クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期:クラスメイト編

分かれ道

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 戦闘が終わればいつだって始まるのはその後始末である。
 犠牲者の数は教員生徒その他含めて2284人。
 この学園は一学年につき8つのクラスが存在し、一クラスあたりの数は80名が限度である。
 80名が8クラスで640名、学年は6年までなので生徒だけで総勢3840名、教師はおよそ500名ほどなのでその他の犠牲もかんがみれば学園の役半数ほどが犠牲になったということだ。
 王族貴族の子孫たちが数多くいるこの学園に置いてこの犠牲者の数は致命的であり、人類はこれから困難に間違いなく直面する。
 加えて亜人に殺された者達はまだ死体としての原型を残しているが、最初の砲撃で殺されてしまった者達は見るも無残な者で遺族の前に出すわけにも行かない。
 生徒達にさせるにはあまりに酷い作業、気を使ってエルピスは誰もこちらに戻ってこないように転移を遅らせていたのだが、そんな中自力で転移魔法を使用してこちらにやってくる者達が居た。

「エルピス様、私達にも手伝わせてください」
「よくここまで転移できた……ってほとんど魔力空じゃんか! そんなに無理しなくても」
「私達は人々を守る盾であるべき者達、その盾の役目すらも満足に終えることのできなかった身ですが、せめて戦後のお手伝い程度はさせてください」

 エルピスの目の前に現れたのは、白を基調とした法国式の制服を着用した生徒達だ。
 人に王国からこの学園へと直接転移できるほどの力はない。
 それは超優秀であるとされるこの学園の生徒であろうと同じで、おそらくは何度かの転移に分けて無理やりここに来た彼等は、既に魔力の欠乏症状を起こすほどに疲弊していた。
 人によって症状は様々であるが、重度の魔力欠乏症は血管の破裂や臓器へのダメージなど明確に寿命を減らすものも多い。
 そんな中で彼等が先程エルピスに切りかかったあの亜人達と同様の目をしているのは、一重に自らの信仰する神を信じているからか。
 そんな彼らに対してエルピスに出来ることは周囲の魔力濃度を上げて、少しでも彼等の魔力量の自然治癒力を上げることだけだった。

「分かった、遺体は開けた場所に全て置いてある……区別が付くものだけだけどね。身元の照らしを合わせ任せた、俺は原型保ってない方の供養をしてくる」

 指示だけ出すとエルピスは足早にその場を退散する。
 向かった先は元は図書館があった場所、今は瓦礫の山になってしまったその場所を魔法を使って綺麗にする。
 大量に飛び散った肉片の掃除方法、それは至って簡単で魔法による条件指定での転移を行う事だ。
 転移魔法は優れた術者であるほど転移させる対象物への条件指定を行うことができ、例えば人か否か、質量はどれほどかなど様々な条件を決めることが可能なので、島全体に生命活動を行っていない人類種のエルピスが昼間感じていた気配の人物のみを転移させれば学園の関係者だけを飛ばすことができる。

「一体何人分なんだこれ」

 召喚の光とともにエルピスの目の前に現れたのは、小さな山を思わせるほどの人の肉。
 目や鼻などの元は人のものだと分かるものから、臓物などの他の生物と区別があまりつかないものまで。
 下の方のものは押しつぶされ血を辺りに撒き散らしており、転移で集めるのは失敗だったかとエルピスもその悲惨な光景に少し吐き気を催す。
 それをなんとか抑えてゆっくりと神経を集中させると、エルピスの手のひらに小さな火球が現れた。

「神聖魔法〈聖火〉」

 その火球はめらめらと小さいが力強く燃えながら遺体の山の中に入っていくと、一気にその肉を燃やし始める。
 人間の死体はこの世界においても一般的な葬儀方法は火葬である。
 火は何も付加していなくとも少しながらの神聖属性を有しており、一般人の遺体であればアンデット化などの問題なく焼却することができるからだ。
 だがこの学園にいた生徒達は全て文武両道の才ある者達ばかり、ただの火葬では肉体に残る魔力によってアンデットになってしまうことだろう。
 そこでエルピスが使ったのは〈聖火〉と呼ばれる神聖属性に分類される魔法で、この魔法は対象の魔力を糧として燃え続けるのでしっかりと遺体を焼却することができる。
 瓦礫の一つに腰を下ろすと、どこからかニルがやってきてエルピスの隣に座った。

