クラス転移で神様に?

空見 大

文字の大きさ
上 下
240 / 276
青年期:法国

法国の街並

しおりを挟む
 場面は変わりエルピス陣営。
 日が登り始め野生動物達が起きるような時間帯に起床の声が鳴り響く。

「朝っすよ~!」

 睡眠を必要としないものばかりが揃う場においてわざわざ朝起こすという動作が必要なのかと問われると、正直なところ必要ではないのだが気持ちを切り替える上では重要なファクターなのだろう。
 呼び出したことに満足そうに笑みを浮かべながら付近のテントにハイトが目線をむけていると、のそのそと人影が出てくるではないか。
 一番最初にテントから出てきたのはまだ眠そうなエルピス、朝起きるのが最も苦手と言っていい彼が1番最初にできたのは、何を隠そう昨夜一睡もせずにそのまま作業に従事していたからである。
 とは言え一晩眠っていなかった程度では特にこれといって体に支障がなく、顔色も普段と変わっていないので即座に何らかの障害が出ると言う事も考えられにくい。

「おはようございます」
「おはようっす!」
「ひとまず昨日の間に色々と調べ物は済んだので今日は聖都に入りましょうか。一応こちらで隠蔽はしますが何か隠す方法はありますか?」
「もちろんあるっすよ、これっす!」

 基本的に昨夜のうちにあらかた法国内部の道については調べを終えているので、どの道を通れば顔を見られずに済むかという事は分かっている。
 その上であるのならば変装の技能を使って欲しいが、どうせないだろうとたかを括りながら投げかけたエルピスの問いに対してハイトは胸を張って答えた。
 ハイトが懐から取り出したのはそれはそれは立派な髭、時代が時代であれば戦国時代の将が己の威厳を示すためにつけるような大きな髭を彼女は持っていた。

「えぇ?」
「つけ髭っす!」

 エルピスとて意味がわからなくて困惑の意図を示した訳ではない。
 自信満々なハイトに対してレネスから説明を促すように言葉が入る。

「それは見れば分かるのだが、本気でそれを?」
「見て驚くなかれっす!」

 レネスの言葉に対して反応しながらも、ハイトは自慢げな顔を崩すことなく付け髭を鼻の上に乗せる。
 整った顔達の上に付け髭が乗っている様は確かに贔屓目に見れば似合っていないことはない、だが変装になるかと聞かれれば人とは全く違う種族のものがほんの一瞬見るだけならなんとか、と言ったレベルだ。
 これならばまだフードを被っていた方がマシだろうと思っていたほか四人だったが、そんな四人の前でハイトはみるみるうちにその姿を変えて行く。
 身体つきや顔つきは男のそれに、骨格は太く筋肉は隆々と盛り上がり違和感のあった髭はまるで産まれた頃からそう生えていたかのように存在を主張しているではないか。

「えぇ!?」
「自分が開発した変装用の道具っす。声は変えれないけど見た目は変更可能っすよ!」

 変更先が筋肉隆々な男である点を除けば、これ以上ない完璧な変装である。
 まさか法国の人間も自分の国の第一皇女が筋肉隆々の大男に変わるなど想定もしていないだろう。
 変装というのはギャップが大切だといつかエラが語っていたのを思い出すと同時に、もう一つエラが大切だと言っていたことを思い出す。

「なんか違和感がすごいですね」

 人相や服装、所作などはその人物が生きてきた様を明確に表してくれる。
 外見で他人を判断するべきではないが、判断基準の一つとして大いに役立ってくれるのが外見でありそれが本物でない以上違和感というものは拭えない。
 ハイトもそれに気がついているのか直そうという動きは見えているが、男らしく堂々とすればするほど細かな違和感というのは目につく。
 ひとしきりポーズをとったハイトだったがどうやら軌道修正は無理だと判断したらしく、がっくしと肩を落とす。

「さすがに一般人は騙せても無理っすか…まぁでもないよりマシっす! それにいくつか認識阻害の魔法も使うっす、たぶんそこまですればバレる心配はないっす」
「ならずっとそれつけて移動していたらよかったのでは?」
「これすっごい魔力食うんっす、戦闘も考えるとあんまり魔力は無駄使いできないっす」

 ハイトの言葉通りエルピスの目にはじわじわと減って行くハイトの魔力が見えていた。
 このままでは持って四時間程度と言ったところだろうか、ハイトがいま使用している魔法の発動をエルピスが肩代わりしたとしても持って六時間。
 聖人であるところのハイトの魔力量が一般人のそれを遥かに凌駕している事を考えると、燃費の良い魔法道具とはとてもではないが口にできない。

