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青年期:法国
この世で最も憎悪すべき場所
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暗い穴の底。
地下水でも引かれているのか湿気に富んだ地下道の中は非常に蒸し暑く、汗をかくほどではないが湿気によって体に張り付く服は鬱陶しい。
人がギリギリ通れる程度の穴の中を匍匐前進しながら進んでいたエルピスが立ち止まると、後ろにいたレネスが不満の声を上げる。
「おいエルピス、早く前に行け」
「押さないでくださいよ師匠! というかどこ触ってるんですか」
「なんだ、いまさらそんな事」
急にエルピスが止まったことで狭い空間に密閉される形になったレネスが不満を口にするが、いきなり尻を触られたエルピスからしてみれば避難の一つも上げたくなるものである。
本来ならば立場は逆なのだろうがレネスはそういった感覚に関しては感情を取り戻してからも鈍く、生まれつきのものなのだろうがガサツと思ててしまうところがあるのは確かだ。
触られても減るものではないだろうと言いたげなレネスに対し、さらにその後ろにいるエラがフォローを出す。
「ダメですよレネス。エルの迷惑になるようなことをしては」
「エラちゃんまでエルピスの味方か、私の味方はどこにいるんだ」
「少なくともこの件に関してはアウローラ含めて誰も師匠の事を守ってくれませんよ」
言葉を返しながらエルピスがなんらかの魔法名を唱えると、レネスの耳に微かに聞こえるほどの音量で何かが切断される音が聞こえてくる。
エルピス達がいまいるのは通気口の中なので、おそらくは仕切りのようなものを破壊したのだろう。
「よし、ここなら降りられそうかな。こっから先は完全武装で、師匠も敵だと思ったらやっちゃっていいよ」
「本当か? 楽しみだな、聖人と戦ってみたかったんだ」
「よっと」
地面から三メートルほどの高さにある通気口から器用に飛び降りると、エルピスは即座に戦闘体制を整える。
続いて降りてきたレネス、エラも各々の武器を手に取り油断なく周囲を観察すると、即座に危険な状況になるわけではないと判断できるまで警戒を続けた。
時間にして10秒ほど、検知にも目視でも安全を確保できたエルピス達はそれでも油断することなく進んでいく。
「長い一本道か。隠れる場所がないのは嫌だけどまぁなんとかなりそうだね」
周囲を見てみれば人工的に作られた洞窟のようで、外壁などは多少丸みを帯びてはいるものの必要最低限の仕事しかしていないようだ。
明かりといったものはどこにもなく暗く閉ざされた空間であり、人によってはこの時点でムリだというものもいるだろう。
生物の気配というものは感じられず、夜の闇よりも暗い洞窟の中をエルピス達は確かな足取りで前に進む。
「そういえば人工聖人製造計画がこんなところで行われているというのは驚きですが、本当にあの傀儡兵は聖人なのか疑問が残るところですね」
「というと?」
「聖人の話は古今東西で多く聞きますけど、正直エルに取り押さえられてたアレらはそれほど強そうに見えなかったので」
エラが気にしていたのは聖人達の実力についてだ。
エルピスが強いのはもはや疑うことすらしていないが、だとしても聖人を4人相手にして宿屋の調度品を一つも壊さずに制圧できるほどの強さがあるとは思っていなかった。
エラだって真正面からエルピスに戦闘を挑めば、勝てることはないだろうが他所への被害を気にするほどの余裕は持たせないだろう。
そんなエラの疑問に対してレネスは仙桜種としての見解を述べる。
「妖精神の称号の影響で自分の実力が大幅に増幅したから強さの基準が測りにくい、ってのもあると思うけれど私もエラちゃんの言葉には賛成かな」
「師匠までそんなこと言う? 俺結構頑張って取り押さえたんだけど」
「魔法も権能も使って居なかったじゃないか。あんなのでまともな戦闘だとはいえないだろう」
「なんだかそう言われ続けてるとちょっと弱かった気がしなくもない……のか?」
エルピスが昨夜──正確には昨日の朝に行った戦闘は刀の一振りだけで終わってしまった。
もし聖人の一人をエルピスが偶然倒せていなければ障壁による防御があったかもしれないが、偶然倒せてしまっていたので権能も使用していないということができるだろう。
エルピスの頭の中での聖人は英雄よりも遥かに下、勇者よりは強い程度の人類という認識なのであの程度なのではとも思っていたのだが、一対一ならばまだしも四対一であそこまで余裕があったのは言われてみると妙だ。
数は力である事を考えると魔法くらいは使っていても良さそうなものである。
それにエラにはもう一つ重大な疑問があった。
「聖人は神の血を持つ先祖返り、だから権能に近い力を行使できると言うのがもっぱらの聖人の噂なんですけど、そんな能力使ってなかったですよね?」
「それは確かにそうだね」
「人工聖人と言うくらいなのだから権能の真似ができないのは仕方がないことだろう。
私から言っておいてなんだが、一般人からしてみればあの膂力だけでも十分に脅威だ。排除するに越した事はないだろう」
「確かにそれはそうなんですが……」
「何か気になることでもあるのか?」
権能を使用できなかった理由にはある程度仮説が出来た、だというのにエラは未だにその思考のほとんどを傀儡兵達に振っているようである。
未知の敵を警戒するのは弱者の特権、神の力を手に入れたばかりのエラが傲慢ではなく謙虚さを持って事に当たっているのはレネスからしてみれば驚くほどに冷静な行動だと評価できた。
しかし考えすぎるのも良くはない。
エラの喉元に引っ掛かっている何かを早く取らなければいけないだろう。
「いえ、どこかであの傀儡兵の様な敵に当たった気がするんですよね。どこだったか忘れたんですけど」
「戦った相手のことは大抵覚えているがあんなのは見たことがないぞ?」
「そうなると多分師匠と出会う前に戦った敵だとは思うんだけど……多いな結構」
「王国、共和国、森妖種の国、王国防衛戦、土精霊の国に他もいくつか小さな国と地域で問題ごとを起こしてますからね」
戦ってきた相手は思い出すだけでも時間がかかる程に多く、頭の中を過ぎ去っていくものはどらも傀儡兵のような力を持っていない。
