クラス転移で神様に?

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青年期:極東鬼神編(12月更新予定)

荒れる島

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 戦闘は島民の一切に知られぬまま、ゆっくりと始まっていた。
 夜の闇に紛れて、朝日のまぶしさに隠れて、森で山で海で洞窟で平原で。
 島の誰にも気が付かれぬままにエルピスと破壊神の信徒たちとの戦争は苛烈さを極めていた。

「――ふぅ。さすがにこうあっちこっちで起こってると対処するのも面倒くさいな」

「そうも言ってられないわよ、これを野放しにしてたら何が起きるか分かったもんじゃないんだし」

「それはそうだけどな」

 アウローラからの言葉を素直に受け入れながら、エルピスは先ほど倒した生物の死骸に目線を落とす。

 様々な動物をつぎはぎして作ったようなそれは一目見て人工的な生物だとわかる物であり、魔物に近いその生物は何をするでもないが放置しておくにしてはその数が多すぎた。
 カラダの大きさは1メートル前後、そんな生物が50から100に近い数で群れを成して突如として発生したのだ。

 遍鬼超童子が見たことのない生き物だと言っていたところからこの島の生物でないことは確実、であるならば鬼神からの攻撃であることは疑う余地もないだろう。

 アウローラが口にしている通り無視をして放っておける様な相手ではなく、エルピスはここ数日間このよく分からない生物相手に東奔西走している羽目になっていた。

「安全を考慮して二人一組にして動いてるけど、このままじゃ一人一人で対処しないといけなくなっちゃうよ」

「島の人間が居ないような所だったり、そもそも人のいる所に行こうとしないのが唯一のすくいかしら」

「島の人達が減って困るのは何もこっち側だけじゃないってのは確かに大きいね」

 鬼の数は鬼神の力に直結する。
 下手に鬼人が死ぬようなことは鬼神もしないだろうというのがニルの読みだった。
 それもこの戦闘が終盤に近付いてきたら分からないという事だったが。

「トコヤミちゃんは敵にさらわれたって事でいいのよね?」

「そうだな。これだけ探していないわけだし」

 同時進行でトコヤミの捜索も行っていたが見つかっておらず、エルピス達の間では敵にさらわれたという意見で一致していた。

 敵側から身代金の要求の様な物はされておらず、またトコヤミに張ったエルピスの障壁が生きている事を考えてもどうやら死んではいないらしいというのが共通の認識である。

「エルピスが追跡できない場所か……この島にはいないんじゃない?」

「俺もそう思うよ。いたとしても宇宙かとんでもなく地下のどっちかだと思うけど……」

 国をまたいで追跡できるエルピスの追跡能力を振り切れるのであれば、エルピスが口にしたように単純に距離が離れているか隠すことに長けたものがいるかのどちらかである。

 盗神はまだ開放がすんでおらず権能を全力で行使できない事を考えると、特殊技能でも持っていればそれに加えてエルピスが知らない場所を選出できるのであれば隠しきることはそう難しいことではない。
 探すのであれば相当本腰を入れてエルピスが単身で動き回る必要性があり、とてもではないがこんな人手が足りない状況の時に出来るようなことではない。

 せめてアーテ達の手が空いていたならもう少し楽になったのだが。

「ないものねだりしてても仕方がないか。アウローラはこの後セラ達と合流予定だったよね、送るよ」

 アウローラを小脇に抱いて、龍神の翼を広げるとエルピスは大空へと飛び上がる。
 見慣れた島が視界の遥か下に見え、体を撫でる冷たい風を感じながらエルピスは合流場所まで飛んでいく。

「エルピスはこの後どうするの?」

「俺は敵を探して順序よく潰していくよ。定時連絡はするけどもし連絡なくなっても障壁がある限り生きてるから気にしないで」

 ニルもセラもやる事があって相手を探して倒すよな作業をしている余裕はない。
 レネスは要人警護をすることになっているし、それでなくとも戦闘に特化している彼女はエルピス陣営の切れるカードの中でも特に慎重に切りたいカードの一つだ。

 神の力を多数有しており生存能力がやたらに高いエルピスがこのような立ち回りをすることになるのは何もおかしな話では無い。
 だが気にしないでと言われてはいそうですかともいえないのがアウローラの本音だ。

