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青年期:鍛治国家
試練
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創生神の言っていた通り適当に答えただけで鍛治神の試練は終わり、次に迷宮攻略が始まった。
序盤は多数の罠や自然発生した魔物が見られ、進むだけでも気を使う程には面倒な罠が多数仕掛けられている。
直接的な攻撃は数度あったものの全てエルピスには効果がないと判断されたのか、それ以降は移動阻害や状態異常など様々な方法でこちらの動きを止めようとしてきていた。
「ヴァァァァァッッ!!」
「ーー危なっ、ほいっ、そいっ、よーいっしょ。身体能力テストないって言ってたのに嘘ついたなあの子」
とはいえ移動阻害系の罠も盗神の目にはどこに何が仕掛けられているのかなど筒抜けで、特に苦労することもなくエルピスはサクサクと先へ進んでいく。
道中で現れる魔物も確かに一般人相手なら間違いなく死の危険のあるようなものばかりだが、そうは言っても魔法でケチらせる程度の強さしかない。
魔神であるところのエルピスの魔法を防げる存在などそうはいないのだが、それを防ぐことがエルピスと戦う最低条件なのでそれくらいはできないと話にならない。
『いやぁ随分と煽って、煽り散らかしてくれるねぇ。人の作った罠を全部壊しながら進んでいくし』
「ちょうど力試しもしたかったので利用させてもらってます。全力で動き回るのって楽しいですねっ!」
『空気の壁を蹴るような人間相手には想定して作っていなかったな……。その調子で頑張ってくれたまえ、迷宮はまだまだ難しくなる』
鍛治神がどこからかそう言った途端、再び視界が暗くなる。
この暗転方式は正直どうにかして欲しいのだが、鍛治神のこだわりがあるのだろう。
〈神域〉はエルピスの足元以外の全てが移動していくのを感じ取っており、劇の間の暗転を待ちながらエルピスは魔力を再び高めていく。
先程創生神に出会ってから、なんだか身体の調子がとてもいい。
どこかで心の奥底にあった喪失感が完全に埋め尽くされ、身体を動かすことが楽しくて仕方がないのだ。
自身の体の中で魔力同士を反応させ、その反応によって新たに生まれた魔力を無限に体内で増幅させていく。
身体能力強化系の最終進化といっても間違いはない、言葉通り無限の魔力を体に宿しながらエルピスは暗転が解けるのを待つ。
「…………こ……い」
「ーー迷宮も本気ってわけか」
暗転が溶けエルピスの目の前に現れたのは、スライムの様に粘液状ではあるものの人型を保っている魔物だ。
見た目だけで言えばいつかエルピスがアウローラを助けるときに戦った敵に似ており、どうやらエルピスの記憶の中から強い敵を選び出したらしい。
それならばセラやニルを呼び出してもいいと思うのだが、あの二人を完全再現できる様な魔物がいるとは到底思えないのでこれが限界なのだろう。
「……っ!!」
あの時と同じように巨大な剣がエルピスの首に向かって振り下ろされるが、それを一切の無駄なく半身になって回避するとエルピスは刀を引き抜く。
そして身体能力にものを言わせもう一撃を与えようとしてきている魔物に対し、かるく刀を撫でるように振るうと一切の抵抗なくその身体が両断された。
まるで空気を切ってでもいるかのような感覚、エルピスが持ちうる限りの最高峰の技術の結晶であるこの刀は無事に役目を果たしてくれているようだ。
斬りつけたところの刀身が一瞬赤く光ったかと思うと再び元の黒刀に戻っていくのを見て、エルピスは鑑定を使用しそれが一体なんなのかを突き止める。
どうやら邪神と魔剣の影響で増幅や血による回復などの特殊効果がいくつか付与されているらしく、その影響で光り輝いたようだ。
「…………」
「うぁっ…ぁぁあ…っあ」
「ヴオブッフっ!」
刀を冷静に分析していると、一体いつからいたのかすでに周囲は敵に囲まれていた。
そのどれもが戦ったことのある魔物ばかりで、懐かしい魔物も数匹見える。
一匹一匹は気にする程のない程度の力であろうとも、これだけ集まればそれなりの脅威にはなる。
刀を上段に構えつつエルピスは今日初めて戦闘のために意識を研ぎ澄ますのだった。
/
場所は変わって迷宮最上層『英雄の間』にて、複数の人影が水晶に移る青年の姿を見ていた。
その水晶に移るのは他でもないエルピスで、周りにいるアウローラや灰猫は数々の魔物に襲われるエルピスに対して時に激励を出しながら楽しく観戦している。
水晶を見つめるアウローラ達とは少し離れたところで椅子に座り優雅にお茶を飲むのは、セラ、ニル、フェルの三人ともう一人。
この迷宮を作り出しアウローラ達をおとりとして誘拐した鍛治神だ。
