クラス転移で神様に?

空見 大

文字の大きさ
上 下
88 / 278
幼少期:冒険者組合編

神樹の城

しおりを挟む
 神樹とは森霊種達が崇拝する木々の頂点に君臨する意思を持たぬ神である。
 白い幹に見るものの心によって色を変える葉、数キロにも及ぶ根はその巨大さに道標としても使われている。
 この世界が生まれた頃から存在した大木は、かつて森霊種の国の中心で全てを見守る神としてその存在を世界中に知らしめていた。
 そんな神木がへし折られたのはちょうど千年前のこと、森霊種が土精霊の手引きによって知らぬ間に鍛治神の夫を殺してしまった時から神木は不滅と思われたその姿を無くしてしまったのである。
 だが神木は無くなったとはいえ不滅の存在、森霊種達は折られた神木を用いて白亜の城を作り出したのだ。
 何者もにも破られる事は無い白亜の城、罪を犯したことによって作られたその城こ最も奥にある玉座で腰をかけていたのは森霊種の国の女王である。

「…………退屈ね」

 そう口にしたのは森霊種の国の女王、アールヴ・オリーべ・エルグランデその人。
 頬杖をつきながら神樹の新芽から取れる葉を編んで作られた錫杖しゃくじょうに体重をかけている彼女は、退屈そうにして欠伸をする。
 森霊種の寿命は平均的に三千から五千年と言われているさらなる寿命を得ている彼女の正確な年齢がいくつなのかもはや覚えている者もいないが、退屈を感じるには十分すぎるほどの時間が彼女の中で流れているだろう事は察することもそう難しく無い。
 考えてみれば彼女の人生の中でも一番楽しかったのは神樹が折れた時だ、空一面が火に包まれていたのを見た時はその真新しさに驚き毎年開催しようと提案しかけたほどである。

「女王様、面会者が居るときにそのようなことを口にしてはよろしくありませんよ」
「だって退屈なんだもん。本当は私も喧嘩祭りを見に行きたかったのにさ、なんでまだ行っちゃダメなのかしら」

 片膝をつきながら目の前で何かを言っていたそれを無視して、女王は悠々自適にそんなことを口にする。
 目の前のそれ──共和国からやってきた使者をアールヴは対処したくてしていたわけではない。
 正直言ってアールヴからしてみれば人間など瞬きの間に死んでしまうような種族の事は、よほど面白い人物でもなければ記憶に残ることすらないのだ。
 だが国家というものを上手く運用していこうと考えるのであれば、やはり国同士の付き合いというものはしっかりとしなければいけないもので、適当に向こうからの言葉に相槌を打っていたのだがそれも面倒になってしまった。

「そちらの要件は理解しました。限定的ではありますが捜査権を認めましょう、正式な通知は追って知らせます。退出しなさい」
「女王様!」
「いえいえ構いません。ありがとうございました女王よ、それでは」

 これっぽちも感謝する気のない感謝の言葉を耳にしながら、アールヴはそうして出ていった人間の姿をつまらないものを見る目で眺める。
 王が殺されその調査をするためにやってきたと聞いたからどれほど復讐心に燃えた人間が見られることかと思えば、その目に宿っていたのは明確な下剋上の意思。
 空いた席に座るのは自分だという浅ましいまでの考えは数千年他種族を見てきたアールヴからしてみれば隠せていると考える方が不思議なものだ。
 去っていく男の背中を見つめながら考えることは、あいつはなんの目的でここにきていたのだろうということだ。

「最高位冒険者エルピス・アルヘオ氏の身柄確保ですか。正直関わりたくない案件ですね、聞けば騎士団から数人勝手に動いたものがいたとか、全く血の気の多いことですね」
「ふむ……なんっか最近妖精や精霊の調子がおかしいんだよね、みんな酔ってるみたいな。いつにも増して神樹の力を感じるしなんかありそうだな」
「なにか…と言いますとそのエルピス氏の事ですか?」
「私の感はなかなか外れないんだよ。いまから会いに行こうか」
「無茶をおっしゃらないでください、渦中の人に会いに行って良い結果が得られるとは到底思えません」

 聞けばどうやら事件性のある最高位冒険者を追いかけてやってきたとのこと、アールヴにしてみればどうせ捕まえることなど不可能なはずなのによくそんな面倒な事ができるなというものである。
 あの男の用事はその時点でアールヴにとってはつまらないものとなったわけで、次の面白そうな題材であるそのエルピスとやらについて聞いてみれば返ってきた返答は当たり前にそうだろうなというものであった。

