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青年期:鍛治国家
二度目の迷宮
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この世界には夢がある。
世界の創世者にして全ての生物の頂点に君臨し、人に力を与え、亜人に知恵を与え、異業種に生きる意味を与え、神々に権能を与えた、神から神と崇められた原初の神ーー創生神の言葉だ。
創生神に性別はないが無理やり性別を当てはめたとしてーー彼は一つの種に対して生きる意味を無くさない様に、そして世界を楽しめる様に言葉を残している。
人類種ならば自らの夢を絶やさぬ様にと。
性濁豚ならば欲求に自由であれと。
半人半龍ならば強くあれと。
そして土精霊に課せられたのは、自分達の夢を追い求める事ーーそれ即ち誰も超えられぬ最強の迷宮である。
故に代々鍛治神の称号を持つ物は、永遠と言える自身の寿命を使って鍛治師としての才能を発揮し迷宮を作ろうと努力する。
だがいくら過去の歴史を学び、修練を積んだ鍛治神とは言え、時代が進めば新しい技術は確立されて行くもの。
それら全てを事前に編み出し、調べ、そして最善のみを迷宮に残すのは難しかった。
後数千年はかかると思われて居た迷宮の完成ーーだがそれは当代の天才鍛治神によって意外にも直ぐに成されてしまった。
鍛治神は迷宮の名を死殺迷宮とし、それを乗り越える猛者の立ち入りを心の底から願っている。
何故ならば自身が費やした数多の夢を乗り越えてもらえると言う事は、未だそこには様々な夢を詰め込めるという事だからだ。
そんな迷宮の直ぐ近くで、楽しそうに喋る二つの人影が見えた。
「ここが私とお母さんが頑張って作った迷宮! それであれが私の庭! 暇だったら遊びに来ても良いよ~なんつってね!」
「反応が古いですよ、というか庭って……あの目の前に見える国全部が?」
「まぁ一般の土精霊がまだ住んでないから、仮に使ってるだけなんだけどね。ちなみに私のお家はあそこだよ~」
「あの馬鹿でかい家ですか……しかも成金趣味だし」
鍛治神の娘に教えられた位置に転移し空から周囲を見渡しながら、エルピスはため息と一緒に言葉を漏らした。
本来なら地面にあるはずのダンジョンは塔として天に向かって高く聳え立ち、その周辺にはいくつかの街が点在しており、鍛治神の娘はそれを見て自分の庭と一言で区切る。
奥の方にある彼女の家は正に鍛治神の娘らしく、かなり大きな家の周りに様々な装飾が付けられた門は、いかにもお金持ちに見える。
まさに価値観の違いを感じさせられ、目の前にいる少女が本当に鍛治神の娘なのだと再確認していると、鍛治神の娘が取り出した木製の小さな笛から乾いた音が辺りに響く。
「何を呼び出してるんですか?」
「お、これだけで召喚って分かるんだ。さすがだねぇ、これは龍種を呼び出す音楽さ」
「龍種? こちらに飛んで来ている様には感じませんが」
「まぁ龍種って言っても機械だからね」
エルピスの〈神域〉に十キロ上の空から垂直に降りてくる物の気配を感じ、随分派手な演出だと思いながら上を見る。
それから数秒程でエルピス達の前に、機械で作られた龍は姿を現した。
本来ならば硬質な鱗で身を守っている龍種だが、目の前の機械龍には鱗が無く、逆に驚く程滑らかな身体だった。
更に言えば龍種の身体は総じて肥っていたりするのだが、この龍は驚くほどに痩せ細っていて、正に戦闘のみに特化した姿だ。
「移動用だから戦闘自体は強くないけど、まぁ移動用だから良いでしょ?」
「別に良いですけど……迷宮って何処に入口が有るんですか?」
「あそこだよ、あの黒いラインが貼ってある所から先に入れば、勝手に死殺迷宮に入れる」
龍の背に乗りながらエルピスが疑問を口にすると、鍛治神の娘は迷宮を囲む黒い線を指差す。
それに対してエルピスが鑑定するよりも早く、龍が音を置き去りにする程の速度で塔に向かって飛び出しそのまま娘が言ったラインを超えた。
