クラス転移で神様に?

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青年期:帝国編

和やかな時間

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 さてそういったこともあって宿屋へとやってきたエルピス達は、雲でできたベットに腰を掛けながら旅の疲れをいやしていた。
 部屋の内装はどうやら各部屋違うらしく、いくつかの部屋を体験的に見てきたものの人の感性では理解できないようなものからまるで王族が住むような部屋まで様々な部屋が存在した。

 一つの建物の中にそんなに様々な内装を作っている理由は不明だが、桜仙種のすることなど考えても分かるようなものではない。
 エルピスがアーテと共にいるこの部屋は木造で作られたいたって平均的な村人の家と同じような内装でできており、ベットこそ雲なので少し違和感を感じるが一番ゆったりとして過ごせる環境であった。

「ふぅ、疲れたぁ」

「カカッ。なんならマッサージでもしようかァ?」

「いいの? お願いするよ」

「あー、折ッても知らないけど、それでも大丈夫ならやるぜ」

 心配しなくてもどれだけ力を入れたところで折れはしないよ、そう気持ちを込めてアーテにお願いするとしぶしぶとばかりに背中のマッサージを始める。

「アァ゛効くぅ。移動距離自体は大した事ないけど転移魔法はまじで疲れるよ」

「神の権能を使っていても疲れるもんなんッすね」

「そりゃ技能と変わんないからねぇ」

 下手をすれば技能の使用よりよほど疲れるのだが、まあそれは別に説明するほどの事でもないか。

「どう? アーテからみて仙桜種の村は。どんな印象だった?」

「時が止まッてるッてェのが第一印象。法国の近くにある仙人の村もおんなじ感じだったけどこッちはさらに遅く感じる」

「なるほどねぇ」

 時が止まっているという表現をアーテが口にした理由はエルピスも分かる。
 この村には流行や廃りというものがどこにもなく、すべての年代の物がバランスよく乱雑に配置されているだけだ。
 仙人たちの村とアーテがこの村を同一視したのは、それに加えて話している相手の感情の薄さからくるものだろう。

 感情を封印している種族なだけあって、押しても引いても一定の反応しか返ってこないこの村に住む人たちはさながらどこかで時を止められてしまったようだった。
 そしてその時が止まったのはやはり初めて桜仙種から感情が消えた時だろう。
 背中をもまれながらそんな事を考えていると、ふと急に押す力が強くなり体の中にあった空気が抜けていく感覚におぼれながらもアーテの表情をうかがう。

 相変わらず不安そうな顔、こう見るとどれだけ日ごろ吠えていたってやはりまだまだ子供だ。

「ニル様が言ってた悪巧みッてあれどういう意味か分かッてるんすか?」

「ははっ、アーテなんか慣れない敬語になってるよ。別に2人しかいないんだしそんなに気にしないで良いのに」

「龍神相手だッて意識してると自然とこうなるんすよ。それでニル様の事は?」

「――踏み込んでくるね、別に良いよニルが何してても。
 悪巧みなんて言ってるけどさ、ニルの頭で本当にそんな事したら俺何にも気が付かないまま引っかかって終わりだよ? わざわざそれを口に出してくるって事は信じて待ってろって事でしょたぶん」

 もしそうでなくエルピスに止めてほしいと思っていたのだとすると何か手を打つ必要はあるのだろうが――そこまで考えてエルピスはそれ以上考えないようにする。
 もしそこまでニルが期待しているのであれば買いかぶりすぎだと言うしかないだろう、所詮エルピスに出来る事なんて待つことくらいが限界だ。

「そういう事なら俺様はこれ以上口出ししないぜ」

「それで良いよ。もし本当に不味そうだったらその時は俺もちゃんと対応するしね。」

「――エルピス様もっどりましたよー」

「口の聞き方を何度覚えさせれば気が済むんだフェル」

 ちょうどいいタイミングで帰ってきた二人の悪魔の手には桜仙種の村で買ったのかお土産のようなものがぶら下がっており、そのうちの一つからは非常に香ばしい匂いが漂ってきていた。
 転移魔法で疲れたから背中をもんでもらっていたのにもかかわらず、目の前にあるそのお土産をわざわざ転移魔法を使用して手元に引き寄せると一口味見する。
 見た目はジャガイモを揚げたようなものだが、不思議なことに口の中でこれでもかと主張される味は果実のそれである。

「良いのかなー? その内僕の方が優秀だってことがバレて執事筆頭入れ替わっちゃうかもよ? 今のうちに仲良くしておいて損はないと思うけど」

「しばき倒すぞ。すいませんエルピス様、生意気な後輩で」

「いいよいいよ、なんならフィトゥスもそんな感じでいいんだけどね。それにフェルには魔界入ってからやってもらうことがあるだろうし」

「そうは言いましても……」

 苦笑いをして誤魔化すフィトゥスはどうやってもやはり言葉を崩してくれそうにはない。
 強制するほどの事でもないのでこれ以上エルピスから口にすることはないが、悪魔であることを忘れてしまいそうになるくらいにフィトゥスはエルピスによく尽くしてくれる。

