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青年期:帝国編
事情説明
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エルピスが帝国に来て三日目。
ニルとのデートを終え二晩を帝国で過ごしたエルピスの元に、皇帝から直接従者がやってきていた。
全身を覆う金属鎧を身につけ、帝国直属の近衛の印を見せられたエルピスは丁度近くにいた手の空いていたレネスと共に会議の場に向かう。
「それでエルピス、今日の目標は一体何なんだい?」
「とりあえずはアルヘオ家の立場の確立ですかね。今だと便利屋として使い潰される可能性が高いので、僕がしっかりと権利の主張をする必要があるんですよ」
アルヘオ家は表向きは亜人種との橋渡しを行う家であり、こういった非常事態にはもちろん下がって自分たちの安全を確保しても良いはずである。
だがそもそもが英雄の一家、この世界の非常時に動かないという選択肢はない上にだからこその特権だって与えられている。
各国が貴族位をアルヘオ家に寄越しているのだって、万が一の場合守ってもらおうとしているからだ。
税もとる仕事も投げる挙げ句の果てには困ったら助けろと、これまた随分と面倒な立場にいるものだが、亜人が人の世界で暮らすのにはこれくらいの面倒事は必要になる。
「権利ねぇ……いっその事人の国なんか捨ててしまえば良いじゃないか。思い入れのある国だけ残して後は全部見捨てたほうが守りやすくもなる」
「帝国の近衛がいる前でそんなこと言わないでくださいよ師匠。送迎だけが与えられた仕事とはいえ、侮辱されれば切りかかってきますよ」
「そうなったら助けてくれるだろう? いや私が助けたほうがいいのかな?」
「そもそも攻撃されるようなことをしなければ良いんですよ。ただ確かに国の縛りは邪魔だなぁと思ってます、人口散らばりすぎなんですよ元々からして」
再三エルピスが口にする事ではあるが、この世界の人口密度はそれほど高くない。
敵の攻撃はまばらになるがその分防御もしにくいし、付け加えて言うのであれば被害の確認なども遅れてしまうだろう。
「ちなみに師匠なら何日かかります? 帝国滅ぼすのに」
「君さっき自分で攻撃されなければ良いって言っていた割には煽るね、まぁそうだね……単体なら一週間ちょい、仙桜種なら三日とかからずに消せるかな」
「思ってたより時間かかりますね」
「そりゃ殲滅するってなったらそれくらいかかるよ。帝国の端から探して行かないといけないからね、国としての機能を消すだけなら単体で二日か三日くらいじゃないか?」
仙桜種がやる気を出したら三日程度で消えるのが人間の国、そう考えるとよくこの世界は成り立っているものである。
人類含めてその他全ての種族が繁栄できているのは、最上位種族達の気分次第だと言えた。
一人で何千人も相手できるのだから当たり前といえば当たり前だが、そう考えるといよいよ人には危機感を持って欲しいものだ。
「よく人間生きてるな」
「それは確かに。近衛兵ならある程度は知っているんじゃないかい?」
「—―我等は剣と盾としての役割しか持ち得ません。ですが強いて言うのであれば、数ではないでしょうか」
「数……まぁ確かにそれはそうか」
「人は自らより弱く時には害になる虫を、今この時にまで絶滅させずに生きていきます。
それは虫の数が人からしてみれば無限に近い数であり、労力と結果のバランスが取れていないからです」
確かにそう言われてみれば今から人類を滅ぼすのには、多少の労力を必要とする。
人間だけで済むはずもなく、土地や周囲にも害を与えかねないその行為は下手をすれば他の種族にも喧嘩を売ることになるのだ。
ようは人を殺すことは容易いが、それをするほど労力を割く意味もメリットもないというだけ。
なんともまぁ不安定な計りの上に立つ世界だが、それで今まで生きてこれたのだから良いだろう。