 薬指に取り付けられた自分の指輪を触り、ついていくことのできない自分自身のいたらなさを実感しながらもそれでもせめてとエルピスに言葉を残す。

「一人じゃないんだから、無理しないで危なくなったら返ってくるのよ」

「もちろんだよ。絶対に生きて戻ってくる」

 改めて口に出すとどことなく死亡フラグの様な予感が頭をよぎり、二人ともその事に気が付いたのかなんだか渋い顔になる。

「本当に死んだら許さないからね?」

「アウローラ俺の死亡フラグ積み立てに行ってない?」

「そんなもの何本立てたって死なないでしょ。私なんてなんのフラグもなかったのにいきなり死にかけたんだから。もし死にかけても私が救ってあげるわよ」

「楽しみにしてるよ。ニルによろしくいっておいて」

 会話をしているうちに気が付けば目的地にたどり着いており、エルピスはアウローラを降ろすとそのまま再び空へと飛び立つ。
 そしてこの島全域を覆うように神域を展開し島の状況を確認、島内の状況を確認した後にエルピスは島を後にする。

 この島にもし鬼神達が居るのであれば先程アウローラとの会話に会った通りエルピスが発見できないという事はない。

 ならばそもそも敵は既にこの島にいないというのは考えなくても分かる理由である。
 それならどうして島にわざわざ滞在しているのかと聞かれると遍鬼超童子の約束とトコヤミの発見が上手くいっていない事、鬼神がこの島からそう遠くは離れないだろうという読みの元の行動に過ぎないので間違っている可能性も十分に考えられるのだが。

 エルピスがまず真っ先に向かったのは大陸と島の間に広がる海域、数週間をかけてやってきたその海域を龍神の翼は一度の羽ばたきで移動しきる。

 そうしてエルピスが島と大陸の間を数十回ほど往復し、どうやら敵がいる痕跡がないことが分かったころ。
 ふとエルピスの検知の範囲にほんの一瞬だけではあったが何かが入って来るのが感じられた。

 それは瞬きよりも早い程で、エルピス自身自分が何に違和感を感じて足を止めたのかその事すらも理解できないほどの一瞬である。
 だが確かに上空で停止したエルピスは、己の周囲を注意深く探り始める。
 気のせいであればそれでよし、釣られているのであればその一切を破壊するまでだ。

「――――釣れたか、しかも思ってたより大量に」

 エルピスの周囲を取り囲むのは数十にも及ぶ黒色の影。
 何処かでみたそれらは隠す様子もなく破壊神の信徒特有の嫌な気配を有しており、近くにいるだけでも鼻が曲がりそうなほどの強烈な悪臭を漂わせている。

 知性があるのか、意志を持っているのかどうかすら怪しいそれらを前にしてエルピスが言葉をこぼした理由は単純に現在の状況を正確に把握するためだ。
 いつもならばここで何か言葉をこぼしていただろうエルピスは、だがそんな事を一切せずに魔法を展開する。
 創り出されるのは黒色の魔法陣、それは本来この世界に存在しないはずの陣の色だ。

 エルピスが攻撃を行ったその瞬間に敵もそれぞれの攻撃行動をとり始めるが、開戦の火ぶたをエルピスが切っている以上彼の速度よりも早く敵の攻撃がエルピスに届くことなどありえない。

「この世界から消えるんだな」

 エルピスが言葉を発した瞬間に黒色の魔法陣は更に輝きを増し、そこからあふれ出した光を浴びた破壊神の信徒達はその体の原型をとどめることなく破壊されていく。
 この国でエルピスがまなんだ魔法と呪術の間にある技術、それを応用し邪神の権能が付与されたそれはこの世界に存在するありとあらゆる呪いを超越したものだ。

 食らえば生命は己の魂の原型を忘れ、輪廻の輪にすら帰れずにただこの世界から消滅する。
 チリすら残らず消えていくそんな存在を見ながらエルピスが警戒を緩めることなく辺りを見回していると、ふと人影がまたゆらゆらとエルピスの方へと飛んでくるではないか。