「それは確かに。そうだな…、まずは誰か送り込んでみるか。騎士団長を呼んできて」
「了解いたしました」

 直接接触するのが難しいというのであれば、次にアールヴが行うのは間接的に接触する手段の模索。
 騎士団長という冠こそ被ってはいるものの、もはや女王の便利な使いとして顎で使われているその役職を引っ提げてフルフェイスの騎士がやって来るまでにはそれほどの時間を待つこともなく、片膝を着きながら騎士団長はアールヴの顔を怪訝そうに眺める。

「お呼びでしょうか」

 白と緑の特徴的な鎧にその身を守らせて中世的な声音でそう問いかけてきたその声には、確かに忙しいのだからどうでもいい用事だったら怒るという意思が感じられるのだが、アールヴにそれを気にするようなそぶりはない。

「相変わらず来るの早いね、私だったら一月くらいはほったらかしにしちゃうのに」
「あいにく暇をしていない身ですので。それでどのような用事で?」
「分かったわよそんなにせかさないで。人類が何かこの神都で何かをしているのは知っている?」
「把握しています。一部の人類種から彫刻品などを輸入している家系の森霊種たちがその件に対して力を貸しているのも把握済みです」
「把握してくれていて良かったわ、貴女に対して罰を与えるようなことはしたくないもの」

 罰とアールヴが口にしたとたんに室内の温度が気が付かない程度ではあるものの明確に下がる。
 部屋の中に居るのはメイドと騎士団長とアールヴだけ、なのに温度が下がるという事はメイドか騎士団長か、はたまた両方が罰に対して怯えている証拠だ。
 こほんと小さく咳ばらいをしたアールヴは話を続ける。

「要件は一つ。最高位冒険者エルピス・アルへオの身辺調査よ」
「アルへオ……アルへオ?」
「どうかした?」
「いえ、聞いたことのある家名だと思いまして」
「アルへオ家は我等がエルグランデにも居を置く亜人と人類種を結ぶ仲介役です。現状の家長は最高位冒険者イロアス氏、奥様はあの破龍クリム様です」
「なるほどあの二人の子供か、そうなってくると恩を売るのも悪くないわね。今どこにいるかは把握している?」
「……大変申し上げにくいのですが」

 自分にしては珍しく話がトントン拍子で進んでいくななどとアールヴが考えていると、ふと騎士団長がその流れをいったん断ち切った。
 数千年にも及ぶ長い付き合いでもはや家族といっても差支えのない関係であるというのに、何を言葉に詰まるようなことがあるのだろうか。
 そう思いアールヴがメイドに対して目線を向けてみれば、メイドも疑問に思って居たのか首をかしげながら手元にある書類を数枚ぱらぱらとめくり数行文字に目を通すと同じように視線をそらし始める。

「女王として厳命する。知っている情報を吐きなさい」
「はい。現在エルピス・アルへオは騎士団によって身柄を拘束しようとしたもののその直前にやってきた新たな勢力に襲われ重体のため特別病棟で監禁中になっています」
「恩を売るどころじゃないわね」

 森霊種の国では基本的に病院というものに寝泊まりするようなことはほとんどないといっていいい。
 それは森霊種が薬学知識にたけていることもあるが亜人種ゆえの頑丈さから腹部を貫通したくらいならば、適切な威力環境さえあれば半日ほどで完全に治療が可能だからだ。
 そんな森霊種の国で重体と呼ばれるような患者は基本的にもう死んでいる、魔法によって無理やり生かされているだけの存在を森霊種たちは重体者というのである。
 アールヴが知っている重体者で生き残ったのは数千年前に臓器の過半数と全身の骨を失い魔法発動に必要な回路系全てもボロボロになっていた幼子くらいで、それ以外の重体者は例に漏れずそのすべてが死んでいった。
 仲良くしておいた方がいいと口にしていたその前にそんな事が起きていると、さすがにアールヴもどうしようかと頭を悩ませるくらいのことはする。
 最悪の場合は首都で英雄と破龍が暴れ始める可能性すらあるのだ、英雄の方は一般市民を巻き込むような真似はしないだろうが破龍に関しては理性が残るかどうか微妙なところだ。

「とりあえず今すぐ貴方はエルピス氏のところに行ってお詫びと状況説明を、ビアルスは悪いけれど関係者の洗い出しとさっきの申請書を遅らせておいて。私の方でも調べておくわ」
「了解しました」
「そのように」

 騎士団長とビアルスと呼ばれたメイドが退出していくのを見送ると、アールヴも足早にその場を後にする。
 大地に根を下ろしているのではないかと言われている程に動くのを嫌うアールヴだが、必要に追われてしまっては仕方がない。
 重たい腰を上げながら問題解決のために動き出すのであった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

処理中です...