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青年期学問都市
王子達
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「錚々たる面子が揃ったものだね本当に、平民が見たら悲鳴を上げそうな状況だよ」
円卓に座するは四大国の王子達と名のある小国の王子達。
数は合計して12名、王子達といえどもその貫禄は大貴族のそれよりも圧倒的な物で、神には及ばないものの肌がひりつくような感覚を覚える。
先程12人と言って直ぐではあるものの、それは座している者の人数であり、一人だけ立ち上がっていたエルピスはその中から除かれている。。
「確かにそれは言えている。未来の王がこれ程揃うのだ、今ならば何が起きても無事に解決できよう」
「出来れば何も起きてはほしくないところだけれどね」
連合国の王子が言った言葉に対して、帝国の王子が茶々を入れる。
この場において、この場に限って全員が王子という役職のみを自らの背に背負い、国力や親の力に頼らないという制約の元に言葉を交わす。
王子同士の会話というのは聞くものが周りにいると面倒なことになりがちだし、それでなくともお互い気を使い合いながら会話する必要がある。
こうして月に一度くらいは、お互い友として語り合う時間があっても良いものだろう。
「さてこの集いも一応は各国の情勢について話し合うという条件があってのものだ、いつも通り四大国から始めようか。
我が帝国領は特にこれといって大きな問題はなし、例年通り北の山脈から龍の群れはやってきたものの処理にはさほど困っていない。新たな特産物として龍の鱗を用いた装備の開発を目指している」
「共和国は盟主が二人散りましたが、その子と優秀な貴族達が無事に平定。国内は以前にも増して安定しており、特産物の供給なども今後とも変わらず行えます。ただ一つ、問題があるとすれば……」
そう言って共和国の王子はエルピスの方を見つめる。
何が言いたいかなど問うまでもないだろう、エルピスが行った行為についてだ。
わざわざ何度も行なってきた会議だろうにエルピスを呼ぶ理由はなんなのかと思っていたものの、どうやらこれが言いたかったようである。
視線を投げかけられたエルピスはその視線に対して笑みで返すと、また何もなかったかのように視線を中空へと戻す。
「エルピス殿、まさか議題が分かっていないとは申されまい」
「分かっていてですよ、私を裁くというのならもちろん根拠はお有りなのでしょうね。
王子でないここに居る私は一人の半龍、暴力で鎮圧できるとはまさか思われもしないでしょう?」
武力の行使をするつもりはないが、力を誇示することはこの世界で最も友好的な外交手段だ。
相手が喧嘩を売ってくるのならば、それに対して武力を行使して自らの潔白を勝ち取るだけの力をエルピスは持っている。
現にアルヘオ家の息子としてでなく、枷を外された半龍であるエルピスを前にして王子達はたじろぐ。
龍の強さは全ての者が知るところ、理性を持った龍が目の前でいつでも牙を抜く可能性があるのだ、恐怖を抱き震え泣き叫んでもおかしくはない状況である。
だが怯みこそすれど恐怖に竦むなど王の器たる彼等にはあり得ないことだ。
「力に怯えて居ては法の裁きを与える事など出来ません。共和国盟主二人殺害の是非はこの場で問わせていただきたい!」
「公式に判決は無罪、物的証拠もなくまた犯行動機も存在しない。見ず知らずの人間を私がどうして殺しましょうか」
「嘘だ! 物的証拠は無いかもしれないが犯行動機は確かにーー」
「ーー確かになんですか。もしあるとするのならば、それを知って居て放置して居た貴方達の責任を私は追及させていただきたい。正面切って殴り合いでも私は一向に構いませんよ」
「……責を解消せぬ限り恨まれますぞ一族に」
唇を深く噛みしめ怒りの形相でエルピスの事を見つめるが、当の本人はそれを気にする素振りもない。
共和国の王が行なったことを赤裸々に公開してもいい。
だがそれをしてしまえば残された一族は自ら龍の宝物に手を出し無様にも殺されたものとして嘲りを受けることになるだろう。
