クラス転移で神様に?

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幼少期編:王国

訓練続行

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 早朝、エルピスはいつも通り決まった時間に起きる。
 日がある程度登ったら発動するようにしておいた魔法のおかげで無事起床できたエルピスは、眠気眼を擦りながら手を使わずに魔力でカーテンを開けて陽の光を全身に浴びる。
 そうこうしていると何処かに飛んでいってしまっていた意識もゆっくりと戻り始め、部屋の中にある違和感に気がつく。

「……嘘でしょ」

 ここでエルピスが割り当てられた部屋について改めて説明しよう。
 王城内の一室、基本的には王族貴族達が利用している階層の一区画にエルピスの部屋は存在する。
 彼もまたアルヘオ家という王国に存在する貴族の一員、この部屋を使用するに当たって誰からの文句も出る事はなくこの世界の中でも相当に豪華な室内を堪能していた。
 室内に置かれている大きな家具は本棚と化粧台──女性も部屋を利用する可能性があるので全部屋共通で置かれている──とエルピスがいま寝ているベッドだ。
 家から家具を持ち込んでも構わないとは言われていたが、別に持ってきたいものも無かったのであり物だけで最初は暮らしいていたエルピス。
 そんなエルピスが実家から唯一持ち込んできたのがこの大きなベッドである。
 キングサイズのベッドはそれだけで部屋の大半を占領しており、エルピスがゴロゴロ転がったとしても容易には落ちないだけの広さだ。
 信じられないくらい寝相が悪いので大きなベッドを用意したエルピスは、そんなベッドに自分以外にも人がいるのを発見する。

「あの……何してるんですか?」

 眠っている白銀の少女、この世界に最近やってきたばかりの小さくなってしまった女神の肩を揺さぶりながらエルピスは声をかける。
 規則的に上下していた彼女の身体はエルピスに揺さぶられたことで無理やり起こされ、少しだけ不機嫌そうな声を出しながら彼女は瞼を擦る。

「睡眠よ。おはようエルピス君」

「おはようございます。──じゃなくて、なんで俺の部屋に?」

「昨日の夜お話に来たら寝てたからちょっとお邪魔させてもらったの」

「全然気がつきませんでしたよ」

 エルピスは眠っている間かなりの数の技能スキルと魔法で己の体を守っている。
 歴戦の猛者のように部屋の中に誰か入ってきたら気が付けたりすればいいのだが、エルピスはそういった訓練を受けていないので能力に頼っているのが現状だ。
 自分の力でやっているわけではないので確かに隙はあるだろうが、それでも遊び半分にやってきた国王を国外に弾き飛ばす程度の罠は張り巡らせてある。
 それを意図も容易く破ったどころか気が付かれないまま側で睡眠を取るなんてハッキリ言って異常だ。

「そう。腕が落ちてなかったみたいで良かったわ」

 簡単にそんなことを口にする女神だが、エルピスとしては心臓に悪いのでやめて欲しいところである。
 さっさと朝の用意をしようとベッドから降りようとしたエルピスは、ベッドから立ちあがろうとしたその瞬間に襟首を掴まれベッドに再び倒される。

「──ぐぇ」

「ごめんなさい。ところで昨日出来なかった話をしたいのだけど、時間あるかしら?」

「無いって言ったら後回しにしてくれるんですか?」

 ダメ元で言ってみると女神はすごく悲しそうな表情を浮かべる。
 庇護欲を唆る顔だ、端正な顔立ちに産まれた人間のなんと羨ましいことか。
 だが顔だけではなく彼女という存在自体が悲しんでいる状況にエルピスは耐え難いほどの苦痛を心のどこかで感じ取っていた。
 そうなってくると渋々ではあるが折れるしか選択肢は残されていない。
 諦めて腰を下ろして彼女に向き直り、せめてすぐに終わらせようと話を促すエルピス。

