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青年期:鍛治国家
到着
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「ーーさぁ到着したぞ」
数十分間ひたすら船の上で揺らされた事によって、地面の感触を忘れた足がふらつきそうになるのを抑えながら、エルピスは黙って海龍に対して会釈する。
本来なら神人であるエルピスは船酔いになる事など無いはずなのだが、前世に船が苦手だった事もあり、前世で船に乗った時に酔った事を思い出して酔うという非常によく分からない方法で酔っていた。
想定では後三週間ほどはかかる予定だったが、海龍がここまで引っ張って来てくれたおかげで早くついた。
「船の上で吐くんじゃ無いぞ? お前達が海に向かって吐くと生物がお前達の吐瀉物で進化して大変な事になるんだ」
「気おつけ…うぇっ……ますね」
「本当に気をつけてくれよ? じゃあ俺はもう此処から去るから本当に吐くなよ!」
いっそ吐けと言われているのでは無いかと錯覚する程念を押され、エルピスは魔法で吐き気を抑えながら静かに頷く。
そうは言っても動く船に合わせて少しだけ浮いていたセラとエラ、そしてニル以外は吐き気どころか意識すら何処かに行っているので、まだエルピスはましな方だろう。
船の上で吐くと称号の効果で不味いことになるらしいので、代金だけ船の上に置いて全員を引き連れ船から去る。
「ここが土精霊の街か……!」
酔いが少しだけ収まり出し、顔を上げると眼前には土精霊達の国が広がっていた。
ゴミが見当たらない大通りには等間隔で木や花々が育てられ、辺りには微かに花の匂いが充満している。
白で統一された近代的な街並みは、機械臭いという土精霊の印象を一変させるには充分過ぎるほどだった。
土精霊用に作られたのか、かなり低い位置に扉はおかれ、遠方に見える王城らしき城には、盗神の能力によってかなりの量の罠が仕掛けられていることが分かる。
恐らくあの城の建造には鍛治神が関わっているのだろうと考えながら足を踏み出すと、近くを巡回していた、全身を甲冑で覆った土精霊がエルピス達に対して、笛の様なものを鳴らしながら近寄ってくる。
「そこの一行止まりなさぁい!!」
「止まりなさぁい!!」
何処か幼さを感じる声音でそう言いながら、静止する様に手を向ける土精霊達に対して、エルピスは文句を言わずに指示に従うとそのまま相手の目線まで腰を下ろし、グロリアスに接する様にして声をかける。
「お勤めご苦労様です、街兵さん。僕達に何かご用ですか?」
「街兵さん…街兵さん…ふへへへ。初めて街兵さんと他の国の人に呼んでもらえたのです」
「こら、マーブル。見ず知らずの相手の前でにやにやしちゃダメでしょ!」
「あ、ごめんドリン。ついつい」
甲冑越しでも分かる程の感情の起伏に、いよいよエルピスの中にある土精霊のイメージ像が完全に崩れていくが、それは気にせずに二人に話を進めるように目で促すと、それに反応するようにしてドリンと呼ばれた方の土精霊が声をあげた。
「そこに居る女の人は森霊種ですよね? この国では森霊種の入国は管理局を通ってからで無いとダメなのです!」
「なのです!」
「ーー私は森霊種では有りませんよ? 窟暗種と言うわけでも有りませんし……通していただけますか?」
「嘘つくのはダメですよ! その耳は貴方が森霊種である事の証拠。それに周囲の精霊達が貴方に寄りかかって居るのが、僕には見えるんです!」
レンズの様なものをポケットから出し、エラの事を見つめるマーブルと呼ばれていた土精霊の視線につられる様にしてエルピスはエラを見つめるが、特にこれといって妖精がいるとかそう言ったのは見受けられない。
最近意識すれば自分の周りにいる精霊や妖精は見れるようになって来たはずなのだが、どれだけ頑張ってみても見えてくるような感じはしない。
自分の目がおかしくなったのかと何度か確認するようにして瞬きするエルピスを置き去りにして、土精霊とエラは話を進める。
「精霊に多少好かれているだけで森霊種扱いなら、この人だって森霊種になるわよ?」
「ちょ、アウローラ押すなって」
「この男の人が? あんまり精霊に好かれそうには見えないんですがーーって目が!目がぁぁぁ!!!」
怪訝そうな顔をしながらレンズ越しでエルピスを直視したマーブルは、何処かで聞いた事があるような事を言った後に自身の手で目を覆い隠すと、よほど痛いのか涙を流しながらそこら中を駆け巡る。
周辺の家から顔を出して不安そうにこちらを見つめる土精霊達に顔を覚えられたら面倒だと思い、魔法を使って認識阻害をかけながら回復魔法をかけ、エルピスはマーブルに対して申し訳なさそうに声をかけた。
「彼女は森霊種と窟暗種のハーフなんだ。あんまり知られたく無いから黙って置いてね」
「なるほどそう言った事情でしたか、なら後で王城の方までお越しください。混霊種の方々は丁重に扱うようにと鍛治神様からの御通達ですので」」
意外な所で出た鍛治神の名に眉をひそめそうになるが、〈詐称〉を使って適当にごまかしながら頷いておく。
鍛治神はエルピスがこの国に来たことを既に察知しているだろうが、兵士達にまでわざわざエルピスが神である事を言う必要はない。
「では私達の名を門の所にいる兵士に出してくれれば、それで通れる様にしておきます」
「じゃあまたね~お兄さん」
そう言いながらガシャガシャと音を立てながら去っていく土精霊二人の背中を眺めながら、エルピス達一行は何事も無かったかの様に足を進める。
「じゃあ僕達これからは自由行動って事で良いのかな? エルピス」
「そうだな。俺はこの国で一番の鍛冶師ーー鍛治神を除いてだがーーを探しに行ってくる。灰猫達も適当に観光してきてくれ」
「私達はどうすれば良い?」
「アウローラと灰猫も自由行動で良いぞ。ただ海の近くに行く時は気を付けろよ? 子供みたいな姿をした、笑顔が邪悪な凄い怖い人型の何かに引きずり込まれるぞ?」
「なにそれ!? 海麗種だってもう少しは怖くないと思うんだけど?!」
いっそ大袈裟にすら見える動作で、そう言いながら騒ぐアウローラに微笑ましいものを感じるが、ここでその怖い生物が海神だと告げる事はアウローラの不安感を増させるだけだろうと判断し、愛想笑いだけ浮かべて答えを言わずにエルピスはその場から離れるのだった。
/
それから数分して、周りの建物とは完全に別物のーー他の国の文化を無理やりに織り交ぜたような木製の建物から漂う酒の匂いに気づき、エルピスはその中へと足を運ぶ。
「ようこそアル=サージャの酒場へ! お兄さん他所の人かい? 好きなだけ飲んで行ってくれよ!!」
店に入ってきたエルピスを迎え入れる様にして、大きな声を上げながら接客する土精霊を見た瞬間に、エルピスは思考を放棄しかける。
もしかしたらーーもしかしたら先程の街兵は特別で、他の土精霊はもう少し大きいのが居てもおかしくないのではないか……そう考えていたエルピスの思考など無意味な物だと嘲笑うかの様に、目の前の土精霊は鼻歌を歌いながら透明なグラスを拭く。
王国含めてエルピスが出会った土精霊はこれで五人目、親方は自分で身長が低い方だと言っていたし、親方のところにいた土精霊はまだ成長期ではないといっていた。
ならばもう少し大きいのが出て来てもおかしくはないと思ったのだが。
「なぁマスター。ここのーーというか土精霊は皆こんな感じなのか?」
「こんな感じーーとは? はて、どう言った事でしょう?」
「その…なんだ……こう言うことを言うのは失礼かもしれないが、全員小さ過ぎないか?」
何処からどう見ても子供にしか見えない土精霊に向かってそう言いながら、エルピスは渡された酒を呷る。
エルピスの隣で『いい飲みっぷりだねぇ』とかなんとか言っている土精霊もまた例に漏れず小さく、見た目だけ見るのならば小学生というのが相応しく思えるのだから、土精霊という種族が人間的観点から見れば、かなり幼く法律的に危なく見える種族だと思ってしまうのは仕方ないだろう。
そんなエルピスの疑問を察したのか、グラスを拭く手を止め店主はエルピスに向き直ると疑問に対して答える。
「昔はヒゲもじゃのずんぐりムックリな土精霊や大きな土精霊も居たらしいですが、今は殆ど僕と同じように子供のような感じですよ」
「と言うと何か理由があったりするのか?」
「話すと長くなりますし、有名な話ではありますが鍛治神に関係する情報です。その酒一杯程度では話せませんよ?」
「分かったよ、一番高いのを出してくれ」
酒の味は毒と判断され水と同じになるし、酔いもしないのでエルピスからすればただ高いだけの水でしかない酒は、だが交渉材料になると言うのならばいくらでも飲もう。
子供の容姿からは想像出来ない程の真剣な表情に意識を切り替え向き直ると、硬貨をチラつかせながら〈交渉〉を使い話を始める。