傀儡兵と同程度の強さを持つのならば鮮烈に頭の中に焼き付いているはずだ、そうでないということはエラの勘違いかもしくは傀儡兵よりも弱いが同じ手法で作られた何かと戦ったのだろう。
「案外森妖種の国が関わっていそうだがな。呪力による強化などは森妖種も得意とするところだろう」
「それもこれももう少し後にならないと分からないですね」
エラの喉に引っかかった骨を外すことはできなかったが、これ以上考えていても仕方がない。
再び歩き始めたエルピス達はどれくらいの時間が経ったか、不意に先頭を歩いていたエラが前から足音が聞こえて来るのを感じとった。
「──エル、前から来るよ」
「エラは後ろに下がって。とりあえず俺と師匠で対処するよ」
「いやいや、ここは私に任せろエルピス。アレくらいの人数相手なら私一人で大丈夫だ」
エラの場合は多人数を相手にするのは得意ではない。
それは混霊種の特性的にも妖精神の特性的にも一対一の戦闘の方が一部の例外を除いて効率が良いからだ。
エラを後ろにさがらせ刀を抜こうとしたエルピスを手で制すると、レネスは自信満々な顔をしながら聖人達の方へと歩いていく。
まるで街中を歩くかのように警戒心など微塵も感じさせないレネスの動き、知能ある兵士達ならばこんな場所にそんな動きをしているものがいれば逆に警戒しただろうが傀儡兵達はレネスを見た途端襲い掛かる。
仙桜種の力を手に入れたレネスにとっては欠伸をしてしまえるほど長い時間経過して、ようやく自分の身体に刃が届くだろうという距離まで近づいた刹那にレネスは己の刃を滑り込ませた。
風切り音すら立てないままに振るわれた刃はなんの抵抗もなく傀儡兵達の首を切り落とし、地面に滑り落ちた落ちた首は鈍い音を立てている。
「どうだ?」
「はいはい凄いです。それよりも夜襲を仕掛けてきた奴らに比べて随分とボロっちい装備だなこれ」
「酷いぞエルピス」頬をぷくりと膨らませながらレネスが非難の声を上げる。
「エルの目で調べられる?」
「もちのろん。どれどれ~」
死体を触るのにも慣れたものだなと思いつつエルピスが死体を調べると、どうやらかなり昔に死んでいるようだというのが一番最初に判明する。
虫に食われていたり腐食が発生しているというわけではないが、死後硬直などを考えると明らかに死んでから時間が経っているのだ。
「二、三十年前の聖都の兵士がよく着用していた装備品だね。致命傷はこの胸のところの刺し傷」
「死体を使って実験をしていたのか?」
「少なくともこの人はそうかな。他の人はそれっぽい致命傷もなさそうだしなんともいえないけど」
「とりあえずこの先で間違いは無さそうだな、とりあえず進もう」
「ちょっと待ってくださいよ師匠!」
早足で無警戒に突き進んでいく姿は完全に強者の傲慢さ故だろう。
先程エラの姿に感心している様子はなんだったのかと言いたくなるエルピスだったが、それを口にしたところでレネスがすぐに態度を改められるとも思えない。
駆け足で後ろをついて行ったエルピスが変わりにとばかりに周囲を警戒しながら長い一本道を歩くが、中々進めども進めども人が作ったような場所に出ることはなかった。
直線距離だけでいうのであれば聖都から既に出てしまっているだろう。
違和感を最初に感じ取ったのはレネスだった。
「歩き出して結構経ったけどなかなか着かないね?」
「いや、というよりこれは……」
「あ、さっきの兵士」
「やはりぐるっと回っていたか。どういうことだ?」
暗闇の中前後不覚ならば多少カーブのように道がなっていても気づかないのは道理。
だがエルピスやレネスにはいくつか周囲の状況を確認する能力を持っており、その能力の効果では曲がっていたり途中で転移したりなどということはないはずである。
だが事実は事実として捉えるしかないだろう。
「神域を弾いてる結界でもあるんですかね? ちゃんと歩いてたつもりだったんですけど」
能力を無効化するような何かが展開されているのであれば、もはや目視で地道に探すしかないだろう。
そう諦めかけていたエルピスの横でレネスが妙案を思いつく。
「ふむ、仕方がない。力技で解決するか」
「待ってください師匠! この上居住区だから地盤崩したらまずいですよ」
「分かっているよ。少しだけ権能を借りるぞ、それと息を深く吸い込め」
息を深く吸い込め、とはエルピスではなくエラにかけられた言葉だろう。
一体何をするのかと注意深く観察していると、魔神の権能を使用してレネスが何かをしようとしている気配を感じ取る。
「設定はこんなものか、よし魔法を発動させるぞ」
レネスの掌に展開された魔法陣が光を周囲に拡散させると、魔法的に作られた水が爆発的にその量を増加させながらいままで通ってきた道を蹂躙していく。
その場でなんとか立ち揉まれたのは咄嗟に刀を地面に突き刺したからで、できれば事前に何か一言くらい添えて欲しかったものだ。
エルピスが恨めしそうにレネスを見ると、そんな事は気にしないとばかりにレネスはハンドサインでついて来るように指示を出す。
確かな足取りで進んでいくその背を見て何かを感じ取ったのだろうと考えたエルピス達が黙ってついていくと、レネスが突然武器を抜き取ると壁の一部を切り倒した。
その先には何やら地下へと続く階段のようなものが見え、これだけ充満している水も結界のようなものに阻まれてその奥へと侵入していなかった。
「どうだ凄いだろう?」
にっこりと笑みを浮かべながらそんな事を口にしたレネスは足速に階段を駆け降りていく。
「まさかこんな強引な方法で突破するなんて思ってもいませんでしたよ」
「服がべちゃべちゃ」
「エルピスなんとか頼んだよ」
「先に言ってくれたらわざわざ乾かす必要もなかったんですよ?」
服を乾かす魔法というのは一般的に流通しているが、障壁を使い事前に水を弾いていれば良かったのに。
かなり昔のことではあるがナメクジに全身浸かった時のこと思い出して寒気を感じながら、エルピスはさっさと服を乾かすのだった。
そうして階段を降りた先にあったのは重厚な鉄の扉、しかしこれもレネスがなんの躊躇もなく切断しかけられていた罠も全て真正面からねじ伏せて奥へと進んでいく。
小手先の努力を嘲笑うようなレネスの姿を追いかけていると、左右にいくつか部屋のある大きな廊下に出る。
部屋の名前や状況などを確認できるものはなく、先程レネスが壊した鉄の扉と同じような材質の扉があることしか分からない。
「さてと、どの部屋から入ります?」
