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青年期:極東鬼神編(12月更新予定)
すれ違い
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エルピス達が鬼神攻略のために暗躍を始めて早いもので三日が経過し四日目。
ニルから指示され権能を用いて効率的にエルピスの手によって恐怖がばら撒かれた都は今──いつもと変わらない街並みを保っていた。
「エルピス様がいろいろしてるのにいつもと変わらない街並みです」
言葉をこぼしたのはこの島の衣装に身を包んだトコヤミである。
眼前に広がるのは言葉の通りいつもと変わらない街並み。
かなり昔の、自分がこの島に居た時の事をトコヤミは事を思い出し、そして追加にこの四日間の事を思い返してみてもこの島は変わらない。
初日はエルピスが放った恐怖によって都はそれなりに変化があったように思えた。
人々は外に出なくなったし、夜には暗闇を恐れるようにして辺り一帯が光に染まっている景色は幻想的ともいえるほどである。
だが一日が終わり二日目が始まると鬼人達の認識は少しずつ変わり始める。
この作戦の発案者であるニルがその事を予測していたかどうかはトコヤミでは分からないが、少なくともトコヤミにはこのような状況は想定外であった。
恐怖によって支配された鬼人達は何を思ったのか二日目にそれらを娯楽とし始め、脳が全力で恐怖のボタンを連打しているのにも関わらずむしろそれを楽しもうとする島民の考えは、とてもではないが大陸の人間には理解できるはずもない。
娯楽がとことんなかったからこそ、彼らは何にでも娯楽の要素を見つけようとする。
エルピスが気を使って権能で恐怖を与えつつも犠牲者を出さなかったのも、彼らがエルピスが出した恐怖を楽しめるところに一因を置いているだろう。
「それでも目的は順調に進んでいるはずよ。だってこうして私達が囮として市内を歩き実際に効果が出ているのだから」
「ただ歩いているだけで終わるのは暇です、トコヤミも戦いたいです」
「トコヤミは戦わないでいいのよ。こうして街を楽しむのが私達の仕事なんだから」
頬を膨らましながら不満を口にしているトコヤミに対し、アケナは機嫌を取りながら姉妹として都を歩けることを楽しんでいた。
……本当だったらこの島で二人楽しく過ごせるはずであった。
父が愚かにも戦争を仕掛けていなければ、母が鬼神を欺くような愚かな真似をしなければ、アケナがハーフでなければ、トコヤミが鬼神の子供で――
「お姉ちゃん、あっちなんかやってるみたいです?」
――ふとよぎった自分の考えが恐ろしくて、アケナはこちらを心配そうに見つめるトコヤミの目を見ることができない。
それを否定してしまったら彼女と姉妹であることすら否定しそうで、自分の頭の中ですら考えるべきではないと思いアケナは頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
そんな姉の動作を不審そうに見ていたトコヤミだったが、自分の姉が何を考えて何をしようとしているのかトコヤミでは考えても分からない。
「ほら行きましょうトコヤミ、気になるところがあったんでしょう?」
「うん」
短く言葉を返しながら、トコヤミたちはそうして自分たちがするべきことを為すために歩き出す。
この長い長い年月の中で確かに隣にいた姉と共にあれること、その喜びをトコヤミは確かなものだと信じて噛みしめる。
そうして二人が街並みに消えていくころ、背後を歩いていたアウローラとエラはそろってその場を離脱した。
彼女らがこの場所で二人を監視していた理由は二人も口にしていた通り餌としての役割があったからだが、既に先程から何度も追手を撃退しているからかこれ以上敵がやってくることはなくなっていた。
一応監視役として遍鬼超童子がまだついているが、これ以上敵が攻めてくるという事はないだろう。
一時撤退したエラとアウローラが向かった先は都の宿屋の一室、なんでもないようなそんな場所にわざわざ二人がやってきたのはもちろんその必要があるからだ。
「二人はどうだった?」
