、その次に友達、それ以外は正直どうだっていい。アンタらが俺の知らない人を攫うなら、俺の知らないところでやってるなら俺だって何も言いませんよ。
ただ貴方達はそうじゃなかった。俺の大事なものに汚い手をかけてあろうことかまるでゴミみたいに簡単に人を殺した。なんで冷静でいられるか? そうしないと今すぐ全員殺しちゃうじゃないですか。あなたたちに利用価値がある限り、簡単に殺すことができないんですよ本当に残念ですが」
「お前、頭おかしいよ」
「善人ぶらないで下さいよ気持ち悪い」
そう吐き捨て、エルピスは牢屋を後にする。
罵詈雑言を背中に飛ばされながらもエルピスはそれを一切気にする様子はなかった。
あれらはもはやこれから先エルピスの人生に関わってこない物、長い人生の一幕でエルピスにアウローラの情報を与えることこそが彼らがするべきだけの事。
どこの国の所属か分かり、身柄を抑えられているのであれば相手を特定しアウローラの場所を割り出すのもそう難しい話ではない。
地下牢がある場所から階段を上り上へと上がっていくと、そこには暗い顔をしたアルキゴスが立っていた。
距離はかなりある上に地下牢と外を繋ぐ扉はとても分厚く声が通るようなものではない。
だがエルピスはアルキゴスの顔色を見て彼はエルピスと名も知らない共和国の密偵との会話を聞いていたのだろうとそう思った。
「エルピス」
「――そんなにひどい顔色、してますか?」
「グロリアス様がみたら気絶しそうな顔してるよ」
急がなければいけないとそう分かっているのに、アウローラがいままさに助けを求めていると理解しているのにエルピスの身体は動かない。
こんなところで話している暇なんてないんだ、今すぐにアウローラのところに行かないと。
こんなところで自分は休んでいるわけにはいかないんだ――
Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼Δ▼
アルキゴスが尋問室の前にいたのは、イロアスに頼まれてだった。
いわくエルピスはアウローラが捕まったのを自分のせいにするだろうから、あの子のことを慰めてやってほしいと。
アルキゴスはそんなイロアスに対して1時間後程度に合流予定なのだから自分の口から言えばいいと言ったしイロアスもそれを納得していたのだが、なんとなく気になってこうしてエルピスを待ってしまったのだ。
アウローラは心の底から心配だ、だがそれと同じく目の前で友達を攫われてしまったエルピスの事だって同じくらい心配なのである。
地下でのエルピスの言葉をアルキゴスは聞いていた。
その子供らしいとはとても言えない口ぶりと、尋常ではないほどの怒りを漂わせた彼は、地下から上がってきたときにはアルキゴスですら半歩下がるほどの威圧感を纏っていたのに、その双眸がアルキゴスを貫いた途端に目に見えて雰囲気が変化する。
まるで自分が失敗したことを親に知られてしまったように、取り返しのつかない失敗をしてしまったように、ひどく絶望したその顔は初めて見るエルピスの表情であった。
「エルピス、俺はお前の師匠だ。そうだな?」
一体何を言っているのだとそんな顔をするエルピスに対して、答えろとばかりにアルキゴスは首をしゃくってエルピスの答えを待つ。
するとエルピスは一瞬戸惑ったような様相こそあったが、すぐにすんなりと答えを口にした。
「そうですね、俺の剣の師匠はアルさんです」
アルさんとそう呼ばれることにも、もはや違和感すら感じない。
数か月の付き合いではあるがお互いに剣を通して会話を重ねてきたのだ、積み重ねた絆は確かなものだろう。
だからこそいまのエルピスの目がアルキゴスは気に食わなかった。
捨てられることを恐れているような目が、その目を自分に向けるエルピスが、そして何よりその眼を向けさせてしまっている自分自身が。
だからアルキゴスは自分が最も得意な方法でエルピスにものを教えることにした。
腰にある剣を抜き、エルピスの元へと投げ渡す。
王国の軍部に所属しているものならば誰もが持つその剣を渡されて、エルピスは頭の上にハテナを浮かべながらアルキゴスを見ている。
「いったい何を?」
「いまのお前じゃアウローラは救えない。俺がお前の迷いを払ってやる」
「アルさん、いまは冗談を言っているときじゃーー」
殺意を込めて剣を振るえばエルピスは無条件でそれに反射する。
アルキゴスの技術と力によってエルピスの持つ軍部支給の剣はまるで紙細工のように粉砕され、エルピスの身体を薄皮一枚切りながら剣はアルキゴスの手元に残る。
一度こうしてしまえばあとはほんの少しだけ背中を押してやるだけだ。
「お前いま、死んだぞ」
ギリッとかみしめるような音がアルキゴスの耳を貫く。
そして遅れて先ほど敵に向けられていたのと同じような質量すら伴った怒りがアルキゴスの全身に強く打ちつけられた。
「……ですか……なんなんですかっ!!」