「とりあえずこれで変装は大丈夫そうですね、それじゃあ検問所に行きますか」

 いくつかの魔法を肩代わりし、自分達にも緊急状にいくつかの魔法をかけたエルピスはそのままの足で聖都へと向かう。
 道中もこれと言ってなんら障害もなく進み、目的の聖都へと辿り着いたのはちょうどお昼より少し前と言ったところであった。
 夜間に見る聖都と昼に見る聖都はやはり違った印象を抱くもので、太陽光に照らされて輝きを増す白亜の城壁は汚れを知らない清らかさを持っている。
 みてみれば魔法防御的にもかなりの強度の魔法が展開されており、その魔力が一体どこから来ているのか不思議なものだが強度は確かであり、アウローラクラスの魔法使いでも壊すのには多少時間がかかるだろう。
 外壁の上を巡回する兵士達の装備もいままで歩いてきた国の兵士の中ではトップクラスに高く、森妖種の国騎士達を思い出させるようなその様相はピリピリとしたものをエルピスに感じさせる。

「身分証の提示を」
「どうぞ」

 街と外界を隔てる門番に対してエルピスが提示したのは、最高位冒険者の証。
 最近では使い所もなくなったように思えたものであるが、何故だかこれは人間の国においてある一定以上の身分証明用の物体としてその効力を発揮してくれている。
 実際のところこの証明書は偽造するのが大変難しいものであり、複製は人類の技術ではかなり無理な代物であった。
 そのため本人からカードを奪うのが最も現実的な手段によるなりすまし方法なのだが、これは奪う冒険者のランクが上がれば上がるほどに難しくなるのだ。
 そもそも一定以上の実力を持つ冒険者は知名度が高くかおがわれていることがおおい。
 さらには一定以上の力を持つ冒険者ということはそれなりに強い、そんなものを倒して得られるのが身分証だけというのはなんとも割に合わない事である。
 そんなことから冒険者組合のこの証は簡単な身分証明には使えるアイテムとして人類生存圏内ではマストアイテムと化している。
 最高位の証を見て姿勢を正した門兵は、続いて視線を下の方へと下げていき名前を確認すると再度敬礼を取り直す。

「これはこれはエルピス様でしたか! もし来た際には通すように言われております。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」

 耳が痛くなるほど大きな声で見送られ、エルピス達はこうして無事聖都の中へと侵入を果たした。
 来た時に通すように言われていたとの事だが、話によれば王は病でとこに臥しているとの事である。
 神がわざわざ人に対してエルピスが来たら門を開けるように、などということを口にするなど到底考えられないので、可能性として最も高いのはゲリシンの存在だろう。
 今後の展開を予想しようと頭を悩ませ始めたエルピスの横で、ふと疑問を抱いたのはエラである。

「……法国の検問所王国よりザルですね」

 王に通すように言われていても、最低限の身体チェックは普通の国ならばある。
 規則は規則、頭の硬いもの達がこぞって使いたがる言葉であり有事の際は、責任は果たしてあると言い逃れのできる要素を、わざわざリスクを負ってまで先程の兵士が見逃したとは思えない。
 見逃したのでないのならば普段からあんなものなのだろうというのがエラの見立てだ。

「まぁ基本的にはここら辺まで来れるのは道中の検問所を通ってきた前提っすからね、聖都内での戦闘はすぐに検知されて摘発されるのでかなり安全な方っす」
「それに余所者は格好的に目立つわけね」
「法国の中でも熱心な教徒しか着用していないイメージでしたが、さすがに聖都ともなると普段着として着ている人が多いですね」

 街中を歩く人間のほぼ全てが黒を基調とした服を着用しており、それが法国の宗教で扱う法衣であることを知識として知っているエラは道行く人々に視線を移しながらそんな事を口にする。
 法国において白という色は特権階級の物であり、基本的に街中を歩いているような人間は黒い法衣を身にまとっているのが一般的だ。
 そんな統一された色の中で他の服を着ていると、様々な色で着飾っている部外者はどうしようもなく目立つものであり、自動的にこの街にいる全ての住民が監視役として機能しているのは都市の構造としてなかなか面白いものである。
 物珍しさにきょろきょろとするエルピス達だったが、さすがに慣れているハイトは気にするようなそぶりもなくずんずんと進んでいく。