未知の鉱石で作られたブーツを着用し、これといって装飾の施されていないつなぎを着ており腰のベルトにつけられたサイドポーチにあるいくつかの道具が特徴的だ。
目の色は金色に近く髪は炎の様に赤い色をしており、刈り上げられた髪には小さく不格好なヘアピンがつけられていた。
「ほらどんどん飲みなよ、お姉さんの奢りさ。君達の大事な人にはちょっといま頑張ってもらっているからね、そのお礼ってところだよ」
「ありがとう。エルピスも楽しんでいるみたいだし、しばらくはここで遊ばせてあげて」
鍛治神の言葉に笑みを浮かべながら真っ先に返したのは、黒いTシャツに灰色のズボン、装飾品は手元の金色のブレスレットだけというあっさりとした格好のニルだ。
ポケットにはエルピスから渡された杖が見え隠れしており、それ以外にはとくに何か持っている様には見えない。
「いまごろエルピスは私達をどうやって創生神に会わせようか、必死になって考えているのでしょうね。余計なお世話とまでは言わないけれど、余計な気を回す必要もないのに。あの人も余計なことをするわ」
「そうは言っても本当は大事にされてたって知って嬉しいくせに。さっきの顔が赤い姉さんエルピスに見せてやりたかったよ」
「……わざと避けられていたって知って、青ざめた貴方の顔もついでに見せるのかしら?」
創生神が自らのことを好きだったことを知り、頬を赤らめていたセラに対してニルがそう言うと想定していた通りの反論が返ってくる。
とは言っても想定していただけでそれに対しての反論は用意できていないので、笑ってごまかすだけで終わらせるが。
(本当はエルピスには創生神様の方じゃなくてエルピスがセラの事を創生神様より三倍好きって言った時の顔を教えてあげたいんだけど、バレたら怖そうだしごめんねエルピス)
エルピスに好かれるためならばなんでもする様に思われているニルではあるが、そのニルをしてもセラという存在は怖い。
姉の可愛らしい表情を思い浮かべながらそんなことを考えていると、ふと隣にいた悪魔が口を開く。
「それでこの後はどういたしますか? 放っておけば三十分程でここまで上がってきそうな勢いですが」
「ん? ちゃんと秘策は用意してあるから安心しなって、鍛治神が代々受け継いで作ってきた迷宮だよそんなに甘いわけないじゃん」
興味本位でフェルがこの後の予定を聞いてみると、鍛治神は先程までとは比べ物にならないほどの獰猛な笑みを浮かべてそう告げる。
どうやらまだ何か秘策を残しているらしい。
神に対して一体どんな手段で抵抗するのか、フェルにとっては興味が湧く題材なのでアウローラ達が眺めている水晶を見に行く。
そこには様々な上位の魔物に囲まれるエルピスの姿があった。
/
猿の顔に蛇蝎の尻尾、狸の胴体にトラの手足、所謂ヌエと呼ばれる妖怪はエルピスの前に立ちはだかる。
「久々だな人は、ウヌの名はなんとーーっ」
「うるさいくらえっ!」
目の前で仁王立ちしながら名を聞いてくるヌエに対して、エルピスは問答無用で顔を蹴り飛ばす。
首を飛ばすつもりで蹴ったのだがさすがに今まで出てきていた魔物とは比べ物にならないほど耐久力が高く、身体は浮きはしたものの肝心の首はまだ繋がったままだった。
案の定ヌエは全身の毛を逆立て憤怒に身を包み、身体が震える程の怒号を発する。
「ーーッ!! この無礼者ガァァァァァづっ!」
「無礼も何もさっきから自己紹介が多すぎるんだよお前らは! すでに実態をなくして過去の遺物に成り下がったやつらが、ギャーギャー長いこと喋りやがって! まとめてかかってこいや!」
刀を振るえば憤怒に身を包んでいたヌエは霧となって消えていき、エルピスの呼びかけに合わせてヌエ以上の化け物達がそこら中から現れる。
東西関係なく怪物と呼ばれたそれらを相手にしてあまりにも壮観なその光景に息を呑みそうになると、背後からエルピスの身体ほどはあろうかという巨大な針が飛んでくる。
だがそれはエルピスの身体に触れるよりもはやく灰色の体躯に弾き飛ばされ、その針を出した魔物はと言えば一撃でその命を刈り取られていた。
『ーー貸しひとつだぞ龍神。危なかったな』
「言ってろ、それくらいのもんなら障壁で弾ける。それより大丈夫か? こいつら偉そうにしてるだけあってそれなりに強いぞ?」
『安心しろ私はいま身体の調子が良くてな、負ける気がせん』
「俺と一緒だな、じゃあ頑張ってみるか!」
影から現れた龍にそう言いながら、エルピスは全力で戦闘を開始する。
神の力が吹き荒れ五分ともたずに全ての魔物が消滅し、魔力の塊となって何処かへと消えていくのがみて取れた。
魔神の権能で吸収もできたが、出来る限りこの迷宮のしたいようにさせたいので、それには何も手をつけず先へと進んでいく。
すると龍も通れる程の巨大な門が現れ、エルピスは警戒しつつ扉を開ける。
