クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期:魔界編

同時進行:後

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「酷いな宮本怜だよ、同じクラスだった。先生から話聞いてない?」

 宮本という苗字には思い出がある。
 確か同じクラスの人間だったはずだ。
 文武両道の女性、麻希や紅葉と同じく和の雰囲気を持つ女子として教室の中でも人気の一人であり、確か遥希達が向かった副担任の先生のところに匿われている生徒の一人だったはずである。
 だが頬に刻まれた傷の跡や着込んでいる帝国式の戦闘服、使い込まれている剣などは教会でぬくぬくと暮らしてきた転移者のようにはとても思えない。
 一瞬気がつかなかったのも仕方がないだろう、それくらいに高校の頃に比べて眼光が鋭く尖っているのだ。
 だがそれを口に出していえば相手が不快になるなど日を見るより明らか、こういう時は紅葉さん相手によく使っていた手法を使うのである。

「会おうとは思ってたんだけどね、何かと忙しくて会ってないんだ。宮本さん雰囲気変わったね」
「そうかな? 私は何も変わってないと思うんだけど、他人から見たらそう見えるかな」
「うん、結構変わって見えるよ」

 目つきどころか姿形から変わっている自分が言うのもなんだかおかしな話であるが、宮本さんの変化具合は驚きに値する。
 ふと師匠の方を見てみればほんの一瞬だけ睨むような厳しい目つきをすると、それをそのまま宮本さんの方まで持っていく。
 言いたいことは分かる、いまからそれをきこうとしていたところなのだ。
 俺だってソレくらいのことは分かるようになっているのである。
 宮本さんの体から漏れ出ている魔力の中にほんのりと紛れ込む神の気配、それは紛れもなく目の前の人物が神に対する何かに関わっている証拠だ。
 そして神官程度ではこれほど神に近い雰囲気を醸し出せないことは既にイリアや法国関係者の多数の人物との接触で判明している。

「宮本さんってもしかしてさ、僕の敵?」

 なるべく何気なく聞こえるように、だがそうだと言われればすぐに戦闘を開始できるだけの緊張感を残しながら質問を投げかける。
 これでこちら側の質問に対して肯定の意図を示すのであれば余程肝が据わっているか、もしくは元から死んでもどうでも良い程度の存在なのだろう。
 だが彼女の言葉はこちらが期待しているものでもましてやその逆ですらなかった。

「だとしたら──なんて質問は無意味ね。貴方はどちらだと思う?」
「聞いておいてなんだけど、どっちでも別にいいよ。遥希達にはもうあった?」
「昨日会ったばかりね、貴方に呼ばれたって話してる間にどこかに行ってしまったけれど」

 敵か味方か会話の中で探りつつ、おそらくはどちらにもなる気がないのだろう。
 敵であれば直接接触する際に遥希たち経由で接触を図ればいいし、味方であったならそれこそ遥希たちと共にやってくればいい。
 おそらくは中立の立場をとりたいのだろう、その後ろに誰がいるか考えてみるがおおよその目星くらいしかつかない。
 創生神に言われた通りに道中で書いてきた手紙を取り出して机の上に置きながら差し出す。

「それはタイミングが悪くてごめんね。とりあえずこれ、渡しておいてくれる?」
「……これは?」
「中身は改めなくても良いよ、とりあえずその手紙を渡してくれればいい」
「渡すって誰に?」
「明日の朝以降に会う予定の人物に。渡せば中身は理解してくれるはず」

 誰に合うのかも知らないしどこで会うのかも知らないが、創生神が手紙を渡せと言ってくるのだから渡す相手というのは確実にいるはずである。
 こちら側から誰に渡せばいいと指定出来たらよかったのだが、それができないのであれば向こう側にそれっぽいことを口にして勝手に誰に渡すか納得して貰えばいい。

「──貴方何を知っているの?」
「何にも知らないよ。本当に何も」

 本当の本当に何にも知らないないので出来るだけ都合よく解釈してくれないかなあ……。
 そう考えていると宮本さんの雰囲気が露骨に変化していく。
 最初はまず警戒心をあらわにし、その次に疑問の表情を顔に浮かべる、そうして何かに納得したような表情を見せた瞬間に明確な敵意をあらわにする。
 それと同時に行われる数百回は感じてきた技能発動の予兆を前にして、エルピスは武器を抜きながらレネスに向かって刀を振るう。
 体が震えるほどの爆音と同時に手の中にずしりとした感触は確実な殺意が込められており、一瞬たりとも躊躇しなくてよかったと心の底から実感する。

「あっぶな!? 師匠ダメですよ手出したら!」
「手を出してきたなら手を出しても良いのだろう? なぜ止める」
「能力が何かわかっていない以上は攻撃してきたとは確定できません、辞めましょうよ冷静にいきましょ?」
「……分かった」