「とりあえずは大教会に行って状況確認をしたいっす。自分が逃げ出したのはそれなりに前なので状況も変わってるかもっす」
「大教会というと…」

 通りの先に建てられていたのは王国にあった神殿とはまた別の、城のような場所である。
 大教会と言われるだけあって神聖な気配を感じさせ、神であるエルピスにも影響を及ぼすほどの神聖な魔力が辺り一体を満たしていた。
 名前を言われれば指差されずともどれか分かりそうなもの、それほどまでに教会は大きい。

「あれかな? いかにもな大きな建物だけど」
「そうっす、実際は地下の方に大きな空間が開いていてそっちの方が主な用途として使われてるっす。上は観光客用のハリボテみたいなモンっす」

 実際のところそうなのだとして、内部事情を知るものからハリボテと言われるとほんの少し寂しいものだ。
 目の前の荘厳な建物が観光客用の物でしかないと言われ見る目が変わってしまうエルピスだったが、いまから必要な事とは関係ないので一旦思考を切り替える。

「機会があれば上のほうも観察してみたいところですけど今回ばかりは時間をかけるわけにもいかないのでとっとと下に行きますか」
「そうっすね。もしやるべきことが終わったら自分が案内させてもらうっす」
「それは楽しみです」

 法国の宗教的な教えについて何かあるわけではないが、その国の歴史について学べると言う点については宗教の歴史というのは良いものである。
 それを直々に法皇の娘から学べるのであれば、これほど良い機会はないだろう。
 作戦終了後のことを考えて嬉々とするエルピス達だったが、大教会の中へ入ろうとすると奥から兵士が現れ止められる。

「申し訳ございませんが現在大協会は一般局の入場が立入禁止となっております。
 非常に申し訳ございませんがまたの機会に改めて来ていただけると助かります」
「何か問題でもあったんですか」
「お恥ずかしながら設備の老朽化が進み現在修繕作業中につき通行不可となっているのです。
 本来ならば観光客の方に入っていただけるよう定期的なメンテナンスを怠っていないのですが、世界的情勢が戦争へと傾いていく中で我々法国でも腕の立つ職人が軒並み仕事に出ており、こちらまで手が回っていないのが現状です」
「そうでしたかそれは残念です。もしよろしければ協会の偉い人物にお目通りを願う事は可能でしょうか」
「失礼ですがどちら様でしょうか」
「エルピス・アルヘオといいます。彼女達は付き人、彼は案内役として雇いました」

 エルピスが名前を出した途端、兵士の態度が急激に変わる。
 これが名前の力なのかなどと思いながら全速力で何処かへと走っていく兵士の背中を見ていると、もう一人の兵士が対応を始める。

「これはこれはエルピス様でしたか、しばらくお待ちください」

 いまごろは全力で頭を下げながら確認をとっているのだろうと考えると、兵士というのも中々大変な職業なのだとしみじみ感じる。
 教会内部を見てみれば確かにいくつか修繕できていない箇所があり、鍛治神の知識を持って見てみても老朽化による傷は中々に深刻な状況になっている。
 ハリボテとして建造されたとはいえここ大教会は聖都の観光名所の一つでもあるはず、それをこのような状況で放置させているあたりゲリシンとやらは相当前から大切な何かをしていたのだろう。
 予想として考えられるのはこの教会の地下にあるらしい場所の拡張や整備などだろうか。
 戦争を前にして強化する案というのは間違えていないのだが、今回ばかりは相手が悪かったと諦めるしかないだろう。
 改めてゲリシンを倒すことを決定したエルピスを前に、そんなこともつゆ知らず兵士はきょうかいないぶへとあんないしはじめる。

「通しても良いとの事ですので中庭に案内いたします」
「ありがとうございます」

 通された先には木が一本だけ生えた中庭であり、少し前まで整備されていたのだろうがほんの少しだけ雑草も生え始めている。
 聖都の中とはとても思えないが、これでもまだマシな方だろう。
 道中の廊下では壁紙の剥がれた部屋すら散見された。
 中庭にはエルピスを待っていたのだろう人物が一人立っており、恰幅のいいその男性はエルピスを見ると嬉しそうに笑みを浮かべる。

「──これはこれはエルピス様、こちらから出向かなければいけないところわざわざご足労いただき誠に感謝しております。
 聞けば法皇様からちょくちょく呼び出しがかかっているとの事で? 何か我々にお手伝いできる事はございますでしょうか」
「事前に連絡用の手紙を送らせていただいたのですが、そちらへ届いているかどうかの確認ができていないので、もしよろしければ法皇に会えるかと確認した手紙が届いているかの探していただけると嬉しいです」
「もちろんですとも。申し訳ございませんが1、2時間ほど時間をいただきたいので、施設内をぐるりと回っていて下さい。
 人であれば怪我をする可能性もありますが半人半龍であるエルピス様ならば特に問題なく回れるかと」
「お気遣いありがとうございます」