自動的に開いてくれれば多少は楽だったものの、完全手動の扉はエルピスでも重たく感じられた。
「それでここは?」
『どうやら儀式の間のようだな。先ほどの魔物の残留思念に残された魔力が全て吸われている、随分な猛者が現れるようだな』
「珍しいタイプの召喚術式だ。確かかなり古代の代物だったかな」
召喚陣や転移陣は使用者によってそれなりに変化するものではあるが、ある程度地域によって特徴がいくつかみられる。
時代なども、どの地域でいつから使われ始めたかを知ってさえいればある程度は把握できる。
この術式は古代系の術式の中でもかなり昔の物で、いまから三千から五千年程は昔の召喚陣のはずだ。
妨害もできるが対象が召喚されるまでまったりと待っていると、ようやく召喚時の特徴の一つである光が収まり召喚されたものがなんなのか見えてくる。
「黒髪に黒目、手の甲に謎の紋章で右目には番号か。随分と設定もりもりだな」
『なんと言ったか……どこかで聞いたことのある容姿なのだが……』
「頭に光輪、魔力羽まで、非効率的だけど火力の高いものばかり。短期決戦型か、迷っているところ悪いが龍下がっていてくれ」
『ーーかまわんのか? あれは強いぞ』
「わーってるよ、せっかくここまで力試しきにきたんだあれ倒して鍛治神にこの迷宮作り直させないとな」
口ではそう言っているがエルピスに余裕はない。
この迷宮は常に進化を続けるように作られているようで、エルピスもおそ、くは二度目攻略するとなると相当苦戦させられる事は想像に難くなかった。
故に出来るなら目の前の何かをさっさと倒してしまいたいところだが、神の権能解放している今でもかなりの圧力を感じる。
それでも勝てないほどではない、エルピスが油断なく刀を構えるとこちらをみながら何かは言葉を発する。
「ーーようやくか。完成まで長かったな」
「ん? なんの事? 出来れば戦って欲しいんだけど」
「わかっている神よ。話は戦闘を終わらせてからだろう? 始祖型二号機エイル・ライン・アーベスト・セカンドだ」
「気になることばっか言うのやめてくれない? 戦闘に集中できないんだけど、エルピス・アルヘオ龍人の母クリムと英雄の父イロアスの子だ」
主義ではないが相手が名を名乗ったのであれば、自分も名を名乗るのが礼儀というものだろう。
会話を終えれば自然と空気は張り詰めていき、お互いに武器を構えてゆっくりと相手の隙を窺っていく。
数度ほど昔のエルピスならば引っかかっていたであろうフェイントを見逃しつつ自分の成長を実感していると、まるで空間が削りとられたかのような速度で敵の刃は既にエルピスの胸元にまで到達していた。
「──っ! この技術力、アルさんよりも上かっ!?」
間一髪のところでされをなんとか回避し、反撃の為に数度ほど斬りつけてみるがこれと言った手応えはない。
まだまだ戦闘経験の浅いエルピスの刀ではあるが、いままで一度も敵を両断できない事はなかった。
だが目の絵の敵の持つ剣はエルピスの刀を受けても若干の刃こぼれしかしておらず、よくみてみれば鍛治神の手が加わっているのがみて取れた。
いつの時代の鍛治神か分からないが、随分とまた頑丈な剣を作ったものだ。
数度の斬り合いの中でゆっくりと相手の動きとリズムを覚えていると、不意に相手が距離を取り口を開いた。
「なかなかだな。読み合いはまだ経験の浅さが目立つが、私の剣術にここまでついてきたのは人だと初めてだ」
「残念、人じゃないから初めてじゃないね。出来ればこれに対応できた人とも戦いたいよ」
「会ったらおそらく死ぬだろうな」
神人のエルピスでようやく見切れるほどの剣の速度に、アルキゴスも超えるほどの剣術。
どの種族の誰なのかは知らないが、随分とまたチートな種族が隠れていたものだ。
これよりもさらに強いものがいると言うのだから面白い。
世の中の広さを思い知らされつつも、とはいえ目の前のことに集中するべきだと判断し冷静に敵に詰め寄って行く。
時間発動式の魔法といくつかの二重魔法を使用して敵の視界を遮断しつつ行動を妨害し、なるべく危険の少ないようにしながらゆっくりと傷を与えて行く。
殺傷するにはあまりに遠い道のりではあるが、相手の一撃を喰らわずにこちらが延々と攻撃できるのだ、これ以上に良い手段はないとも言える。
「ーーっ、なかなか面白い手を使う」
「卑怯って言わないんだねっ!」
「戦いに卑怯もクソもない、対応できなかった方の問題だっ!」
敵が口調を荒げながら剣を振るうと、エルピスが幾重にも重ねていた移動阻害魔法が破壊されその剣圧に身体が浮き上がった。
不味いと思ったのも束の間、宙に浮かぶエルピスに対して剣を振り下ろそうと敵が寄ってくるが、間一髪のところで体を捻って回避する。
それでも数十枚の障壁が切り裂かれ、直撃すればどうやらただでは済みそうにないことを再確認しつつ距離を取っていく。