「やってられないな本当に。何が王の会議だよ、俺関係ないし。軍略とか知らないし、昨日の夜アケナに教えられたこと言うだけだし……帰っちゃダメかなぁ。ダメだよなぁ俺アルヘオ家の長男だもんなぁ」
駄々をこねてみるが、ここにはエルピスの駄々を優しく受け止めてくれる存在などいない。
冷たい目線が周囲から刺さりゆっくりと腰を浮かすと、エルピスはその周囲の目線を気にしないように大きく伸びをした。
温かい目を向けられて優しくされるより、こうして冷たい目で見られるほうがエルピスとしてはやりやすい。
「会場に到着しました。行ってらっしゃいませ」
「じゃあ私はここで。行かなければいけない所があるので」
「付いてきてくれないんですか?」
「ここまで付いてきただろ」
近衛兵に見送られ、エルピスは今回急遽作られた会議場に向かっていく。
レネスは近場に用事があったので乗っていただけであり、特にエルピスの手伝いをしにきてくれたわけではない。
いつもふらふらとしてる彼女が人の会議に参加してもどうにかなるとはとてもではないがお前ないので、エルピスも本気でついてきてほしかったわけではない。
案内されるままにやたらと広い議場を歩き回り、やたらと装飾が豪華な重い扉を開けてみれば数多の眼光に突き刺され、重たい扉よりも重たくなった心を引きずりながら会場の中央へと移動する。
周囲を取り囲むようにして取り付けられた机には、王だけでなく書記や護衛なども存在し、数だけで言っても圧倒的だ。
全員を倒せとそう言われたなら何も気負うことはないが、家のためにこの場に来たとなると緊張はする。
「エルピス・アルヘオ殿、本日はご足労いただきありがとうございます。最高位冒険者として、そしてアルヘオ家の代理当主として立場ある責任での言葉を要求します」
上に立ってこちらを見下ろす人物の名はなんだったか、ここ数日短期間の間に名前を詰め込みすぎたせいで探すのに多少の時間がかかる。
各国の王達はそれぞれかなり席を空けて着席しており、エルピスが見上げた先にいるのが皇帝、左が盟主序列一位の共和国盟主、右は連合国の長に後ろには法皇代理。
まるで尋問にでもかけられそうな雰囲気だが、これから行われるのはただの質疑応答。
緊張するような事でもないと落ち着くエルピスは、こちらに向かって手を振るグロリアスに笑みを浮かべるほどの余裕がある。
「ええもちろん。私は全権代理として、我が家の権利を守り義務を果たすためにこの場所に来ました」
立場の確認を行ったエルピスに対して、各国の王達は不満気味だ。
エルピスだってわざわざ面倒なのをわかってこんな所にやって来ているのだ、茶の一杯でも出して欲しいのにまるで便利な道具のように扱われるのは不満もある。
黙ってうんうんと首を縦に振る小さな子供を想像していたのだとすれば、流石にいくらなんでも調べが甘すぎる。
四大国の王達は特に顔色を変えることも無く、それを許可だと受け止めたエルピスは改めて質問内容を反復する。
「理解してもらったと思ってよろしいですね? ……良いようなので質問に答えさせていただきます。
まず救護に向かう国の優先順位ですが、これはアルヘオ家が独自に決めさせていただきます」
まず最初にエルピスから彼らに伝えるべきはこれだ。
物資や人員が無制限でない以上は取捨選択は絶対、他の国に命じられて執事やメイド達を使い潰すつもりがない以上独自裁量権は認められて然るべきである。
だがこれに反発するのはもちろん賄賂を出せない程に小さな国の王達である。
賄賂を出せるほど裕福であればまだなんとかなるとタカを括れるだろうが、彼等はここに国の存亡をかけてやってきているのだから。
「それはあんまりだっ! 我がアスカルド王国の様な小国は後回しにするということか!?」
「国の大きさでは無く戦力の多さです。四大国の皆々様に置かれましては、私の力など必要無いほどの戦力を有しておられます。
もちろんある程度の援助は行いますが、それこそ小国から優先して戦力を分配させていただく予定です」
エルピスの返答に対してアスカルドの王は納得した様に頷くと、どっかりと椅子に座り直す。
謝罪の一つくらいしろよと言いたくなるがそれをこの場で要求する必要もなく、エルピスは四大国の王達の顔色を伺う。
この場の発言権は全員同等だと言っても優先順位は見えないところで存在し、学園で行われていた会議の延長線がここにあるとも言える。
帝国、法国は頷きエルピスに対して肯定的な意見を示し、連合国は無干渉、共和国に関しては思うところがあるのか苦笑いだ。
「では次に賃金の問題です。今回各国の王達は戦争に必要な物資を等価交換という形で埋めることになりました、ですがアルヘオ家からは食物も人員も果ては武器までも捻出していただけると言う。
それに際して必要な賃金がいくらなのか、それを国家間で平等に負担するためこの場でお話いただきたい」
食料は様々な地方で活動している森霊種を筆頭とした亜人種が、武具に関してはエルピスが一人で負担し、人員はアルヘオ家の出せる戦闘要員から選んだものだ。
その賃金が一体いくらになるのかと言うと、正直エルピスも計算出来ていないのが現状である。
食料に関しては正規価格で買い取って貰えば良いとして、では人員の適正価格は冒険者のレベルに合わせて払ってもらうとするか。
数千人単位の冒険者の活動は莫大な金銭要求され、それこそ国家がいくつか消えるほどの金銭すら必要になってくる可能性がある。
極め付けはエルピスの出す武具だ。
遥希達にも渡したあれは鍛治神の知恵を持って作られた武具、神が作り出した武具に人がそう易々と値などつけられるはずもない。
金をもらっても困るだけだし、それならばとここに来るまでに決めていた報酬を要求する。
「ではそうですね……土地を頂きましょうか」
エルピスの言葉に辺り一体は騒然とする。
当たり前だ、人類生存圏内はもはや国家が制圧した土地しか存在しない。
自らの国の土地が削られれば人が減り、農作物の生産量が減り、良いことなど一つもないといえる。
戦争によって奪われるのが嫌だから戦うと言うのに、その戦争の結果のいかんにしろ奪われるとなれば出し渋るのも当たり前だ。
「ほう……土地か。建国でもしようと言うのかアルヘオの息子よ」
「まぁ大体それであってます。亜人種の国は多いですが、同じくあぶれた亜人種や迫害されるハーフも多いですからね。そう言った人達の受け皿になる国を作るのも楽しそうです」
「と、土地の方は一体どこから……?」
「今回新規に獲得する領域の20%、その上に存在する人命資源も全て、もちろんその全て地続きの場所にしてもらいます。新たに土地を獲得する事が無ければ……まぁその時はその時ですね。」
なればこそエルピスは戦果を報酬として場に立とうではないか。
かつての英雄達はその戦果を手に入れようと動き、そして背中を撃たれて死んだものも少なくはない。
だが背中を撃たれてもエルピスなら何とかできる、そうして裏切り者を炙り出し人類にとっての悪を排除しよう。
「大きく出たな龍の子よ。なるほどおかしな話ではない、対価としても釣り合っている。良いだろう、人類の総意は別として帝国はその条件を承諾する」
こちらを見下しながらそう言う皇帝の冷たい目が、突き刺すようにしてエルピスに突き刺さる。
見下されているわけでも蔑まれているわけでもなく、単純に損と徳だけで行動しているが故にそういった印象を受けるのだろう。
皇帝の言葉に場は二分され、場は完全に報酬の減少を危惧して何か別の手を探すものと、アルヘオが参加しない事で被る自国の被害を照らし合わせ条件を飲むものに分かれる。
「ではお互いの前提条件のすり合わせも終わった事ですし、人類を代表する数々の王達よ。なんなりとお聞きください」
目標は無事達成された。
後は彼らの要望を聞き今後の計画を練るだけだ。
読み上げられる数々の質問に対して返事を用意しながら、エルピスはにやりと笑みを浮かべるのだった。
ニルとのデートを終え二晩を帝国で過ごしたエルピスの元に、皇帝から直接従者がやってきていた。
全身を覆う金属鎧を身につけ、帝国直属の近衛の印を見せられたエルピスは丁度近くにいた手の空いていたレネスと共に会議の場に向かう。
「それでエルピス、今日の目標は一体何なんだい?」
「とりあえずはアルヘオ家の立場の確立ですかね。今だと便利屋として使い潰される可能性が高いので、僕がしっかりと権利の主張をする必要があるんですよ」
アルヘオ家は表向きは亜人種との橋渡しを行う家であり、こういった非常事態にはもちろん下がって自分たちの安全を確保しても良いはずである。
だがそもそもが英雄の一家、この世界の非常時に動かないという選択肢はない上にだからこその特権だって与えられている。
各国が貴族位をアルヘオ家に寄越しているのだって、万が一の場合守ってもらおうとしているからだ。
税もとる仕事も投げる挙げ句の果てには困ったら助けろと、これまた随分と面倒な立場にいるものだが、亜人が人の世界で暮らすのにはこれくらいの面倒事は必要になる。
「権利ねぇ……いっその事人の国なんか捨ててしまえば良いじゃないか。思い入れのある国だけ残して後は全部見捨てたほうが守りやすくもなる」
「帝国の近衛がいる前でそんなこと言わないでくださいよ師匠。送迎だけが与えられた仕事とはいえ、侮辱されれば切りかかってきますよ」
「そうなったら助けてくれるだろう? いや私が助けたほうがいいのかな?」
「そもそも攻撃されるようなことをしなければ良いんですよ。ただ確かに国の縛りは邪魔だなぁと思ってます、人口散らばりすぎなんですよ元々からして」
再三エルピスが口にする事ではあるが、この世界の人口密度はそれほど高くない。
敵の攻撃はまばらになるがその分防御もしにくいし、付け加えて言うのであれば被害の確認なども遅れてしまうだろう。
「ちなみに師匠なら何日かかります? 帝国滅ぼすのに」
「君さっき自分で攻撃されなければ良いって言っていた割には煽るね、まぁそうだね……単体なら一週間ちょい、仙桜種なら三日とかからずに消せるかな」
「思ってたより時間かかりますね」
「そりゃ殲滅するってなったらそれくらいかかるよ。帝国の端から探して行かないといけないからね、国としての機能を消すだけなら単体で二日か三日くらいじゃないか?」
仙桜種がやる気を出したら三日程度で消えるのが人間の国、そう考えるとよくこの世界は成り立っているものである。
人類含めてその他全ての種族が繁栄できているのは、最上位種族達の気分次第だと言えた。
一人で何千人も相手できるのだから当たり前といえば当たり前だが、そう考えるといよいよ人には危機感を持って欲しいものだ。
「よく人間生きてるな」
「それは確かに。近衛兵ならある程度は知っているんじゃないかい?」
「—―我等は剣と盾としての役割しか持ち得ません。ですが強いて言うのであれば、数ではないでしょうか」
「数……まぁ確かにそれはそうか」
「人は自らより弱く時には害になる虫を、今この時にまで絶滅させずに生きていきます。
それは虫の数が人からしてみれば無限に近い数であり、労力と結果のバランスが取れていないからです」
確かにそう言われてみれば今から人類を滅ぼすのには、多少の労力を必要とする。
人間だけで済むはずもなく、土地や周囲にも害を与えかねないその行為は下手をすれば他の種族にも喧嘩を売ることになるのだ。
ようは人を殺すことは容易いが、それをするほど労力を割く意味もメリットもないというだけ。
なんともまぁ不安定な計りの上に立つ世界だが、それで今まで生きてこれたのだから良いだろう。
「やってられないな本当に。何が王の会議だよ、俺関係ないし。軍略とか知らないし、昨日の夜アケナに教えられたこと言うだけだし……帰っちゃダメかなぁ。ダメだよなぁ俺アルヘオ家の長男だもんなぁ」