「左右に部屋が五つでその先は何故か神域でも気配を探れない。どれから入ろうか?」
「こういう時は左側の法則ですよ。左手前から攻略していきましょう」
正確には迷宮などを攻略するときに用いられる法則の名前を口に出したエルピスに対し、別にどのような方法でもいいと考えていたレネスは特に躊躇することなく扉を押し開ける。
特に鍵などはかかっておらず、少々重たい扉を開けた先にあったのは様々な武具達であった。
磨かれているようには見えず錆もちらほらと散見され、とてもではないが大事に扱われているとは思えない。
「武器庫……みたいだね?」
「部屋を開けたら神域を使える様になるのか。生物はいないね、武器類はいくつかあるけど調べる?」
「鍛治神の知恵を使って調べてみましたけど別に特別な装備はないですね。古い法国の装備品が多いくらいです」
装備品がどのようなものなのか一通り見て回ったはいいものの、はっきり言って魅力的な武器や防具というものはない。
歴史愛好家や武器愛好家ならばそれなりに琴線に触れるかもしれないが、それでも価値としては高々知れている。
おそらくは法国の最重要機密であろう場所にある武器にしては拍子抜けもいいところ。
証拠品として収納庫の中に一本だけ剣を入れると、すぐに隣の部屋へと移る。
「ここは寝床か?」
「二段ベットこの世界に来てから久々に見ましたね」
「学園なども二段ベットでしたよ。空間を立体的に使って寝床を確保できるのはやはり魅力的ですし」
「まぁここも特に何もなさそうかな」
寝床があるということは寝泊まりしていた人間がいたということ。
何かあるかと神域を使っても特に何もなさそうである。
次の部屋もそのまた次の部屋も開けてみるが、同じように二段ベットが部屋の中にいっぱい詰め込まれているだけで特筆するようなことは何もない。
「三、四部屋目も寝床となるとここもそうかな?」
「──そういえばエルピス、障壁の強度を上げておいた方がいいんじゃないか? いまはこの場に三人しか居ないし普段よりも強く張っても問題ないだろう」
「それはそうですね。じゃあ貼り直して行こうか」
何もない部屋が続き油断しかけていたエルピスに対してレネスが助言をすると、思い出したようにエルピスは障壁を貼り直す。
たとえどのような力を使われたところで絶対に防ぎ切るだけの障壁を展開したエルピスは、扉を押し開けて部屋の中へと入っていく。
「えっと、実験設備……みたいですね」
部屋の中にあるのは理科室で見かけるようなものから、様々なメーターの付けられた何に使うのかもよくわからない実験器具。
いくつかの瓶の中には液体や固体の薬品が混入しており、邪神の権能によってその危険性が可視化されるエルピスからすると毒無効化がなければ聖人を相手にするよりも危ない場所だと思える。
「師匠は出入り口で見張ってて。エラは俺と中へ入って探索ね」
「了解したわ。ごめんねレネス、ここは任せるわ」
「任せてくれエラ。誰も通さないよ」
見張り役としてレネスがいるのはこれ以上ないほどの安心感である。
これでエルピスが警戒しなければいけなくなったのは部屋の中に突然敵が現れることだけ、だがそれも十分警戒しているエルピスを欺く事の難しさを考えれば安心しても良いほどだ。
「この瓶はなんなんだろ。説明書的なのどこかにないかな」
「薬学に関しては一応知識があるつもりでしたけど、何が何やらさっぱりですね。自然の植物を使った痕跡はあまりないですし、もしかしたら自分たちで作ったものなのかもしれません」
「それは確かにそう──ってこれはどうだろ、やばくないかな」
言葉ほどは焦っているようにも思えないが、エルピスが危険だと判断するほどの何かがそこにあったのだろう。
それの存在が気になりエラが近寄ろうとすると、エルピスが手でそれを静止する。
そんな姿を見ていたレネスがふと疑問の声を上げた。
「どうかしたかエルピス?」
「そっちから死角になるところで瓶が数本割れてるんだよ。呼吸は止めてたから肺には侵入されてないけど、もしかしたらエラの体がまずいかも」
「邪神の権能があるから問題はないだろう。鑑定すれば効果が分かるんじゃないか?」
即効性のあるものであれば既に効果は出ているだろうが、吸い込んでみても体に違和感というものは感じられない。
調べてみれば精神に作用するタイプの毒のようで、効果が羅列されているものの専門用語が多く、エルピスにはそれがなにか分からなかった。
セラやニルなどであれば薬品に関して知識もあるだろう、内容をメモしてこぼれ落ちたものを虚空に捨て探索を再開する。
「確かにそれもそっか。エラ、どれかこれと同じ薬品はある?」
「そうですね……じゃあアレで」
「そんな当てずっぽうな、と言いたいけどどうせ考えたところで分からないしそっちの方がいいか。どれどれ」
エラが適当に棚の中から取り出したのは、地面に落ちていた薬品とは似ても似つかないものである。
しかし鑑定をしてみれば内容物は非常に酷似しており、同じ型番の薬品だろうということが判明した。
「さすがエラ! 多分これであってるよ」
「それは良かったです!」
数ある中から同じようなものを探し出せたのは混霊種の特性だろうか。
なんにせよエラが引き当てたものを戦利品として先程までと同じように仕舞い込んだエルピスは、他に目ぼしいものがないか探索してから部屋を出る。
「これで片側の部屋は探索し終えたな。もう面倒だしいまから二つずつ部屋を開けていくか」
「じゃあ俺と師匠に別れて、エラは俺の後ろに居てね」
「どっちが当たりを引くか勝負だな」
レネスが言うところの辺りとは敵がいる方ということだろう。
いままでの傾向から言っておそらくここは研究者達の居住区画、だとすれば近場に傀儡兵のような存在を置いておくとは少々考えにくい。
だが念には念を入れてゆっくりとエルピスが扉を開けると、まるで待ち構えていたかのように傀儡兵が飛び出してくる。
数は一人だがそれでも脅威は脅威、一切の油断なくエルピスは傀儡兵を切り伏せる。
「どうやら俺の方が当たり引いたみたいですね」
「羨ましいな、次は私の番だぞ」
「どうやら両方実験場の様ですね。内装は特にこれといっておかしなところもありませんし、調べるところは少なそうです」
部屋の中には多少の武器とおそらくは的だったろうなにか、他には特にこれと言ってなにもない。