「ーーーーってそれはいくらなんでも卑怯でしょ!?」
「よけるか、面白い」
「面白くねぇわ!」
ーーあまりにも隙がなさすぎる。
生物である以上は必ず何処かに隙が生まれる。
人体の構造上不可能な行動や、瞬き癖などと言った細かいものまで、様々な理由はあれど不可能な事は存在するはずだ。
だが目の前の敵はそれを戦闘経験のみでカバーしきり、まるで未来を見てでもいるかのように常に自分が有利になるように立ち回っていた。
力ではなく技術で、技能ではなく知性で圧倒されている事に感動すら覚え、いつかのようにその動きを全て盗もうと敵の一挙手一投足に目を光らせ何か奪えるものはないかと模索する。
「はぁっ、はあっ、んっとに息しなくてもいいのに癖で呼吸荒くなるのどうにかしたいね」
「慣れれば私のように常に落ち着いていられるさ」
「それもいいけど、俺は戦闘は叫んでぎゃあぎゃあやりたいからね」
「ーーそうか、ならばお主の趣向に合わせよう」
「お、うれしいーー」
「ーーかかってこい神よっ! 我が剣のサビにしてくれるわぁぁぁぁぁっつ!!」
怒号と同時に飛び出してきた敵の圧に押し負け、エルピスは遥か後方で控えていた龍の身体に目にも止まらぬ速さで吹き飛ばされる。
その衝撃で完全に気を抜いていた龍が間抜けな声を上げているのを聞きながらも、エルピスは余りにも興奮しすぎてあがる頬を抑えつつ笑い声を上げた。
圧倒的な、決して超えられないように見える壁、それを見るとどうしても血が滾るのだ。
「キャラ変が酷いねぇ!? 無理しなくても良いんだよ別にーーさっ!」
「いや構わん! これはこれで血が湧くなぁ! 久々の感覚だ、なるほど確かに面白い! 貴様の臓物でこのチンケな部屋を飾り付けてやるわっっ!!」
一度鍔迫り合いを起こせば、鼓膜が破れてもおかしくないほどの爆音が辺りに響き渡る。
ここが迷宮の中だからここまで力を発揮できるが、もしここが迷宮の中で無かったのならばいまごろ何枚地図を書き換えなければいけないことか。
自分も力を込めればそれ以上の力で相手は押さえつけてくる。
無限に続くかと思われた剣による戦いは、だがそれを最も楽しんでいたエルピスによって終わりを宣言された。
「ある程度お互い動きも分かってきたし、さすがにもう遊んでられなさそうだね。次で終わらせる」
「ーーん? そうか? ならば私も落ち着いて全力を出そう」
随分と雰囲気がコロコロ変わる相手だ。
先程までまるで暴風の様に荒れ狂っていたかと思えば、いまは体全体に静の雰囲気を纏っている。
植物やそれに類する何かだと言われても納得できるほど、むしろそうでないことが意外だと思ってしまうほどに落ち着いていた。
これから壮絶な戦闘が行われる、そう後ろで見ながら思っていた龍の考えとは裏腹に、敵は剣を下ろしてエルピスの間合いにまで入ってきた。
油断させてから斬りかかる戦法か? そう思いエルピスが警戒心をあらわにしていると、敵は自身の持つ剣をエルピスの刀の上に重ねる様にして乗せ、にしゃっと笑みを浮かべる。
かつて荒野でガンマンが早撃ちで勝負を決した様に、お互いに武器を重ねた状態からの瞬発力のみの勝負だろう。
「伝統的な方法なのかこれは?」
「伝統ではないが皆やっていたな、単純な読み合いならばこれが一番楽しい」
その意見には同感だ。
勝負は分かりやすい方が楽しいし、緊張があるほど面白い。
心臓が口から飛び出そうになるのを抑えつつ、エルピスはいまかいまかとその時を待つ。
ーー数分と待つこともなく、意外にも早くその時はやってきた。
「ーーきぇぇぇぇいっっ!!」
「ーー秘剣燕返し!」
光の速度で振り下ろされた敵の剣を弾きながら、エルピスは今の今まで一度も使ってこなかった技を使用する。
母には封印しろと言われていたエルピスの編み出した秘剣。
盗神による認識阻害と魔神による身体能力強化、龍神による技能強化に鍛治神による武器能力の解放。
権能を使用してはいないとはいえ、四つの神の力を存分に含んだその一撃は十分相手の命を刈り取る。
ぼとりと、今日何度目かの首が落ちる音がした。
確実に首の骨を切断した感触もあり、殺した事は間違いない。
だが生首は大声で笑い声を上げると、首のみでエルピスの方へ向き直る。
「ふはははっ!!! 負けたか、なかなか面白い技を隠していたな」
「久々にしてはなかなか上手くいったかな、それにしてもまさか切ったのに死なないとは驚きだよ」
「まぁその辺の話は上に登ってからで良いだろう。この上は鍛治神のいる場だ、迷宮攻略おめでとう」
「一先ずありがとう」
随分とあっさりと、小一時間ほどで迷宮を攻略したエルピスは、上に待つ鍛治神の元に向かう。
障壁が残り数枚しか残っていなかった事に気づいたのは、それから少ししてだった。
