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幼少期:共和国編 改修中
迷宮に向けて
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共和国に来て一週間、情報収集もあらかた終わり資材の調達も無事に終える事ができたエルピス達は依頼にあった迷宮へと向かっていた。
視界いっぱい一面の砂漠。
思えばこの世界においても日本にいた時ですらここまで広い砂漠には一度も来たことが無く、浮き上がる気持ちを抑えることすら忘れてエルピスは砂の上ではしゃぎ回る。
「ほんっと、元気ね……あーあっつい」
「水筒取ってください。そこにあるやつ」
「ええっと……これ? はい。っていうかこれってエルピスの私物じゃなかったっけ」
「なんか自由に使っていいらしいよ」
「砂漠なのに水自由に飲んでいいとか、さすが大魔導士様は私達とは違うわね」
「それがこの水筒、周囲の魔素だったりそれ以外だったりを集めて、魔力を使わなくても無限に水が出るらしいんだ」
「なにそれ。どっかの青い狸が持ってそうな道具ね」
暑い暑いと騒ぐ気力すらなくなったのか呟き続けるアウローラと灰猫の前で、エルピスは砂漠の上を猛スピードで駆け抜けていた。
足を取られる感触も、照りつける太陽も一度も味わったことのないものだ。
魔法もそうだがこういった未知の体験にエルピスはかなり弱く、理由もなくかれこれ数十分はああして行ったり来たりを繰り返している。
砂丘を消しとばす勢いで駆けているエルピスの所為で大量の砂が舞い散っているが、セラがその後片付けをしているおかげでアウローラ達は未だ砂の下に埋もれる事なくこうしてくつろげているのだった。
「今日のエルピス様はいつもより元気ですね。セラも心なしか元気そうに見えるよ?」
「私はエルピス様に召喚されている身だから、主人が魔力を解放すればするほど調子も良くなるのよ。……そういえば貴方がタメ口で話してくれたのこれが初めてじゃない?」
「そう? 私は基本的に普段から敬語で話してるから、もしかしたら癖付いていたのかも。意外?」
「まぁ意外と言えば意外だけれど、嬉しいわよ。私、タメ口で話せる相手ってあまり居ないから」
「私もあんまり居ないからね~。前から思ってたけど私とセラって似てるわよね」
楽しそうな会話を繰り広げている面々を置き去りにして、生き物観察をしたり植物を採取していたりしたエルピスが不意に足を止めた。
それからポケットの中に無造作に手を入れると地図を取り出し、何度か地図と遠くの方を見直して地図をポケットにしまうとアウローラ達の方へと戻ってくる。
「あれ? もう遊ばなくていいの?」
「うん、もう十分遊んできたからいいよ。それよりあっちの方向に走って2分くらいのところに目標の迷宮を見つけたから試しに競争しない?」
「なんか今日変な方向にテンション振り切ってるわね。魔力の使いすぎで疲れてるんじゃない?」
「もしかしたらそうかも。まぁいいじゃんどうせ今だけだし、それでやるのやらないの?」
「やっても良いけどどうせなら景品が欲しいな。それもとびっきりいい奴が」
「なら俺以外が一位になったら、なんでも言う事を一つ聞いてあげるよ」
ニヤリと悪い笑みを浮かべながらそう言った灰猫に、エルピスは自慢げな顔でそう答える。
その瞬間灰猫含めエルピス以外の目の色が変わった。
なんでも一つ言う事を聞かせられるのだ。
女性陣からすればまたとないチャンスであり、灰猫からしてみても命令権が手に入るというのは何に使うかは別として随分と興味をそそられる。
そそくさと砂の上に線を引くエルピスは、軽く柔軟してからクラウチングスタートの構えを取った。
「それじゃ位置について、よーいどん!」
「負けないわよーっ!!」
「負けられません!」
こうして異世界において初の多種族混合長距離走が行われたわけだが、結果としてはセラの圧勝に終る。
開始と同時に謎の翼を生やし、神の称号を二つも開放しているエルピスすら置き去りにして、次元の壁を突破したセラはよーいどんを言い切る前に既にゴールについていた。
フライングだとも言いたくなるが、かと言って二度やったところで結果は同じだ。
順番としては次がエルピス、灰猫、エラ、アウローラとなっており、かくして呆気ないほどに異世界多種族混合短距離走は幕を閉じた。