「さすがに強いな創世の神の現身よ。私が作り出した人工聖人がここまでいともたやすく葬られるとは」

「アンタ、いったい誰だ? 皇帝でも鬼神でもないように見えるけど」

「誰だっていいだろう? 私はお前を殺すものだよ」

「せめて名前くらいは聞きたかったよ、久々にまともに会話ができる敵にあったと思ったんだけど」

 黒い影が何をしてくるか不明な異常エルピスは距離を取って戦う事が重要だと考える。
 破壊神の権能が邪神の障壁を破ることはアウローラで実証済み、であるならばそれさえ避けきればエルピスの命を脅かす攻撃というのは早々ないだろう。

 国家級を容易く飛び越えて龍だろうと容易く瞬殺出来るだけの魔法を5発、目標の敵が逃げきれないように広範囲にわたってばらまく。
 熱は空間に存在する酸素を統べて燃やしつくし、その他の属性はこの世界に並々ならぬ影響を及ぼしていた。

 ここが上空でよかったとそう思えるほどの攻撃は、数百キロ以上離れた大陸の人間が何かあったのだと明確に気が付けるほどの物だ。
 だがそんな極大の破壊活動を行ったエルピスが最も驚いていたのは、その魔法によって敵を倒せた実感があったことである。

 渾身のあたりを見せた魔法は確かに敵を破壊しつくし、実際先ほどまで出来が居た場所から真っ逆さまに原型をとどめていないナニカが落ちていくのがエルピスの視界に入った。

「随分とあっけないけど、あれで一応終わったのか?」

 そんなわけがないと思いながらも実際敵は死んでいた。
 一瞬対抗する様な感触がなかったわけではないが、その犯行は魔力量の暴力に抗えきれずにいともたやすく落ちていったように感じられる。

「――あれで、いいんですよ。彼女は死ぬことにその役目がありましたから」

 声が聞こえた方向からエルピスは即座に距離をとる。
 終わったとは思って居なかったが実際に相手がいることにへきえきとしながらエルピスがそちらの方へと視界を移せば、同じような相手が同じように空中に立っていた。

 先程の影よりも大きいので男性なのだろうか?
 性別もろくに分からない見た目をしているが、敵であることに変わりはない。

「破壊神の信徒ってこんなに数がいるとは思ってなかったよ。それとも量産型?」

「どちらでしょうね。どちらにしろ、私どもが任されている仕事は貴方の足止めです。この空間は私共をすべて殺さねば開きませんから――」

 男が言い終わるよりも前にエルピスは男の首を黒刀で切り飛ばす。
 同時に転移魔法を使用して外部に出ようと試みるがそれは失敗に終わり、翼を持って一定範囲奈から逃げ出そうとしてみるがどういうわけか外には出られない。

「これはこの世界の人々が神を繋ぎとめるために作り出した秘術。人柱とそういっても差支えはありません。私達はあなたをこの地に繋ぎとめる鎖というわけですね」

 そんな声と同時に肌をかすめる魔法を受けて、エルピスは状況を理解する。

「随分とそっちも焦ってるみたいだな。こんな何分俺を止めれるかも怪しい方法使ってまで止めに来るんだ」

「一秒。それがどれだけ大切なものか、知らないわけではないでしょう?」

「何万何億いるか知らないけど、1時間以内に全部終わらせてやるよ」

 状況はそこまで悪くはない。
 もしここにアウローラが居たならエルピスは全力で戦闘できなかっただろうが、いまこの場に居るのは自分だけであり周囲を取り囲む結界はエルピスの魔法を外に出さないようである。

 魔法を遮断しなければこの位置からでも何の問題もなくエルピスは鬼たちが住む島に魔法を放てるので対処としては間違っていないが、対応としてはそもそもが間違っていた。
 太陽の熱と見まがうほどの熱量を局所的に発生させたエルピスは、障壁の内側を焼き尽くし続ける。

 一体相手の替えはいつになったらなくなるのだろうと考えながら、エルピスは次の相手の手を考えるのだった。

 ▽△▽△▽△▽△▽△

 そうしてエルピスが一方的な戦闘を行っていたそのころ、おなじように鬼人の島では各地で信徒との戦闘が苛烈を極めていた。
 特に激戦なのは芙蓉峰であり山の形が変わる程の戦闘が繰り広げられていた。