宿の一室に入った二人を迎え入れたのは座敷に複数人の人間を縛り上げて満足そうにしているエルピスである。
見てみれば縛り上げられている彼らは全員先程姉妹を襲おうとしていた者達であり、エルピスからの折檻を食らって伸びていた。
「無事に市内を回ってる。問題があるとすれば遍鬼超童子さんがちょっと暇そうにしてたことくらいかな」
「それは良かったよ、こっちはこっちで意外とうまく行ってる」
そう言ったエルピスの手から渡されたのは一枚の紙。
彼らから引き出したのだろう情報がそこに入っていると思ったアウローラは、その書類を上から下まで流すようにしてみる。
上手くいっていると口にしたのだからよい情報でも入ったのだろうと思ってみたアウローラは、思って居たものと違った紙に素直に疑問を口にする。
「確かに情報は乗ってるけど中身が何もなくない?」
「良いところに目を付けたね。こいつら全員ただのチンピラだよ、鬼神が嫌がらせしにきただけだろうね」
「それって悪い情報なのでは?」
「それがそうとも言えないわけ。まぁ俺もニルから話聞いてるだけだから二人にも共有しておくよ」
そう言いながエルピスが腕を振るうと、地面に地図と文字が浮かび上がってくる。
地図はこの島のもの、いくつかピックアップされている街はどれも人口の多いもので赤と青の二種類に分けて色が変わっていた。
地図を見る限り多いのは赤い色だ、割合で言うと七対三と言ったところだろう。
文字は各地の地名や年齢別の人口比率、こちらにも赤と青の色が使われている。
島の近くの海の上に浮かんでいる文字は勝利条件と敗北条件であり、エルピスが手を振るうとそれらの項目が一際大きな文字に変わった。
「今回の勝利条件は鬼神を倒す事、それとついでに遍鬼超童子を新しい鬼神の座につけること。ここまでは大丈夫?」
「ええもちろん。そこは変わらずいつも通りよね」
「それで敗北条件なんだけど、これがまたやたらと多いのよ。いま想定してあるだけでもこれだけある」
そういいながらエルピスが提示した敗北条件は勝利条件がかすむほどに多い。
エルピス達の誰か一人でも殺されること、次代の魔王としてエルピスの名声が取り換えしのつかないところまで傷つけられること、王国の貴族であるアウローラがこの島の住民を不用意に傷つけてしまう事などなど。
勝利条件に対して敗北条件がやたらと多いのは、それだけ拾わなくてもいいものをエルピス達が拾おうとしているからだ。
エルピスの嫁になった以上は王国貴族としてアウローラを扱う人間の方が少ないだろうし、エルピスの名声など傷つけられたところで無視すれば済む話だ。
いまさら人類生存圏内でエルピスの名声を傷つけるのは自殺行為に近いし、人間と中の良い亜人種たちはそのほとんどがエルピスの交友関係の範囲内だ。
ムリをしていると実感するには十分なほどの彼我の勝利条件の差を見てアウローラも苦い顔を隠せないでいた。
「随分と多いわねこれ」
「この島を鬼神から手に入れるのはそれだけ難しいってことだよ。それよりさっきのやつらが何も記憶を持ってなくてよかったって言った理由は、今回の陣取り合戦で一番重要な都市を鬼神は全力で守る気がないところにある。
さっきからエラが気になってそうなこの赤と青についてだけど――」
「――エルピスが実質的に支配できた街……ですよね?」
「さすがエラ、冴えてる」
「私もこの島で出来るだけ情報収集は行っているつもりですから」
ふんと鼻をならして自慢げにしているエラが言った通り、地図上に記載されている赤と青はこの島を現状エルピスと鬼神どちらが制しているのか分かりやすくしたものである。
報告書とエルピスが実際に技をかけた感覚から算出したものなので誤差はそれほどないだろう。
「見たところ7対3なわけだけど、どっちが7でどっちが3?」
「残念なことにまだこっちが3だよ。順調に事は進んでいるけどこのままだと当初の予定通り1週間で乗っ取れるかはギリギリってところかな」
「幸い時間はこちら側に多くあるのですから、問題ないのでは?」
「こっちは1年と10月後の戦争まで特にすることはないんだし、エラの言う通り腰を下ろして今回の件に挑むのも確かに悪くないわね」