「分かりましたよ。なんですか?」

「私の名前について、教えていなかったから覚えてもらおうと思って」

 なんだそんなこと、そう言い切れるのは人相手の時くらいのもの。
 悪魔や天使はその名前を他者に教えることにやたらと慎重になるきらいがある。
 それは彼等彼女らにとって名前とはその本人を示す物であり、どんな性質を持つ物なのかバレるだけでなく契約を結ぶ際や主従の関係を結ぶ時にも無くてはならないものだ。
 高位になればなるほど関係なくなるとはフィトゥスの談だが、それでも名前が大切な物であることに変わりはない。

「セラ、私の名前はセラ・ゼーラフよ。セラって呼んで」

「……セラ」

 初めて口にする名前。
 どこから懐かしく感じるのはエラと名前が一文字違いだからなのかとも考えたが、先程の懐かしさも含めればきっと創生神の残滓が彼女の全てを懐かしく思わせているのだろう。
 エルピスが名前を呼ぶとあの空間で初めて会った時に見せたのと同じ、満面の笑みを浮かべてセラは心底嬉しそうにする。
 カーテンから漏れ出た光が彼女の白銀の髪に反射しキラキラと光り、まさに女神のような彼女の美しさと可愛さに気が付かぬままにエルピスの身体は徐々に近づいていき──

「エルピス様~、そろそろ起きないと寝坊しますよー」

「早く起きないとエラにキスされちゃいますよー…………げっ」

 いつの間に入ってきたのだろうか。
 王城でも動きやすい服装こそが正義と私服のような服装で部屋に入ってきたエラとフィトゥスが目撃したのは正にキスをする寸前のエルピスとセラ。
 二人が入ってきたことで意識が戻ってきたエルピスはセラとの顔の近さに驚き、その次に二人にこの状況を見られてしまったと言う事実に脳をフル回転させる。

「エルピス様~~ッッッ!!!!」

「ごめん! フィトゥスちよっと任せた!!!」

「またこういう役周りですか俺!?」

 怒髪天どころの騒ぎでは無い怒り用のエラをみてエルピスは即座に窓を蹴破って外に逃げる。
 頼られたフィトゥスといえば最近こんな損な役回りばかりだと嘆きながら、追いかけるため外に飛び出て行こうとするエラをなんとか押さえつける。
 そんな二人の横をセラはまるで何事もなかったかのような無表情で、軽く会釈だけすると通り過ぎて部屋を出ていくのだった。

 /

 アウローラを起こし、朝食を取ったエルピスは王城内にある魔法訓練場に来ていた。
 中学校のグラウンド程の広さの訓練場には所々に藁で作られた人形が立ち並び、日頃は軍に所属する魔法使い達が修練の為に使用しているらしい。

 だが今日はアウローラと王族が魔法の練習をする為、訓練場にいるのはエルピス達と宮廷魔術師長のマギアだけである。
 訓練には安全面も考慮してアルキゴスが同席するはずなのだが、昨晩クリムに襲われて負傷したので今は療養中だ。

「初めましてとは言っても昨日会ったが改めてエルピス君。儂はこの国の宮廷魔術師長をしておるマギアと言うものじゃ。大層な肩書きを持ってはいるが、同僚だと思ってくれればいい」

 手で解かすことの出来るくらい長い白の顎髭に、伸び切った白髪の長髪、まさに魔法使いという印象の好々爺。
 見た目は初老くらいだが先先代の時から宮廷魔術師長だという話を聞いているエルピスとしては、両親や国王と同じく油断ならない相手である。
 目尻も垂れ下がり優しそうな表情こそしているが、こういった出会いが一番怖いことをエルピスは最近学んだばかり。
 露骨に警戒するような事はしないが、それでも何かされればすぐに動けるよう気を張っておく。

「そうですか、ならそうさせて頂きます。マギアさんには僕の苦手な理論的な魔法の使い方についてみなさんに説明してもらいたいと思っています」

「分かった。──やはりお主もイロアスと同じで感覚派なのじゃな、アルヘオ家の者達は感覚派が多いから仕方ない事ではあるのじゃが」

 そう言いながらマギアは声をあげて笑う。
 確かにイロアスから魔法を教えて貰った時は、あの魔法と似たような感じで撃てば良いよと完全に感覚派の教え方だったのは懐かしい。
 エルピス自身も実際それで魔法が撃ててしまっているので、魔法を理論的に教えろと言われても思い出すのには少し時間がかかる。
 魔法学と言う学問も存在し、学園と呼ばれるところで盛んに研究されているらしいが、エルピスは細かな魔法の話についてはからっきしなのだ。