重要なものをそんな場所に置くとは思えないので、探すべきは他の部屋だろう。
「うーん、他の部屋を調べてから隠し通路がないかだけ後で探るか」
「流れ的に次の部屋は敵がいそうだからわたしが開けるぞ? いいな?」
「なんで師匠そんなに嬉しそうなのか分からないけどお好きにどうぞ」
鼻歌でも歌いそうな雰囲気で扉を開けたレネスは、敵を見つけてその顔をニンマリと歪ませる。
レネスにとってみれば聖人というのは良い相手だった。
殺しても誰にも文句を言われないし、既に死んでしまっているので悲しむような人物もいない。
技能や特殊技能の対処に神経を裂きながら戦う必要もなく、ただ真正面から力の押し合いで捩じ伏せることのできる相手というのは意外と珍しいのだ。
レネスを見た瞬間に聖人達が敵と認識したのか構えを取るが、それでも踏み出さないのはレネスの脅威を感じ取っているからだろう。
そんな傀儡兵達の事を見ながらレネスは気になる事を口にした。
「やはりいたな。だがこいつらは装備がちゃんとしているぞ?」
「まさか師匠負けないですよね?」
「馬鹿を言うなこんな奴らこうだ!」
力任せにレネスが腕を振るうと、先頭に立っていた傀儡兵の一人が爆音をあげて隣の部屋へと飛んでいってしまう。
その隙を狙って他の傀儡兵がレネスに襲い掛かるが、残念ながら傀儡兵一人を殴り飛ばすのは仙桜種相手に隙というものを作れるほどの行動ではなく、惜しむようにして一刀の元に切り伏せられる。
その戦闘力はあっぱれの一言だが、唯一問題があるとすれば破壊された隣の部屋のことだろう。
破壊された穴から部屋の中を覗いてみれば、ピクリとも動かない傀儡兵の下に重要そうな書類が山のように積まれいてるではないか。
「あー! 壊した!」
「違うっ! そんな力で殴ってないぞ私は!」
レネスが釈明の為に声を張り上げるが、事実目の前で傀儡兵が抗えないほどの力で殴り飛ばされたのだから無駄な行為である。
「隣の部屋は書類用の棚かな? これ全部絶対に必要な書類ですよ。とりあえず全部回収しますけど次は絶対ぶっ壊さないでくださいよ」
「……すまん」
先程までの場所に比べて今回の場所は重要そうなものが多く、その中から必要なものを選別するのには時間がかかりそうなのでエルピスはその場にあった全ての書類を回収する。
途中で動き始めてきた傀儡兵にもしっかり止めを刺すと、最後の部屋へ向かって足を延ばす。
「これが最後の扉ですか」
「多分安全だと思うけど一応警戒するに越したことはないから俺が開けるよ。師匠は他所の警戒をお願い、エラはさっきみたいにカバーお願いね」
傀儡兵が敵の戦力の限界点であるならば、それほど気にすることはない。
だが問題は傀儡兵以上の存在が居た場合の時、どこまでやりあうかの線引きを取ることだ。
先程エルピスがレネスに説明した通りここは街の地下、エルピス達が本気で戦闘を始めてしまえば上にある法国の首都である聖都は間違いなく崩壊する。
そこにいる人間は殆どの確立で死ぬだろうし、もしそんな事になればまずいことになるのは考えるまでもない。
今日一番の緊張感と共に扉を押し開けたエルピス達が部屋の中を見回すと、驚くものが目に飛び込んできた。
「嘘…でしょ?」
声を発したのはエラ、だが心の中ではエルピスも同じような反応をしていた。
単純にエルピスが声を漏らさなかったのは神域で罠がないのか調べることに意識を割いていたからである。
「うっ…あっ……ァァ…ッ」
それは声ではなかった。
漏れ出る息に喉が無意識で反応し、言葉の様なものをただただ無駄に吐き出すだけの何か。
そこに意志というものはなく、人としての尊厳があるようにも感じられなかった。
傀儡兵達のそれすら違う人の姿をした人ではないものを前にしてエラが信じられない名前を口にした。
「これはまさかペトロ様?」
酷くやつれてしまいもはや見る影もない程だが、それでもエラが名前を呼びかけると目の前のそれはまるで意識が戻ったかのように顔を上げた。
だがやはり人として大事な機能は大きく損失してしまっているようであり、エラが続けていくつか言葉を投げかけてみるもののそれに対して何も返答はない。
これが聖人化計画の中に含まれた要素なのだとすれば、ゲリシンは自らの妹をその手にかけたという事に他ならない。
この世界で家族こそが最も大切だと考えているエルピスからしてみれば、その行為は途方もない程の怒りを生み出すに値する行動である。
「人造聖人そのものだな。まさか自分の妹にまで手をかけているとは予想外だったが」
「報告書はこちらですね。それ以外にもいくつか書類がありますが」
「エルピス?」
事実は事実として割り切り作業を始めたエラと、元より可能性を考慮に入れていたレネスとは違いエルピスは固まってしまっていた。
その顔に映る感情が何なのか定かではないが、ひどく動揺しているように見える。
「──俺、この人のこと結構好きだったんだよ」
「突然なんのカミングアウトだ!? 浮気か!?」
「違うよっ! この人学園が戦場になった時俺がわざわざわ王国まで転移させたのに、死にかけながら自分達の力で戻ってきて他の生徒の供養をしてたんだ。
正直学園にいる人なんてほとんど覚えてないけどこの人だけはまだ覚えてたよ」
血反吐を吐きながらわざわざ死地に転移魔法で戻ってくる自己犠牲の精神はエルピスからしてみれば尊敬に十分値する。
だからこそ学園生の中で唯一名前と顔の両方を覚えていた人物であり、エルピスが今回わざわざ救出作戦をしてもいいと思えた理由の一つである。
彼女の為ならば、他人のために自分の事を犠牲に出来る人間の為であれば自分も多少のリスクを背負う事を許容しようと思えたのはひとえに彼女のあの行動があったからだ。
「ハイトさんのところに連れて行ってあげよう。きっとこの人も助けられるよまだ、行こう師匠」
「いいのか? いまから二人で真正面から法国を潰してもいいんだぞ?」
「やめてよ、自制してるんだから。エラ悪いんだけど拘束してあげてくれる? 帝国の皇女の回収とフィーユちゃんの捜索は俺がいまからしに行ってくるから二人は先に彼女を安全なところに」
「はい、分かりました」
レネスからの非常に魅力的な提案を断ってエルピスは転移魔法を起動した。
願うのは法国の第三皇女であるフィーユが無事に生きていてくれることだけだ。