「――ッラァ!! 次だ次ィ!」

 叫びながら敵を殴り飛ばしたのは血まみれになった遍鬼超童子だ。
 一応彼の名誉のために付け加えるのであれば、その血は全て返り血であり彼自身は攻撃を食らってはいない。

 だが最重要人物の一人であり死なれると困る人物筆頭である遍鬼超童子が戦っていることにニルは頭を悩ませる。

「キミいつになったら引き下がってくれるの!?」

「少なくとも俺の汚名が返上されるまでは戦うぜ。元はといえばこの島がこうなってるのは俺の原因でもある、俺が一番気張ってないのはおかしいだろ?」

「もうちょっと弱かったら気絶させてその辺に転がすんだけど、なんでそんなやたらに頑丈なのか聞きたいよ本当に」

 先程から何度かニルの目の前で攻撃されていた遍鬼超童子だったが、攻撃の反動でのけぞりこそするものの負傷どころか出血すらしていない頑丈さを見せている。
 一体なぜ彼がそこまで頑丈なのかは知らないが、猫の手も欲しいような現状に置いて彼の戦力を遊ばせておく余裕というものはさすがにニルのポケットの中にもない。

 背後には遍鬼超童子の屋敷がいまだにその形を保っており、その中には穂積だけでなく遍鬼超童子が集めていた仲間やその関係者など多数の物が居るのだ。
 彼らがここに居る以上ニルたちはここから移動することはできず、ニルも普段よりさらに慎重にならざるおえなかった。

 エルピスとの連絡が取れないのも不気味ではあったが、先ほどまで海上にエルピスの気配を感じ取ることができていたのでおそらくは敵の足止めを食らっているのだろう。

 となるとニルが最もこの場で頼りにするのは――

『私が居なくても大丈夫でしょうね?』

『大丈夫に決まってるでしょ姉さん』

 通信魔法によって聞こえてくる姉の声に対してニルは自信満々とばかりに言葉を返す。
 実際問題この場所を守るだけならば今のところこれといって大きな問題はない。

 屋敷の外にはニルと遍鬼超童子がいる上に、屋敷の中にはレネスだって控えているのだから。

『こっちはエモニの予定通りに動くからこれから連絡取れないけど、何か言っておくことはある?』

『ないよ、姉さんなら何とかしてくれるでしょ。エルピスが敵に捕まってるみたいだからそっちだけ余裕があったら気にしてあげて』

『エルピスなら大丈夫でしょ。さっさと終わらせて次に行くわよ』

「そうは言うけど姉さ――切れちゃったし」

 姉は必要なことだけを告げるとそのまま回線を切って自分の戦場へと移動していった。
 ニルとしてはエルピスの現在位置が分からないという事はそれだけで正気度を削っていくような事態であったが、今回ばかりは自分の好き勝手なことを言って居られる状況でない事も確かなので駄々をこねるわけにもいかない。

 襲い掛かってくる敵に怒りをぶつけるようにして戦いながら、ニルはこの戦闘が早く終わることを祈るのであった。

 ▽△▽△▽△▽△▽△

 外で戦闘が行われている音を聞きながら、アケナは自分がなぜここに居るのかと自問をしていた。
 エルピスにムリを言って3人を連れまわしあちらこちらをめぐってあげく、敵との戦闘になった今はこうして守られている立場。

 冒険者として活動していた時は人を守って戦う事が好きだったが、それは自分が守られる立場になった時にその屈辱に耐えられないからだという事に気が付いたのはいまになってからだった。
 この場から脱走することも考えたがそれをしたところで迷惑がかかるうえに、最悪の場合トコヤミは助けられて自分が死ぬという状況だってあり得る。

 あの子のために死ぬことをアケナは全く躊躇しないが、トコヤミの知らないところで野垂れ死ぬことなど許容できるはずもなかった。

 思考はずっと堂々巡りで答えなど出るはずもなく、自分に力が出ないからいつまでたっても誰かが何かをしてくれることを祈っているしか入れない自分が歯がゆくて、気が付けば涙が零れ落ちていた。