「考慮していただきありがとうございます。それではみなさん今日も一日頑張っていきましょう」

 手を叩きながら授業の開始をエルピスが宣言すると、王族達は思い思いの方法で自分なりの魔法を使い始める。
 そんな彼等に魔法の扱い方を指南しながら数時間。
 陽も真上に上がり昼休憩の鐘の音が何処からともなく聞こえてくると、エルピス達はその場に腰を落として昼食の準備を始める。
 朝一あれだけ騒いでいたもののちゃっかりとエラが用意してくれていたサンドイッチのようなものをエルピスが食べていると、ふと隣にアウローラがどかりと効果音がつきそうなほどの乱雑さで座る。
 その状態で魔法を詠唱するが魔力操作が上手く行っていないのか途中で魔法が中断され、発動しない魔法を見てイライラが募り始めているようだった。

「ーーなんで上手く行かないのかしら」

 アウローラもセンスは悪く無い。
 むしろ天才と呼んでもいいだろう、それだけの発想力が彼女にはあった。
 魔法を自由に捉え扱う能力に関して言えばピカイチで、エルピスなんか比べ物にならないほどの物がある。
 彼女がどうにもうまくいかないことに苛立ちを覚えているのは、単純に彼女が目指している壁があまりにも高いからまた。

 王族達が習得を目指しているのは超級の魔法、一般的な魔法使いのゴールでありそこまで魔法を修める事ができれば一国の王族として文句のない実力である。
 だが王族たちとは違い、アウローラが目指しているのは戦術級の魔法だ。
 超級と戦術級を区分けするのは残酷なまでの才能、どれだけ魔法に焦がれようとも才能がなけれ使えないそれをアウローラはなんとかものにしようとしていた。

 彼女に足りないのは二つ。
 それは魔力量と魔力操作技術だ。
 魔力操作技術に関しては未だ発展途上、いずれ戦術級を扱えるようになる可能性はそれなりにあるだろう。
 ただ問題なのは魔力量の方だ。
 生まれつき魔力を大量に保有する体質だったり亜人だったりすればまだ成長の見込みもあるが、増えない人間は例え何をしても大幅には増えない。
 その事を知識として知っているアウローラは、イライラした様子で声を荒げる。

「あぁーもうっ!! 何でこんなに魔力が増えないの!? エルピス! なんかコツは無いの!?」

 声を荒げながらエルピスに対してそういうアウローラには、普段ほどの余裕が見受けられない。
 上級魔法までは思ったように使用できていたので、超級から急に難易度が上がったこともあいまってかなりストレスが溜まっているのだろう。

「そうはいっても俺の場合は技能スキルの関係で最初から使えたんでなんとも……」

「これだからチート持ちは……!」

 当て付けにも近い理由で怒られ身体をポコポコ叩いてくるアウローラの対応に困ったエルピスは目でマギアに助けを求めるが、彼は身振り手振りで王族の方を教えているから無理だと主張する。
 一体どうしようかと頭を悩ませるエルピス、そんな彼のすぐそばに今朝の頭痛の種がやってくる。

「私が魔力量を簡単に増やせる方法、教えましょうか?」

「うわっ! ビックリした。ーーというかそんなのあるの? 俺も知らないんだけど」

 エルピスとアウローラの会話に割って入ってきたのは、先程からずっとここにいましたけどといいたげな顔をしているセラだ。
 エルピスが知る限り魔力量を簡単に増やす方法、などと言うものは存在しない。
 もし本当にそんな物があるのだとすれば人類の魔法技術は大きく躍進し、人はこの世界で更なる領土拡大を望める。
 一度叶えば全人類に利益をもたらすほどの技術、当然これまでの魔法史もこれからの魔法史もその技術を手に入れようと躍起だ。
 だが現時点で魔法使い達の研究成果として得られた結論は、奇跡が複数回起こった上で神が許せばなんとか──つまりムリという事である。

