クラス転移で神様に?

空見 大

文字の大きさ
上 下
256 / 276
青年期:法国

大人になったな

しおりを挟む
桜仙種の村から命からがら生き延びて帰ってきたエルピスは、父との約束の為にアルへオ家の本邸に帰ってきていた。
途中楽しそうに喋っていたエラのところにお邪魔し少し話をしてから、エルピスは秘蔵の酒を手に持ちながら父のいる所へと向かって歩いていく。
部屋の中から感じる気配は二つ、片方はイロアスだがもう片方はクリムの気配ではない。

「おお色男、帰ってきたか」
「誰かと思えばアルさんこんなところで何してるんですか」
「プロポーズして回ってる奴がいるって聞いてな。どんなやつかと顔を見にきたんだよ」

にこにこと笑いながらそんな事を口にするアルキゴスは既に酒を飲んでおり顔も赤い。
机の上にいくつか並べられているまみは既に半分ほどなくなっており、エスペルは席に座りながらそれらに手をつけつつ酒を机の上に置く。
置いた途端に手をつけ始める飲兵衛二人をチラリと見ながら、エルピスも同じように酒を飲み始めた。

「酷い言い草ですね、なんとか言ってやってくださいよ父さん」
「俺もアルに同感だ、プロポーズするなんて聞いてなかったぞ。というか事前に相談くらいしてくれても良いだろうに、父を頼れ父を」
「これが息子に実力で抜かれた哀れな男の末路だ。夜飯はもう食ったのか?」
「まだですね。というか父さんには随分と頼っていたと思うんですけど」
「大体後始末じゃないか。しかもほとんどもう終わってるようなものの」

直エルピスとしては英雄と讃えられるような人物である父を雑用に使うことに引け目を感じていたが、イロアスとしては今回の事だって本当は頼って欲しかったのだ。
法国と直接表立って対決するというのはアルヘオ家としてまずいが、息子が理由を持って国と戦うというのであればそれを見捨てるような真似をするのはイロアスとしては嫌だった。
頼って欲しいと思う父心と、そんな父に迷惑をかけたくないと思う子供の心。
互いが互いを思い合っての行動なだけに何が良かったかなどというものはそこにはなかった。

「楽で良いじゃん」
「そう言うことじゃないんだよなぁ……まぁいい。とりあえず飯食いに行くぞ、俺の奢りだ」
「美味いとこ連れてってよ?」
「もちろんだ」

衣服を正し準備をしてエルピス達は転移を使って王都へと向かう。
王都の中にある高級店の個室、一般人では一年に一度も入れないようなそんな高級な店でエルピス達は酒を飲みながら楽しく宴会をしていた。

「くぅぅっ。やっぱここの酒は美味いな」
「父さんさっきから酒臭いよ。テンションも変だし」
「自分の子供が結婚したらこうもなるさ。俺だって息子が結婚すると考えたら気が気じゃないからな」

アルキゴスがそう口にするが彼の息子であるシグルが結婚するのはまだ10年以上は先のことだろう。

随分と気が早いように感じるエルピスだったが、自分の10年前といえば米作りに勤しんでいた時だ。
あれから様々な事があったが思い返せばほんの少しだけ前のように感じられ、あっという間にシグルも結婚するようになるんだろうなと思える。
それから色々な思い出を話し、いままでの人生を楽しく振り返っているとふとイロアスが泣きながら酒を一気飲みし始めた。

「エルピス…お前はなぁなんでも自分一人だけで決めちまって……俺はお前をもっと自由にさせてやりたかったんだ」

エルピスとしてはこの上なく自由に生きているつもりだ。
贅沢をさせてもらい、何不自由ない生活を送り、この度はお嫁さんまで貰っている。
順風満帆な生活があるとすればまさにこれだ、これ以上を望むとなれば世界で一番幸福な人間になる必要があるだろう。
そう思っているエルピスとしては父がどうして泣いているのか、その理由すら分からなかった。

「自由だよ限りなく。自分のやりたいことを好きなだけやらせてもらってるんだから父さんには感謝してもしきれないよ」
「俺がお前にやってやれたのなんてほんと数えるくらいしかないよ。お前が手に入れた自由はお前が自分の力で手に入れたもんだ」
「……英雄として生まれたイロアスはそこんところシビアなんだ。昔から他人から役目を背負わされて、それが当たり前で生きてきたからな。お前にも同じような人生を送ってほしくなかったんだろう」