序盤は多数の罠や自然発生した魔物が見られ、進むだけでも気を使う程には面倒な罠が多数仕掛けられている。
直接的な攻撃は数度あったものの全てエルピスには効果がないと判断されたのか、それ以降は移動阻害や状態異常など様々な方法でこちらの動きを止めようとしてきていた。
「ヴァァァァァッッ!!」
「ーー危なっ、ほいっ、そいっ、よーいっしょ。身体能力テストないって言ってたのに嘘ついたなあの子」
とはいえ移動阻害系の罠も盗神の目にはどこに何が仕掛けられているのかなど筒抜けで、特に苦労することもなくエルピスはサクサクと先へ進んでいく。
道中で現れる魔物も確かに一般人相手なら間違いなく死の危険のあるようなものばかりだが、そうは言っても魔法でケチらせる程度の強さしかない。
魔神であるところのエルピスの魔法を防げる存在などそうはいないのだが、それを防ぐことがエルピスと戦う最低条件なのでそれくらいはできないと話にならない。
『いやぁ随分と煽って、煽り散らかしてくれるねぇ。人の作った罠を全部壊しながら進んでいくし』
「ちょうど力試しもしたかったので利用させてもらってます。全力で動き回るのって楽しいですねっ!」
『空気の壁を蹴るような人間相手には想定して作っていなかったな……。その調子で頑張ってくれたまえ、迷宮はまだまだ難しくなる』
鍛治神がどこからかそう言った途端、再び視界が暗くなる。
この暗転方式は正直どうにかして欲しいのだが、鍛治神のこだわりがあるのだろう。
〈神域〉はエルピスの足元以外の全てが移動していくのを感じ取っており、劇の間の暗転を待ちながらエルピスは魔力を再び高めていく。
先程創生神に出会ってから、なんだか身体の調子がとてもいい。
どこかで心の奥底にあった喪失感が完全に埋め尽くされ、身体を動かすことが楽しくて仕方がないのだ。
自身の体の中で魔力同士を反応させ、その反応によって新たに生まれた魔力を無限に体内で増幅させていく。
身体能力強化系の最終進化といっても間違いはない、言葉通り無限の魔力を体に宿しながらエルピスは暗転が解けるのを待つ。
「…………こ……い」
「ーー迷宮も本気ってわけか」
暗転が溶けエルピスの目の前に現れたのは、スライムの様に粘液状ではあるものの人型を保っている魔物だ。
見た目だけで言えばいつかエルピスがアウローラを助けるときに戦った敵に似ており、どうやらエルピスの記憶の中から強い敵を選び出したらしい。
それならばセラやニルを呼び出してもいいと思うのだが、あの二人を完全再現できる様な魔物がいるとは到底思えないのでこれが限界なのだろう。
「……っ!!」
あの時と同じように巨大な剣がエルピスの首に向かって振り下ろされるが、それを一切の無駄なく半身になって回避するとエルピスは刀を引き抜く。
そして身体能力にものを言わせもう一撃を与えようとしてきている魔物に対し、かるく刀を撫でるように振るうと一切の抵抗なくその身体が両断された。
まるで空気を切ってでもいるかのような感覚、エルピスが持ちうる限りの最高峰の技術の結晶であるこの刀は無事に役目を果たしてくれているようだ。
斬りつけたところの刀身が一瞬赤く光ったかと思うと再び元の黒刀に戻っていくのを見て、エルピスは鑑定を使用しそれが一体なんなのかを突き止める。
どうやら邪神と魔剣の影響で増幅や血による回復などの特殊効果がいくつか付与されているらしく、その影響で光り輝いたようだ。
「…………」
「うぁっ…ぁぁあ…っあ」
「ヴオブッフっ!」
刀を冷静に分析していると、一体いつからいたのかすでに周囲は敵に囲まれていた。
そのどれもが戦ったことのある魔物ばかりで、懐かしい魔物も数匹見える。
一匹一匹は気にする程のない程度の力であろうとも、これだけ集まればそれなりの脅威にはなる。
刀を上段に構えつつエルピスは今日初めて戦闘のために意識を研ぎ澄ますのだった。
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場所は変わって迷宮最上層『英雄の間』にて、複数の人影が水晶に移る青年の姿を見ていた。
その水晶に移るのは他でもないエルピスで、周りにいるアウローラや灰猫は数々の魔物に襲われるエルピスに対して時に激励を出しながら楽しく観戦している。
水晶を見つめるアウローラ達とは少し離れたところで椅子に座り優雅にお茶を飲むのは、セラ、ニル、フェルの三人ともう一人。
この迷宮を作り出しアウローラ達をおとりとして誘拐した鍛治神だ。
未知の鉱石で作られたブーツを着用し、これといって装飾の施されていないつなぎを着ており腰のベルトにつけられたサイドポーチにあるいくつかの道具が特徴的だ。
目の色は金色に近く髪は炎の様に赤い色をしており、刈り上げられた髪には小さく不格好なヘアピンがつけられていた。
