クラス転移で神様に?

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青年期:クラスメイト編

嫁作り

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「結婚かぁ……」

 机の上に置かれた紙を眺めながら、ルークはペンを指先で弄ぶ。
 新たな兵士の雇用、その訓練から対亜人用の訓練環境の整備、新しい装備の開発にその資金の捻出。
 王国の兵士達を纏める存在として、いまのルークにはするべき事が大量にある。
 結婚などしている暇があるのかと聞かれれば正直ないのでもう少し後でもいいと思うのだが、しかし国王であるグロリアスから直々の指示となればしないわけにもいかない。
 王国には許嫁になるような相手型の国が無いので自力で探すしかないわけだが、ルークはいままで出会いというものが本当にない人生を送ってきたので、女性経験も殆どなく誰と付き合えば良いのかすらわからない。
 現状において言えばルークは国外に嫁を作るべきだろう、その方がこれから先他国と交渉することが多くなるであろう現状の王国にとって外交的にも良い面が多い。

「アウローラの演説があったのが一週間前。届いた書類がこれだけ、結婚なんてしてる場合じゃないよなぁ」

 目の前に積み上げられた書類の束を眺めていると、そんな外交的な話すらどうでも良く思えてしまうのは悪い事なのだろうか。
 アウローラの演説が他のどの国よりも早かったおかげで王国の支持率は少しながら右肩上がりを見せているが、その分発表が遅れてしまった近隣諸国は国民に対しての不安感を強く煽ってしまった形になり、軽い暴動なども起きているようである。
 ルークの元に届いたのはそんな暴動を『お前んとこが勝手に早足で発表したからこうなってんだ、どうにかしろ』という内容の手紙ばかりである。
 机の上に今まさに散乱しているのがそれだ。

「兄さんも大変そうだねぇ。入るよー」
「お疲れアデル。そっちの方は進捗どうだ?」
「からっきしだよ。設備も整ってなければ人員もいない、あるものと言えば資金と時間くらいかな。それもいつまでもあるわけじゃないし」
「やっぱそんな感じか。そこにある書類読んでいいぞ、後で渡そうと思ってたやつだから」
「ん、分かった」

 軽く木製の音を響かせながら部屋にトコトコと入ってきたのは、研究員特有の制服に身を包むアデルだ。
 胸元には研究所の所長しか付けることを許されていない梟のペンダントが取り付けられており、アデルがここ数日で局長としての責務を務めているその違和感のなさから窺える。
 アデルの手にいま握られている書類は、今後行われる可能性のある戦争で、戦術級以上の魔法の取り扱いについて四大国主導の元決められた条件についての物だ。
 書かれている内容としては使用する場合の領土問題や、周囲の状況についてなど国家間で問題になりそうなことの対処法が殆どである。

「うっわ、これめんどくさ! 権利関係書類に署名になにこれ注意書き書? こんなもん貼ってどうするのさ個人で使うのなんてうちの国数人しかいないのに」
「その個人に対して名指しで命令していないって言い訳作りのために、向こうは向こうで気を使ってくれたのさ。とりあえずうちは気を使う必要もないし、必要な人だけに配っとこうか」
「エルピスさん文句言いそうだねぇ」
「あの人普段使いで戦術級使うからなぁ……まぁ黙認するか」

 どうせ報告書は騎士団長であるルークの元に上がってくる、その時に見て見ぬ振りをすればいいだけである。
 現にエルピスがこの国にやってきてから既に八回の戦術級以上の魔力反応を受け取っており、ルークが毎回上がってくる報告書を握りつぶしているので慣れた物だ。 
 王国の領土内において戦術級魔法以上の使用はリアルタイムで感知され、報告されるようになっている。
 最近ではエルピスの魔素を記録して位置を把握し、その付近での魔法発動は黙認するように指示も出されているのは、王国内部でもトップシークレットだ。

「そういえば兄さん結婚はどうするの? グロリアス兄さんから話は聞いてるけど」
「それをどうしようか今悩んでたんだよ、なにしろうちの国そう言うの文化としてないから考えてすらなかったんだよな。もちろん結婚はするつもりだけどさ」