いつかもこんな会話をイロアスとしたなとエルピスは思い出す。
英雄と呼ばれることの重圧をエルピスもようやく最近は理解できるようになったつもりだ。
自分が本当は平凡な高校生だと理解しているエルピスは見知った人間に失望されることをおそれはしても、他人から何か文句を口にされることに対して特に思うところはない。
だがこの世界に生まれた時点で英雄の星の元に生まれたイロアスは、その性格も相まって常人の価値観とはまた違った価値観を形成しているようである。
アルキゴスからの言葉を受けてそうだそうだと言いたげにイロアスは首を縦に振っていた。

「分かってるじゃないかアル。やっぱお前に任せて正解だったよ」
「まぁ残念だが俺はお前の息子はこのままで良いと思ってるがな。俺の可愛い愛弟子の方針にこれ以上口を挟まないでやってくれ」
「んだとこのやろう。ただまぁな……分かってるよ俺だって、エルピスがその人生で良いって言うなら俺はお前の人生を応援するよ」
「あ、そうだ相談があるんだよ父さんに」

なんだか落ち込んでいる父を見て何かないかと考えたエルピスの頭は、そういえば聞いておこうと思って居たことを思い出してとっさに聞きたいことがあると口に出す。
すると途端にイロアスの顔が笑顔に変わり、ニコニコとした顔で体を乗り出していた。

「なんだ? なんでも聞け。大体は答えられるぞ!」
「結婚式なんだけどこっちの世界の普通が分かんなくてさ。向こうの世界の結婚式はわかるんだけど」

地球においてすら結婚式のやり方というのは国によって千差万別だった。
近代になってからは殆ど洋風の装いで行われていた結婚式だったが、それは日本だからの話で他の国に行けばまた違った結婚式の方法があるだろう。
この世界に置いて一般的な結婚式というものについていまだちゃんと調べておらず全部をハイトに任せてしまっているエルピスとしては、どんな結婚式が行われるのかすら不透明だった。

「そう言うことか。基本的には新郎新婦入場、主賓の乾杯でスタートしてご飯を食いながら出し物がいくつか。それが終わったら何人かが代表で喋って最後に新郎から新婦へ贈り物をして終了だ。まぁ細かいのはいくつかあるがな」
「なるほど。意外と普通なんだね」
「一体何を想像してたんだ?」
「魔物でも捕まえてきてそいつと戦わされるくらいは覚悟してたよ」

エルピスが戦闘になるような魔物を探すとなると、それこそ世界中を探し回る必要があるだろう。
やるなら早めに目星をつけておかないとな、と思って居たエルピスとしてはそんな習慣がなくなったというのは安心できる材料だ。

「トコヤミちゃんのところの国は確かそんな文化があったはずだが、ここら辺にはそう言うのはないな」
「俺も話には聞いているがお前らの世界はどんなところなんだ?」
「魔法の代わりに科学技術が発展した世界です。人間が意思疎通できるのは人間だけ、世界に魔法なんてものはなくて娯楽が人の数よりも多くあった場所です。その分危険もありますけどね」

この世界に唯一エルピスが満足していない事があるとすれば、娯楽の少なさであることは語るまでもないだろう。
インターネットによって高速化され娯楽が飽和していた現代に過ごしていたエルピスとしては、本一冊を買うために国に数店舗しかない店にまでわざわざ出向きとんでもない値段と厳重に保管された本を読みに行くことは手間でしかない。
しかも童話や民謡などなら別として本のほとんどは学術的であったりやたら難しい内容の本ばかりである。
もっと娯楽の品が増えてほしいのだが魔法技術が発展したこの世界で科学技術が発展するようにいまから仕向けるには土精霊の力は絶対に必要であり、そうすぐにはそうすぐには実現できそうにないのが実情である。

「銃はエルピスのいた世界から持ち込まれた文化だからなんとなくは分かるよ。ちなみに向こうで何歳だったんだ?」
「それ聞きます? 高校生だったんで17とかだったと思いますよ」
「──って事は精神年齢俺とそんな変わらないんじゃないか?」

イロアスにそう言われてエルピスもそういえばそうだったなと思い出す。
アルキゴスの年齢を考えると精神年齢を足してもいいのであれば、確かにアルキゴスよりもエルピスの生きてきた歴の方がむしろ長い。
だからと言っていまさら何だというわけではないが、アルキゴスが年下だという事実になんだかおもしろくなってしまう。

「なんなら俺は年上だな」
「アルさんこれから敬語使っても良いですよ?」
「どつくぞ」
「まぁまぁ。酒でも飲んで楽しみましょうよ」

大した中身もない会話だが、こんな会話が何よりも楽しい。
それから夜が更けていくまで、エルピスは3人で酒飲みを楽しむのだった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...