「お疲れ様エルピス、知り合いは死んでなかった?」
「凄いこと聞くなニル……誰も死んでなかったよ。元々知り合いも少なかったしね、同じクラスの人達は強いから初撃も防いでたみたいだし。ニルの方はどうだった?」
「僕の方は二人。姉さんは丁度近くに居たから0だけどエラとアウローラの方は多分結構死んでるんじゃないかな」

 そう言ってエルピスの隣に座ったニルからは、おおよそ悲しみという感情を感じ取ることもできない。
 人相手に対して悲しみを抱いてほしい思いと、人でないニルにそれを強要する意味を考え、エルピスは無駄な事かと判断を切り替える。
 エルピスだって昔飼っていた犬が死んだ時は悲しかったが、一月もすれば悲しみも薄れてしまっていた。
 飼っていた犬ですらそれだったのだ、ニルからすれば道端で死んでいた野良犬を哀れむのとそう大差ない感情なのだろう。

「死んだ人間を生き返らせることは出来ないんだよな?」
「そうだね。この世界じゃない別の完成された一つの世界なら出来るだろうけど、この世界だと向こうの世界に魂が飛んで行っちゃうから出来ないね」
「……そっか、ありがと」
「蘇生させたい人でもいたの?」
「いや、居ないけどさ。敵が来るのを分かっていたのに守れなかった不甲斐なさを、なんとかして解消できないかと思って」

 今目の前で青白い火に燃やされている彼等は、言ってしまえばエルピスの手の外にいた人物達である。
 救える命と救えな命があることをエルピスも理解しているつもりではあるが、傲慢にも神である自分ならば守れて当然の人物達でもあったとエルピスは思って居た。
 一応エルピスの名誉の為に言っておけば障壁の設置、怪しい者達の捕縛、弱い生徒は強い生徒の近くに行くよう少しずつではあるが誘導なども行っていたのだ。
 何もしていなかったわけではないが、後悔はいつだって無遠慮に襲い掛かってくるものである。
 前回は人間に直接害を及ぼす生物が多かったので考えてもいなかったが、科学技術を使用してくるとは未だにエルピスも少し引っ掛かりを覚えていた。

「一つ疑問があるんだけど、答えを知っていなくても良いから聞いてくれない?」
「何でも話してよ僕はエルピスの、あのー、あれ、恋人なんだよ? どんな話でも真摯になって聞いてあげる」
「自分で言いながら照れないでよ。こっちまで恥ずかしいじゃん」

 恋人という言葉を自分から発するのに顔を真っ赤にしたニルの姿を見ながら、そう言えば彼女もまた狂愛を司る神だったことを思い出す。

「それでどうしたの?」
「いやさ、今回敵は飛行する船に海の中を進む戦車、超長距離の転移門まで用意してきたわけだけど、それを一体どこから持ってきたのかと思ってさ」

 この世界でも飛行艇と呼ばれる空を進む船は存在するし、海の中を進む戦車はどうか分からないがら海の中を進める馬車も一応存在はする。
 だが超長距離の転移門を使用している国はエルピスの知る限り存在していないし、戦車やまして爆発する砲弾を使用している国など亜人の国ですら知り得ない。
 鉄の砲弾を放つ武装はこの世界においても攻城戦向けの装備として一般にも流通しているが、その後大規模な爆発を魔法によってでは無く火薬によって発動させる物は無かったはずである。
 
 もちろん同級生達はエルピスと同じ日本の生まれ。
 知識としてそう言った兵器があることは歴史の授業なので知っていることに対して違和感はない。
 ならばエルピスが何にそこまで驚いているのかと言われれば、それを再現できた技術力。
 エルピスの様に鍛治神の力を持っていれば何であろうと簡単に作り出す事ができるが、そうでないならばその物体について詳しく知っている必要がある。
 地道にこの世界に来てから何度か実験を重ねても出来ないことは無いだろうが、そもそもこの世界の物理法則が日本と同じという保証もない。
 実験に実験を繰り返した結果この技術を生み出したのだとすれば随分と前から大規模に用意されていたはずであり、誰かが裏で資金と技術と場所を提供したはずである。
 人類が間違いなく暗い時代に到達することを分かっていながらなぜこんな事をするというのか。
 そこまでは考えたところで分かるはずもなく、エルピスは頭を悩ませる。