 正直に言ってしまえば感覚的に技能の性質は分かるので、こちらを攻撃してこようとしていたのは確実である。
 しかも先ほどの技能には神の権能に近い性質を感じられた、神の信徒がよく使用してくるタイプの技能と同じような発動の雰囲気が混じっていたからこそ師匠は万が一を考慮して攻撃を行ったのだろう。
 技能の多くは発動したその瞬間から秘中の状況が作られる場合が多いし、この距離感だとよけるのも精一杯である。
 師匠の手から武器を取りなるべく戦闘にならないように細心の注意をしながら、出来るだけ言葉に気を付けて宮本さんに対して問いかける。

「俺にはその力は効かないよ、とりあえずこちらからの要求はそれだけだ。それで? 君からの要求は一体なんなんだ?」

 出来る事ならば同級生と殺し合いになる様な事態は避けたい。
 今更という感覚がないわけではないが、顔見知りを殺すのは有象無象に手をかけるのとは全くの別問題なのだ。
 次に技能を使われた場合は対抗策を考える必要があるだろうと刀に手を掛けながら注意深く宮本さんの事を注視していると、下を向きながらプルプルとしている宮本さんの姿に何とも言えない感覚を感じて声をかけることにする。

「宮本さん?」

 声をかけても反応という反応は見られない。
 どうしたのかと〈神域〉を使って気配を探ろうとすると、宮本さんの手元にあった手紙にぽろぽろと小さな水滴がいくつか落ちる。
 それは明らかな涙の跡、徐々に落ちていく感覚が早くなっていき、しまいには滝のように涙を流しながら泣き始めるではないか。

「うっ、うっ、うわぁぁぁん!!」
「…師匠やりすぎですよ」
「そのなんだ、すまん」

 宮本さんが戦闘をどれだけしてきたのか分からないが、桜仙種の殺意にされされて怯えずに戦う意識が持てるほどの戦闘経験を積んでいるようには見えない。
 怯えて泣き出すほどであるとは思ってもいなかったが、妥当な反応であるといえば妥当な反応だ。
 これでは交渉もろくすっぽできそうにないなと判断していると、向こうもそう判断したのか沈黙していた第二皇女が口を開く。

「彼女はあの様だからね、こちらからの要求を伝えさせてもらおう。君には是非姉を救う手伝いをして欲しい」
「姉って、あの姉ですか?」
「そう、あの姉だ」

 人畜無害の正反対、基本的に他人の人生を壊すことだけを人生の目標とし、その上で圧倒的なまでの知識と動物的な直感を頼りにして己の我を通そうとする人間。
 困っているところがセラやニルよりも想像できない人物でもあり、助けてくれなどと言われた暁には罠の存在を確認しようとしてしまうほどだ。
 そんな人物を救いにいく手伝いをしてほしいと言われれば、正直にはいそうですとは流石に口に出すことはできない。

「人をおもちゃにする様な人物を外に出すのは嫌なんですが」
「確かに姉は人として重大な欠陥を持っている、それは認めざる負えない。
 だが姉の才能は本物だ、私達姉妹が姉に従い続けるのも姉が王になると分かりきっているからだ。
 時代の皇帝は姉を置いて他にない、姉を救出する手伝いをして欲しいんだ」
「話は分からない訳じゃないですが帝国領内であればそれほど悪い生活もしていないでしょう? 無理に助けに行く必要があるとは思えませんが」
「姉はいま法国にいる。それ以降の消息は分かっていないがそこまではなんとかして掴めたんだ、頼む姉を助けて欲しい」

 帝国の中ではなく法国にいるのであれば確かに安否が気になるのはこちらとしても理解はできる、家族として心配するのであれば助けに行くというのもやぶさかではない。
 宮本さんがこの場にいるのは法国へのパイプとしての役割を持たせているのだろう、確か宮本さんが法国の人間と会っているといつか聞いたような気もする。
 それに先生は法国で聖女としても活動していたらしい、そんな人物の下にいた彼女であれば法国との連絡は容易に行えるだろう。
 宮本さんの目的は俺自身に合うことだと考えられるが、誰の差金かはっきりとしたところはいまのところ判別不可能だ。
 あり得るところだと法皇か法国の神の二択だが、ソレ以外の可能性だって十二分にある。

「分かりました。その代わりと言ってはなんですけどこれから色々と働いてもらいますよ」
「もちろんです。姉救出のためならばなんなりと」

 ただ利害の一致、という意味であればこれから法国へと向かうこちらとしても四大国の内の一つが後ろ盾についてくれるのであればありがたい。
 お互いの利益が一致した事を確認した後に少しの雑談をすると、その場を後にするのだった。

 /

「つっかれた。師匠この後どうします?」
「私は一旦エルピスのいた宿屋に帰ろうかな、仮眠をとってくるよ」
「分かりました。俺も屋敷に寄り道してからそっちいきます」

 帝国からの帰路で他愛もない会話をしながら、エルピス達は魔界の土を踏み締める。
 飛んでいったレネスの跡を目線で追いかけながら、エルピスはアルヘオ家の別邸へと足を伸ばす。
 戦争開始までもはや秒読みの現段階で最後の調整をするために、いろいろとやらねばならないことがエルピスにはあった。
 玄関の扉を開けて部屋への通路を歩きながら道中であったフィトゥスに挨拶をする。