駄々をこねてみるが、ここにはエルピスの駄々を優しく受け止めてくれる存在などいない。
冷たい目線が周囲から刺さりゆっくりと腰を浮かすと、エルピスはその周囲の目線を気にしないように大きく伸びをした。
温かい目を向けられて優しくされるより、こうして冷たい目で見られるほうがエルピスとしてはやりやすい。
「会場に到着しました。行ってらっしゃいませ」
「じゃあ私はここで。行かなければいけない所があるので」
「付いてきてくれないんですか?」
「ここまで付いてきただろ」
近衛兵に見送られ、エルピスは今回急遽作られた会議場に向かっていく。
レネスは近場に用事があったので乗っていただけであり、特にエルピスの手伝いをしにきてくれたわけではない。
いつもふらふらとしてる彼女が人の会議に参加してもどうにかなるとはとてもではないがお前ないので、エルピスも本気でついてきてほしかったわけではない。
案内されるままにやたらと広い議場を歩き回り、やたらと装飾が豪華な重い扉を開けてみれば数多の眼光に突き刺され、重たい扉よりも重たくなった心を引きずりながら会場の中央へと移動する。
周囲を取り囲むようにして取り付けられた机には、王だけでなく書記や護衛なども存在し、数だけで言っても圧倒的だ。
全員を倒せとそう言われたなら何も気負うことはないが、家のためにこの場に来たとなると緊張はする。
「エルピス・アルヘオ殿、本日はご足労いただきありがとうございます。最高位冒険者として、そしてアルヘオ家の代理当主として立場ある責任での言葉を要求します」
上に立ってこちらを見下ろす人物の名はなんだったか、ここ数日短期間の間に名前を詰め込みすぎたせいで探すのに多少の時間がかかる。
各国の王達はそれぞれかなり席を空けて着席しており、エルピスが見上げた先にいるのが皇帝、左が盟主序列一位の共和国盟主、右は連合国の長に後ろには法皇代理。
まるで尋問にでもかけられそうな雰囲気だが、これから行われるのはただの質疑応答。
緊張するような事でもないと落ち着くエルピスは、こちらに向かって手を振るグロリアスに笑みを浮かべるほどの余裕がある。
「ええもちろん。私は全権代理として、我が家の権利を守り義務を果たすためにこの場所に来ました」
立場の確認を行ったエルピスに対して、各国の王達は不満気味だ。
エルピスだってわざわざ面倒なのをわかってこんな所にやって来ているのだ、茶の一杯でも出して欲しいのにまるで便利な道具のように扱われるのは不満もある。
黙ってうんうんと首を縦に振る小さな子供を想像していたのだとすれば、流石にいくらなんでも調べが甘すぎる。
四大国の王達は特に顔色を変えることも無く、それを許可だと受け止めたエルピスは改めて質問内容を反復する。
「理解してもらったと思ってよろしいですね? ……良いようなので質問に答えさせていただきます。
まず救護に向かう国の優先順位ですが、これはアルヘオ家が独自に決めさせていただきます」
まず最初にエルピスから彼らに伝えるべきはこれだ。
物資や人員が無制限でない以上は取捨選択は絶対、他の国に命じられて執事やメイド達を使い潰すつもりがない以上独自裁量権は認められて然るべきである。
だがこれに反発するのはもちろん賄賂を出せない程に小さな国の王達である。
賄賂を出せるほど裕福であればまだなんとかなるとタカを括れるだろうが、彼等はここに国の存亡をかけてやってきているのだから。
「それはあんまりだっ! 我がアスカルド王国の様な小国は後回しにするということか!?」
「国の大きさでは無く戦力の多さです。四大国の皆々様に置かれましては、私の力など必要無いほどの戦力を有しておられます。
もちろんある程度の援助は行いますが、それこそ小国から優先して戦力を分配させていただく予定です」
エルピスの返答に対してアスカルドの王は納得した様に頷くと、どっかりと椅子に座り直す。