「いくらなんでも早すぎない!? 特にセラ!」
「長距離走の時に用意って言われて翼生やした人初めて見たよ」
「何はともあれ勝ちは勝ち。エルピス様、後で何か一つ命令させていただきますね」
そう言って無邪気に笑うセラを見て、楽しかったからこれでいいかとエルピスは敗北を受け入れる。
「…お手柔らかにお願いします」
迷宮攻略中には終わらせることが出来ればいいなと思いながら迷宮の内部を見下ろしてみれば、どうやら珍しい事に縦穴式の迷宮だったらしく直径十メートル程の大きな縦穴が砂漠にポッカリと空いていた。
基本的にダンジョンはその性質上、深いところで生成されにくいので横穴式であることが多いのだが、砂漠という事もあってどうやら地下深くから始まるダンジョンらしい。
ご丁寧に入り口付近から下へと続く螺旋階段のような物も用意されており、底の見えないほどに深いダンジョンへ入りやすいようになっていた。
「狼煙は僕が上げるから、エルピスは周りを見張ってて」
「おっけー。ありがとな、灰猫」
「これくらいどうって事ないさ」
冒険者組合でそこそこの値段で販売されている特殊な薬品を調合し、狼煙を上げてくれている灰猫の労を労いながらエルピスもダンジョン攻略用に収納庫を整理しておく。
紫色の狼煙には調査や討伐中という意味合いが有るらしく、この狼煙を上げていれば滅多なことが無い限り他の冒険者がやって来ることもない。
迷宮の調査であればさらにその制限は厳しくなり、ギルド側からの依頼があったとしても狼煙が上がっている間は他の冒険者パーティーの立ち入りは許可されないのである。
理由としては迷宮内での同士討ちを避けるためであり、これを無視して中に入ってきたパーティーがどうなってもその者達の自己責任である。
「意外とダンジョンって明るいんだな」
迷宮の淵からそこを覗き込む様にして下を見てみると、地下だというのに想定していたより数倍ほどは迷宮の中は明るい。
苔の一種なのかそう言った鉱石なのか、ダンジョンは全体的にぼんやりと光っており多少は暗いもののまっすぐ前まで見通すことができた。
周辺をくるりと周り、噂に聞いた引き込まれる様な現象がないことを確認してから、エルピスは再び地面の底を覗き込む。
「それにしても底深いわね」
「軽く魔法撃って深さ確認してみましょうか」
無詠唱で起動された火の玉がゆらゆらと風に揺られながら徐々に下の方へと落ちていき、見えないほど小さくなってようやく消える。
どうやら底までかなり深いようだ。
このまま降りては、かなり時間がかかる事が予想される。
それならばと思い立った様にしてエルピスは円の中心へ、つまり何も無い空間へとまるで空を歩けるかの様にして足を踏み出した。
「これくらいなら大丈夫でしょ」
「ーーちょエルピスなにしてんの!?」
そんな声が背後から聞こえてきて、飛び降りるのならば飛び降りると言っておけば良かったと思ったものの、一瞬で視界から過ぎ去っていくアウローラを見て無理だと諦める。
数秒もすれば轟音と共に地面へとエルピスは降り立つ。
特にこれといって外傷はない。
先程の火魔法が消えていなかった事で既に確認済みだが、空気もあるのでアウローラや灰猫が降りてきても問題ないだろう。
やはりというかなんというか、今更この程度では傷一つつかない自分の身体を見て感心しつつも、目を凝らしながら頭上を見据える。
数秒後、絶叫を上げながらこちらへと向かってくる物体を認識して、エルピスは受け止める準備をする。
「なんで私も落とされるのよぉぉぉぉぉっっ!!?」
「一番最初はアウローラか」
灰猫辺りが一番に来るかと思ったが、どうやら誰かに突き落とされたらしい。
しっかりとした姿勢をとらないせいで身体はぐるぐると回ってしまっており、目にうっすらと涙を浮かべながら絶叫と共にアウローラが落ちてくる。
そのまま受け止めればさすがにアウローラの身体に負担がかかってしまうので、魔力で糸のような物を作り出しダンジョンの壁に貼り付け蜘蛛の巣のような物を足跡で作り上げエルピスはなるべく負担がかからない様に受け止めた。
「ゔぇっ」
「女の子が出していい声じゃないぞそれ」
蜘蛛の巣の様に貼った魔力の糸の上にアウローラが落ちると、潰れたカエルの様な声を出しながら反動で身体が跳ね上がる。
これである程度は威力が殺せたとは思うが、とはいえ安全第一なので下から風を当てながらゆっくりとアウローラを下ろして、エルピスはその体を受け止める。
気分としては子供に接するレジャー施設のお兄さんだ。
「次はセラからしら? セラも無様な声を出せばいいのよ!」
「なんかそのセリフ悪役令嬢みたいだぞ」
「私が向こうにいたとき何故かずっと流行りだったから影響されたのかも」
無茶な姿勢で落下してきたアウローラとは違い、エルピスもお手本にしたいほどの綺麗な姿勢で落下してきたエラは、糸の上で一回転すると綺麗に上方向へと反動を受け流し、螺旋階段へと綺麗に着地する。
その行動には優雅さすら覚え、見ていたアウローラも同じ事を思ったのか悔しそうにどこから出したのかハンカチを噛み締めていた。
灰猫はやはり猫と付くだけあってエラよりもさらに綺麗な着地を見せ、上にはセラが残るのみとなった。
「行きますよーエルピス様!」
「おっけー」
まっすぐ自分の方へと向かって落ちてくるセラを、エルピスは魔法を使って速度調整しながら受け止める。
空中でセラが体制を変えたせいでお姫様抱っこのようになってしまったが、まぁ誤差だろう。
セラを下ろしながら見てみれば重々しく閉じられた扉からは濃密な魔力が漏れ出しており、なんとなく長丁場になりそうな予感を伝えてくる。
「なんかやけにデカイ扉だな。ダンジョンってこんなもんなのか?」
「さぁ? RPGならボス部屋確定だけど、ダンジョン一回層の一室目からボスって無いはずだし、相当高難易度のダンジョンなんじゃ無い?」
〈神域〉を扉の向こうへと伸ばしてみるも特に魔物の気配は感じられず、粘つくような嫌な気配だけが扉の向こうで漂っていた。
それから数分ほどかけて隠し扉などないかと違う入り口を探してみるが、どうやらここを通るしか無いらしい。
「良し! 一旦上に戻るか」
「えっ帰るの!? 普通ここからダンジョンを攻略していくパターンでしょ!」
「まぁそれでも良いんだけど、どうやらお客さんが来たらしい。あと前にも話したけどこの迷宮逃げると反応するらしいからそれも検証したいし」
ダンジョン内を探すために〈神域〉を伸ばした際、こちらへと向かってくる複数人の気配を感じたエルピスは上を見ながらそう呟く。
やってくる速度、そしておそらくは馬車移動のようだがその馬車に乗る人間達の実力から鑑みても、一般人がたまたま通り過ぎたというには少しおかしすぎる。
なにかしら情報が回った結果なのだろうが、背後から追いかけられるくらいならば、こちらから出迎えた方が幾分かマシだろう。
指先を軽く払えばそれだけで魔法が発動し、降りて登ってと二度手間ではあるが上へと登るための手段を作り出す。
「うわ、体浮いた」
「階段上るのは面倒だろ? それに飛んだ方が早いしな」
魔法を使って体を浮き上がらせ、そのままエルピスは上へと向かって飛んでいく。
わざわざ一番下まで降りたというのにまた登らなければいけない事に少し憤りを感じるが、なんとなくだが行っておかなければいけない気がしたので仕方がない。
面倒ごとが起きそうだな…と登りながら考えていると、不意にアウローラが隣で大声を上げる。
「ねぇなんか下から迫って来てるんだけど!?」
そう言われ見てみれば何かよく分からない影のような物が、エルピス達の方へと向かって進んできていた。
どうやらダンジョンの中から出てきているようだが、魔物のようには見えないのでこの迷宮の固有種なのだろうか。
噂の正体であろうそれは明確な意思を持ってエルピス達を追いかけてきており、その速度は上に逃げれば逃げるほどに早まっていく。
「気持ち悪いな、セラやれる?」
「このまま追って来られると面倒ですし……消します」
「分かっているとは思うけど周りを壊さない様にね」
「分かりました。戦略級魔法〈洸殺〉!」
だが所詮大した魔力も持たないただの手では、セラの魔法に耐え切ることなど到底不可能である。
セラの指先から一瞬光の筋が現れ、それが相手に当たった瞬間に爆発し微粒子レベルで存在そのものを消し飛ばしていく。
相手が完全に影だからまだ見れるものの、本来ならば体が粉になっていく様を受けた本人が認識しながら死ぬ中々に厳しい魔法なのだ。
朽ちていく影を見ながら、エルピスは面倒ごとが始まる予感に少し顔を歪めるのだった。