「ほらどんどん飲みなよ、お姉さんの奢りさ。君達の大事な人にはちょっといま頑張ってもらっているからね、そのお礼ってところだよ」
「ありがとう。エルピスも楽しんでいるみたいだし、しばらくはここで遊ばせてあげて」
鍛治神の言葉に笑みを浮かべながら真っ先に返したのは、黒いTシャツに灰色のズボン、装飾品は手元の金色のブレスレットだけというあっさりとした格好のニルだ。
ポケットにはエルピスから渡された杖が見え隠れしており、それ以外にはとくに何か持っている様には見えない。
「いまごろエルピスは私達をどうやって創生神に会わせようか、必死になって考えているのでしょうね。余計なお世話とまでは言わないけれど、余計な気を回す必要もないのに。あの人も余計なことをするわ」
「そうは言っても本当は大事にされてたって知って嬉しいくせに。さっきの顔が赤い姉さんエルピスに見せてやりたかったよ」
「……わざと避けられていたって知って、青ざめた貴方の顔もついでに見せるのかしら?」
創生神が自らのことを好きだったことを知り、頬を赤らめていたセラに対してニルがそう言うと想定していた通りの反論が返ってくる。
とは言っても想定していただけでそれに対しての反論は用意できていないので、笑ってごまかすだけで終わらせるが。
(本当はエルピスには創生神様の方じゃなくてエルピスがセラの事を創生神様より三倍好きって言った時の顔を教えてあげたいんだけど、バレたら怖そうだしごめんねエルピス)
エルピスに好かれるためならばなんでもする様に思われているニルではあるが、そのニルをしてもセラという存在は怖い。
姉の可愛らしい表情を思い浮かべながらそんなことを考えていると、ふと隣にいた悪魔が口を開く。
「それでこの後はどういたしますか? 放っておけば三十分程でここまで上がってきそうな勢いですが」
「ん? ちゃんと秘策は用意してあるから安心しなって、鍛治神が代々受け継いで作ってきた迷宮だよそんなに甘いわけないじゃん」
興味本位でフェルがこの後の予定を聞いてみると、鍛治神は先程までとは比べ物にならないほどの獰猛な笑みを浮かべてそう告げる。
どうやらまだ何か秘策を残しているらしい。
神に対して一体どんな手段で抵抗するのか、フェルにとっては興味が湧く題材なのでアウローラ達が眺めている水晶を見に行く。
そこには様々な上位の魔物に囲まれるエルピスの姿があった。
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猿の顔に蛇蝎の尻尾、狸の胴体にトラの手足、所謂ヌエと呼ばれる妖怪はエルピスの前に立ちはだかる。
「久々だな人は、ウヌの名はなんとーーっ」
「うるさいくらえっ!」
目の前で仁王立ちしながら名を聞いてくるヌエに対して、エルピスは問答無用で顔を蹴り飛ばす。
首を飛ばすつもりで蹴ったのだがさすがに今まで出てきていた魔物とは比べ物にならないほど耐久力が高く、身体は浮きはしたものの肝心の首はまだ繋がったままだった。
案の定ヌエは全身の毛を逆立て憤怒に身を包み、身体が震える程の怒号を発する。
「ーーッ!! この無礼者ガァァァァァづっ!」
「無礼も何もさっきから自己紹介が多すぎるんだよお前らは! すでに実態をなくして過去の遺物に成り下がったやつらが、ギャーギャー長いこと喋りやがって! まとめてかかってこいや!」
刀を振るえば憤怒に身を包んでいたヌエは霧となって消えていき、エルピスの呼びかけに合わせてヌエ以上の化け物達がそこら中から現れる。
東西関係なく怪物と呼ばれたそれらを相手にしてあまりにも壮観なその光景に息を呑みそうになると、背後からエルピスの身体ほどはあろうかという巨大な針が飛んでくる。
だがそれはエルピスの身体に触れるよりもはやく灰色の体躯に弾き飛ばされ、その針を出した魔物はと言えば一撃でその命を刈り取られていた。
『ーー貸しひとつだぞ龍神。危なかったな』
「言ってろ、それくらいのもんなら障壁で弾ける。それより大丈夫か? こいつら偉そうにしてるだけあってそれなりに強いぞ?」
『安心しろ私はいま身体の調子が良くてな、負ける気がせん』
「俺と一緒だな、じゃあ頑張ってみるか!」
影から現れた龍にそう言いながら、エルピスは全力で戦闘を開始する。
神の力が吹き荒れ五分ともたずに全ての魔物が消滅し、魔力の塊となって何処かへと消えていくのがみて取れた。
魔神の権能で吸収もできたが、出来る限りこの迷宮のしたいようにさせたいので、それには何も手をつけず先へと進んでいく。
すると龍も通れる程の巨大な門が現れ、エルピスは警戒しつつ扉を開ける。
自動的に開いてくれれば多少は楽だったものの、完全手動の扉はエルピスでも重たく感じられた。
「それでここは?」