エルピスが叫ぶと同時に近くにあった硝子は圧力に耐えられず粉々に粉砕され、扉は軋み外からは生物たちが逃げ惑う声が聞こえてくる。
いままで一度だってアルキゴスに向けてこなかった全力を確かに今だけは殺意だけでも向けられていることに、アルキゴスは自分がイロアスに頼むといわれたことを一瞬忘れかけるほどの高揚感を抱いていた。
戦士として戦うのであればきっとこのまま高揚感に身を任せて戦っていただろう。
だがこの場に師匠として立っているアルキゴスは、エルピスの力任せの拳による一撃を剣で受け止める。
「何をそんなに怯えているんだ?」
「逆になんでアルさんはそんなに落ち着いてるんですか!? アウローラが──っ 攫われたんですよ!?」
「違うだろエルピス、お前が怯えてるのはそれだけじゃない。正直になれよ、アウローラの事を大事に思ってるのは理解してる。だがそのまま怒りに身を任せて戦えば足元を掬われるぞ」
エルピスかアウローラを救おうとする気持ちが本心ではないと、そんな戯言を口にするつもりはない。
アルキゴスが問うているのはエルピスが何を恐れているのかというところであり、それをエルピスの口から聞けなければアルキゴスはエルピスを通すつもりもない。
その事を理解してかどうか、エルピスはアルキゴスの言葉を受けて静かに語り始める。
「――話、聞いてたなら分かりますよね。俺が恐れてるのは失敗です。俺はそれがいま何よりも怖い、これ以上自分が失敗してしまう事が何よりも」
「まだ、アウローラは死んでない。ならまだ俺達は失敗してない。違うか?」
「違いますよアルさん。俺は完璧じゃないといけなかったんです、両親にとって完璧でなければ」
失敗を恐れない人物などいない。
天才として認められるに十分な才能を持っているエルピスは確かに他者に比べて失敗に敏感なのだろう。
そう思って慰めたアルキゴスの言葉を本質ではないと切って捨て、エルピスはぽつぽつと言葉をこぼす。
「俺が……僕が失敗を極端に恐れるのは両親に捨てられることを恐れているからです。エルピス・アルへオとして生きる以上、あの両親の――英雄の子供として生きる以上は僕は失敗が許されません。
たとえ世界中の人間に嫌われることになったとしても、あの二人と俺をエルピス・アルへオと呼んでくれる人たちには嫌われるわけにはいかないんですよ。俺がこうして怒ってるのも、もしかしたらそれを邪魔されたからかもしれませんね」
「どうして、そう思うんだ? 俺にはあの二人がお前を捨てるなんてそうはとても思えないがな」
最大多数の幸福のために自らを切り捨てることを是とする二人だが、ことエルピスの話になると全ての優先順位をひっくり返してでもその物事に対処するというのがアルキゴスが持つ二人への感想だ。
エルピスが口にしたように世界中の人間がエルピスを嫌うようなことをしたとしても、あの二人だけはエルピスの事を嫌うことはなく悪いことをしたのならば叱るだろうと確証を持てている程である。
そんな二人にただの一度の失敗で見捨てられると考えるのであれば随分と心配性だ、あの母親の子供であると考えるならそれもおかしくはないのかもしれないがどうやらそれだけではないらしいことくらい話をしていれば自ずと理解できた。
だからアルキゴスはエルピスに素直に問う。
時間をかけてゆっくりと話をするには状況が状況だ、いまは答えを優先するしかない。
「僕だってあの二人が自分の子供を見捨てるとはとても思えませんよ。だから僕はエルピス・アルへオとして、二人の子供として恥ずかしいことはできないんです。止めないでくださいよアルさん、次からは本当に加減ができそうにないので」
窓を開けてそこに足を添えればエルピスは一息で夜空へと溶け込むほどに飛んでいけるだろう。
自分の前で話を勝手に終わらせて飛び立とうとするエルピスに対してアルキゴスはここしかないと声をかける。
「あの二人を舐めすぎだなお前。その黒い髪と黒い目の意味を、知らないわけがないだろ。まだお前がガキのままで安心したよ」
「…………」
「王都周辺は俺に任せておけ。お前はそこより外を頼む」
言葉を返すことはなくエルピスはアルキゴスに一瞬視線を移してから夜の街へと飛んでいく。
転生者としてこの世界に生まれたからこそだろう。
前の世界でいったい何があったのか、それを知らないが異常なまでの家族への固執と信頼への執着はエルピスに戦闘の動機を付けさせるには十分すぎるものらしい。
自分ではどうにもならない事を理解したアルキゴスは、エルピスを見送ってから彼を救える二人の元に向かって走り出す。
可愛い馬鹿弟子を救ってくれる、頼りになる夫婦の元へと。
33
お気に入りに追加
2,596
あなたにおすすめの小説

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる