クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期:法国

裏で蠢く者

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 法歴8927年暖季
 かつて封印された記録である人工聖人製造計画が現法国第一王子であり王位継承権第一位のゲリシン氏の知るところとなる。
 氏はこの計画に対して非常に興味を持たれ、氏の指導のもとに極秘裏にこの作戦が遂行されていくことが決定した。
 作戦名は無し、作戦に参加できるのは兵役を10年以上こなし今回の計画に対して賛同する姿勢を見せ適性ありと判断された法国の住民のみである。

 法歴8929年寒季
 本格的な人工聖人製造計画が始動する。
 カモフラージュとして法国内にあった教会を立て直し大教会へと変えることで、地下への空間の拡張を容易とする。
 構成員は未だそれほどの数ではないものの、いまや一個の意思を持った共通の生命体として組織は動き始めていた。
 彼の目的とするところがどこであるかは定かではないが、法国がこの作戦を無事に終えることができたのであれば更なる地位を手に入れることができるだろう。

 法歴8934年暖季
 記録係が変更、以降【担当者変更の為削除済み】が担当。
 実験開始から5年。
 五年間の間に大きく三つの発見がなされた。
 一つ目は人体の限界について、こちらはやはり現状確認されている通り聖人、もしくは仙人と呼ばれる長寿の者が人間の最高点であると確認された。
 ただしこれは英雄の称号を持つものは別とする。
 二つ目は人間の進化方法についてである。
 称号の取得によって人間が進化すると考えられていたのが昨今の常識であったが、一部の条件をクリアすれば称号を取得していなくともそれに近い能力を手に入れることができることが確認された。
 三つ目は平均的な人間の限界点について。
 基本的に人間には個々人に限界が存在するが、これらは努力や外部からの補助によってある程度増加させることができる。
 しかし称号の取得に関してだけはどう頑張っても限界が存在し、この取得の差異について今後研究を進めていく予定である。

 法歴8936年暖季
 実験開始から7年、研究は停滞している。
 人間の可能性についての研究がなされている二年間だったが、やはり問題は非検体の数の少なさだ。
 現在この場で使用されている素体は法国内部の裁判において死刑を宣告されたものを流用しているが、犯罪者となるような者達の為身体能力や健康状態が研究基準に達していないものが多い。
 そのために研究材料として十分ではなく、このままでは研究が前に進まない可能性が出てきた。
 後日ゲリシン氏に報告する手筈だが、改善案は今のところ奴隷を使うと言うくらいしか思いつかない。

 法歴8940年寒季
 実験開始から実に11年。
 我々の研究は飛躍的に進みはじめていた。
 9年目の研究成果によって我々は人間を人間でなくすことによって、聖人になるための称号取得に必要な条件を大幅に低下させることができることに気がついた。
 しかしこの称号はあくまでも元人であった素体であり、かつ成功率がそれほど高くない上に時間経過と共に自我を失うという失敗作である。
 だがこれを薬品として世界中にばら撒く事で強い被検体を多く取得する事に成功し、共和国の暗部もこぞってこの実験薬を購入することになった。
 副産物として魔物や魔人の身体能力の高さはこの称号の取得条件緩和から来ていることが確認され、正規の大発見として叫ばれたものの発見方法が人道に反しているため公表できず闇に消えることとなった。

 法歴8946年
 前担当者はこの実験のことを外部に漏らそうとした為抹消された。
 実験開始から17年、法国内部で動いている実験としてはもはやこの実験が最長の稼働時間となってしまったわけだが、ようやく我々は一つの完成系を作り出した。
 それは人が人でなくなることを許容すること、この一つに尽きる。
 我々の進化の可能性を考慮するのであれば、人は人という枠組みに収まっている状況の方が不自然であると私は考えた。
 人は常に進化し、他者を退け、この世界でも上位の種にならなければいけない。
 昨今では森妖種の国の女王も動きはじめ、土精霊達の国もどうやら活発になりはじめている。
 その中で聖人の誕生は急務であり、その為にも我々の研究はどのような手段を用いても行われる必要がある。
 どれだけの犠牲を払おうとも、これから先戦争で死ぬ可能性のある人間とこれから先生まれてくる人間の数よりはこの実験で死ぬ可能性の方が高いのだから。
 死にゆくもの達へ敬意を

 法歴8957
 実験開始から30年。
 ついに我々は新たなる力を持ってこの実験の完成をここに宣言する。
 新たなる力とは神の力、法国におわす神の力をこの実験に用いて我々は今日全人類を聖人のステージにまで押し上げる方法を手に入れた。
 この方法で作られた聖人は非常に安定しており戦闘能力の向上と共に意思疎通を継続して行うことができるようになる。
 つまり人類は上位種のように強い力を持ち続けることができるようになったのだ。
 これで人類は淘汰されない、たとえどの種族との戦争が起きようとも我々が負けることはないのだ。
 この実験に際して失ったものは少なくない。
 死んでいった兵士たちがどれほどか、それに法皇におかれては残念ながらこの実験に反対したため拘束という措置を取らざる追えなかった。
 だがこれで我々は救われる。
 神の力を手にした我々にもはや困難などはない。

 法歴8949
 今日、妹がこの部屋を見た。
 崇高なるこの使命を妹ならば理解してくれると考えての行動だったが、妹は口を抑え泣き崩れながらただ死者に対する祈りの言葉を並べていた。
 一体何がいけなかったのだろうか。
 法国に留まらず学園で様々な物を己の両方の目で確認し、そして善悪の基準を手に入れた彼女にはもはや小を捨てて大を取るという考え自体も理解できぬものなのかもしれない。
 もしかすれば学園で目の前で同級生が死んでいったことも関係しているのかと考えると、その胸中はあまりにもかわいそうである。
 新薬完成までのほんの少しの間ではあるが、致し方あるまい。
 妹は拘束することとする。
 できれば共感してくれればそれが最も良かったのだが、何度も嘆いていても仕方がないだろう。


 法歴8949
 何故だろうか。
 薬を服用しているわけでもないのにここ最近頭がぼんやりとすることが多い。
 気がつけばいつも夢の中のようだ、疲れているのかもしれない。
 実験室で横になっていると座っていた妹が立ち上がり薬を飲ませてくれた。
 ああ、これもきっと夢なのだろう。
 できれば夢は覚めないでくれればいいのに。
 だが仕事をしないわけにもいくないので起き上がると私はこうして日報を書き始める。
 後ろで唸り声を上げる妹は構って欲しかったのだろうか、兄は忙しいのだ許して欲しい。
 しかし最近はまともに会話もしていなかったので今日のところはここまでとする。
 記ゲリシン
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