「大丈夫かい? キミ」

 声を掛けられて、アケナは視界を上げる。
 いまこの場所は空間が拡張され、千人近い鬼人達が収容されている。
 聞けば遍鬼超童子を支持する者達であり、破壊神の信徒との戦いにおいて狙われる可能性があるからとこうしてかくまっているらしい。

 アケナにとっては手を差し伸べてくれない大人たちの代表である鬼人という種族、声をかけてくれた初老近い鬼を見てもアケナは同族という意識すら芽生えてこず話しかけられたことにいら立ってすらいた。

「怖いのかい?」

 何もわかっていないのに、こちらの気持ちを汲もうとして言葉を重ねてくる相手。
 それが善意からの物だとわかっているからこそアケナは一応言葉を返す。

「ええ、そうです。怖いんです」

「大丈夫じゃよ、必ずあの人が、遍鬼超童子様が何とかしてくださる」

 アケナは何を安心しろというのかと言いたくなる気持ちをなんとか堪える。
 遍鬼超童子は確かに強い、だがそれよりも遥かに強いエルピス達が探し回っても妹は見つからなかった。
 生きてはいるとのことだが、現状の敵の強さは邪龍を倒したエルピスをして厄介であると言わしめるほどの相手とのことだ。

 加えて最高位冒険者であり帝国の王である皇帝も敵に回っているわけで、確かにこの場所に居れば自分の命は助かるだろうが、何かにすがって誰かが何とかしてくれるだろうとそう思って居るような自分と同じ考えの人物に何をいわれたところで――

「――それにもし遍鬼超童子様が負けても、儂もおるし他にもたくさん年を食った者達がおる。お前さんら若い者たちは安心してまっとればええんじゃよ」

「……えッ?」

「わしらだってろくに長い事生きているわけじゃない、おぬしら未来のために死ねるなら、本望というものじゃよ」

 目の前の人物はアケナが鬼人と人とのハーフだという事に気が付いているだろう。
 アケナ達世代ならばまだしも彼らの世代は人に対して良く思って居ないものが大半だろうし、実際街中でアケナに対してよくない目線を送ってきたのはそれくらいの年代の者達だ。

 だからアケナはこの年代の人は助けてくれないと勝手に妄想していたし、あろうことか救われることを待つだけの存在だとすら勝手に決めつけてまでいた。
 そんな人物が想定とは魔反対の事を行ったのだ、アケナの思考が止まってしまったのも無理はないのかもしれない。
 見ればこの空間にいる全員が覚悟を決めた戦士の顔をしていた。

 助けられることを甘んじながら、いざという時は戦う決意をしたその姿は遍鬼超童子の人徳がそうさせるのだろう。
 もとより戦闘ができないものまでも彼の為ならば戦うとそう思わせる彼の手腕は驚きの物である。

「私の為に死ぬなんて、そんなこと言わないでくださいおじいさん。私は私と私の家族のためにしか死ねませんから」

「……わしはそんなお前さんだって救いたいと思うよ。あの人が儂を救ってくれたようにの」

「おじいさんは優しいんですね。この戦いが終わったら、おじいさんみたいな人がいっぱい居る島になっていたらいいなと思います」

 泣いていても何も変わらない。
 抱えていた膝をほどき、立ち上がっておじいさんに感謝の言葉を伝える。
 いつまでもこうしていられないと思えたのは、おじいさんの言葉のおかげだったから。

「無理をするんじゃないぞ。若者にはいつだってやり直すチャンスがあるんだから」

「ええ、そうですね。いつだってやり直すチャンスがあります」

 心配そうに見送ってくれるおじいさんに微笑みを返してアケナが向かうのは彼女がこの島に来て一度も口を聞いていない人物の元へ。

 その人物はアケナが寄ってきたのに気がつくとハッとしたような顔をすると同時に、バツの悪そうな顔をし始める。
 前まではその顔の意図がわからなかったが、いまならばそれもわかる。

 この人はどうしようもなく、私達姉妹の親なのだろうと。

「話してもらいますよ母さん、トコヤミがどこにいるのか。鬼神はどこに行ったのかを」

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