『どうやら儀式の間のようだな。先ほどの魔物の残留思念に残された魔力が全て吸われている、随分な猛者が現れるようだな』
「珍しいタイプの召喚術式だ。確かかなり古代の代物だったかな」
召喚陣や転移陣は使用者によってそれなりに変化するものではあるが、ある程度地域によって特徴がいくつかみられる。
時代なども、どの地域でいつから使われ始めたかを知ってさえいればある程度は把握できる。
この術式は古代系の術式の中でもかなり昔の物で、いまから三千から五千年程は昔の召喚陣のはずだ。
妨害もできるが対象が召喚されるまでまったりと待っていると、ようやく召喚時の特徴の一つである光が収まり召喚されたものがなんなのか見えてくる。
「黒髪に黒目、手の甲に謎の紋章で右目には番号か。随分と設定もりもりだな」
『なんと言ったか……どこかで聞いたことのある容姿なのだが……』
「頭に光輪、魔力羽まで、非効率的だけど火力の高いものばかり。短期決戦型か、迷っているところ悪いが龍下がっていてくれ」
『ーーかまわんのか? あれは強いぞ』
「わーってるよ、せっかくここまで力試しきにきたんだあれ倒して鍛治神にこの迷宮作り直させないとな」
口ではそう言っているがエルピスに余裕はない。
この迷宮は常に進化を続けるように作られているようで、エルピスもおそ、くは二度目攻略するとなると相当苦戦させられる事は想像に難くなかった。
故に出来るなら目の前の何かをさっさと倒してしまいたいところだが、神の権能解放している今でもかなりの圧力を感じる。
それでも勝てないほどではない、エルピスが油断なく刀を構えるとこちらをみながら何かは言葉を発する。
「ーーようやくか。完成まで長かったな」
「ん? なんの事? 出来れば戦って欲しいんだけど」
「わかっている神よ。話は戦闘を終わらせてからだろう? 始祖型二号機エイル・ライン・アーベスト・セカンドだ」
「気になることばっか言うのやめてくれない? 戦闘に集中できないんだけど、エルピス・アルヘオ龍人の母クリムと英雄の父イロアスの子だ」
主義ではないが相手が名を名乗ったのであれば、自分も名を名乗るのが礼儀というものだろう。
会話を終えれば自然と空気は張り詰めていき、お互いに武器を構えてゆっくりと相手の隙を窺っていく。
数度ほど昔のエルピスならば引っかかっていたであろうフェイントを見逃しつつ自分の成長を実感していると、まるで空間が削りとられたかのような速度で敵の刃は既にエルピスの胸元にまで到達していた。
「──っ! この技術力、アルさんよりも上かっ!?」
間一髪のところでされをなんとか回避し、反撃の為に数度ほど斬りつけてみるがこれと言った手応えはない。
まだまだ戦闘経験の浅いエルピスの刀ではあるが、いままで一度も敵を両断できない事はなかった。
だが目の絵の敵の持つ剣はエルピスの刀を受けても若干の刃こぼれしかしておらず、よくみてみれば鍛治神の手が加わっているのがみて取れた。
いつの時代の鍛治神か分からないが、随分とまた頑丈な剣を作ったものだ。
数度の斬り合いの中でゆっくりと相手の動きとリズムを覚えていると、不意に相手が距離を取り口を開いた。
「なかなかだな。読み合いはまだ経験の浅さが目立つが、私の剣術にここまでついてきたのは人だと初めてだ」
「残念、人じゃないから初めてじゃないね。出来ればこれに対応できた人とも戦いたいよ」
「会ったらおそらく死ぬだろうな」
神人のエルピスでようやく見切れるほどの剣の速度に、アルキゴスも超えるほどの剣術。
どの種族の誰なのかは知らないが、随分とまたチートな種族が隠れていたものだ。
これよりもさらに強いものがいると言うのだから面白い。
世の中の広さを思い知らされつつも、とはいえ目の前のことに集中するべきだと判断し冷静に敵に詰め寄って行く。
時間発動式の魔法といくつかの二重魔法を使用して敵の視界を遮断しつつ行動を妨害し、なるべく危険の少ないようにしながらゆっくりと傷を与えて行く。
殺傷するにはあまりに遠い道のりではあるが、相手の一撃を喰らわずにこちらが延々と攻撃できるのだ、これ以上に良い手段はないとも言える。
「ーーっ、なかなか面白い手を使う」
「卑怯って言わないんだねっ!」
「戦いに卑怯もクソもない、対応できなかった方の問題だっ!」
敵が口調を荒げながら剣を振るうと、エルピスが幾重にも重ねていた移動阻害魔法が破壊されその剣圧に身体が浮き上がった。
不味いと思ったのも束の間、宙に浮かぶエルピスに対して剣を振り下ろそうと敵が寄ってくるが、間一髪のところで体を捻って回避する。
それでも数十枚の障壁が切り裂かれ、直撃すればどうやらただでは済みそうにないことを再確認しつつ距離を取っていく。
「ーーーーってそれはいくらなんでも卑怯でしょ!?」
「よけるか、面白い」