戦争が行われる前日まで放置というわけにはさすがにいかないだろうが、一月や二月くらいならばこの場所で過ごすことに特に問題があるようには思えない。
早く終わるのであればそれに越したことはないが、陣取りがこの場に置いて重要な要素であるのならばゆっくりとそれ行うことはなにも間違った事ではないだろう。
だがエルピスの考えは違う。
「俺も最初そう思ってたんだよ。だけどそれがそうもいかないんだよね。
全く持って最悪なんだけど俺がここに拘束されることこそが、相手の思うつぼの可能性があるからさ」
致命的な一撃はいつだって表面化せず知らず知らずのうちに体を蝕んでくるものだ。
いまエルピスにとって最も恐ろしいことは自分が自分の守るべきものから離れている状態であり、大陸から離れてここで活動していること自体エルピスからすれば避けたい状況である。
「いっつも後手に回ってるってわけか」
「時間をかけるしかないのも確かなんだけどね。身体が他にもう一つ欲しいとこだよ」
「そりゃエルピスが二人いたら守れる範囲増えるだろうけど、それでも全部を救い切るのは難しいわよ。何でも一人で抱え込まないこと」
「そうです! アウローラの言う通りエルはもっと頼っていいんですよ」
「結構もう頼りきっきりのつもりだけどね。でもありがとう二人とも、もう少し頑張れそうだよ」
自分に対して信頼を寄せてくれている二人の為にも、エルピスは改めて兜の緒を締め直す。
いまのところ目立ったミスはない。
初日に鬼神を討伐できなかったのは失敗ではあるが、相手の手札がわかっていない状況で無理に倒し切ろうとする必要はなかったので大きなミスというほどではないだろう。
そうして二人に手伝われながら必要なことを部屋の中で行っていると、ふとそんな部屋の中に訪れる人影が一つ。
この部屋の場所を知っているのはエルピス達と遍鬼超童子、そしてもう一人だけ。
床をするように歩くその歩き方はこの島の女性の特徴的なもの、穂積がやってきた証である。
「エルピスさん、お話があるのですがよろしいですか!?」
開口一番部屋に入ってきてそう口にした穂積はどこか焦燥したような顔付きであり、何か緊急事態が起きた用な雰囲気である。
一体何があったのか、エルピスが問いただすよりも早く穂積は口を開く。
「トコヤミが――行方不明になりました」
ニルから指示され権能を用いて効率的にエルピスの手によって恐怖がばら撒かれた都は今──いつもと変わらない街並みを保っていた。
「エルピス様がいろいろしてるのにいつもと変わらない街並みです」
言葉をこぼしたのはこの島の衣装に身を包んだトコヤミである。
眼前に広がるのは言葉の通りいつもと変わらない街並み。
かなり昔の、自分がこの島に居た時の事をトコヤミは事を思い出し、そして追加にこの四日間の事を思い返してみてもこの島は変わらない。
初日はエルピスが放った恐怖によって都はそれなりに変化があったように思えた。
人々は外に出なくなったし、夜には暗闇を恐れるようにして辺り一帯が光に染まっている景色は幻想的ともいえるほどである。
だが一日が終わり二日目が始まると鬼人達の認識は少しずつ変わり始める。
この作戦の発案者であるニルがその事を予測していたかどうかはトコヤミでは分からないが、少なくともトコヤミにはこのような状況は想定外であった。
恐怖によって支配された鬼人達は何を思ったのか二日目にそれらを娯楽とし始め、脳が全力で恐怖のボタンを連打しているのにも関わらずむしろそれを楽しもうとする島民の考えは、とてもではないが大陸の人間には理解できるはずもない。
娯楽がとことんなかったからこそ、彼らは何にでも娯楽の要素を見つけようとする。
エルピスが気を使って権能で恐怖を与えつつも犠牲者を出さなかったのも、彼らがエルピスが出した恐怖を楽しめるところに一因を置いているだろう。
「それでも目的は順調に進んでいるはずよ。だってこうして私達が囮として市内を歩き実際に効果が出ているのだから」
「ただ歩いているだけで終わるのは暇です、トコヤミも戦いたいです」
「トコヤミは戦わないでいいのよ。こうして街を楽しむのが私達の仕事なんだから」
頬を膨らましながら不満を口にしているトコヤミに対し、アケナは機嫌を取りながら姉妹として都を歩けることを楽しんでいた。