視界いっぱい一面の砂漠。
思えばこの世界においても日本にいた時ですらここまで広い砂漠には一度も来たことが無く、浮き上がる気持ちを抑えることすら忘れてエルピスは砂の上ではしゃぎ回る。
「ほんっと、元気ね……あーあっつい」
「水筒取ってください。そこにあるやつ」
「ええっと……これ? はい。っていうかこれってエルピスの私物じゃなかったっけ」
「なんか自由に使っていいらしいよ」
「砂漠なのに水自由に飲んでいいとか、さすが大魔導士様は私達とは違うわね」
「それがこの水筒、周囲の魔素だったりそれ以外だったりを集めて、魔力を使わなくても無限に水が出るらしいんだ」
「なにそれ。どっかの青い狸が持ってそうな道具ね」
暑い暑いと騒ぐ気力すらなくなったのか呟き続けるアウローラと灰猫の前で、エルピスは砂漠の上を猛スピードで駆け抜けていた。
足を取られる感触も、照りつける太陽も一度も味わったことのないものだ。
魔法もそうだがこういった未知の体験にエルピスはかなり弱く、理由もなくかれこれ数十分はああして行ったり来たりを繰り返している。
砂丘を消しとばす勢いで駆けているエルピスの所為で大量の砂が舞い散っているが、セラがその後片付けをしているおかげでアウローラ達は未だ砂の下に埋もれる事なくこうしてくつろげているのだった。
「今日のエルピス様はいつもより元気ですね。セラも心なしか元気そうに見えるよ?」
「私はエルピス様に召喚されている身だから、主人が魔力を解放すればするほど調子も良くなるのよ。……そういえば貴方がタメ口で話してくれたのこれが初めてじゃない?」
「そう? 私は基本的に普段から敬語で話してるから、もしかしたら癖付いていたのかも。意外?」
「まぁ意外と言えば意外だけれど、嬉しいわよ。私、タメ口で話せる相手ってあまり居ないから」
「私もあんまり居ないからね~。前から思ってたけど私とセラって似てるわよね」
楽しそうな会話を繰り広げている面々を置き去りにして、生き物観察をしたり植物を採取していたりしたエルピスが不意に足を止めた。
それからポケットの中に無造作に手を入れると地図を取り出し、何度か地図と遠くの方を見直して地図をポケットにしまうとアウローラ達の方へと戻ってくる。
「あれ? もう遊ばなくていいの?」
「うん、もう十分遊んできたからいいよ。それよりあっちの方向に走って2分くらいのところに目標の迷宮を見つけたから試しに競争しない?」
「なんか今日変な方向にテンション振り切ってるわね。魔力の使いすぎで疲れてるんじゃない?」
「もしかしたらそうかも。まぁいいじゃんどうせ今だけだし、それでやるのやらないの?」
「やっても良いけどどうせなら景品が欲しいな。それもとびっきりいい奴が」
「なら俺以外が一位になったら、なんでも言う事を一つ聞いてあげるよ」
ニヤリと悪い笑みを浮かべながらそう言った灰猫に、エルピスは自慢げな顔でそう答える。
その瞬間灰猫含めエルピス以外の目の色が変わった。
なんでも一つ言う事を聞かせられるのだ。
女性陣からすればまたとないチャンスであり、灰猫からしてみても命令権が手に入るというのは何に使うかは別として随分と興味をそそられる。
そそくさと砂の上に線を引くエルピスは、軽く柔軟してからクラウチングスタートの構えを取った。
「それじゃ位置について、よーいどん!」
「負けないわよーっ!!」
「負けられません!」
こうして異世界において初の多種族混合長距離走が行われたわけだが、結果としてはセラの圧勝に終る。
開始と同時に謎の翼を生やし、神の称号を二つも開放しているエルピスすら置き去りにして、次元の壁を突破したセラはよーいどんを言い切る前に既にゴールについていた。
フライングだとも言いたくなるが、かと言って二度やったところで結果は同じだ。
順番としては次がエルピス、灰猫、エラ、アウローラとなっており、かくして呆気ないほどに異世界多種族混合短距離走は幕を閉じた。
「いくらなんでも早すぎない!? 特にセラ!」
「長距離走の時に用意って言われて翼生やした人初めて見たよ」
「何はともあれ勝ちは勝ち。エルピス様、後で何か一つ命令させていただきますね」
そう言って無邪気に笑うセラを見て、楽しかったからこれでいいかとエルピスは敗北を受け入れる。
「…お手柔らかにお願いします」