 ムスクロルには二人の嫁がいたが、そのどちらもが恋愛結婚によってできた嫁である。
 別にルークとしては恋に憧れを抱いているわけでもないので、それ自体は問題ではないのだが、見知った人物の中にそう言った家の為に結婚している人物達がいないので、参考にすらできないのだ。
 相手に求めるべき最低のライン、それがどこなのか見極める必要がルークにはあった。

「婚約相手はどうするの? 帝国の霧の令嬢にアタックしてみる?」
「あれ男だぞ」
「えっ!? うっそ!! この前友達に告白してこいって背中押しちゃったんだけど」
「友達と同じ相手を俺に勧めるな。それなら共和国の岩の宰相を嫁にした方がマシだ」
「あの人こそ男でしょ!? この前学園で会ったけど見た目完全に性濁豚だよ!?」
「おまえ口が裂けてもぜってぇ言うなよそれ!」

 霧の令嬢とは帝国で剣術指南を行なっている剣聖祭出場経験もある凄腕の剣士で、岩の宰相とは共和国の中にある小国の王家の血筋を引く者で軍略に秀でた宰相だ。
 両方軍事に関わっている人物が選出されているあたり、やはりルークの嫁は軍略に秀でたものしか務められそうにない。

「まぁまぁ。それにしても兄さんが結婚する相手かぁ……強い人が良いよねぇ絶対。甥っ子の訓練僕が付けてみたいし」
「俺も弱い人よりは強い人の方が良いな。出来れば一騎打ちできるくらいの人がいい」
「兄さんと一騎打ち? アウローラさんクラスじゃないと無理でしょ」
「勝つか負けるかの話したらな。俺の前に立てる勇気さえ有ればそれでいいよ」

 ルークの戦力は冒険者組合の基準に直せば、オリハルコン上位くらいが妥当な所だろうか。
 戦術級魔法が使用できる点を加味すれば最高位冒険者の一歩手前であるヒヒイロカネに分類しても良いところだが、ルークの場合はルーク以外の他の王族の魔法使用リソースを大幅に使用させてもらってようやく撃てるものなのでないものと考えた方が良いだろう。

「世界会議の場で婚約者探すのが一番現実的そうだな」
「それもそうだね。誰か! お茶頂戴」

 現実的な案を出したルークに対して頷くと、アデルはお菓子で乾いた喉を潤す為に少し声を張り上げる。
 王族が喋っている最中は基本的にメイドは外に出て、一応話は聞いていないと言う体で外に立っている。
 そんなメイドに対して水を要求する弟の姿を見ながら、そう言えば学園に誰かいい人物はいなかったかと、ルークは頭の中で一度覚えた生徒達の一覧表を探り始めた。
 しかし数年しか年は離れていないとは言え、いまこの時ですら学生服に袖を通す女子に対して、ルークが何か思うところはない。
 そんな事を考えているとメイドによって、ルークとアデル両方の机に紅茶が並べられる。

「ありがと。おいしょっと、んー、まっず。兄さん飲まない方が良いよ毒入ってる」
「お、お戯れを」

 さもそれが当然のことであるかのようにそう言ったアデルの言葉を聞いた瞬間、茶を持ち込んだメイドの顔が一瞬青くなり、そして数瞬の間も持たせずに腰から武器を引き抜く。
 柔らかそうに見える腰に取り付けられていたリボンは、鍛え抜かれた力と真っ直ぐとした魔力を通わせれば即席の剣にはなり得る。

「ーーッ!」

 王国ではあまり使用されない暗殺術にも近いその剣技は、王国から少し離れたところにある小さな国の暗部が得意としている技だ。
 研ぎ澄まされ鍛え抜かれた一撃なのだろうが、とはいえエルピスやアルキゴスと戦闘訓練で目を鳴らしているルークからしてみればその抜刀は始まりからしてすでに遅い。

「〈捕縛〉。おいアデルもうちょっと毒飲んだなら焦るならなんなりしろよ」
「大丈夫なタイプのやつだよこれ。ほぉれよりひいさん、んっ。捕縛上手くなったね」
「食いながら喋るなよ、どうせそれも毒入ってるんだろ?」
「もちのろん!」