もはや年端のいかない少女であろうとも無事であると自信をもって口にできない状況に、せめて生きていてくれと願いながらエルピスは捜索を開始するのだった。
地下水でも引かれているのか湿気に富んだ地下道の中は非常に蒸し暑く、汗をかくほどではないが湿気によって体に張り付く服は鬱陶しい。
人がギリギリ通れる程度の穴の中を匍匐前進しながら進んでいたエルピスが立ち止まると、後ろにいたレネスが不満の声を上げる。
「おいエルピス、早く前に行け」
「押さないでくださいよ師匠! というかどこ触ってるんですか」
「なんだ、いまさらそんな事」
急にエルピスが止まったことで狭い空間に密閉される形になったレネスが不満を口にするが、いきなり尻を触られたエルピスからしてみれば避難の一つも上げたくなるものである。
本来ならば立場は逆なのだろうがレネスはそういった感覚に関しては感情を取り戻してからも鈍く、生まれつきのものなのだろうがガサツと思ててしまうところがあるのは確かだ。
触られても減るものではないだろうと言いたげなレネスに対し、さらにその後ろにいるエラがフォローを出す。
「ダメですよレネス。エルの迷惑になるようなことをしては」
「エラちゃんまでエルピスの味方か、私の味方はどこにいるんだ」
「少なくともこの件に関してはアウローラ含めて誰も師匠の事を守ってくれませんよ」
言葉を返しながらエルピスがなんらかの魔法名を唱えると、レネスの耳に微かに聞こえるほどの音量で何かが切断される音が聞こえてくる。
エルピス達がいまいるのは通気口の中なので、おそらくは仕切りのようなものを破壊したのだろう。
「よし、ここなら降りられそうかな。こっから先は完全武装で、師匠も敵だと思ったらやっちゃっていいよ」
「本当か? 楽しみだな、聖人と戦ってみたかったんだ」
「よっと」
地面から三メートルほどの高さにある通気口から器用に飛び降りると、エルピスは即座に戦闘体制を整える。
続いて降りてきたレネス、エラも各々の武器を手に取り油断なく周囲を観察すると、即座に危険な状況になるわけではないと判断できるまで警戒を続けた。
時間にして10秒ほど、検知にも目視でも安全を確保できたエルピス達はそれでも油断することなく進んでいく。
「長い一本道か。隠れる場所がないのは嫌だけどまぁなんとかなりそうだね」
周囲を見てみれば人工的に作られた洞窟のようで、外壁などは多少丸みを帯びてはいるものの必要最低限の仕事しかしていないようだ。
明かりといったものはどこにもなく暗く閉ざされた空間であり、人によってはこの時点でムリだというものもいるだろう。
生物の気配というものは感じられず、夜の闇よりも暗い洞窟の中をエルピス達は確かな足取りで前に進む。
「そういえば人工聖人製造計画がこんなところで行われているというのは驚きですが、本当にあの傀儡兵は聖人なのか疑問が残るところですね」
「というと?」
「聖人の話は古今東西で多く聞きますけど、正直エルに取り押さえられてたアレらはそれほど強そうに見えなかったので」
エラが気にしていたのは聖人達の実力についてだ。
エルピスが強いのはもはや疑うことすらしていないが、だとしても聖人を4人相手にして宿屋の調度品を一つも壊さずに制圧できるほどの強さがあるとは思っていなかった。
エラだって真正面からエルピスに戦闘を挑めば、勝てることはないだろうが他所への被害を気にするほどの余裕は持たせないだろう。
そんなエラの疑問に対してレネスは仙桜種としての見解を述べる。
「妖精神の称号の影響で自分の実力が大幅に増幅したから強さの基準が測りにくい、ってのもあると思うけれど私もエラちゃんの言葉には賛成かな」
「師匠までそんなこと言う? 俺結構頑張って取り押さえたんだけど」
「魔法も権能も使って居なかったじゃないか。あんなのでまともな戦闘だとはいえないだろう」
「なんだかそう言われ続けてるとちょっと弱かった気がしなくもない……のか?」
エルピスが昨夜──正確には昨日の朝に行った戦闘は刀の一振りだけで終わってしまった。
もし聖人の一人をエルピスが偶然倒せていなければ障壁による防御があったかもしれないが、偶然倒せてしまっていたので権能も使用していないということができるだろう。
エルピスの頭の中での聖人は英雄よりも遥かに下、勇者よりは強い程度の人類という認識なのであの程度なのではとも思っていたのだが、一対一ならばまだしも四対一であそこまで余裕があったのは言われてみると妙だ。
数は力である事を考えると魔法くらいは使っていても良さそうなものである。
それにエラにはもう一つ重大な疑問があった。
「聖人は神の血を持つ先祖返り、だから権能に近い力を行使できると言うのがもっぱらの聖人の噂なんですけど、そんな能力使ってなかったですよね?」
「それは確かにそうだね」
「人工聖人と言うくらいなのだから権能の真似ができないのは仕方がないことだろう。
私から言っておいてなんだが、一般人からしてみればあの膂力だけでも十分に脅威だ。排除するに越した事はないだろう」
「確かにそれはそうなんですが……」
「何か気になることでもあるのか?」
権能を使用できなかった理由にはある程度仮説が出来た、だというのにエラは未だにその思考のほとんどを傀儡兵達に振っているようである。
未知の敵を警戒するのは弱者の特権、神の力を手に入れたばかりのエラが傲慢ではなく謙虚さを持って事に当たっているのはレネスからしてみれば驚くほどに冷静な行動だと評価できた。
しかし考えすぎるのも良くはない。
エラの喉元に引っ掛かっている何かを早く取らなければいけないだろう。
「いえ、どこかであの傀儡兵の様な敵に当たった気がするんですよね。どこだったか忘れたんですけど」
「戦った相手のことは大抵覚えているがあんなのは見たことがないぞ?」
「そうなると多分師匠と出会う前に戦った敵だとは思うんだけど……多いな結構」
「王国、共和国、森妖種の国、王国防衛戦、土精霊の国に他もいくつか小さな国と地域で問題ごとを起こしてますからね」
戦ってきた相手は思い出すだけでも時間がかかる程に多く、頭の中を過ぎ去っていくものはどらも傀儡兵のような力を持っていない。
傀儡兵と同程度の強さを持つのならば鮮烈に頭の中に焼き付いているはずだ、そうでないということはエラの勘違いかもしくは傀儡兵よりも弱いが同じ手法で作られた何かと戦ったのだろう。
「案外森妖種の国が関わっていそうだがな。呪力による強化などは森妖種も得意とするところだろう」
「それもこれももう少し後にならないと分からないですね」
エラの喉に引っかかった骨を外すことはできなかったが、これ以上考えていても仕方がない。
再び歩き始めたエルピス達はどれくらいの時間が経ったか、不意に先頭を歩いていたエラが前から足音が聞こえて来るのを感じとった。
「──エル、前から来るよ」
「エラは後ろに下がって。とりあえず俺と師匠で対処するよ」
「いやいや、ここは私に任せろエルピス。アレくらいの人数相手なら私一人で大丈夫だ」
エラの場合は多人数を相手にするのは得意ではない。
それは混霊種の特性的にも妖精神の特性的にも一対一の戦闘の方が一部の例外を除いて効率が良いからだ。
エラを後ろにさがらせ刀を抜こうとしたエルピスを手で制すると、レネスは自信満々な顔をしながら聖人達の方へと歩いていく。
まるで街中を歩くかのように警戒心など微塵も感じさせないレネスの動き、知能ある兵士達ならばこんな場所にそんな動きをしているものがいれば逆に警戒しただろうが傀儡兵達はレネスを見た途端襲い掛かる。
仙桜種の力を手に入れたレネスにとっては欠伸をしてしまえるほど長い時間経過して、ようやく自分の身体に刃が届くだろうという距離まで近づいた刹那にレネスは己の刃を滑り込ませた。
風切り音すら立てないままに振るわれた刃はなんの抵抗もなく傀儡兵達の首を切り落とし、地面に滑り落ちた落ちた首は鈍い音を立てている。
「どうだ?」
「はいはい凄いです。それよりも夜襲を仕掛けてきた奴らに比べて随分とボロっちい装備だなこれ」
「酷いぞエルピス」頬をぷくりと膨らませながらレネスが非難の声を上げる。
「エルの目で調べられる?」
「もちのろん。どれどれ~」
死体を触るのにも慣れたものだなと思いつつエルピスが死体を調べると、どうやらかなり昔に死んでいるようだというのが一番最初に判明する。
虫に食われていたり腐食が発生しているというわけではないが、死後硬直などを考えると明らかに死んでから時間が経っているのだ。
「二、三十年前の聖都の兵士がよく着用していた装備品だね。致命傷はこの胸のところの刺し傷」
「死体を使って実験をしていたのか?」
「少なくともこの人はそうかな。他の人はそれっぽい致命傷もなさそうだしなんともいえないけど」
「とりあえずこの先で間違いは無さそうだな、とりあえず進もう」
「ちょっと待ってくださいよ師匠!」
早足で無警戒に突き進んでいく姿は完全に強者の傲慢さ故だろう。
先程エラの姿に感心している様子はなんだったのかと言いたくなるエルピスだったが、それを口にしたところでレネスがすぐに態度を改められるとも思えない。
駆け足で後ろをついて行ったエルピスが変わりにとばかりに周囲を警戒しながら長い一本道を歩くが、中々進めども進めども人が作ったような場所に出ることはなかった。
直線距離だけでいうのであれば聖都から既に出てしまっているだろう。
違和感を最初に感じ取ったのはレネスだった。
「歩き出して結構経ったけどなかなか着かないね?」
「いや、というよりこれは……」
「あ、さっきの兵士」
「やはりぐるっと回っていたか。どういうことだ?」
暗闇の中前後不覚ならば多少カーブのように道がなっていても気づかないのは道理。
だがエルピスやレネスにはいくつか周囲の状況を確認する能力を持っており、その能力の効果では曲がっていたり途中で転移したりなどということはないはずである。
だが事実は事実として捉えるしかないだろう。
「神域を弾いてる結界でもあるんですかね? ちゃんと歩いてたつもりだったんですけど」
能力を無効化するような何かが展開されているのであれば、もはや目視で地道に探すしかないだろう。
そう諦めかけていたエルピスの横でレネスが妙案を思いつく。
「ふむ、仕方がない。力技で解決するか」
「待ってください師匠! この上居住区だから地盤崩したらまずいですよ」
「分かっているよ。少しだけ権能を借りるぞ、それと息を深く吸い込め」
息を深く吸い込め、とはエルピスではなくエラにかけられた言葉だろう。
一体何をするのかと注意深く観察していると、魔神の権能を使用してレネスが何かをしようとしている気配を感じ取る。
「設定はこんなものか、よし魔法を発動させるぞ」
レネスの掌に展開された魔法陣が光を周囲に拡散させると、魔法的に作られた水が爆発的にその量を増加させながらいままで通ってきた道を蹂躙していく。
その場でなんとか立ち揉まれたのは咄嗟に刀を地面に突き刺したからで、できれば事前に何か一言くらい添えて欲しかったものだ。
エルピスが恨めしそうにレネスを見ると、そんな事は気にしないとばかりにレネスはハンドサインでついて来るように指示を出す。
確かな足取りで進んでいくその背を見て何かを感じ取ったのだろうと考えたエルピス達が黙ってついていくと、レネスが突然武器を抜き取ると壁の一部を切り倒した。
その先には何やら地下へと続く階段のようなものが見え、これだけ充満している水も結界のようなものに阻まれてその奥へと侵入していなかった。
「どうだ凄いだろう?」
にっこりと笑みを浮かべながらそんな事を口にしたレネスは足速に階段を駆け降りていく。
「まさかこんな強引な方法で突破するなんて思ってもいませんでしたよ」
「服がべちゃべちゃ」
「エルピスなんとか頼んだよ」
「先に言ってくれたらわざわざ乾かす必要もなかったんですよ?」
服を乾かす魔法というのは一般的に流通しているが、障壁を使い事前に水を弾いていれば良かったのに。
かなり昔のことではあるがナメクジに全身浸かった時のこと思い出して寒気を感じながら、エルピスはさっさと服を乾かすのだった。
そうして階段を降りた先にあったのは重厚な鉄の扉、しかしこれもレネスがなんの躊躇もなく切断しかけられていた罠も全て真正面からねじ伏せて奥へと進んでいく。
小手先の努力を嘲笑うようなレネスの姿を追いかけていると、左右にいくつか部屋のある大きな廊下に出る。
部屋の名前や状況などを確認できるものはなく、先程レネスが壊した鉄の扉と同じような材質の扉があることしか分からない。
「さてと、どの部屋から入ります?」
「左右に部屋が五つでその先は何故か神域でも気配を探れない。どれから入ろうか?」
「こういう時は左側の法則ですよ。左手前から攻略していきましょう」
正確には迷宮などを攻略するときに用いられる法則の名前を口に出したエルピスに対し、別にどのような方法でもいいと考えていたレネスは特に躊躇することなく扉を押し開ける。
特に鍵などはかかっておらず、少々重たい扉を開けた先にあったのは様々な武具達であった。
磨かれているようには見えず錆もちらほらと散見され、とてもではないが大事に扱われているとは思えない。
「武器庫……みたいだね?」
「部屋を開けたら神域を使える様になるのか。生物はいないね、武器類はいくつかあるけど調べる?」
「鍛治神の知恵を使って調べてみましたけど別に特別な装備はないですね。古い法国の装備品が多いくらいです」
装備品がどのようなものなのか一通り見て回ったはいいものの、はっきり言って魅力的な武器や防具というものはない。
歴史愛好家や武器愛好家ならばそれなりに琴線に触れるかもしれないが、それでも価値としては高々知れている。
おそらくは法国の最重要機密であろう場所にある武器にしては拍子抜けもいいところ。
証拠品として収納庫の中に一本だけ剣を入れると、すぐに隣の部屋へと移る。
「ここは寝床か?」
「二段ベットこの世界に来てから久々に見ましたね」
「学園なども二段ベットでしたよ。空間を立体的に使って寝床を確保できるのはやはり魅力的ですし」
「まぁここも特に何もなさそうかな」
寝床があるということは寝泊まりしていた人間がいたということ。
何かあるかと神域を使っても特に何もなさそうである。
次の部屋もそのまた次の部屋も開けてみるが、同じように二段ベットが部屋の中にいっぱい詰め込まれているだけで特筆するようなことは何もない。
「三、四部屋目も寝床となるとここもそうかな?」
「──そういえばエルピス、障壁の強度を上げておいた方がいいんじゃないか? いまはこの場に三人しか居ないし普段よりも強く張っても問題ないだろう」
「それはそうですね。じゃあ貼り直して行こうか」
何もない部屋が続き油断しかけていたエルピスに対してレネスが助言をすると、思い出したようにエルピスは障壁を貼り直す。
たとえどのような力を使われたところで絶対に防ぎ切るだけの障壁を展開したエルピスは、扉を押し開けて部屋の中へと入っていく。
「えっと、実験設備……みたいですね」
部屋の中にあるのは理科室で見かけるようなものから、様々なメーターの付けられた何に使うのかもよくわからない実験器具。
いくつかの瓶の中には液体や固体の薬品が混入しており、邪神の権能によってその危険性が可視化されるエルピスからすると毒無効化がなければ聖人を相手にするよりも危ない場所だと思える。
「師匠は出入り口で見張ってて。エラは俺と中へ入って探索ね」
「了解したわ。ごめんねレネス、ここは任せるわ」
「任せてくれエラ。誰も通さないよ」
見張り役としてレネスがいるのはこれ以上ないほどの安心感である。
これでエルピスが警戒しなければいけなくなったのは部屋の中に突然敵が現れることだけ、だがそれも十分警戒しているエルピスを欺く事の難しさを考えれば安心しても良いほどだ。
「この瓶はなんなんだろ。説明書的なのどこかにないかな」
「薬学に関しては一応知識があるつもりでしたけど、何が何やらさっぱりですね。自然の植物を使った痕跡はあまりないですし、もしかしたら自分たちで作ったものなのかもしれません」
「それは確かにそう──ってこれはどうだろ、やばくないかな」
言葉ほどは焦っているようにも思えないが、エルピスが危険だと判断するほどの何かがそこにあったのだろう。
それの存在が気になりエラが近寄ろうとすると、エルピスが手でそれを静止する。
そんな姿を見ていたレネスがふと疑問の声を上げた。
「どうかしたかエルピス?」
「そっちから死角になるところで瓶が数本割れてるんだよ。呼吸は止めてたから肺には侵入されてないけど、もしかしたらエラの体がまずいかも」
「邪神の権能があるから問題はないだろう。鑑定すれば効果が分かるんじゃないか?」
即効性のあるものであれば既に効果は出ているだろうが、吸い込んでみても体に違和感というものは感じられない。
調べてみれば精神に作用するタイプの毒のようで、効果が羅列されているものの専門用語が多く、エルピスにはそれがなにか分からなかった。
セラやニルなどであれば薬品に関して知識もあるだろう、内容をメモしてこぼれ落ちたものを虚空に捨て探索を再開する。
「確かにそれもそっか。エラ、どれかこれと同じ薬品はある?」
「そうですね……じゃあアレで」
「そんな当てずっぽうな、と言いたいけどどうせ考えたところで分からないしそっちの方がいいか。どれどれ」
エラが適当に棚の中から取り出したのは、地面に落ちていた薬品とは似ても似つかないものである。
しかし鑑定をしてみれば内容物は非常に酷似しており、同じ型番の薬品だろうということが判明した。
「さすがエラ! 多分これであってるよ」
「それは良かったです!」
数ある中から同じようなものを探し出せたのは混霊種の特性だろうか。
なんにせよエラが引き当てたものを戦利品として先程までと同じように仕舞い込んだエルピスは、他に目ぼしいものがないか探索してから部屋を出る。
「これで片側の部屋は探索し終えたな。もう面倒だしいまから二つずつ部屋を開けていくか」
「じゃあ俺と師匠に別れて、エラは俺の後ろに居てね」
「どっちが当たりを引くか勝負だな」
レネスが言うところの辺りとは敵がいる方ということだろう。
いままでの傾向から言っておそらくここは研究者達の居住区画、だとすれば近場に傀儡兵のような存在を置いておくとは少々考えにくい。
だが念には念を入れてゆっくりとエルピスが扉を開けると、まるで待ち構えていたかのように傀儡兵が飛び出してくる。
数は一人だがそれでも脅威は脅威、一切の油断なくエルピスは傀儡兵を切り伏せる。
「どうやら俺の方が当たり引いたみたいですね」
「羨ましいな、次は私の番だぞ」
「どうやら両方実験場の様ですね。内装は特にこれといっておかしなところもありませんし、調べるところは少なそうです」
部屋の中には多少の武器とおそらくは的だったろうなにか、他には特にこれと言ってなにもない。
重要なものをそんな場所に置くとは思えないので、探すべきは他の部屋だろう。
「うーん、他の部屋を調べてから隠し通路がないかだけ後で探るか」
「流れ的に次の部屋は敵がいそうだからわたしが開けるぞ? いいな?」