「一番あり得る話としては技能で生み出した物なんじゃないかな、時間をかければあれくらいの物は作れるだろうし」
技能スキルか……雄二に持っていかれた技能スキルの内にそんなのがあったかもしれないな」
「何を持ってかれたの?」
「大半は鍛治とか魔法に関する物だね。魔法に関してはもう元通りだし鍛治も後でこの刀打ち直す予定だから治るとは思うけど」
「これを機に僕も新しい技能スキル獲得してみよっかな、姉さんから力を借りてたのにちょっと攻撃もらっちゃったし」

 そう言えばエルピスの援護に来た時、ニルはほんの少しではあるが傷を負っていた。
 ニル、セラ、アウローラ、エラ、灰猫、フェルには万が一でも即死しない様に神級魔法ですら防げる程の障壁をエルピスが邪神の権能を用いて展開している。
 だと言うのに傷を負ったのは防御無効系の敵がいた事の証明だろう。
 ニルほどの実力者に攻撃を当てた時点でかなり驚きだが、もうこの世界にいない人物の事を長く考えられるほどの余裕はいまのエルピスにはない。

「ニル、戻ってきた学生達に説明をしておいて。私には少し難しいから」
「姉さん戦場に立ってる時はあんなにハキハキ喋れるのに、普段だと人前に立つの苦手だよね。よっと、それじゃあエルピス行ってくるね」
「行ってらっしゃいニル。……それでどうしたんだセラ」
「まだ話があるとは言っていないのだけれど、エルピスも私の事が分かる用になって来たのね」
「そりゃ好きな子の事は理解しようと頑張るよ」

 隣に座るセラに目立った外傷は無く魔力量などもエルピスが賄っていたので、ほとんど疲労している様子もない。
 単純な戦闘の巧さの現れだと思うがセラを見ていると、指も動かせないほどに疲労した自分が少し恥ずかしい。

「そう、それは嬉しいわ。まぁ詳しい話は本人から聞いた方が早いでしょうし、少し魔力を借りるわね?」
「良いけど一体誰をーー」

 そこまで言いかけてエルピスは疲労に膝をつく。
 少し魔力を持っていく、とセラは言ったが少しどころの量ではない。
 エルピスが今日使用した魔力全てを持ってもお釣りが来るほどの圧倒的な消費量、魔神の無尽蔵に溢れ出る魔力はこの世界のリソースから作り出している物であり、それを使用するのにはエルピスの精神をかなり使用する。
 そんなにも膨大な魔力を使用して一体何をするのかと思えば、セラは杖を持った右手で軽く空間に人が一人入れる程度の丸を描く。

「ほらおいで、私の可愛い弟」
「ーーーーちょ、姉さん痛い首絞まってっ! うわぁぁっ!?」

 セラが黒い空間に手を入れると、エルピスも見知った人物が飛び出してくる。
 現れたのは初めて会った時と同じ衣装に身を包むローム、どうやら苦労性は治っていない様でこの世界よりも上位の神であると言うのに目の下には熊ができており、乱れた髪からは随分と疲れている事が伺えた。
 思い出せばいまセラが使用していたあの魔法は、あの白い空間から移動する時にセラが使用していたものと同じだ。
 まさかあれ程の魔力を使う魔法だったとは思ってもいなかったが、あの時のセラは今のセラよりも随分強そうだったので余裕を持って今の魔法を使っていたのも納得できる。

「まったく人使い荒いんだから……というか姉さん随分若いね今いくつ?」
「16ってところかしら、持ってこれた力が10歳分エルピスが称号を三つ解放してるから一つあたり2歳加算で全部解放できたとして22だから……全盛期まで3歳分足りないわね」
「戦神としての側面まで足したらそりゃ足りないさ、姉さんも自分で神の称号取らないとね。それで本題なんだけど……エルピスさん大丈夫ですか?」
「あ、うんいいよ。25のセラ想像しててトリップしただけだから」

 25歳というと初めて会った時のセラと同じくらいの見た目だろうか、あの息をするのさえ忘れてしまう美を思い出しエルピスの思考が止まっているとロームから声がかかる。
 その声に対して少し焦り気味に返事しながらも、エルピスの頭の中はこちらを見て微笑むセラの事でいっぱいだ。