 グロリアスを始めとして、ヴァンデルグ家の人間は全員毒に対しての強い体制を生まれながらに保持している。
 窟暗種ダークエルフなどが使用する呪いを含んだ毒でもない限りは、こうして大抵の場合ただの苦味で終わってしまうのだ。
 とはいえアデル程の毒に対しての耐性を持っていないルークからしてみれば、目の前の紅茶は下痢を引き起こす嫌な飲み物に変わりはない。

「プロムス、こいつ持っていって」

 ルークが手を軽く叩けば、扉を開けて一人の青年が入ってくる。
 エルピスとも戦闘を共にした事のあるこの国最高戦力の一人、近衛兵であるプロムスだ。
 金色のショートカットに彼特注の拳鍔は、話に聞いただけで彼自身を見たことがなくとも、誰か分かるほどには有名人である。

「はいはいっと。だから付き人つけておけとあれほど言ったのに、良くないですよこういうのは。こんなコソコソしてる奴だから良いものの強い奴だったらどうするんですか」
「強い奴がいたらうちの王様が弾いてるよ、それにさすがに丸腰の敵なら負けないよ、これでも近衛兵目指してるんだからさ」
「それも確かにそうですね。応援してますよ、それでは」

 軽口を叩きながら部屋の外へと出ていくプロムスには、ルーク以上の強者としての落ち着きが見られた。
 現近衛兵所属のプロムスにそんなことを言われると、必死になって近衛兵を目指すルークとしては正直むず痒いものがある。

「これはプロムスの言う通り本格的に防衛を固めないとまずいかなぁ……さっきのが始まりだとするとこれからどんどんくるだろうし」

 人類は四大国主導の元、通常時でも亜人という強大な政略に対抗するべく一致団結しようというお題目で表面上の戦争なぬ探しているが、実際のところは超実力者達のタイマン代理戦争で権力を決めている背景が大きい。
 そんな中で今回の事件が発生し、タイマンは現在の国の情勢を鑑みれば不可能になり、また自らの国の貴族の息子だけでなく王族の一人息子が死んだ国もある。
 そんな国の王族や貴族からしてみれば、貴族にこそ被害は出たものの王族のだれも傷ついておらず、またエルピスという強大な後ろ盾がある王国は目の上のたんこぶだ。
 出来る限り早く、それでいて確実に排除したいと考えるのはルークも軍人だから理解できる。

「とりあえず魔法の研究の方は人員の育成から始める。兄さんはエルピスさんに頼んで亜人の人を外部講師として呼んでもらう、それで大丈夫そうかな?」
「外部講師として呼んでもらうって簡単にいうが、それ頼み込むの誰だと思ってるんだ」
「もちろん兄さんでしょ。自分のことなんだからそれくらいは自分でやってよ、それにエルピスさんだって今回のことで責任感じてるはずだから、それほど気にしなくてもいいとおもうよ」

 アルヘオ家は多種多様な亜人族が住まう、言わば亜人の宝庫である。
 アルヘオ家の協力があれば、確かに様々な種類の亜人族との戦闘訓練を行うことが可能であろう。
 ただ一つ問題点として、攻めてくる亜人種とその戦闘訓練に協力してくれる亜人種が同一の存在だとして不快感を感じないかというところだ。
 人間だってもし人間の対策のために戦闘訓練をしてくれとお願いされ、それの効果によって自らの同胞である人間が殺められていればたとえ悪人であろうとも思うところはあるだろう。
 そう言ったところを考えれば、その事実をメイドや執事に押し付ける役目になってしまうエルピスに頼み込むのは、非常に難しいところである。

「……分かった、一先ずそれで行こう。兄さんの世界会議も近いしな」
「よしきまりっ!」

 腹を括って発したルークの一言に、アデルは待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。
 世界会議とは王国含め人類生存圏と呼ばれるこの人の世界に存在するすべての国の王が召集され、緊急事態に対しての事象を話し合う会議である。
 ルークの嫁探しもそこで同時に行ってしまえば都合がいいだろう。
 物事は何よりも効率だ。
 これから先忙しくなっていくであろう自分の生活を思いながら、ルークは大きく背伸びをするのだった。
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