迷宮攻略中には終わらせることが出来ればいいなと思いながら迷宮の内部を見下ろしてみれば、どうやら珍しい事に縦穴式の迷宮だったらしく直径十メートル程の大きな縦穴が砂漠にポッカリと空いていた。
基本的にダンジョンはその性質上、深いところで生成されにくいので横穴式であることが多いのだが、砂漠という事もあってどうやら地下深くから始まるダンジョンらしい。
ご丁寧に入り口付近から下へと続く螺旋階段のような物も用意されており、底の見えないほどに深いダンジョンへ入りやすいようになっていた。
「狼煙は僕が上げるから、エルピスは周りを見張ってて」
「おっけー。ありがとな、灰猫」
「これくらいどうって事ないさ」
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紫色の狼煙には調査や討伐中という意味合いが有るらしく、この狼煙を上げていれば滅多なことが無い限り他の冒険者がやって来ることもない。
迷宮の調査であればさらにその制限は厳しくなり、ギルド側からの依頼があったとしても狼煙が上がっている間は他の冒険者パーティーの立ち入りは許可されないのである。
理由としては迷宮内での同士討ちを避けるためであり、これを無視して中に入ってきたパーティーがどうなってもその者達の自己責任である。
「意外とダンジョンって明るいんだな」
迷宮の淵からそこを覗き込む様にして下を見てみると、地下だというのに想定していたより数倍ほどは迷宮の中は明るい。
苔の一種なのかそう言った鉱石なのか、ダンジョンは全体的にぼんやりと光っており多少は暗いもののまっすぐ前まで見通すことができた。
周辺をくるりと周り、噂に聞いた引き込まれる様な現象がないことを確認してから、エルピスは再び地面の底を覗き込む。
「それにしても底深いわね」
「軽く魔法撃って深さ確認してみましょうか」
無詠唱で起動された火の玉がゆらゆらと風に揺られながら徐々に下の方へと落ちていき、見えないほど小さくなってようやく消える。
どうやら底までかなり深いようだ。
このまま降りては、かなり時間がかかる事が予想される。
それならばと思い立った様にしてエルピスは円の中心へ、つまり何も無い空間へとまるで空を歩けるかの様にして足を踏み出した。
「これくらいなら大丈夫でしょ」
「ーーちょエルピスなにしてんの!?」
そんな声が背後から聞こえてきて、飛び降りるのならば飛び降りると言っておけば良かったと思ったものの、一瞬で視界から過ぎ去っていくアウローラを見て無理だと諦める。
数秒もすれば轟音と共に地面へとエルピスは降り立つ。
特にこれといって外傷はない。
先程の火魔法が消えていなかった事で既に確認済みだが、空気もあるのでアウローラや灰猫が降りてきても問題ないだろう。
やはりというかなんというか、今更この程度では傷一つつかない自分の身体を見て感心しつつも、目を凝らしながら頭上を見据える。
数秒後、絶叫を上げながらこちらへと向かってくる物体を認識して、エルピスは受け止める準備をする。
「なんで私も落とされるのよぉぉぉぉぉっっ!!?」
「一番最初はアウローラか」
灰猫辺りが一番に来るかと思ったが、どうやら誰かに突き落とされたらしい。
しっかりとした姿勢をとらないせいで身体はぐるぐると回ってしまっており、目にうっすらと涙を浮かべながら絶叫と共にアウローラが落ちてくる。
そのまま受け止めればさすがにアウローラの身体に負担がかかってしまうので、魔力で糸のような物を作り出しダンジョンの壁に貼り付け蜘蛛の巣のような物を足跡で作り上げエルピスはなるべく負担がかからない様に受け止めた。
「ゔぇっ」
「女の子が出していい声じゃないぞそれ」
蜘蛛の巣の様に貼った魔力の糸の上にアウローラが落ちると、潰れたカエルの様な声を出しながら反動で身体が跳ね上がる。
これである程度は威力が殺せたとは思うが、とはいえ安全第一なので下から風を当てながらゆっくりとアウローラを下ろして、エルピスはその体を受け止める。
気分としては子供に接するレジャー施設のお兄さんだ。
「次はセラからしら? セラも無様な声を出せばいいのよ!」
「なんかそのセリフ悪役令嬢みたいだぞ」
「私が向こうにいたとき何故かずっと流行りだったから影響されたのかも」