「それでなんですが先程エルピスさんが戦った相手についての情報です」
「ーーやっぱり死んでなかった?」
「話が早くて助かりますね。正確には死んでいるんですがこの世界に死んだ瞬間転生しています」

 この世界に転生することももちろんできない事はない、魔力さえあればこの世界に自分の魂を繋ぎとめ今一度復活することも可能ではある。
 雄二が数人程度しか同級生を連れてこなかった時点で怪しんでいたが、あいつはこうなる事を予見した上で計画を立てていたのだろう。
 この世界を混乱に陥れるという雄二の第一目標は初撃によって無事なされているし、目の前で今もなを燃えている肉の山がその証明でもある。
 だとすれば残されたクラスメイトの動向とおそらくは雄二に協力している人間の事が気にかかるが、さすがにどこにいるかも分からないどこかの誰かを探し出す力はエルピスにもなかった。

「自らの死を受け入れてまでこの世界を破滅に導こうとは、中々面白い事を考える人間ね」
「ん? 転生したわけだから死んでないし別に覚悟の上だったんじゃないの?」
「貴方の場合は器に自我が産まれるまえだから貴方のまま生まれてこれたのよ……まぁ本当はその体元から魂が入っていなかった様だけれど。この世界に転生するとして、転生先はおそらくその雄二とやらと波長の合う似たような人物に乗っ取る形で転生する事になるはず。そうなると記憶だったり自我だったりが混ざるから一人の人物としては死ぬと言っても過言じゃないと思うわよ」

 どこまでが自分でどこまでが他人か。
 意見が分かれるところではあると思うのだが、セラの判断としては転生したとして雄二はもう雄二では無くなっているらしい。
 セラの判断としてはと言ったがエルピスもその話を聞いた後では同じことを思う、他者との境界線を曖昧にすることはあっても個人は個人、越えられない壁という物はどうしても存在する。
 それを無理やり打ち壊して一つの身体に二つの魂を入れるのならば、それは前の肉体の持ち主とも新しく入った魂ともまた違った人間の誕生と言える。

「死んでも大暴れするって迷惑極まりないな、それならまたすぐ暴れ回られるってこと?」
「いやそれは無いでしょう。転生先は自己と己の境界線が曖昧な9歳までですからどの種族で転移していたとしても4年から6年くらいは敵も不用意に動けないはずですよ」
「9歳以下の全生物を殺せば一応問題は解決するわけだけれど……やる?」
「やるわけないでしょセラ! 冗談でもそういうこと言わないで、それに9歳以下なら俺の妹だって犠牲になるんだからそんなのダメだよ」

 手紙でしか見た事がなく、実際に会ったこともない妹のことを思いながらエルピスはセラを嗜める。
 冗談で人類を滅ぼそうとする程世紀末的思考をセラはしていないので、そこまで雄二に対してセラは危機感を抱いているのだろう。
 確かに〈強奪〉という特殊な能力に前世でのエルピスとの確執、でき得ることならば殺しておきたいのがエルピスの本音でもある。

「とりあえずそれならこれから先も神様を味方につけるために東奔西走しようかな」
「んー、それはあまり良い案じゃないんじゃないかい?」
「ーーっ!? びっくりしたいつの間に」
「君の意識を逸らす方法は君の記憶の中にいっぱいあったからね、初めましてローム様。名を名乗れぬ無礼をお許しください」

 いつのまにかエルピスの背後に現れたのはにっこりと笑みを携えた鍛治神だ、先程までのセラの笑みが見透かすような物であるならばこちらは見透かされないための笑みだとも言える。
 彼女に関しての全てをエルピスは認知しており、彼女に対して何か疑うような要素は今のところは一つもない。
 気のせいかとその笑みの奥に隠された感情に見て見ぬふりをしながら、エルピスは鍛治神の次の言葉をまった。

「エルピス、君は一度雑魚狩りをするべきだ。今の君は接戦続きで神としての力を上手く扱えていない」

 出てきたのは驚くほど意外な言葉だった。
 雑魚狩りの推奨、字面からして良い印象を持たれることはほとんどないであろう。
 エルピスも生きるために敵を殺すことはあっても、目に見えて自分より弱い敵に勝負を挑んだことは少ない。
 エルピスが基本的に自分から好んで戦う相手は超越者や神など自らと同じかそれ以上力量を持つ猛者のみ、格下相手に自分から力を振るったのは記憶が正しければ共和国の道中で盗賊として過ごしていた人達を威圧した時くらいのものか。