……本当だったらこの島で二人楽しく過ごせるはずであった。
父が愚かにも戦争を仕掛けていなければ、母が鬼神を欺くような愚かな真似をしなければ、アケナがハーフでなければ、トコヤミが鬼神の子供で――
「お姉ちゃん、あっちなんかやってるみたいです?」
――ふとよぎった自分の考えが恐ろしくて、アケナはこちらを心配そうに見つめるトコヤミの目を見ることができない。
それを否定してしまったら彼女と姉妹であることすら否定しそうで、自分の頭の中ですら考えるべきではないと思いアケナは頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
そんな姉の動作を不審そうに見ていたトコヤミだったが、自分の姉が何を考えて何をしようとしているのかトコヤミでは考えても分からない。
「ほら行きましょうトコヤミ、気になるところがあったんでしょう?」
「うん」
短く言葉を返しながら、トコヤミたちはそうして自分たちがするべきことを為すために歩き出す。
この長い長い年月の中で確かに隣にいた姉と共にあれること、その喜びをトコヤミは確かなものだと信じて噛みしめる。
そうして二人が街並みに消えていくころ、背後を歩いていたアウローラとエラはそろってその場を離脱した。
彼女らがこの場所で二人を監視していた理由は二人も口にしていた通り餌としての役割があったからだが、既に先程から何度も追手を撃退しているからかこれ以上敵がやってくることはなくなっていた。
一応監視役として遍鬼超童子がまだついているが、これ以上敵が攻めてくるという事はないだろう。
一時撤退したエラとアウローラが向かった先は都の宿屋の一室、なんでもないようなそんな場所にわざわざ二人がやってきたのはもちろんその必要があるからだ。
「二人はどうだった?」
宿の一室に入った二人を迎え入れたのは座敷に複数人の人間を縛り上げて満足そうにしているエルピスである。
見てみれば縛り上げられている彼らは全員先程姉妹を襲おうとしていた者達であり、エルピスからの折檻を食らって伸びていた。
「無事に市内を回ってる。問題があるとすれば遍鬼超童子さんがちょっと暇そうにしてたことくらいかな」
「それは良かったよ、こっちはこっちで意外とうまく行ってる」
そう言ったエルピスの手から渡されたのは一枚の紙。
彼らから引き出したのだろう情報がそこに入っていると思ったアウローラは、その書類を上から下まで流すようにしてみる。
上手くいっていると口にしたのだからよい情報でも入ったのだろうと思ってみたアウローラは、思って居たものと違った紙に素直に疑問を口にする。
「確かに情報は乗ってるけど中身が何もなくない?」
「良いところに目を付けたね。こいつら全員ただのチンピラだよ、鬼神が嫌がらせしにきただけだろうね」
「それって悪い情報なのでは?」
「それがそうとも言えないわけ。まぁ俺もニルから話聞いてるだけだから二人にも共有しておくよ」
そう言いながエルピスが腕を振るうと、地面に地図と文字が浮かび上がってくる。
地図はこの島のもの、いくつかピックアップされている街はどれも人口の多いもので赤と青の二種類に分けて色が変わっていた。
地図を見る限り多いのは赤い色だ、割合で言うと七対三と言ったところだろう。
文字は各地の地名や年齢別の人口比率、こちらにも赤と青の色が使われている。
島の近くの海の上に浮かんでいる文字は勝利条件と敗北条件であり、エルピスが手を振るうとそれらの項目が一際大きな文字に変わった。
「今回の勝利条件は鬼神を倒す事、それとついでに遍鬼超童子を新しい鬼神の座につけること。ここまでは大丈夫?」
「ええもちろん。そこは変わらずいつも通りよね」
「それで敗北条件なんだけど、これがまたやたらと多いのよ。いま想定してあるだけでもこれだけある」
そういいながらエルピスが提示した敗北条件は勝利条件がかすむほどに多い。
エルピス達の誰か一人でも殺されること、次代の魔王としてエルピスの名声が取り換えしのつかないところまで傷つけられること、王国の貴族であるアウローラがこの島の住民を不用意に傷つけてしまう事などなど。