 本来ならばもう少し時間をかけてしゃべるべきなのであろうが、エルピスは長々と会話をする気がないと言うことを先に相手に知らせることで会話を早く終わらせる。
 廃墟と言うにはまだ綺麗さを保っているが数ヶ月もすれば廃墟と呼ぶにふさわしいだけの風体になっているであろう大教会を前にして自信満々に施設内を回ってこいと言えるだけの体力は一体どこから来るのだろうか。
 そんなことを考えたエルピスだったが、道中いくつかの部屋を開けて確認し男の自信が何の根拠もないものではなかったと言うことを確認する。
 1部の部屋はいまだに清潔に保たれており、世界的にみても有数の観光地として有名な理由も理解できた。
 丁寧に作られた調度品は土精霊の国で見るようなものと同レベルで作られており、家具類から何から全てにかなりの金がかかっていることが見て取れる。

「監視は?」
「されているわね」
「いくら客人とは言え部外者であることには変わりないし、目立つ行動をすれば後々の面倒も招きかねないしなるべく自然体を装いながら内部の情報を探ってみますか」
「その案に賛成っす」
「どうにも広いし、手分けして探してみる?」
「だとしたらセラとエラを二人、こっちを三人で回ろう。監視の目も分断出来るし」
「というかこの会話を聞かれていたらまずいのでは?」
「対策済なので大丈夫です。それではいったんここで別れましょう」

 セラとエラに情報収集を任せたエルピスは、なるべく監視の目が自分に向かうように気をつけながら教会の中を探索する。
 見るからに怪しいような行動はできないが、ハイトやレネスといういかにも怪しい人物たちと一緒に歩いていると視線というのは自然と集まってくるものだ。
 自分の役割を果たせていることに満足しながら、エルピスが長い廊下を歩いているとレネスから声がかかる。

「それでエルピス、こちら側は気を引くだけでいいのか?」
「帝国の第ニ皇女からお願いされてしまったしここら辺で一回第一皇女を探しておくと言うのも手かなって思ってるよ
「皇女ならこの間見たっす」
「どこで!?」

 帝国の第一皇女ともなればそれなりの扱いは受けているはずである。
 それがたとえ実質的な国からの追放だったとしても、四大国の内の一つである帝国の第一皇女を無下に扱ったともなれば外交問題は必至であろう。
 エルピスの読みではこの聖都のどこかにいるだろうという想定であったが、そんなエルピスに対してハイトは第一皇女がどこにいるのか知っていると口にするではないか。
 驚きと共に疑問を投げかけたエルピスに対して、ハイトは思い出しながら言葉を返す。

「地下っすここの下にある空間のどれかにつかまっているはずっす」

 捕まっているとは奇妙な話もあったものである。
 何か罪を犯したわけでも――いや、あの第一皇女であれば何かやらかしているという可能性は十二分にあるが――ないだろうに捕まっているのはなぜなのだろうか。
 考えても答えの出ない問いに関してはよそにおいて置き、いまはただ生きていることに胸をなでおろすべきなのだろう。

「死んでないならまだ救出できる可能性はあるか」
「捉えられていると言うよりは交渉中って感じだったっす、外傷もおってるようには見えなかったっす」
「自分のペースに巻き込むことに関しては天才的だから、うまいことやって尋問も拷問もされていないんだろうなあ。
 それに帝国の第一王女を傷つけたとなれば外交問題に発展する可能性も十二分にあり得る。
 問向こうの目的は王女を拷にかけることじゃなくそもそも表舞台に出さないないことこそが目的なんだろう」
「自分の国では扱いきれないが、殺してしまうと問題が発生する人間の押し付け先、それが法国の四大国としての仕事っす。だからきっとその第一皇女も押し付けられただけっす」
「押し付けるにしてもあの人物を御しきれると思えない。それはもちろん法国の人間だって理解しているはずだ」

 レネスからそんな言葉が出るとは意外である。
 直接会話したわけでもないだろうに、それほどまでにレネスが第一皇女を買っているわけはエルピスには分からない。
 実際のところセラとニルの両名から警戒するようにレネスは通達されており、そのことを考えると第一皇女がいかに危険な存在であるかはもはや語るまでもないだろう。