「なんで師匠そんなに嬉しそうなのか分からないけどお好きにどうぞ」
鼻歌でも歌いそうな雰囲気で扉を開けたレネスは、敵を見つけてその顔をニンマリと歪ませる。
レネスにとってみれば聖人というのは良い相手だった。
殺しても誰にも文句を言われないし、既に死んでしまっているので悲しむような人物もいない。
技能や特殊技能の対処に神経を裂きながら戦う必要もなく、ただ真正面から力の押し合いで捩じ伏せることのできる相手というのは意外と珍しいのだ。
レネスを見た瞬間に聖人達が敵と認識したのか構えを取るが、それでも踏み出さないのはレネスの脅威を感じ取っているからだろう。
そんな傀儡兵達の事を見ながらレネスは気になる事を口にした。
「やはりいたな。だがこいつらは装備がちゃんとしているぞ?」
「まさか師匠負けないですよね?」
「馬鹿を言うなこんな奴らこうだ!」
力任せにレネスが腕を振るうと、先頭に立っていた傀儡兵の一人が爆音をあげて隣の部屋へと飛んでいってしまう。
その隙を狙って他の傀儡兵がレネスに襲い掛かるが、残念ながら傀儡兵一人を殴り飛ばすのは仙桜種相手に隙というものを作れるほどの行動ではなく、惜しむようにして一刀の元に切り伏せられる。
その戦闘力はあっぱれの一言だが、唯一問題があるとすれば破壊された隣の部屋のことだろう。
破壊された穴から部屋の中を覗いてみれば、ピクリとも動かない傀儡兵の下に重要そうな書類が山のように積まれいてるではないか。
「あー! 壊した!」
「違うっ! そんな力で殴ってないぞ私は!」
レネスが釈明の為に声を張り上げるが、事実目の前で傀儡兵が抗えないほどの力で殴り飛ばされたのだから無駄な行為である。
「隣の部屋は書類用の棚かな? これ全部絶対に必要な書類ですよ。とりあえず全部回収しますけど次は絶対ぶっ壊さないでくださいよ」
「……すまん」
先程までの場所に比べて今回の場所は重要そうなものが多く、その中から必要なものを選別するのには時間がかかりそうなのでエルピスはその場にあった全ての書類を回収する。
途中で動き始めてきた傀儡兵にもしっかり止めを刺すと、最後の部屋へ向かって足を延ばす。
「これが最後の扉ですか」
「多分安全だと思うけど一応警戒するに越したことはないから俺が開けるよ。師匠は他所の警戒をお願い、エラはさっきみたいにカバーお願いね」
傀儡兵が敵の戦力の限界点であるならば、それほど気にすることはない。
だが問題は傀儡兵以上の存在が居た場合の時、どこまでやりあうかの線引きを取ることだ。
先程エルピスがレネスに説明した通りここは街の地下、エルピス達が本気で戦闘を始めてしまえば上にある法国の首都である聖都は間違いなく崩壊する。
そこにいる人間は殆どの確立で死ぬだろうし、もしそんな事になればまずいことになるのは考えるまでもない。
今日一番の緊張感と共に扉を押し開けたエルピス達が部屋の中を見回すと、驚くものが目に飛び込んできた。
「嘘…でしょ?」
声を発したのはエラ、だが心の中ではエルピスも同じような反応をしていた。
単純にエルピスが声を漏らさなかったのは神域で罠がないのか調べることに意識を割いていたからである。
「うっ…あっ……ァァ…ッ」
それは声ではなかった。
漏れ出る息に喉が無意識で反応し、言葉の様なものをただただ無駄に吐き出すだけの何か。
そこに意志というものはなく、人としての尊厳があるようにも感じられなかった。
傀儡兵達のそれすら違う人の姿をした人ではないものを前にしてエラが信じられない名前を口にした。
「これはまさかペトロ様?」
酷くやつれてしまいもはや見る影もない程だが、それでもエラが名前を呼びかけると目の前のそれはまるで意識が戻ったかのように顔を上げた。
だがやはり人として大事な機能は大きく損失してしまっているようであり、エラが続けていくつか言葉を投げかけてみるもののそれに対して何も返答はない。
これが聖人化計画の中に含まれた要素なのだとすれば、ゲリシンは自らの妹をその手にかけたという事に他ならない。
この世界で家族こそが最も大切だと考えているエルピスからしてみれば、その行為は途方もない程の怒りを生み出すに値する行動である。
「人造聖人そのものだな。まさか自分の妹にまで手をかけているとは予想外だったが」
「報告書はこちらですね。それ以外にもいくつか書類がありますが」
「エルピス?」
事実は事実として割り切り作業を始めたエラと、元より可能性を考慮に入れていたレネスとは違いエルピスは固まってしまっていた。
その顔に映る感情が何なのか定かではないが、ひどく動揺しているように見える。
「──俺、この人のこと結構好きだったんだよ」
「突然なんのカミングアウトだ!? 浮気か!?」
「違うよっ! この人学園が戦場になった時俺がわざわざわ王国まで転移させたのに、死にかけながら自分達の力で戻ってきて他の生徒の供養をしてたんだ。
正直学園にいる人なんてほとんど覚えてないけどこの人だけはまだ覚えてたよ」
血反吐を吐きながらわざわざ死地に転移魔法で戻ってくる自己犠牲の精神はエルピスからしてみれば尊敬に十分値する。
だからこそ学園生の中で唯一名前と顔の両方を覚えていた人物であり、エルピスが今回わざわざ救出作戦をしてもいいと思えた理由の一つである。
彼女の為ならば、他人のために自分の事を犠牲に出来る人間の為であれば自分も多少のリスクを背負う事を許容しようと思えたのはひとえに彼女のあの行動があったからだ。
「ハイトさんのところに連れて行ってあげよう。きっとこの人も助けられるよまだ、行こう師匠」
「いいのか? いまから二人で真正面から法国を潰してもいいんだぞ?」
「やめてよ、自制してるんだから。エラ悪いんだけど拘束してあげてくれる? 帝国の皇女の回収とフィーユちゃんの捜索は俺がいまからしに行ってくるから二人は先に彼女を安全なところに」
「はい、分かりました」
レネスからの非常に魅力的な提案を断ってエルピスは転移魔法を起動した。
願うのは法国の第三皇女であるフィーユが無事に生きていてくれることだけだ。
もはや年端のいかない少女であろうとも無事であると自信をもって口にできない状況に、せめて生きていてくれと願いながらエルピスは捜索を開始するのだった。
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