「面白くねぇわ!」
ーーあまりにも隙がなさすぎる。
生物である以上は必ず何処かに隙が生まれる。
人体の構造上不可能な行動や、瞬き癖などと言った細かいものまで、様々な理由はあれど不可能な事は存在するはずだ。
だが目の前の敵はそれを戦闘経験のみでカバーしきり、まるで未来を見てでもいるかのように常に自分が有利になるように立ち回っていた。
力ではなく技術で、技能ではなく知性で圧倒されている事に感動すら覚え、いつかのようにその動きを全て盗もうと敵の一挙手一投足に目を光らせ何か奪えるものはないかと模索する。
「はぁっ、はあっ、んっとに息しなくてもいいのに癖で呼吸荒くなるのどうにかしたいね」
「慣れれば私のように常に落ち着いていられるさ」
「それもいいけど、俺は戦闘は叫んでぎゃあぎゃあやりたいからね」
「ーーそうか、ならばお主の趣向に合わせよう」
「お、うれしいーー」
「ーーかかってこい神よっ! 我が剣のサビにしてくれるわぁぁぁぁぁっつ!!」
怒号と同時に飛び出してきた敵の圧に押し負け、エルピスは遥か後方で控えていた龍の身体に目にも止まらぬ速さで吹き飛ばされる。
その衝撃で完全に気を抜いていた龍が間抜けな声を上げているのを聞きながらも、エルピスは余りにも興奮しすぎてあがる頬を抑えつつ笑い声を上げた。
圧倒的な、決して超えられないように見える壁、それを見るとどうしても血が滾るのだ。
「キャラ変が酷いねぇ!? 無理しなくても良いんだよ別にーーさっ!」
「いや構わん! これはこれで血が湧くなぁ! 久々の感覚だ、なるほど確かに面白い! 貴様の臓物でこのチンケな部屋を飾り付けてやるわっっ!!」
一度鍔迫り合いを起こせば、鼓膜が破れてもおかしくないほどの爆音が辺りに響き渡る。
ここが迷宮の中だからここまで力を発揮できるが、もしここが迷宮の中で無かったのならばいまごろ何枚地図を書き換えなければいけないことか。
自分も力を込めればそれ以上の力で相手は押さえつけてくる。
無限に続くかと思われた剣による戦いは、だがそれを最も楽しんでいたエルピスによって終わりを宣言された。
「ある程度お互い動きも分かってきたし、さすがにもう遊んでられなさそうだね。次で終わらせる」
「ーーん? そうか? ならば私も落ち着いて全力を出そう」
随分と雰囲気がコロコロ変わる相手だ。
先程までまるで暴風の様に荒れ狂っていたかと思えば、いまは体全体に静の雰囲気を纏っている。
植物やそれに類する何かだと言われても納得できるほど、むしろそうでないことが意外だと思ってしまうほどに落ち着いていた。
これから壮絶な戦闘が行われる、そう後ろで見ながら思っていた龍の考えとは裏腹に、敵は剣を下ろしてエルピスの間合いにまで入ってきた。
油断させてから斬りかかる戦法か? そう思いエルピスが警戒心をあらわにしていると、敵は自身の持つ剣をエルピスの刀の上に重ねる様にして乗せ、にしゃっと笑みを浮かべる。
かつて荒野でガンマンが早撃ちで勝負を決した様に、お互いに武器を重ねた状態からの瞬発力のみの勝負だろう。
「伝統的な方法なのかこれは?」
「伝統ではないが皆やっていたな、単純な読み合いならばこれが一番楽しい」
その意見には同感だ。
勝負は分かりやすい方が楽しいし、緊張があるほど面白い。
心臓が口から飛び出そうになるのを抑えつつ、エルピスはいまかいまかとその時を待つ。
ーー数分と待つこともなく、意外にも早くその時はやってきた。
「ーーきぇぇぇぇいっっ!!」
「ーー秘剣燕返し!」
光の速度で振り下ろされた敵の剣を弾きながら、エルピスは今の今まで一度も使ってこなかった技を使用する。
母には封印しろと言われていたエルピスの編み出した秘剣。
盗神による認識阻害と魔神による身体能力強化、龍神による技能強化に鍛治神による武器能力の解放。
権能を使用してはいないとはいえ、四つの神の力を存分に含んだその一撃は十分相手の命を刈り取る。
ぼとりと、今日何度目かの首が落ちる音がした。
確実に首の骨を切断した感触もあり、殺した事は間違いない。
だが生首は大声で笑い声を上げると、首のみでエルピスの方へ向き直る。
「ふはははっ!!! 負けたか、なかなか面白い技を隠していたな」
「久々にしてはなかなか上手くいったかな、それにしてもまさか切ったのに死なないとは驚きだよ」
「まぁその辺の話は上に登ってからで良いだろう。この上は鍛治神のいる場だ、迷宮攻略おめでとう」
「一先ずありがとう」
随分とあっさりと、小一時間ほどで迷宮を攻略したエルピスは、上に待つ鍛治神の元に向かう。
障壁が残り数枚しか残っていなかった事に気づいたのは、それから少ししてだった。
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