行なった本人に罪こそあれど死して罪は解消された、フェルに勝手に喧嘩を売り勝手に殺された愚かな男も居たが、彼に関しても自分が召喚した召喚物の力を見誤って死んだと言われるよりは原因不明の死の方が周りの扱いもまだマシだ。
これ以上は何を言われても返答しない、そう覚悟を決めたエルピスを他所に一人立ち上がり大きく声を張り上げる者がいた。
「フレデア殿、それ以上エルピスさんを責めるのはやめて頂きたい!」
兄の代わりにこの場に立ち、悠然とした姿でエルピスの事を庇うのはアデルだ。
エルピスから直接事件の顛末を教えられたわけではないが、兄弟とアウローラの父から大体の事情は聞いている。
貴族の娘を手籠にしようとした罪は重い、一族郎党全員の首を落としても問題ないほどの大罪だがエルピスはそれを盟主と裏切った王国の貴族だけで済ましたのだ。
エルピスが文句をつけない以上はアデルもこれ以上何もいうつもりもないが、同じようにこれ以上むやみやたらに責めさせる気ももちろん無い。
「私も同じ意見だ、これ以上その話を長引かせて困るのは共和国側、それに事件の是非を問うのならば、連合国としても頭を下げなければならない」
「あ、いえいえ頭を下げる必要など。罪はすでにお互い清算しました、これ以上謝罪を重ねられても困ります」
「ふむ……どうやらこれ以上問題は無さそうですね。でしたら続きを。法国といたしましては、まず皆様の協力のおかげで我が兄弟や姉妹がお邪魔させて頂いていることに感謝します。
異世界人の所在に関しましては現在調査を行っている最中で、詳しい場所までは把握できて居ない物の、ある程度の位置は後で書面に直し送らせて頂く方針となって居ます」
「異世界人ですか? 彼等が何を?」
思わぬところでまたとないチャンスが巡ってきたことに喜び、エルピスはなんの考えもなく手を上げ質問をする。
エルピスが知らないことを知るまたとない機会だ、多少空気を読めないと思われても質問するべきだろう。
とはいえいきなり話に入ってきたエルピスに法国の長男は驚きの顔を見せ、なんとか言い訳しようとエルピスはとりあえず口を開く。
「あ、いえ私も訳あって異世界人を雇って居ましてね。出身や彼等が何処から来たかなど知らないことが多いのでもしこの機会に知れたらと思いまして」
「なるほどそういう事でしたか……話しても?」
「構いません」
「同じく」
「……龍人の力は魅力的、構わないでしょう」
法国が確認を取ったのはもちろん他の四大国の面々だ。
共和国の代表がいつもと違う行動をとったせいで、いまこの場は若干であるが国力の差が目につくようになってきている。
持っている情報の量に圧倒的な開きがあることを考えれば、仕方がない事ではあるのだが。
「それではお話をさせていただきましょう。他の国の方々はもちろん外でこの情報を出すのは厳禁です、神の名の下に誓っていただきましょう……よろしい。
まず他でもなく異世界人を召喚したのは我らが法国、理由は人類生存領域の拡張と抑止戦闘力の確保です。
四大国の法と基本的人権の元に各国家に派遣しその役目を務めて頂くつもりでしたが、共和国の異世界人は現在行方不明、連合国も同じくですし帝国法国では反乱も起きています。
それらに関しては無事鎮圧できた物の全員を捕縛できず逃し、四大国の間で全員が特級犯罪者として手配されているのが現状です」
「なるほど、なるほど。なら共和国と連合国に居た我が家で雇っている異世界人はそこから外してください、もちろん補填としてそれ相応の金銭はお支払いいたします」
「……分かりました。ではこれにてこの話は」
実態はいかにしろ結果論として力で奪い取った遥希達も、これで晴れて正式にエルピスの傘下となる。
人類生存圏の拡大という点に関していえば約束はできかねるが、抑止力という点に関していえば今のアルヘオ家ならば十二分にその役割を担う事は可能だ。
そんなエルピスの思いを受け取ったのか、エルピスの言葉に対して頭を縦に振るとこれで終わりとばかりに話を終える。
「次は連合国の番ですか、このままだと長引きそうなので少し簡潔に説明させていただきます。
まず今年は作物が余り実らなかったので特産物である果物の値段が少しばかり高騰しています、ですがこれも一時的な物で来期には問題なく通常通りの価格で販売が再開できるかと。