「量産化させるやり方までは分からないけれど個人の魔力量を調するくらいならわけないわ」

 だがセラはそんな不可能をまるでなんでもないかのように可能だと断じる。

「少しだけ特別な方法を使うから、アウローラちゃん手を貸してくれる?」

「え、ええ。頼むわ!」

 特別な方法とやらがどんな方法なのか。
 エルピスには分からないがセラはアウローラの手を取ると、なんらかの魔法を行使する。
 この世界の魔法とは発動形態からして違う不思議な魔法、使えば魔力量が増えるというのだから大した魔法だ。
 ここは任せてとセラに言われてそれならばとアウローラを託したエルピス。
 遠巻きにどんな処理をしているのかとセラ達を眺めていると、ふと傍に少しだけ不機嫌そうな少女の気配を感じとる。

「──機嫌悪いねエラ」

 朝一のことを思い出しながらエルピスは横で膨れっ面をしているエラに声をかける。
 正直朝の彼女の怒りを全く解決せずにいまに至るのでエルピスとしては逃亡したい。
 だがセラにこの場を任せている上に教師としての体裁があるエルピスは、まさか自分の召使が怖いからこの場から離れるなどという馬鹿げた手法を取ることは許されていなかった。
 大切なのは怒られない雰囲気作り、自分に引け目はないのだとそう胸を張ることで己の無罪を主張するエルピス。
 そんな彼の判断は間違いであった。

「…………うー」

 じっとエラはエルピスを見つめて睨む。
 現行犯であったときならいざ知らず、いまさら朝あのよく分からない余所者と何をしていたんですかとは言えない。
 それにあの天使、どうやってかは知らないがやたらと人に取り入るのが上手い。
 警戒心が強い王族達がまるで警戒していないのも特徴的であり、エルピスが連れてきたという前提があったとしてもその立ち回りの上手さは目を見張る物がある。
 そんな彼女とエルピスが同室で朝一からイチャイチャし挙句の果てに顔をあんなに近づけて──

(思い出したらまた腹立ってきましたね)

 だが彼女に主人であるエルピスの交際関係に口を挟む権利は少なくとも
 だからエラにできるのは不満を持っていることを表に出して、エルピス側に気を遣ってもらうこと。
 大恩のあるエルピスにそんな事をするべきでは無いという従者としてのエラと、彼と共に育ち幼馴染と言ってもいい立場のエラ両方の思いが歪な形として表に出た結果である。
 そしてそんなエラの行動にその相手であるエルピスは少し──いや、めっぽう弱かった。

「ごめん、悪かったよ。今日の朝セラが来てたのは契約を完了させるためだったんだ」

「……キスしようとしていたのも?」

「してないよ。まぁ確かにちょっと顔近かったけど、セラは天使だから距離感が分かってないみたいでさ」

「そう言うことなら……分かりました。納得します」

 口ではそう言ったエラだが、言葉の端々から妥協しようという意思が漏れて伝わる。
 謝罪をしたからこれ以上はと言ったところか。
 エルピスとしてはエラが怒っている理由は、昔から共にいた兄弟のような存在である自分がセラに奪われるのが嫌なのだろうと考えていた。
 可愛いものだ。
 いつか自分に対する執着は無くなるだろうが、それまでは可愛い妹として対処するべきだろう。
 黒い髪に手を乗せ優しく撫でると、エラは一瞬驚いたような表情を見せた後に俯くと静かに頬を染める。