謝罪の一つくらいしろよと言いたくなるがそれをこの場で要求する必要もなく、エルピスは四大国の王達の顔色を伺う。
この場の発言権は全員同等だと言っても優先順位は見えないところで存在し、学園で行われていた会議の延長線がここにあるとも言える。
帝国、法国は頷きエルピスに対して肯定的な意見を示し、連合国は無干渉、共和国に関しては思うところがあるのか苦笑いだ。
「では次に賃金の問題です。今回各国の王達は戦争に必要な物資を等価交換という形で埋めることになりました、ですがアルヘオ家からは食物も人員も果ては武器までも捻出していただけると言う。
それに際して必要な賃金がいくらなのか、それを国家間で平等に負担するためこの場でお話いただきたい」
食料は様々な地方で活動している森霊種を筆頭とした亜人種が、武具に関してはエルピスが一人で負担し、人員はアルヘオ家の出せる戦闘要員から選んだものだ。
その賃金が一体いくらになるのかと言うと、正直エルピスも計算出来ていないのが現状である。
食料に関しては正規価格で買い取って貰えば良いとして、では人員の適正価格は冒険者のレベルに合わせて払ってもらうとするか。
数千人単位の冒険者の活動は莫大な金銭要求され、それこそ国家がいくつか消えるほどの金銭すら必要になってくる可能性がある。
極め付けはエルピスの出す武具だ。
遥希達にも渡したあれは鍛治神の知恵を持って作られた武具、神が作り出した武具に人がそう易々と値などつけられるはずもない。
金をもらっても困るだけだし、それならばとここに来るまでに決めていた報酬を要求する。
「ではそうですね……土地を頂きましょうか」
エルピスの言葉に辺り一体は騒然とする。
当たり前だ、人類生存圏内はもはや国家が制圧した土地しか存在しない。
自らの国の土地が削られれば人が減り、農作物の生産量が減り、良いことなど一つもないといえる。
戦争によって奪われるのが嫌だから戦うと言うのに、その戦争の結果のいかんにしろ奪われるとなれば出し渋るのも当たり前だ。
「ほう……土地か。建国でもしようと言うのかアルヘオの息子よ」
「まぁ大体それであってます。亜人種の国は多いですが、同じくあぶれた亜人種や迫害されるハーフも多いですからね。そう言った人達の受け皿になる国を作るのも楽しそうです」
「と、土地の方は一体どこから……?」
「今回新規に獲得する領域の20%、その上に存在する人命資源も全て、もちろんその全て地続きの場所にしてもらいます。新たに土地を獲得する事が無ければ……まぁその時はその時ですね。」
なればこそエルピスは戦果を報酬として場に立とうではないか。
かつての英雄達はその戦果を手に入れようと動き、そして背中を撃たれて死んだものも少なくはない。
だが背中を撃たれてもエルピスなら何とかできる、そうして裏切り者を炙り出し人類にとっての悪を排除しよう。
「大きく出たな龍の子よ。なるほどおかしな話ではない、対価としても釣り合っている。良いだろう、人類の総意は別として帝国はその条件を承諾する」
こちらを見下しながらそう言う皇帝の冷たい目が、突き刺すようにしてエルピスに突き刺さる。
見下されているわけでも蔑まれているわけでもなく、単純に損と徳だけで行動しているが故にそういった印象を受けるのだろう。
皇帝の言葉に場は二分され、場は完全に報酬の減少を危惧して何か別の手を探すものと、アルヘオが参加しない事で被る自国の被害を照らし合わせ条件を飲むものに分かれる。
「ではお互いの前提条件のすり合わせも終わった事ですし、人類を代表する数々の王達よ。なんなりとお聞きください」
目標は無事達成された。
後は彼らの要望を聞き今後の計画を練るだけだ。
読み上げられる数々の質問に対して返事を用意しながら、エルピスはにやりと笑みを浮かべるのだった。
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