「久々に実家に顔を出すことになるのはなんだか嫌な気持ちだけどねぇ」

「まぁそこら辺は上手いことやっておいてよ。この後の予定って何があったっけ?」

「全員集合してから食事がありますがそれまでは自由ですね」

「ならそれまで自由時間か。何する? 恋バナでもする?」

 出来れば桜仙種と会いたくないという気持ちからこの部屋でできることを考えた結果、なぜかエルピスの脳は恋バナをすればいいのではないかという結果に至ってしまう。
 それに対して嫌そうな顔を浮かべたのはフェルだ。

「嫌な予感がしますね嫌な予感が。惚気話を聞かされる嫌な予感ですよこれは」

 思い返しているのは旅の間のいつの記憶だろうか。
 もしかすればそのすべてかもしれないが恋バナという名目で永遠に惚気話を聞かされるのは確かに気持ちのいいものではない。

「でも実際のところ正妻は誰になるんだァ? 順当なところで行くとアウローラ様が一番近いけど天使であることを踏まえるとセラ様か?」

「個人的にはエラを推したいけど難しそうだねやっぱり。アウローラ様じゃないかな」

「エルピス様の中である程度は決まってるんですか?」

「ぶっちゃけ正妻制度いらないとすら思ってるからなんとも……」

「揉め事の種ですね、あの人達なら問題はないでしょうが普通の貴族なら大荒れですよ」

「人のしきたりだから仕方ない気はするけどなァ」

 つい少し前まではただの学生だったのに、気が付けば結婚相手の中から誰を正妻にするかを選択できるようになったのだ。
 劇的なまでの人生ではあるが、彼女たちに優劣をつけるような文化を許容してしまうほどに人格が変わったつもりはない。

「そういうアーテはどうなの? 法国に良い人は?」

「俺様はそう言うのはあと二百年くらいは別に良いかなァ」

 五百年くらいの寿命であることを考えるとそれなりに遅い結婚ではあると思うが、アーテがそういうのであれば他人がどうこう口に出すことでもないだろう。
 そう思い話を流そうとしたエルピスだが、それを許さないとばかりにフィトゥスから意外な言葉が漏れ出る。

「生き遅れるぞ、そんなんだと」

「行き遅れてる人のいうセリフには説得力があるなぁ」

「喧嘩売ってんのか」

「フィトゥスにはリリィがいるもんねー」

「エルピス様!?」

 フィトゥスの正確な年齢がいくつくらいなのかエルピスの知るところではないが、二百年や三百年くらいは優に越していそうな雰囲気もあるのでそう考えると相当に生き遅れているといえるのではないだろうか。
 悪魔の平均的な結婚年齢を研究した書物などこの世に一冊もないので、もしかすればフィトゥスがいまだに結婚していないのもおかしな話ではないのかもしれないが、フェルが行き遅れているというのだから悪魔的に見ても遅い方なのだろう。
 そんなフィトゥスに対してエルピスがリリィを進めたのは兄と姉のような二人が結婚してくれると嬉しいなという思いが半分、リリィの気持ちを受け止めて上げてほしいという気持ちが半分である。

「実際のところどうなんだフィトゥスサン、リリィ先輩も案外いやそうじャないぜ?」

「それは……どうなんだろうなぁ。悪魔と森霊種のハーフとか子供も大変だろうしなぁ」

「そこはほら、俺がなんとかするって」

「そもそもそこまで考えてる時点でもうだいぶ好きですよね」

「うるせぇ。エルピス様の手を煩わせるわけにも……それにもうそんな雰囲気作れないですし」

「これこのままだと死に別れするやつだな」

 他人の恋愛だからと無茶苦茶言っている三人だが、これでもフィトゥスの事を考えての発言である。
 確かにアーテの言う通りこれから戦争だというのにだらだらと時間を浪費してしまうとよくない結果が訪れる可能性ももちろんある。

「父さん達と打ち合わせする間は時間も空いてるし、せっかくだからこの機会にフィトゥスとリリィをくっ付けてみようか」

「お、楽しそうだな! 乗った」

「ちょ、エルピス様!?」

「良いですね、あの女神二柱にも手伝ってもらいましょうか」

「えぇ……」

「まぁそう言うことで、これは極秘情報だから漏らしちゃダメだよ?」

「もちろんだ」

「分かってますよ」


 そんなこんなで思い付きの恋バナ大会は、フィトゥスをいかにしてくっつけるのかの作戦会議へと変化していった。
 本当に嫌がるつもりであればやめるつもりだったが、もはやここまで来ては引き返すこともできないだろう。
 自分の事でもないのにざわざわしてしまう心臓を軽く押さえて、エルピスは新たな話題を提供するのだった。
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