剣撃によっての戦いでは無く口による舌戦。
それは静かに土精霊の国でのエルピスの始めての戦闘開始を予告していた。
数十分間ひたすら船の上で揺らされた事によって、地面の感触を忘れた足がふらつきそうになるのを抑えながら、エルピスは黙って海龍に対して会釈する。
本来なら神人であるエルピスは船酔いになる事など無いはずなのだが、前世に船が苦手だった事もあり、前世で船に乗った時に酔った事を思い出して酔うという非常によく分からない方法で酔っていた。
想定では後三週間ほどはかかる予定だったが、海龍がここまで引っ張って来てくれたおかげで早くついた。
「船の上で吐くんじゃ無いぞ? お前達が海に向かって吐くと生物がお前達の吐瀉物で進化して大変な事になるんだ」
「気おつけ…うぇっ……ますね」
「本当に気をつけてくれよ? じゃあ俺はもう此処から去るから本当に吐くなよ!」
いっそ吐けと言われているのでは無いかと錯覚する程念を押され、エルピスは魔法で吐き気を抑えながら静かに頷く。
そうは言っても動く船に合わせて少しだけ浮いていたセラとエラ、そしてニル以外は吐き気どころか意識すら何処かに行っているので、まだエルピスはましな方だろう。
船の上で吐くと称号の効果で不味いことになるらしいので、代金だけ船の上に置いて全員を引き連れ船から去る。
「ここが土精霊の街か……!」
酔いが少しだけ収まり出し、顔を上げると眼前には土精霊達の国が広がっていた。
ゴミが見当たらない大通りには等間隔で木や花々が育てられ、辺りには微かに花の匂いが充満している。
白で統一された近代的な街並みは、機械臭いという土精霊の印象を一変させるには充分過ぎるほどだった。
土精霊用に作られたのか、かなり低い位置に扉はおかれ、遠方に見える王城らしき城には、盗神の能力によってかなりの量の罠が仕掛けられていることが分かる。
恐らくあの城の建造には鍛治神が関わっているのだろうと考えながら足を踏み出すと、近くを巡回していた、全身を甲冑で覆った土精霊がエルピス達に対して、笛の様なものを鳴らしながら近寄ってくる。
「そこの一行止まりなさぁい!!」
「止まりなさぁい!!」
何処か幼さを感じる声音でそう言いながら、静止する様に手を向ける土精霊達に対して、エルピスは文句を言わずに指示に従うとそのまま相手の目線まで腰を下ろし、グロリアスに接する様にして声をかける。
「お勤めご苦労様です、街兵さん。僕達に何かご用ですか?」
「街兵さん…街兵さん…ふへへへ。初めて街兵さんと他の国の人に呼んでもらえたのです」
「こら、マーブル。見ず知らずの相手の前でにやにやしちゃダメでしょ!」
「あ、ごめんドリン。ついつい」
甲冑越しでも分かる程の感情の起伏に、いよいよエルピスの中にある土精霊のイメージ像が完全に崩れていくが、それは気にせずに二人に話を進めるように目で促すと、それに反応するようにしてドリンと呼ばれた方の土精霊が声をあげた。
「そこに居る女の人は森霊種ですよね? この国では森霊種の入国は管理局を通ってからで無いとダメなのです!」
「なのです!」
「ーー私は森霊種では有りませんよ? 窟暗種と言うわけでも有りませんし……通していただけますか?」
「嘘つくのはダメですよ! その耳は貴方が森霊種である事の証拠。それに周囲の精霊達が貴方に寄りかかって居るのが、僕には見えるんです!」
レンズの様なものをポケットから出し、エラの事を見つめるマーブルと呼ばれていた土精霊の視線につられる様にしてエルピスはエラを見つめるが、特にこれといって妖精がいるとかそう言ったのは見受けられない。
最近意識すれば自分の周りにいる精霊や妖精は見れるようになって来たはずなのだが、どれだけ頑張ってみても見えてくるような感じはしない。
自分の目がおかしくなったのかと何度か確認するようにして瞬きするエルピスを置き去りにして、土精霊とエラは話を進める。
「精霊に多少好かれているだけで森霊種扱いなら、この人だって森霊種になるわよ?」
「ちょ、アウローラ押すなって」
「この男の人が? あんまり精霊に好かれそうには見えないんですがーーって目が!目がぁぁぁ!!!」
怪訝そうな顔をしながらレンズ越しでエルピスを直視したマーブルは、何処かで聞いた事があるような事を言った後に自身の手で目を覆い隠すと、よほど痛いのか涙を流しながらそこら中を駆け巡る。