「確かに権能の使用にもたついてることは多いけど今回もなんだかんだ言って勝ったし十分に使えていると思うんだけど」
「……まぁ確かに鍛治神の言う事は確かだわ。今のエルピスの戦い方は神というよりは半人半龍の方が近く感じられるし、ただ雑魚狩りをしろというのはイマイチ要点が分からないわね」
「まぁ相手が強かろうと弱かろうと圧倒さえすれば良いんだけどね、ようはイメージだよイメージ。相手の攻撃が来ても全て跳ね返す、力で捻じ伏せるって気概がエルピスからはあんまり感じ取れないんだよね」

 確かに雄二との戦闘ももっと早く終わらせる事はできたように思う。
 生徒の避難を優先していたこともありそれなりに時間はかかったが、エキドナも出していないし余裕のあったフェルに援護に来てもらうことも出来たことだろう。
 それをしなかったのは一撃で殺される可能性を考慮して引き気味に戦っていたのが一つ、もう一つは〈強奪〉を警戒しての事だ。

「余裕を持つのは確かに大事な事ですし、ならこれから一年間くらい特訓に費やす事にしましょうか。私も足りない3年を補いたいし」
「姉さん終わったよー……僕は離れたくないからね!」
「貴方の狂愛はエルピスだけのものじゃなかったのかしら、厄介になったものね」
「えっと、話の内容がうまく掴めないんだけど……?」
「簡単な事よ、私とエラとアウローラはここに残るからエルピスは王国に戻って力を蓄えて来なさいな。丁度良い練習相手もいる事だし」

 セラのいう丁度良い練習相手とはおそらく遥希達の事だろう。
 彼等ならばエルピスの対戦相手として申し分ないが、ニルとレネスをエルピスにつける代わりにセラとエラとアウローラがここに残る事が意外である。
 彼女なりの考えがあると思うそれは、エルピスが頭をひねるよりきっと良い結果を生むだろうことが簡単に予想できるので反対はしない。
 反対はしないが少し寂しさもある。

「僕の予想でもその方が良い方向に未来が動きそうですね」
「え、なに? ロームさん未来見れるの?」
「未来というよりは可能性ですがね、これでもこの世界を管理する神ですからその程度造作もありませんよ」
「本当なら未来も見えた方が良いのだけれど、ロームはまだ修行中だし仕方ないわね。そう言えば私の代わりは誰がやっているの?」
「ハーミルンさんがやってます」
「あの子か……あの子抜けてるからちょっと……まあなんとかなるのかしら」

 セラが他人に対してあそこまで不安感を表に出したのをみるのは初めてだが、切り捨てず拾おうとしているあたりセラと浅からぬ縁を持つ人物なのだろう。

「娘のことについては私の方で上手く言いくるめておくから安心しておいてくれ、彼氏探しも未だに終わっていないようだしね」
「勘弁してほしいよまったく、いま神の伴侶が人間界に現れたら勢力図がえらいことになっちゃう」
「でも土精霊と国交を結びたいのであれば人と神のカップルは必要不可欠だ、違うかい?」
「……食えない人ですね」
「長生きしてるからね」

王国に滞在するのかこの壊れた学園の復興に手を入れるのか、それを選ぶのはルミナの気持ち次第だ。
鍛治神が自分に任せろと言っているのだからこれ以上エルピスが何かを背負う理由もない、半笑いを浮かべる神の言葉を聞き流しエルピスはセラと顔を見合わせる。

「それじゃあエルピスまた来年、私と合わないで大丈夫?」
「大丈夫だよ子供扱いしないでも」
「姉さんは僕とエルピスが仲良くなっちゃうのが悔しいんだよねー」
「……そうかもしれないわね。まぁ良いわ、後でアウローラ達にも言っておくから、それじゃあね」

 いつまで経ってもセラの影を掴むことすら、エルピスには出来そうにない。
 横でにしゃりとエルピスの方を見ながら笑うニルを見て、姉妹はなんともまぁ強いものだと感心する。
 再び修行の日々が来そうな予感を感じながら、エルピスは燃え尽きる遺体のことを思うのだった。
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