勝利条件に対して敗北条件がやたらと多いのは、それだけ拾わなくてもいいものをエルピス達が拾おうとしているからだ。
エルピスの嫁になった以上は王国貴族としてアウローラを扱う人間の方が少ないだろうし、エルピスの名声など傷つけられたところで無視すれば済む話だ。
いまさら人類生存圏内でエルピスの名声を傷つけるのは自殺行為に近いし、人間と中の良い亜人種たちはそのほとんどがエルピスの交友関係の範囲内だ。
ムリをしていると実感するには十分なほどの彼我の勝利条件の差を見てアウローラも苦い顔を隠せないでいた。
「随分と多いわねこれ」
「この島を鬼神から手に入れるのはそれだけ難しいってことだよ。それよりさっきのやつらが何も記憶を持ってなくてよかったって言った理由は、今回の陣取り合戦で一番重要な都市を鬼神は全力で守る気がないところにある。
さっきからエラが気になってそうなこの赤と青についてだけど――」
「――エルピスが実質的に支配できた街……ですよね?」
「さすがエラ、冴えてる」
「私もこの島で出来るだけ情報収集は行っているつもりですから」
ふんと鼻をならして自慢げにしているエラが言った通り、地図上に記載されている赤と青はこの島を現状エルピスと鬼神どちらが制しているのか分かりやすくしたものである。
報告書とエルピスが実際に技をかけた感覚から算出したものなので誤差はそれほどないだろう。
「見たところ7対3なわけだけど、どっちが7でどっちが3?」
「残念なことにまだこっちが3だよ。順調に事は進んでいるけどこのままだと当初の予定通り1週間で乗っ取れるかはギリギリってところかな」
「幸い時間はこちら側に多くあるのですから、問題ないのでは?」
「こっちは1年と10月後の戦争まで特にすることはないんだし、エラの言う通り腰を下ろして今回の件に挑むのも確かに悪くないわね」
戦争が行われる前日まで放置というわけにはさすがにいかないだろうが、一月や二月くらいならばこの場所で過ごすことに特に問題があるようには思えない。
早く終わるのであればそれに越したことはないが、陣取りがこの場に置いて重要な要素であるのならばゆっくりとそれ行うことはなにも間違った事ではないだろう。
だがエルピスの考えは違う。
「俺も最初そう思ってたんだよ。だけどそれがそうもいかないんだよね。
全く持って最悪なんだけど俺がここに拘束されることこそが、相手の思うつぼの可能性があるからさ」
致命的な一撃はいつだって表面化せず知らず知らずのうちに体を蝕んでくるものだ。
いまエルピスにとって最も恐ろしいことは自分が自分の守るべきものから離れている状態であり、大陸から離れてここで活動していること自体エルピスからすれば避けたい状況である。
「いっつも後手に回ってるってわけか」
「時間をかけるしかないのも確かなんだけどね。身体が他にもう一つ欲しいとこだよ」
「そりゃエルピスが二人いたら守れる範囲増えるだろうけど、それでも全部を救い切るのは難しいわよ。何でも一人で抱え込まないこと」
「そうです! アウローラの言う通りエルはもっと頼っていいんですよ」
「結構もう頼りきっきりのつもりだけどね。でもありがとう二人とも、もう少し頑張れそうだよ」
自分に対して信頼を寄せてくれている二人の為にも、エルピスは改めて兜の緒を締め直す。
いまのところ目立ったミスはない。
初日に鬼神を討伐できなかったのは失敗ではあるが、相手の手札がわかっていない状況で無理に倒し切ろうとする必要はなかったので大きなミスというほどではないだろう。
そうして二人に手伝われながら必要なことを部屋の中で行っていると、ふとそんな部屋の中に訪れる人影が一つ。
この部屋の場所を知っているのはエルピス達と遍鬼超童子、そしてもう一人だけ。
床をするように歩くその歩き方はこの島の女性の特徴的なもの、穂積がやってきた証である。
「エルピスさん、お話があるのですがよろしいですか!?」
開口一番部屋に入ってきてそう口にした穂積はどこか焦燥したような顔付きであり、何か緊急事態が起きた用な雰囲気である。
一体何があったのか、エルピスが問いただすよりも早く穂積は口を開く。
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