「法国の最も得意な魔法は洗脳魔法、この魔法は基本的に時間さえかけてしまえばどんなにつよい人間だろうと洗脳することができるので心を壊した人間だろうと制御できると考えてるっす」
「慢心だな」
「自分もそう思うっす」

 洗脳によってアレを操ったとして、いつの間にか操られていたのは自分だったというオチすら見えてくるものである。
 それに英雄や聖人、その他称号によって進化した人間には洗脳という手段は通じないことが殆だ。
 それに技能スキルや魔法の効果、血統能力に先祖返りなど考慮すると考えて損はない。
 全体の数から見れば確かにそのような者達は少数であるが、だからといって大丈夫だとタカを括るには随分とリスクの高い賭けにも思える。
 そんな事にゲリシンという人間が気が付いていないのだろうか?
 もしかすれば裏切られても対処できるだけの何かを持っているのかもしれない。

「それよりも妙だなエルピス」
「妙だと言うと気配のことですよね?」
「そうだ。この国に来るまでは気配を感じていたのにこの都に入った途端神の気配が感じられない」

 それに気になっていたことの一つとして神の気配が感じられないこともあった。
 聖都外からは神の気配が感じられるのだが、聖都内部に入った途端神の気配が薄まっていきここ大教会においては神の存在が感じられないのである。
 何かあるとすれば原因はここだろう、だが何が起きているかまでは把握することも困難だ。

「どうやら何か起きてるっぽいですね。師匠気配探れますか?」
「もちろんだ。範囲はどうする?」
「街を囲う外壁ギリギリでいいんじゃないかな、下は探れるだけ探ってみて反応伺えば」

 その原因を特定するためにエルピスとレネスは刹那すらズレのないタイミングで同時に〈神域〉を発動させる。
 どちらが能力を使用したのか分からなくするためであり、実際これは昔アルキゴスと共に行い見事に成果を上げている方法でもあった。
 地下深くへと技能スキルを手繰らせていくと徐々におかしなものが混ざり始め、エルピスは地下の構造がどうなっているかをある程度理解する。

「帝国の皇女様は確かに居ますね。あと何人か怪しい動きしてる人がちらほら」
「肝心の神がいないのが気になるな」
「法皇らしい人間の気配も感じられませんし、どうしましょうか」
「ひとまず明日法皇の方は探すとして、神がいないのは問題だな。アウローラを助けるにはあの神がどうしても必要なのだろう?」

 アウローラを助けるためにも、そしてエルピス自身が自分の力に飲まれないためにも神にはどうしても会う必要がある。
 神の方が接触を断っているのか他者によって接触を妨害されているのか定かではないが、どちらにせよ神にはどのような手段を用いても会う必要があるのだ。

「どなたか怪我をされたんすか?」
「魔界でいざこざがありまして、それに巻き込まれてしまったんです。正直な話法皇に会うよりも神に会うことを優先してやってきました」
「父上よりも神の方が優先されるのは当然のことっす、気にすることないっすよ」

 法皇よりも神を目的として法国にくる人間は多い。
 そう口にしたハイトからは特に不満を感じているように見えず、実際のところそうなのだろうなと感じられる。
 法国が強い権力を人間社会で持つのは神の力を頼りとした他の国からの後ろ盾があってのもの、法皇という存在は他国からしてみれば神の付属品でしかないのだ。
 だからといって雑に扱っていいわけではないが、王しかいない国に比べて扱いが雑なものになるのは仕方のないことだろう。

「そう言ってもらえると助かります。もうひとつ気になったのはペトロさんやフィーユちゃんなんかは会ったことがあるので見落とすとは思えないんですけど、どこにも気配が感じられないんですよね」
「そんな訳が──」

 聖都の中に居ないのであればここから脱出したというわけである。
 だが次女は別として、かつてエルピスが王国であったときに人の影に隠れていたような幼い子供が外に飛び出せるほど法国の警備は甘いものだろうか?
 それにもし偶然抜けられたとしても痕跡が全く感じられないというのは異様だ、かなり前にここを出たのであれば話は分かるが……。
 エルピスからの言葉に対して何かがおかしいと返そうとしたハイトの声を遮り、恰幅の良い人物がエルピス達の話を遮ってくる。

「おお、ここにおられましたか。ささ、どうぞ大司教様がお待ちでございます」

 会話を邪魔するようなタイミングとも取れるような状況で話しかけてきた男は、ニヤリと笑みを浮かべるとエルピス達の案内を始める。
 向かう先に一体何が待っているのか、それを知る手立てはいまはなく、戦闘さえも覚悟しながら部屋へと向かうのであった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...