帝国領と我が国との間にあるノラウ山脈に住むグリフォンが最近少し気性が荒くなっているのが不安ですが、それ以外は周辺でも特に危険はありません」
「連合国は共和国も凌いで国土面積だけでいえば人類生存圏内において最大級の国、何かと問題が有ると思っていましたが統治者が有能ですとその様な心配も無用の長物のようですな」
近年では農業系の魔法も発達してきており、また亜人との表立った抗争も起きていないおかげで、飢饉や病気などといった大量の人命が関わってくる事件は起きていない。
その点王国の襲撃は完全に不意打ちであったのだが、たまたまエルピスがあの場に居合わせたおかげでそれも問題はなくなった。
嵐の前の静けさといえばおそらくそれは事実となりそうなのだが、実際に戦闘が起きるまではこの平和な時間を出来るだけ長く過ごしていきたいものである。
それから三十分ほど経つと全ての国が大雑把な説明を終え、一旦場の空気が落ち着きゆったりとした空気に入れ替わる。
「それにしても一体異世界人は何処に行ったのか、エルピス殿何か知っていますか?」
「海に近づいてない、土精霊の国にはいない、この二つしか知りません。ただ王国で戦闘を仕掛けてきた異世界人の名は雄二という事だけ分かっています」
「雄二……雄二……聞いたことがない名ですね」
帝国の王子の言葉に対してエルピスが素直に反応すると、王子は手を顎につき頭を悩ませながら答えを小さく呟く。
それならば帝国領にいないのか、そう思っていたエルピスはだがすぐに意識を改める。
邪神の権能が、目の前の人物が嘘をついていることを教えてくれたのだ。
盗神の権能とは違い、邪神の権能の嘘を見極める力は悪意に近い感情を持って隠し事をした場合のみに起動する。
帝国はかなり重要視して見ておいた方が良さそうで有る、雄二はいない気もするが仲間がいるとすればそこだろう。
「そうですか残念です、話を進めてしまいましょうか」
答えてくれないならば無理に尋問する必要もない。
雄二が居たならばそれはその時、それ以外ならば制圧し雄二がどこにいるかを聞けばいい。
話題を軽く横に流しながら、エルピスは次の行き先を帝国に定めるのだった。
円卓に座するは四大国の王子達と名のある小国の王子達。
数は合計して12名、王子達といえどもその貫禄は大貴族のそれよりも圧倒的な物で、神には及ばないものの肌がひりつくような感覚を覚える。
先程12人と言って直ぐではあるものの、それは座している者の人数であり、一人だけ立ち上がっていたエルピスはその中から除かれている。。
「確かにそれは言えている。未来の王がこれ程揃うのだ、今ならば何が起きても無事に解決できよう」
「出来れば何も起きてはほしくないところだけれどね」
連合国の王子が言った言葉に対して、帝国の王子が茶々を入れる。
この場において、この場に限って全員が王子という役職のみを自らの背に背負い、国力や親の力に頼らないという制約の元に言葉を交わす。
王子同士の会話というのは聞くものが周りにいると面倒なことになりがちだし、それでなくともお互い気を使い合いながら会話する必要がある。
こうして月に一度くらいは、お互い友として語り合う時間があっても良いものだろう。
「さてこの集いも一応は各国の情勢について話し合うという条件があってのものだ、いつも通り四大国から始めようか。
我が帝国領は特にこれといって大きな問題はなし、例年通り北の山脈から龍の群れはやってきたものの処理にはさほど困っていない。新たな特産物として龍の鱗を用いた装備の開発を目指している」
「共和国は盟主が二人散りましたが、その子と優秀な貴族達が無事に平定。国内は以前にも増して安定しており、特産物の供給なども今後とも変わらず行えます。ただ一つ、問題があるとすれば……」
そう言って共和国の王子はエルピスの方を見つめる。
何が言いたいかなど問うまでもないだろう、エルピスが行った行為についてだ。
わざわざ何度も行なってきた会議だろうにエルピスを呼ぶ理由はなんなのかと思っていたものの、どうやらこれが言いたかったようである。
視線を投げかけられたエルピスはその視線に対して笑みで返すと、また何もなかったかのように視線を中空へと戻す。