「心配しなくてもエラがおっきくなって誰かと家を出て行くまで一緒だよ」

「……………エルピス様は馬鹿ですね」

「えっ? 何か言ったーー」

 呟く声が聞き取れず聞き返して油断していたエルピスは気が付けはわエラに抱き締められた。
 抱き締め様とした瞬間にエラの顔が凄く赤かったのを見てしまったエルピスは、されるがままに抱きしめられる。
 ここは黙って抱き締め返すのが良い男という物だと頭の中で父が語るが流石に衆目の前、目を見開いてこちらを見てくるアウローラを睨みつつエルピスは再びエラの頭を撫でる。
 それから少しするとエラの方から離れた。
 セラから発されている魔法の反応が無くなったので自分もここら辺にしておこうと言う事だろう。
 離れはしたもののいまだそれなりの距離にいるエラとエルピスを一瞥しても表情を変えないセラは、ゆっくりとした足取りでエルピスの方に近寄ってくる。

「終わったわよ」

「どうだった?」

「すぐに魔力が増えることはないけど、将来的には戦術級くらい楽に打てるようになるでしょうね。才能と努力次第ではもう一つ上も狙えるかも?」

 戦術級のもう一つ上、国家級魔法の存在をチラつかされ自分の魔力が増えた実感のなかったアウローラが目を丸くする。
 国家級魔法といえば人類史の歴史を紐解いても放たれた回数は百年に一度ほどのペース。
 数千人規模の魔法使いを動員し、多数の魔道具を用いた上で長く大変な手続きのいる儀式を行なって打つようなもの。
 効果も範囲も人が行使するには有り余るほどの力であり、個人で放った記録を持つのはこの大陸中を探しても人類では公式にはイロアスのみである。
 英雄に片足を踏み出そうと言うほどの魔力量、その情報にさらにセラは情報を上乗せする。
 
「それに彼女の血統能力とも相性良いですしね」

「血統能力が有るの?!」

 反応したのはこれまたアウローラ。
 血統能力とは特別な血統、もしくはそれに類するものに、ごく稀に現れる生まれつきの能力。
 要は先祖返りのようなものだ。

 能力としてはスキルや魔法に分類されず、特殊技能ユニークスキルと同等かそれ以上の力を持っている。
 特殊技能ユニークスキルの獲得には天性の才を持ってしても二十年はかかると言われれば、生まれついての能力でそれより強い可能性のある血統能力の異質さがよく理解出来るだろう。
 いまはまだその才能が花開いていないので力を行使できないようだが、そのうち使えるようになるだろうとのこと。

 なんでもセラに聞いた話だとこの血統能力と先祖返りは、異世界人が好き勝手した際に止められる抑止力として創り出されたものと信じられているらしい。
 血統能力はその使用者の行いたい事や意思と反対の能力になる事が多く、この能力のせいで人生が狂った人も少なくはないとセラは注釈を入れる。

「彼女の血統能力は、彼女の攻撃で負傷した場合、回復魔法不可の呪いがかかるという能力ね」

 つまりアウローラが広範囲魔法の一つでも撃とう物なら、完璧に防ぎ切らない限りそれだけで相手は戦闘続行が厳しくなるという事である。
 両親に自らの力の扱いを心配されていたエルピスではあるが、他人の能力であるならばそれがどれほど危険なものなのか分かる。
かすり傷程度ならば自然に治癒するだろうが、骨折や大怪我を回復魔法で治すことができないのは回復魔法で怪我を治すことが常識の人達にとってはまさに鬼札である。

「私にそんな力が……」

自分の手を見ながらそんな事を呟くアウローラ。
だが彼女の中にあるのは自分の力に対する恐れではない。
(なんだ! 私も意外とチートじゃない!)
言うまでもなく女帝を始めとして統治者としての力を特殊技能ユニークスキルによって取得しているアウローラはチートもチート、彼女が求める力は元より彼女の元にあったのだが目に見える力とそうでない力ではやはり前者の方が嬉しいようだ。

「力の使い方も含めて、頑張って魔法を覚えていきましょうね」

彼女がこれから先どこまでの魔法使いを目指すのか。
少なくともどんな魔法でも使える状況にあって、彼女が初めて使用した魔法は他者を安堵させるような優しい魔法であった。
最悪何かあれば自分が止めればいいだろう。
かなり楽観的な思考ではあるがそう納得したエルピスは、指導を続けるのであった。
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