無茶な姿勢で落下してきたアウローラとは違い、エルピスもお手本にしたいほどの綺麗な姿勢で落下してきたエラは、糸の上で一回転すると綺麗に上方向へと反動を受け流し、螺旋階段へと綺麗に着地する。
その行動には優雅さすら覚え、見ていたアウローラも同じ事を思ったのか悔しそうにどこから出したのかハンカチを噛み締めていた。
灰猫はやはり猫と付くだけあってエラよりもさらに綺麗な着地を見せ、上にはセラが残るのみとなった。
「行きますよーエルピス様!」
「おっけー」
まっすぐ自分の方へと向かって落ちてくるセラを、エルピスは魔法を使って速度調整しながら受け止める。
空中でセラが体制を変えたせいでお姫様抱っこのようになってしまったが、まぁ誤差だろう。
セラを下ろしながら見てみれば重々しく閉じられた扉からは濃密な魔力が漏れ出しており、なんとなく長丁場になりそうな予感を伝えてくる。
「なんかやけにデカイ扉だな。ダンジョンってこんなもんなのか?」
「さぁ? RPGならボス部屋確定だけど、ダンジョン一回層の一室目からボスって無いはずだし、相当高難易度のダンジョンなんじゃ無い?」
〈神域〉を扉の向こうへと伸ばしてみるも特に魔物の気配は感じられず、粘つくような嫌な気配だけが扉の向こうで漂っていた。
それから数分ほどかけて隠し扉などないかと違う入り口を探してみるが、どうやらここを通るしか無いらしい。
「良し! 一旦上に戻るか」
「えっ帰るの!? 普通ここからダンジョンを攻略していくパターンでしょ!」
「まぁそれでも良いんだけど、どうやらお客さんが来たらしい。あと前にも話したけどこの迷宮逃げると反応するらしいからそれも検証したいし」
ダンジョン内を探すために〈神域〉を伸ばした際、こちらへと向かってくる複数人の気配を感じたエルピスは上を見ながらそう呟く。
やってくる速度、そしておそらくは馬車移動のようだがその馬車に乗る人間達の実力から鑑みても、一般人がたまたま通り過ぎたというには少しおかしすぎる。
なにかしら情報が回った結果なのだろうが、背後から追いかけられるくらいならば、こちらから出迎えた方が幾分かマシだろう。
指先を軽く払えばそれだけで魔法が発動し、降りて登ってと二度手間ではあるが上へと登るための手段を作り出す。
「うわ、体浮いた」
「階段上るのは面倒だろ? それに飛んだ方が早いしな」
魔法を使って体を浮き上がらせ、そのままエルピスは上へと向かって飛んでいく。
わざわざ一番下まで降りたというのにまた登らなければいけない事に少し憤りを感じるが、なんとなくだが行っておかなければいけない気がしたので仕方がない。
面倒ごとが起きそうだな…と登りながら考えていると、不意にアウローラが隣で大声を上げる。
「ねぇなんか下から迫って来てるんだけど!?」
そう言われ見てみれば何かよく分からない影のような物が、エルピス達の方へと向かって進んできていた。
どうやらダンジョンの中から出てきているようだが、魔物のようには見えないのでこの迷宮の固有種なのだろうか。
噂の正体であろうそれは明確な意思を持ってエルピス達を追いかけてきており、その速度は上に逃げれば逃げるほどに早まっていく。
「気持ち悪いな、セラやれる?」
「このまま追って来られると面倒ですし……消します」
「分かっているとは思うけど周りを壊さない様にね」
「分かりました。戦略級魔法〈洸殺〉!」
だが所詮大した魔力も持たないただの手では、セラの魔法に耐え切ることなど到底不可能である。
セラの指先から一瞬光の筋が現れ、それが相手に当たった瞬間に爆発し微粒子レベルで存在そのものを消し飛ばしていく。
相手が完全に影だからまだ見れるものの、本来ならば体が粉になっていく様を受けた本人が認識しながら死ぬ中々に厳しい魔法なのだ。
朽ちていく影を見ながら、エルピスは面倒ごとが始まる予感に少し顔を歪めるのだった。
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教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。
『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。
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