「エルピス殿、まさか議題が分かっていないとは申されまい」
「分かっていてですよ、私を裁くというのならもちろん根拠はお有りなのでしょうね。
王子でないここに居る私は一人の半龍、暴力で鎮圧できるとはまさか思われもしないでしょう?」
武力の行使をするつもりはないが、力を誇示することはこの世界で最も友好的な外交手段だ。
相手が喧嘩を売ってくるのならば、それに対して武力を行使して自らの潔白を勝ち取るだけの力をエルピスは持っている。
現にアルヘオ家の息子としてでなく、枷を外された半龍であるエルピスを前にして王子達はたじろぐ。
龍の強さは全ての者が知るところ、理性を持った龍が目の前でいつでも牙を抜く可能性があるのだ、恐怖を抱き震え泣き叫んでもおかしくはない状況である。
だが怯みこそすれど恐怖に竦むなど王の器たる彼等にはあり得ないことだ。
「力に怯えて居ては法の裁きを与える事など出来ません。共和国盟主二人殺害の是非はこの場で問わせていただきたい!」
「公式に判決は無罪、物的証拠もなくまた犯行動機も存在しない。見ず知らずの人間を私がどうして殺しましょうか」
「嘘だ! 物的証拠は無いかもしれないが犯行動機は確かにーー」
「ーー確かになんですか。もしあるとするのならば、それを知って居て放置して居た貴方達の責任を私は追及させていただきたい。正面切って殴り合いでも私は一向に構いませんよ」
「……責を解消せぬ限り恨まれますぞ一族に」
唇を深く噛みしめ怒りの形相でエルピスの事を見つめるが、当の本人はそれを気にする素振りもない。
共和国の王が行なったことを赤裸々に公開してもいい。
だがそれをしてしまえば残された一族は自ら龍の宝物に手を出し無様にも殺されたものとして嘲りを受けることになるだろう。
行なった本人に罪こそあれど死して罪は解消された、フェルに勝手に喧嘩を売り勝手に殺された愚かな男も居たが、彼に関しても自分が召喚した召喚物の力を見誤って死んだと言われるよりは原因不明の死の方が周りの扱いもまだマシだ。
これ以上は何を言われても返答しない、そう覚悟を決めたエルピスを他所に一人立ち上がり大きく声を張り上げる者がいた。
「フレデア殿、それ以上エルピスさんを責めるのはやめて頂きたい!」
兄の代わりにこの場に立ち、悠然とした姿でエルピスの事を庇うのはアデルだ。
エルピスから直接事件の顛末を教えられたわけではないが、兄弟とアウローラの父から大体の事情は聞いている。
貴族の娘を手籠にしようとした罪は重い、一族郎党全員の首を落としても問題ないほどの大罪だがエルピスはそれを盟主と裏切った王国の貴族だけで済ましたのだ。
エルピスが文句をつけない以上はアデルもこれ以上何もいうつもりもないが、同じようにこれ以上むやみやたらに責めさせる気ももちろん無い。
「私も同じ意見だ、これ以上その話を長引かせて困るのは共和国側、それに事件の是非を問うのならば、連合国としても頭を下げなければならない」
「あ、いえいえ頭を下げる必要など。罪はすでにお互い清算しました、これ以上謝罪を重ねられても困ります」
「ふむ……どうやらこれ以上問題は無さそうですね。でしたら続きを。法国といたしましては、まず皆様の協力のおかげで我が兄弟や姉妹がお邪魔させて頂いていることに感謝します。
異世界人の所在に関しましては現在調査を行っている最中で、詳しい場所までは把握できて居ない物の、ある程度の位置は後で書面に直し送らせて頂く方針となって居ます」
「異世界人ですか? 彼等が何を?」
思わぬところでまたとないチャンスが巡ってきたことに喜び、エルピスはなんの考えもなく手を上げ質問をする。
エルピスが知らないことを知るまたとない機会だ、多少空気を読めないと思われても質問するべきだろう。
とはいえいきなり話に入ってきたエルピスに法国の長男は驚きの顔を見せ、なんとか言い訳しようとエルピスはとりあえず口を開く。
「あ、いえ私も訳あって異世界人を雇って居ましてね。出身や彼等が何処から来たかなど知らないことが多いのでもしこの機会に知れたらと思いまして」
「なるほどそういう事でしたか……話しても?」
「構いません」
「同じく」
