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青年期:帝国編
暑くて寒い道の上
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魔界へと続く道は多くある。
そもそも人類生存圏内の外側で最もその領域に対して接している面積の多いのが魔界であり、ともすれば最も人類種が挑むべき場所でもあるのかもしれない。
だがその実態は人類種などには到底生きていけるよいうな環境ではなく、修練を終えた高位の冒険者であれば生きていくことは可能かもしれないが一般人ならば一時間持てばいい方だろう。
現に人間の繁殖力に無理を言わせて魔界の一角を攻略しようとした国もあったが、前線基地ではいいように食料として扱われそれこそ人間牧場といったような有様の被害が出たらしい。
それ以降は魔界に対して国家規模で侵略行為ないし国土拡張行為を行うことは暗黙の内にどこの国でも忌避される行為となっていたわけである。
そんな土地に足を踏み入れているのは馬車に乗った十数人の人影、ただし人間の比率はやはり目に見えて低くく目視で見る限りは一人か二人といったところだろう。
ゆっくりと、それでいて確実に進んでいく人影の一つが膝に手をのせると大きく息を吐き出した。
「あっつい! さっむい! どんな気候なのよおかしいでしょ!?」
大声を上げて不満を口にするのはアウローラである。
魔界の気候は周囲に存在する精霊や龍種などによって頻繁に変わるため、上は50度以上から下は-20度以下だ。
それが一時間から三十分程度の感覚でランダムに変化していくので、魔力を使用しての体温調整は体温によって身体的異常をきたす可能性のある生物には必須であるといえるだろう。
それを知っているアーテは戦術級魔法を使用できるアウローラが、体温調整という基礎的な魔法に困っている理由がわからず疑問を口にする。
「アウローラ様は体温調整魔法が使えねェのか?」
「使えるけどそう何時間も集中力が続かないのよ。あんな精密作業を長時間出来るのなんて相当熟練した魔法使いだけよ」
「人間は弱くって大変です。鬼人の肌ならこの程度の温度変化大丈夫です」
「そうよ人間ってか弱いのよ」
「エルピス様は体温とかってあるんですか?」
「さすがに元は半人半龍だからあるけどほとんど変化はないかな。マグマの中でも何不自由なく暮らせると思うよ」
マグマの中をなんの魔法的な補助すらなしにまるで海の中を泳ぐようにして泳いでいてもおかしくないのは、以外にも神人であることよりも半人半龍であることの方が関係している。
鉄をも溶かすことのできる息吹を吐き出せる龍から生まれたのだ。
たとえその力を半分以下しか引き継いでいなくとも、マグマくらいならば何の問題もないのだ。
「思えば様々な種族が集まっているのもですよね、森霊種、天使、悪魔に神人。半人半龍と人間。さらに仙桜種と混霊種ですか、いよいよアルヘオ家らしくなってきましたね」
様々な種族の物が生活を共にしていたアルへオ家でも、戦時下という特殊な状況がなければこれほど様々な種族が一堂に会することなどないだろう。
種族差によって生まれる価値観の違いというのはやはり馬鹿にならないものであって、それくらいしなければ埋められない溝はこの世界の種族の溝である。
そんな中で一人話の中に疑問を感じて取り残されていたのは、神人という聞き慣れない種族名を耳にしたリリィである。
フィトゥスが一瞬何か重要な秘密を漏らしてしまったのかと他のメンバーの顔色を伺ってみれば、無視をしているというよりも共通認識なので気にする必要もないといった風貌だ。
ならば問いただすべきだろう。
「ねぇ、私の知らない秘密を全員が共有しているときのこのなんとも言えない不快感を口にする時って、どうすればいいか分からないのフィトゥス」
「間違いなく俺の足をちみぎることではないとだけ断言させてもらうよ」
「私は出発前にエルピス様本人から聞いているので、後は貴方だけですね」
「えぇ!? なんでヘリア先輩には言ってわたしには無いんですかエルピス様!」
さすがに自分と同じだろうと考えていた先輩までもが知っている秘密に、たまらずリリィは直接エルピスの服を掴んで揺さぶりながら言葉を投げかける。
それに対してエルピスは気まずそうにリリィから視線をずらすと、ぽつりとぎりぎり耳に聞こえる程度の大きさで疑問に対して答えた。
「ご飯食べに行く時間になっちゃったから言う暇無かったんだよね」
「そんな殺生な!?」
フィトゥスには教えて私には教えてくれないのですかと言いたげなリリィに対して、エルピスは苦笑いだけを返すとその場の空気を流す。
この場でエルピスが神の称号について説明をすることは簡単な事だが、目標の地点が近づいてきたからだ。
「それはさておいて。この目の前の山脈を越えれば魔界で良いのかな?」
目の前とはいってもまだ数キロほどの距離はあるが、それでも目の前に映る山の大きさは息を呑むほどのものがある。
かつて日本で見たどの山よりも大きく、高く座した山々は山脈となってその先の景色を遮っており、いまからあれを登ると考えると足の疲労も気になってくるところだ。
エルピスが投げかけた質問に対して答えるのは隣にいたフィトゥス、彼もまた先程までとは違って山様に服装を変えたのか少し厚着になっており見ているだけであったかそうである。
「はい。魔界を覆う山脈は全て標高8000を超える巨大な山で形成されており、そこを越えれば一応魔界ということになっています」
「一応? 正確には違うってこと?」
「確か山を越えた後に魔界は各所に難所があるんだよ、それを越えないと本当に魔界に入ったことにはならなかったはず」
フィトゥスの説明に対して補足を入れたのは、手元にどこから持ってきたのか魔界関連の資料だろう本を手にしたニルである。
わざわざ魔界と呼ばれるのだからそれなりに特殊な環境が待ち構えているとは予想していたが、その第一波が難所の存在であるならエルピスの好奇心も強く刺激される。
「なるほどね。それで今から向かうところはどんな感じなの?」
「魔界に入る道の中で最も難易度が高いとされる場所、仙桜種の村です」
──前言を撤回しよう。好奇心など皆無だ、クソ喰らえ、野犬の餌にすらできない始末である。
エルピスが仙桜種の村に行きたくない理由は二つ、一つ目はほぼ間違いなく戦闘に巻き込まられるだろうという確信があるから。
二つ目はそれよりも不味い、創生神時代のエルピスを知っている人物と出会う可能性があることだ。
エルピスがこの世界で学んだ経験則のうち最も大切なものは、創生神の知り合いと絡むとその後の人生が大きく変わる、である。
それが良い変化なのか悪い変化なのか判断はつかないが、物事の裏側であの創生神の顔がチラつくのはどうにもやりにくい。
「結局行くことになるのか」
「私達の村はここからそう遠くない。向こうにはもう来てるのはバレてる」
「師匠大丈夫なの? 辛かったら中に居ても大丈夫だよ?」
荷台から顔を出してきたレネスに対してエルピスは言葉を返すが、青い顔に冷や汗を浮かばせながらも力強くレネスは頭を立て振る。
「いや大丈夫だ。さっきまでに比べれば随分とマシだな、心拍数の上昇を感じる程度だ」
「全能感が表に出たのかな? まぁ悪い傾向ではないね、これからどんどん良い方向の感情が出てくると思うよ」
「全能感はいい感情なのかァ?」
様々な感情を味わってきたレネスだが、どうやらこれから先は苦痛を感じるものは少ないらしくホッと胸を撫で下ろす。
それほどまでに感情を受け切るというのは難しいことで、だからこそわざわざニルは特殊技能までつかってゆっくりとレネスが慣れられるようにしたのだろう。
それから二時間ほど、整備されていない道を開拓しながらも順調に進んでいたエルピス達は、既に山の中腹を超えて七合目ありにまでやってきていた。
「エルピス様、仙桜種の里が見えましたよ」
厄介な魔物などがやってこないようにと、前に出て当たりを警戒していたフェルからそんな報告を受けてエルピスも目を細めてみれば確かに村のようなものが見える。
魔法によって隠されているのか認識しづらくはなっているが、一度その目で見て捉えてしまえばエルピスの目にはもうその魔法の効果も無くなっている。
とりあえずは目的地が見えたことに一安心しながらも、エルピスはしっかりと警戒を怠らない。
「悪いけど先導お願いできる? なるべくゆっくりね」
「お任せあれ。フェルを借ります」
「フィトゥスさん、そんな警戒しなくても襲ってこないと思いますよー?」
「念には念を押すんだよ」
意図を汲み取って警戒しながら辺りを索敵してくれている二人の悪魔は、エルピスにとって変えが効かないほどの存在になりつつある。
彼等ならば仙桜種に勝てるかどうかは怪しいところだが、絡まれたところでむざむざとやられるということはないだろう。
二人の姿が見えなくなり再びのどかな雰囲気が流れ始めると、アウローラが思い出したように疑問を投げかける。
「仙桜種って具体的にはどんな種族なんだっけ」
「私のようなのが大半だな。基本的には戦闘狂ばかりだが、中には生産職に身を捧げているものもいる」
「長い寿命の中でどんな建築様式が使用されているのか気になるわね」
「見れば分かるがそんなに良いものではないぞ、古臭い建築物の名残だけが遺産のように積み重ねられているだけだ」
アウローラの質問に対してレネスの言葉は自虐的だ。
全能感がその身を貫いているというのにそれほど言うということは、余程トラウマでもあるのか建築様式が気に入らないのか。
そうなってくるとエルピスとしては余計気になってくるところで、盗み聞きした内容が実際どんなものなのかとワクワクしながら足を進める。
「見えて来たぜェエルピス様、あそこが仙桜種の村だ」
「おぉぉぉ! おお? 微妙に反応に困るんだけど」
「建築様式混ざりすぎてどこの国かわかったもんじゃないな」
「俺知ってる。建築ゲーで何も考えずに建物作るとこうなるよ」
目の前に広がっている多数の建造物は、そのどれもが材質からして違ったものばかりである。
レンガでできた小さな小屋、石でできた誰が住むのかも分からない塔、かと思えば手前には和風の建築様式も見て取れるし奥には砂でできた家のようなものまである。
混沌ここに極まれり、好き勝手に家を建てればそりゃそうなるだろうと言わんばかりの結果であるが、創生神が作り出した生物がこれを作るというのなら納得はいく。
そんな仙桜種達の村には出入り口が一つしかないらしく、門のようなしきりこそないものの結界によって阻まれ他の道からの侵入は困難なようなのでエルピス達は堂々と真正面から村へと向かっていく。
結界の境を越えようかという程になると村の奥からこちらへ向かってくる人物の姿が見え、エルピス達は足を止めた。
「神よ、我等の村へようこそおいでくださいました。私の名前はリーベ、レネスの父です」
そもそも人類生存圏内の外側で最もその領域に対して接している面積の多いのが魔界であり、ともすれば最も人類種が挑むべき場所でもあるのかもしれない。
だがその実態は人類種などには到底生きていけるよいうな環境ではなく、修練を終えた高位の冒険者であれば生きていくことは可能かもしれないが一般人ならば一時間持てばいい方だろう。
現に人間の繁殖力に無理を言わせて魔界の一角を攻略しようとした国もあったが、前線基地ではいいように食料として扱われそれこそ人間牧場といったような有様の被害が出たらしい。
それ以降は魔界に対して国家規模で侵略行為ないし国土拡張行為を行うことは暗黙の内にどこの国でも忌避される行為となっていたわけである。
そんな土地に足を踏み入れているのは馬車に乗った十数人の人影、ただし人間の比率はやはり目に見えて低くく目視で見る限りは一人か二人といったところだろう。
ゆっくりと、それでいて確実に進んでいく人影の一つが膝に手をのせると大きく息を吐き出した。
「あっつい! さっむい! どんな気候なのよおかしいでしょ!?」
大声を上げて不満を口にするのはアウローラである。
魔界の気候は周囲に存在する精霊や龍種などによって頻繁に変わるため、上は50度以上から下は-20度以下だ。
それが一時間から三十分程度の感覚でランダムに変化していくので、魔力を使用しての体温調整は体温によって身体的異常をきたす可能性のある生物には必須であるといえるだろう。
それを知っているアーテは戦術級魔法を使用できるアウローラが、体温調整という基礎的な魔法に困っている理由がわからず疑問を口にする。
「アウローラ様は体温調整魔法が使えねェのか?」
「使えるけどそう何時間も集中力が続かないのよ。あんな精密作業を長時間出来るのなんて相当熟練した魔法使いだけよ」
「人間は弱くって大変です。鬼人の肌ならこの程度の温度変化大丈夫です」
「そうよ人間ってか弱いのよ」
「エルピス様は体温とかってあるんですか?」
「さすがに元は半人半龍だからあるけどほとんど変化はないかな。マグマの中でも何不自由なく暮らせると思うよ」
マグマの中をなんの魔法的な補助すらなしにまるで海の中を泳ぐようにして泳いでいてもおかしくないのは、以外にも神人であることよりも半人半龍であることの方が関係している。
鉄をも溶かすことのできる息吹を吐き出せる龍から生まれたのだ。
たとえその力を半分以下しか引き継いでいなくとも、マグマくらいならば何の問題もないのだ。
「思えば様々な種族が集まっているのもですよね、森霊種、天使、悪魔に神人。半人半龍と人間。さらに仙桜種と混霊種ですか、いよいよアルヘオ家らしくなってきましたね」
様々な種族の物が生活を共にしていたアルへオ家でも、戦時下という特殊な状況がなければこれほど様々な種族が一堂に会することなどないだろう。
種族差によって生まれる価値観の違いというのはやはり馬鹿にならないものであって、それくらいしなければ埋められない溝はこの世界の種族の溝である。
そんな中で一人話の中に疑問を感じて取り残されていたのは、神人という聞き慣れない種族名を耳にしたリリィである。
フィトゥスが一瞬何か重要な秘密を漏らしてしまったのかと他のメンバーの顔色を伺ってみれば、無視をしているというよりも共通認識なので気にする必要もないといった風貌だ。
ならば問いただすべきだろう。
「ねぇ、私の知らない秘密を全員が共有しているときのこのなんとも言えない不快感を口にする時って、どうすればいいか分からないのフィトゥス」
「間違いなく俺の足をちみぎることではないとだけ断言させてもらうよ」
「私は出発前にエルピス様本人から聞いているので、後は貴方だけですね」
「えぇ!? なんでヘリア先輩には言ってわたしには無いんですかエルピス様!」
さすがに自分と同じだろうと考えていた先輩までもが知っている秘密に、たまらずリリィは直接エルピスの服を掴んで揺さぶりながら言葉を投げかける。
それに対してエルピスは気まずそうにリリィから視線をずらすと、ぽつりとぎりぎり耳に聞こえる程度の大きさで疑問に対して答えた。
「ご飯食べに行く時間になっちゃったから言う暇無かったんだよね」
「そんな殺生な!?」
フィトゥスには教えて私には教えてくれないのですかと言いたげなリリィに対して、エルピスは苦笑いだけを返すとその場の空気を流す。
この場でエルピスが神の称号について説明をすることは簡単な事だが、目標の地点が近づいてきたからだ。
「それはさておいて。この目の前の山脈を越えれば魔界で良いのかな?」
目の前とはいってもまだ数キロほどの距離はあるが、それでも目の前に映る山の大きさは息を呑むほどのものがある。
かつて日本で見たどの山よりも大きく、高く座した山々は山脈となってその先の景色を遮っており、いまからあれを登ると考えると足の疲労も気になってくるところだ。
エルピスが投げかけた質問に対して答えるのは隣にいたフィトゥス、彼もまた先程までとは違って山様に服装を変えたのか少し厚着になっており見ているだけであったかそうである。
「はい。魔界を覆う山脈は全て標高8000を超える巨大な山で形成されており、そこを越えれば一応魔界ということになっています」
「一応? 正確には違うってこと?」
「確か山を越えた後に魔界は各所に難所があるんだよ、それを越えないと本当に魔界に入ったことにはならなかったはず」
フィトゥスの説明に対して補足を入れたのは、手元にどこから持ってきたのか魔界関連の資料だろう本を手にしたニルである。
わざわざ魔界と呼ばれるのだからそれなりに特殊な環境が待ち構えているとは予想していたが、その第一波が難所の存在であるならエルピスの好奇心も強く刺激される。
「なるほどね。それで今から向かうところはどんな感じなの?」
「魔界に入る道の中で最も難易度が高いとされる場所、仙桜種の村です」
──前言を撤回しよう。好奇心など皆無だ、クソ喰らえ、野犬の餌にすらできない始末である。
エルピスが仙桜種の村に行きたくない理由は二つ、一つ目はほぼ間違いなく戦闘に巻き込まられるだろうという確信があるから。
二つ目はそれよりも不味い、創生神時代のエルピスを知っている人物と出会う可能性があることだ。
エルピスがこの世界で学んだ経験則のうち最も大切なものは、創生神の知り合いと絡むとその後の人生が大きく変わる、である。
それが良い変化なのか悪い変化なのか判断はつかないが、物事の裏側であの創生神の顔がチラつくのはどうにもやりにくい。
「結局行くことになるのか」
「私達の村はここからそう遠くない。向こうにはもう来てるのはバレてる」
「師匠大丈夫なの? 辛かったら中に居ても大丈夫だよ?」
荷台から顔を出してきたレネスに対してエルピスは言葉を返すが、青い顔に冷や汗を浮かばせながらも力強くレネスは頭を立て振る。
「いや大丈夫だ。さっきまでに比べれば随分とマシだな、心拍数の上昇を感じる程度だ」
「全能感が表に出たのかな? まぁ悪い傾向ではないね、これからどんどん良い方向の感情が出てくると思うよ」
「全能感はいい感情なのかァ?」
様々な感情を味わってきたレネスだが、どうやらこれから先は苦痛を感じるものは少ないらしくホッと胸を撫で下ろす。
それほどまでに感情を受け切るというのは難しいことで、だからこそわざわざニルは特殊技能までつかってゆっくりとレネスが慣れられるようにしたのだろう。
それから二時間ほど、整備されていない道を開拓しながらも順調に進んでいたエルピス達は、既に山の中腹を超えて七合目ありにまでやってきていた。
「エルピス様、仙桜種の里が見えましたよ」
厄介な魔物などがやってこないようにと、前に出て当たりを警戒していたフェルからそんな報告を受けてエルピスも目を細めてみれば確かに村のようなものが見える。
魔法によって隠されているのか認識しづらくはなっているが、一度その目で見て捉えてしまえばエルピスの目にはもうその魔法の効果も無くなっている。
とりあえずは目的地が見えたことに一安心しながらも、エルピスはしっかりと警戒を怠らない。
「悪いけど先導お願いできる? なるべくゆっくりね」
「お任せあれ。フェルを借ります」
「フィトゥスさん、そんな警戒しなくても襲ってこないと思いますよー?」
「念には念を押すんだよ」
意図を汲み取って警戒しながら辺りを索敵してくれている二人の悪魔は、エルピスにとって変えが効かないほどの存在になりつつある。
彼等ならば仙桜種に勝てるかどうかは怪しいところだが、絡まれたところでむざむざとやられるということはないだろう。
二人の姿が見えなくなり再びのどかな雰囲気が流れ始めると、アウローラが思い出したように疑問を投げかける。
「仙桜種って具体的にはどんな種族なんだっけ」
「私のようなのが大半だな。基本的には戦闘狂ばかりだが、中には生産職に身を捧げているものもいる」
「長い寿命の中でどんな建築様式が使用されているのか気になるわね」
「見れば分かるがそんなに良いものではないぞ、古臭い建築物の名残だけが遺産のように積み重ねられているだけだ」
アウローラの質問に対してレネスの言葉は自虐的だ。
全能感がその身を貫いているというのにそれほど言うということは、余程トラウマでもあるのか建築様式が気に入らないのか。
そうなってくるとエルピスとしては余計気になってくるところで、盗み聞きした内容が実際どんなものなのかとワクワクしながら足を進める。
「見えて来たぜェエルピス様、あそこが仙桜種の村だ」
「おぉぉぉ! おお? 微妙に反応に困るんだけど」
「建築様式混ざりすぎてどこの国かわかったもんじゃないな」
「俺知ってる。建築ゲーで何も考えずに建物作るとこうなるよ」
目の前に広がっている多数の建造物は、そのどれもが材質からして違ったものばかりである。
レンガでできた小さな小屋、石でできた誰が住むのかも分からない塔、かと思えば手前には和風の建築様式も見て取れるし奥には砂でできた家のようなものまである。
混沌ここに極まれり、好き勝手に家を建てればそりゃそうなるだろうと言わんばかりの結果であるが、創生神が作り出した生物がこれを作るというのなら納得はいく。
そんな仙桜種達の村には出入り口が一つしかないらしく、門のようなしきりこそないものの結界によって阻まれ他の道からの侵入は困難なようなのでエルピス達は堂々と真正面から村へと向かっていく。
結界の境を越えようかという程になると村の奥からこちらへ向かってくる人物の姿が見え、エルピス達は足を止めた。
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