転移系魔法に似た感覚を覚え、吐き気を我慢しながらやはり称号を幾つ解除したところでなれないなと思う。
大丈夫な人と大丈夫ではない人が居るのだろうができれば大丈夫な方がよかった、戦闘中は気にならないとはいえ吐き気を覚えるのは気持ちが良いものではない。
セラが近くに居ないから回復魔法を使えないので、取り敢えず吐き気を抑える魔法だけを使っておく。
「あー気持ち悪っ」
緑色に光る魔力とそれに呼応して身体から吐き気が抜けていき、エルピスは前を向く。
比較的に迷宮内部は広く、いつか行った共和国の迷宮を思い出す。
それにしてもここは明るい、それはもう明る過ぎるほどに。
下を向いて居ても光が影すら消して地面を埋め尽くすほどで、こんな中戦うのは少々骨が折れると思いながら、恐らくは迷宮第一階層を歩いて散策する。
特に穴があったり階段があったりするわけでは無く、下に行くにも上に行くにもどこにも行けそうには無い。
数分すると、ふと鍛治神の声がどこからともなく聞こえてくる。
「さて、ここは迷宮の入り口。本当にこの迷宮に挑戦する権利があるのかを確かめる為の場所、試練の場所。いまから始まるのは本来なら鍛治神になる為の試練なんだけど……貴方はもう鍛治神らしいから今回は身体系の試練は全て抜いて、心のあり方に対する問題になっているよ~」
「鍛治神になるための試練? と言う事はそれを終えた後には、鍛治神基準で作られた迷宮があるんですか?」
「う~ん一概にはどうともいえないかな~。ここの試練は人によって変わるし、その後の迷宮自体も人によって変わる。例えば君達のうちーーあ、君達って言うのは君のお仲間も含めてね。それで君達のうち数人がチームを組んで迷宮に挑めば、迷宮がその中で誰がリーダーかを見抜いてその人の実力に合わせた敵が出てくる様になっている」
「つまり俺がリーダーになった場合…」
「天使や悪魔の子は知らないけれど、まぁまず間違いなく亜人種位までの子なら死ぬね」
つまりは今回もし他のメンバーも含めて攻略出来たとして、付いて来られるのはニル、セラ、そしてフェルが、ギリギリ付いて来られるか来られないか。
アウローラとフールはまず間違い無く無理だろう。
となると安全面を考慮して……。
最善の行動を考えながら動こうとして居たエルピスに対して、鍛治神の娘が楽しそうに笑いながら答える。
「いまここで考えても仕方ないですよ? 迷宮は来るものを拒まず、去る者を見送ります。なら肩の力を抜いて楽しむべきでしょう?」
「楽しみたいのは山々ですけど、命がかかって居るんじゃ素直に楽しめないよ」
「ーー嘘はいけないねぇ? いまの貴方は凄く嬉しそうよ? ほっぺも上がってるしーーさて、そんな事は置いておいて、貴方のお仲間に関しても、迷宮が良いようにしてくれているはずよ。運命に身を委ねなさい」
笑って居ると言われまさかと自分の頬を触ると、僅かながら確かに口角が上がっていた。
二十年近くこの世界にいるとは言え、エルピスは元は異世界人。
迷宮や龍に憧れて、物語の主人公の様に迷宮を踏破し、金銀財宝を手に入れることを一度は夢見た事もある。
前回の迷宮では今は亡き共和国盟主の手によって、非常にめんどくさい事に巻き込まれて居た上に、同級生を守るために常に気を張って居たので楽しむ事など出来はしなかった。
だが今はその限りでも無く、アウローラと灰猫もいないので存分に力を震えることだろう。
そう思いエルピスは楽しんでいる事を隠す事すら辞めて、満面の笑みを浮かべながら暗闇の奥へと足を進ませる。
その先に何が有ろうとも、恐らくは非常に楽しい一日になるだろうと言う予感を持って。
「鍛治神の称号だけで無く、複数の神の称号を持つ、まるでその身をこの世に下ろした際の創生神の様な出鱈目な強さに、他人の事を考えていつつも、どこかで絶対に自分が中心になっている計算性の高い性格。水神様の言って居た通りですか……もし貴方が創生神だったのならば、この迷宮は貴方に最大の礼儀と最強の牙を向けるでしょう。その旅路にせめてもの幸があらん事を」
暗闇に消えて行ったエルピスの背を眺めながら、鍛治神は静かにそう言葉を漏らす。
その言葉に答える様に迷宮は少しずつ、試練のために自らの形を変えて行った。
世界の創世者にして全ての生物の頂点に君臨し、人に力を与え、亜人に知恵を与え、異業種に生きる意味を与え、神々に権能を与えた、神から神と崇められた原初の神ーー創生神の言葉だ。
創生神に性別はないが無理やり性別を当てはめたとしてーー彼は一つの種に対して生きる意味を無くさない様に、そして世界を楽しめる様に言葉を残している。
人類種ならば自らの夢を絶やさぬ様にと。
性濁豚ならば欲求に自由であれと。
半人半龍ならば強くあれと。
そして土精霊に課せられたのは、自分達の夢を追い求める事ーーそれ即ち誰も超えられぬ最強の迷宮である。
故に代々鍛治神の称号を持つ物は、永遠と言える自身の寿命を使って鍛治師としての才能を発揮し迷宮を作ろうと努力する。
だがいくら過去の歴史を学び、修練を積んだ鍛治神とは言え、時代が進めば新しい技術は確立されて行くもの。
それら全てを事前に編み出し、調べ、そして最善のみを迷宮に残すのは難しかった。
後数千年はかかると思われて居た迷宮の完成ーーだがそれは当代の天才鍛治神によって意外にも直ぐに成されてしまった。
鍛治神は迷宮の名を死殺迷宮とし、それを乗り越える猛者の立ち入りを心の底から願っている。
何故ならば自身が費やした数多の夢を乗り越えてもらえると言う事は、未だそこには様々な夢を詰め込めるという事だからだ。
そんな迷宮の直ぐ近くで、楽しそうに喋る二つの人影が見えた。
「ここが私とお母さんが頑張って作った迷宮! それであれが私の庭! 暇だったら遊びに来ても良いよ~なんつってね!」
「反応が古いですよ、というか庭って……あの目の前に見える国全部が?」
「まぁ一般の土精霊がまだ住んでないから、仮に使ってるだけなんだけどね。ちなみに私のお家はあそこだよ~」
「あの馬鹿でかい家ですか……しかも成金趣味だし」
鍛治神の娘に教えられた位置に転移し空から周囲を見渡しながら、エルピスはため息と一緒に言葉を漏らした。
本来なら地面にあるはずのダンジョンは塔として天に向かって高く聳え立ち、その周辺にはいくつかの街が点在しており、鍛治神の娘はそれを見て自分の庭と一言で区切る。
奥の方にある彼女の家は正に鍛治神の娘らしく、かなり大きな家の周りに様々な装飾が付けられた門は、いかにもお金持ちに見える。
まさに価値観の違いを感じさせられ、目の前にいる少女が本当に鍛治神の娘なのだと再確認していると、鍛治神の娘が取り出した木製の小さな笛から乾いた音が辺りに響く。
「何を呼び出してるんですか?」
「お、これだけで召喚って分かるんだ。さすがだねぇ、これは龍種を呼び出す音楽さ」
「龍種? こちらに飛んで来ている様には感じませんが」
「まぁ龍種って言っても機械だからね」
エルピスの〈神域〉に十キロ上の空から垂直に降りてくる物の気配を感じ、随分派手な演出だと思いながら上を見る。
それから数秒程でエルピス達の前に、機械で作られた龍は姿を現した。
本来ならば硬質な鱗で身を守っている龍種だが、目の前の機械龍には鱗が無く、逆に驚く程滑らかな身体だった。
更に言えば龍種の身体は総じて肥っていたりするのだが、この龍は驚くほどに痩せ細っていて、正に戦闘のみに特化した姿だ。
「移動用だから戦闘自体は強くないけど、まぁ移動用だから良いでしょ?」
「別に良いですけど……迷宮って何処に入口が有るんですか?」
「あそこだよ、あの黒いラインが貼ってある所から先に入れば、勝手に死殺迷宮に入れる」
龍の背に乗りながらエルピスが疑問を口にすると、鍛治神の娘は迷宮を囲む黒い線を指差す。
それに対してエルピスが鑑定するよりも早く、龍が音を置き去りにする程の速度で塔に向かって飛び出しそのまま娘が言ったラインを超えた。
転移系魔法に似た感覚を覚え、吐き気を我慢しながらやはり称号を幾つ解除したところでなれないなと思う。
大丈夫な人と大丈夫ではない人が居るのだろうができれば大丈夫な方がよかった、戦闘中は気にならないとはいえ吐き気を覚えるのは気持ちが良いものではない。
セラが近くに居ないから回復魔法を使えないので、取り敢えず吐き気を抑える魔法だけを使っておく。
「あー気持ち悪っ」
緑色に光る魔力とそれに呼応して身体から吐き気が抜けていき、エルピスは前を向く。
比較的に迷宮内部は広く、いつか行った共和国の迷宮を思い出す。
それにしてもここは明るい、それはもう明る過ぎるほどに。
下を向いて居ても光が影すら消して地面を埋め尽くすほどで、こんな中戦うのは少々骨が折れると思いながら、恐らくは迷宮第一階層を歩いて散策する。
特に穴があったり階段があったりするわけでは無く、下に行くにも上に行くにもどこにも行けそうには無い。
数分すると、ふと鍛治神の声がどこからともなく聞こえてくる。
「さて、ここは迷宮の入り口。本当にこの迷宮に挑戦する権利があるのかを確かめる為の場所、試練の場所。いまから始まるのは本来なら鍛治神になる為の試練なんだけど……貴方はもう鍛治神らしいから今回は身体系の試練は全て抜いて、心のあり方に対する問題になっているよ~」
「鍛治神になるための試練? と言う事はそれを終えた後には、鍛治神基準で作られた迷宮があるんですか?」
「う~ん一概にはどうともいえないかな~。ここの試練は人によって変わるし、その後の迷宮自体も人によって変わる。例えば君達のうちーーあ、君達って言うのは君のお仲間も含めてね。それで君達のうち数人がチームを組んで迷宮に挑めば、迷宮がその中で誰がリーダーかを見抜いてその人の実力に合わせた敵が出てくる様になっている」
「つまり俺がリーダーになった場合…」
「天使や悪魔の子は知らないけれど、まぁまず間違いなく亜人種位までの子なら死ぬね」
つまりは今回もし他のメンバーも含めて攻略出来たとして、付いて来られるのはニル、セラ、そしてフェルが、ギリギリ付いて来られるか来られないか。
アウローラとフールはまず間違い無く無理だろう。
となると安全面を考慮して……。
最善の行動を考えながら動こうとして居たエルピスに対して、鍛治神の娘が楽しそうに笑いながら答える。
「いまここで考えても仕方ないですよ? 迷宮は来るものを拒まず、去る者を見送ります。なら肩の力を抜いて楽しむべきでしょう?」
「楽しみたいのは山々ですけど、命がかかって居るんじゃ素直に楽しめないよ」
「ーー嘘はいけないねぇ? いまの貴方は凄く嬉しそうよ? ほっぺも上がってるしーーさて、そんな事は置いておいて、貴方のお仲間に関しても、迷宮が良いようにしてくれているはずよ。運命に身を委ねなさい」
笑って居ると言われまさかと自分の頬を触ると、僅かながら確かに口角が上がっていた。
二十年近くこの世界にいるとは言え、エルピスは元は異世界人。
迷宮や龍に憧れて、物語の主人公の様に迷宮を踏破し、金銀財宝を手に入れることを一度は夢見た事もある。
前回の迷宮では今は亡き共和国盟主の手によって、非常にめんどくさい事に巻き込まれて居た上に、同級生を守るために常に気を張って居たので楽しむ事など出来はしなかった。
だが今はその限りでも無く、アウローラと灰猫もいないので存分に力を震えることだろう。
そう思いエルピスは楽しんでいる事を隠す事すら辞めて、満面の笑みを浮かべながら暗闇の奥へと足を進ませる。
その先に何が有ろうとも、恐らくは非常に楽しい一日になるだろうと言う予感を持って。
「鍛治神の称号だけで無く、複数の神の称号を持つ、まるでその身をこの世に下ろした際の創生神の様な出鱈目な強さに、他人の事を考えていつつも、どこかで絶対に自分が中心になっている計算性の高い性格。水神様の言って居た通りですか……もし貴方が創生神だったのならば、この迷宮は貴方に最大の礼儀と最強の牙を向けるでしょう。その旅路にせめてもの幸があらん事を」
暗闇に消えて行ったエルピスの背を眺めながら、鍛治神は静かにそう言葉を漏らす。
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