「……龍人の力は魅力的、構わないでしょう」
法国が確認を取ったのはもちろん他の四大国の面々だ。
共和国の代表がいつもと違う行動をとったせいで、いまこの場は若干であるが国力の差が目につくようになってきている。
持っている情報の量に圧倒的な開きがあることを考えれば、仕方がない事ではあるのだが。
「それではお話をさせていただきましょう。他の国の方々はもちろん外でこの情報を出すのは厳禁です、神の名の下に誓っていただきましょう……よろしい。
まず他でもなく異世界人を召喚したのは我らが法国、理由は人類生存領域の拡張と抑止戦闘力の確保です。
四大国の法と基本的人権の元に各国家に派遣しその役目を務めて頂くつもりでしたが、共和国の異世界人は現在行方不明、連合国も同じくですし帝国法国では反乱も起きています。
それらに関しては無事鎮圧できた物の全員を捕縛できず逃し、四大国の間で全員が特級犯罪者として手配されているのが現状です」
「なるほど、なるほど。なら共和国と連合国に居た我が家で雇っている異世界人はそこから外してください、もちろん補填としてそれ相応の金銭はお支払いいたします」
「……分かりました。ではこれにてこの話は」
実態はいかにしろ結果論として力で奪い取った遥希達も、これで晴れて正式にエルピスの傘下となる。
人類生存圏の拡大という点に関していえば約束はできかねるが、抑止力という点に関していえば今のアルヘオ家ならば十二分にその役割を担う事は可能だ。
そんなエルピスの思いを受け取ったのか、エルピスの言葉に対して頭を縦に振るとこれで終わりとばかりに話を終える。
「次は連合国の番ですか、このままだと長引きそうなので少し簡潔に説明させていただきます。
まず今年は作物が余り実らなかったので特産物である果物の値段が少しばかり高騰しています、ですがこれも一時的な物で来期には問題なく通常通りの価格で販売が再開できるかと。
帝国領と我が国との間にあるノラウ山脈に住むグリフォンが最近少し気性が荒くなっているのが不安ですが、それ以外は周辺でも特に危険はありません」
「連合国は共和国も凌いで国土面積だけでいえば人類生存圏内において最大級の国、何かと問題が有ると思っていましたが統治者が有能ですとその様な心配も無用の長物のようですな」
近年では農業系の魔法も発達してきており、また亜人との表立った抗争も起きていないおかげで、飢饉や病気などといった大量の人命が関わってくる事件は起きていない。
その点王国の襲撃は完全に不意打ちであったのだが、たまたまエルピスがあの場に居合わせたおかげでそれも問題はなくなった。
嵐の前の静けさといえばおそらくそれは事実となりそうなのだが、実際に戦闘が起きるまではこの平和な時間を出来るだけ長く過ごしていきたいものである。
それから三十分ほど経つと全ての国が大雑把な説明を終え、一旦場の空気が落ち着きゆったりとした空気に入れ替わる。
「それにしても一体異世界人は何処に行ったのか、エルピス殿何か知っていますか?」
「海に近づいてない、土精霊の国にはいない、この二つしか知りません。ただ王国で戦闘を仕掛けてきた異世界人の名は雄二という事だけ分かっています」
「雄二……雄二……聞いたことがない名ですね」
帝国の王子の言葉に対してエルピスが素直に反応すると、王子は手を顎につき頭を悩ませながら答えを小さく呟く。
それならば帝国領にいないのか、そう思っていたエルピスはだがすぐに意識を改める。
邪神の権能が、目の前の人物が嘘をついていることを教えてくれたのだ。
盗神の権能とは違い、邪神の権能の嘘を見極める力は悪意に近い感情を持って隠し事をした場合のみに起動する。
帝国はかなり重要視して見ておいた方が良さそうで有る、雄二はいない気もするが仲間がいるとすればそこだろう。
「そうですか残念です、話を進めてしまいましょうか」
答えてくれないならば無理に尋問する必要もない。
雄二が居たならばそれはその時、それ以外ならば制圧し雄二がどこにいるかを聞けばいい。
話題を軽く横に流しながら、エルピスは次の行き先を帝国に定めるのだった。
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