「ただいまー」
「おかえりなさいませエルピス様。お客人がお見えですよ」
「お客様? 誰か呼んでたっけ」
「私が連れてきた指揮官役の人物です。彼ならば魔物だろうがなんだろうが見事指揮下に抑えてくれるはずです」
「一体誰を連れてきたのかな……?」

 そういえばフィトゥスが用意してくれるといっていた指揮官用の人物、それが今日到着してくれていたらしい。
 応接室に向かっていくフィトゥスの後を追いかけながら、頭の中で数人ほど候補を出したエルピスはゆっくりと扉を開けて応接室へと入っていく。
 中に居たのは見知った人物、ここには来るはずがないと思っていた人であった。

「──よっ、エルピス。なんだかんだ久しぶりだな」

 椅子に腰をかけくつろいでいる男は王国騎士団元団長でありエルピスの剣の師匠であるアルキゴスである。

「何してるんですかアルさん」
「何してるんだとは随分な言い方だな、お前んところの執事に来いって言われたから来てやったんだよ」
「もちろんアルさんが来てくれたらありがたいですけど……王国の方は大丈夫なんですか?」
「いまのところは何も問題ない。師匠も警戒してるしダレンさんのところも守りに入ってるからな。
 戦力が過剰だが他国に俺らを送るわけにも行かない、グロリアスは結構困ってた様だったぞ」

 国家間の武力差が大きい場合はなるべく戦力を集中させずばらけさせる必要がある。
 何故なら人というのは可能性に怯える生き物であり、もしかしたら戦争を仕掛けられるかもしれないという思いだけで暴走しかねないからだ。
 戦時中の今であってもそれほ同じような事であり、近衛兵やアルキゴスなどが王都に滞在している状態で自由な状況は他国からしてみれば気がしではないのだろう。
 グロリアスとしてもそれを何とか解消する手段を探していたようで、アルキゴスがこうして国外に理由があって出る状況を作れたのは意外と理想に叶ったものなのかもしれない。

「確かに王国はわりと人財には余裕があった方ですもんね。テイラさんとシグル君、それに新しいお子さんは?」
「テイラは出産も無事終えて元気なもんだ、シグルは最近中級魔法の練習を始めている。
 新しい娘はミーテって名前だ、今度うちにきてみてやってくれ」
「シグル君も可愛かったしきっと可愛いお子さんなんでしょうね」

 この親からあんな可愛い子が、そう言ってしまうと怒られるのをわかっているので口には出さないが、エルピスから見てもシグルは本当に良い子だった。
 ミーテちゃんもその内すぐに大きくなるのだろう、会いにいく機会を作ることができれば良いのだが今のところは難しそうである。

「俺の子だからな。それで俺は今回どこからどこまで担当すれば良いんだ?」
「基本的には戦闘が起こってからが仕事になると思いますが、とりあえず今日中に始祖の方々に面会してもらわないと行けないですね。
 多分明日は大忙しになると思うので」
「ならとっとと行こう。こういうのは早い方がいいだろう?」
「それはそうですが……そんな軽装で大丈夫ですか?」
「戦闘にならないなら大丈夫だろ、それに一応装備は着込んでる。F式はお前にも見せたことなかったっけな」

 そう言いながらアルキゴスが触るのは一本の大きな剣だ。
 足元に無造作に置いていたので体を乗り出さなければ見えなかったが、鍛治神の目を使って見てみるとどうやらこの世界の物質とはまた違うものでできているらしい。
 初代冒険王の遺品という話は耳にしているが、その冒険王が能力で作り出したものなのかはたはまた冒険王自体が転移者などでこの物質を身につけてこの世界にやってきたのか。
 気になるところはいくつかあるが気にしていたって仕方がない。
 戦力になるのであれば重畳、後でバラして調べることができればソレに勝ることはないが王国の秘宝なので流石に手は出せないだろう。
 よく見てみれば剣以外にも服の下に腰当てのようなものが一点、珍しくつけているピアスもどうやらそうらしい。

「みるのは初めてですね、しかも武器だけじゃないですよね」
「ああ、今回は珍しく三つもf式装備を貸し出してくれた。グロリアスのやつも相当心配性だな、本当は国宝なんだぞこれ」
「それだけ大切にされてるってことじゃないですか。これだけ着込んでいれば大丈夫そうですね、いきなり切り掛かったりしたらダメですよ?」
「お前じゃないんだから大丈夫だよ」

 口ではそう言うが始祖種の威圧を受ければきっと反射的に武器を手に取ってしまうだろう。
 アルキゴスがその辺りを分かっていないわけではないと思うが、自信があるのであればエルピスからそれ以上口にすることはない。

「フィトゥスもついて来れる? 多分何かと雑務も増えると思うし伝達役としてきて欲しい」
「ご随意に」
「それじゃ吸血鬼の始祖、バーン=フィリップの元へ行こっか」

 報告書の作成などは後々やっておいてフィトゥスに渡せば良いだろう。
 必要な事を頭の中でまとめて報告書の概要を作っておきながら、バーン=フィリップのいる居城までの転移術式を起動するのだった。
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