周辺の家から顔を出して不安そうにこちらを見つめる土精霊達に顔を覚えられたら面倒だと思い、魔法を使って認識阻害をかけながら回復魔法をかけ、エルピスはマーブルに対して申し訳なさそうに声をかけた。
「彼女は森霊種と窟暗種のハーフなんだ。あんまり知られたく無いから黙って置いてね」
「なるほどそう言った事情でしたか、なら後で王城の方までお越しください。混霊種の方々は丁重に扱うようにと鍛治神様からの御通達ですので」」
意外な所で出た鍛治神の名に眉をひそめそうになるが、〈詐称〉を使って適当にごまかしながら頷いておく。
鍛治神はエルピスがこの国に来たことを既に察知しているだろうが、兵士達にまでわざわざエルピスが神である事を言う必要はない。
「では私達の名を門の所にいる兵士に出してくれれば、それで通れる様にしておきます」
「じゃあまたね~お兄さん」
そう言いながらガシャガシャと音を立てながら去っていく土精霊二人の背中を眺めながら、エルピス達一行は何事も無かったかの様に足を進める。
「じゃあ僕達これからは自由行動って事で良いのかな? エルピス」
「そうだな。俺はこの国で一番の鍛冶師ーー鍛治神を除いてだがーーを探しに行ってくる。灰猫達も適当に観光してきてくれ」
「私達はどうすれば良い?」
「アウローラと灰猫も自由行動で良いぞ。ただ海の近くに行く時は気を付けろよ? 子供みたいな姿をした、笑顔が邪悪な凄い怖い人型の何かに引きずり込まれるぞ?」
「なにそれ!? 海麗種だってもう少しは怖くないと思うんだけど?!」
いっそ大袈裟にすら見える動作で、そう言いながら騒ぐアウローラに微笑ましいものを感じるが、ここでその怖い生物が海神だと告げる事はアウローラの不安感を増させるだけだろうと判断し、愛想笑いだけ浮かべて答えを言わずにエルピスはその場から離れるのだった。
/
それから数分して、周りの建物とは完全に別物のーー他の国の文化を無理やりに織り交ぜたような木製の建物から漂う酒の匂いに気づき、エルピスはその中へと足を運ぶ。
「ようこそアル=サージャの酒場へ! お兄さん他所の人かい? 好きなだけ飲んで行ってくれよ!!」
店に入ってきたエルピスを迎え入れる様にして、大きな声を上げながら接客する土精霊を見た瞬間に、エルピスは思考を放棄しかける。
もしかしたらーーもしかしたら先程の街兵は特別で、他の土精霊はもう少し大きいのが居てもおかしくないのではないか……そう考えていたエルピスの思考など無意味な物だと嘲笑うかの様に、目の前の土精霊は鼻歌を歌いながら透明なグラスを拭く。
王国含めてエルピスが出会った土精霊はこれで五人目、親方は自分で身長が低い方だと言っていたし、親方のところにいた土精霊はまだ成長期ではないといっていた。
ならばもう少し大きいのが出て来てもおかしくはないと思ったのだが。
「なぁマスター。ここのーーというか土精霊は皆こんな感じなのか?」
「こんな感じーーとは? はて、どう言った事でしょう?」
「その…なんだ……こう言うことを言うのは失礼かもしれないが、全員小さ過ぎないか?」
何処からどう見ても子供にしか見えない土精霊に向かってそう言いながら、エルピスは渡された酒を呷る。
エルピスの隣で『いい飲みっぷりだねぇ』とかなんとか言っている土精霊もまた例に漏れず小さく、見た目だけ見るのならば小学生というのが相応しく思えるのだから、土精霊という種族が人間的観点から見れば、かなり幼く法律的に危なく見える種族だと思ってしまうのは仕方ないだろう。
そんなエルピスの疑問を察したのか、グラスを拭く手を止め店主はエルピスに向き直ると疑問に対して答える。
「昔はヒゲもじゃのずんぐりムックリな土精霊や大きな土精霊も居たらしいですが、今は殆ど僕と同じように子供のような感じですよ」
「と言うと何か理由があったりするのか?」
「話すと長くなりますし、有名な話ではありますが鍛治神に関係する情報です。その酒一杯程度では話せませんよ?」
「分かったよ、一番高いのを出してくれ」
酒の味は毒と判断され水と同じになるし、酔いもしないのでエルピスからすればただ高いだけの水でしかない酒は、だが交渉材料になると言うのならばいくらでも飲もう。
子供の容姿からは想像出来ない程の真剣な表情に意識を切り替え向き直ると、硬貨をチラつかせながら〈交渉〉を使い話を始める。
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