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冒険者組合:番外編
観光とプレゼント
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あちらこちらから上がる湯気を見渡しながら、エルピス達は街の中を歩いていく。
あれからさっと着替えを終えたアウローラが、朝は外で食べると駄々をこね出した為まだ何も食べれていないが、それを抜きにしても美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきている。
出店だけで無く、温泉宿の中に設置されたお店からも多種多様な食べ物が目に入った。
「あ! あれって温泉饅頭じゃない!?」
「饅頭か…温泉卵置いてないのかな?」
饅頭のあのなんとも言えない食感と風味を思い出し、逃げ道に温泉卵でも置いてないかと辺りを見回すが、どうやら置いて居ないようだ。
まぁこの世界に鶏なんか居ないから、仕方ない気もするが。
「あんた饅頭食べれなかったの? …人生の半分は損してるわね」
「そう言うアウローラだって、魚食べられないのは人生の半分損してると思うよ?」
「いや、あんなの平気で食べてるあんたやニルが可笑しいのよ!?」
確かにこの世界の魚は種類によっては死んでからも動くし、人の言葉を喋るけれど、そんな言い方しなくても良いだろうに。
味自体は一緒なのだ、見た目はゲテモノでも美味しい。
「それでこれからどうすんだ?」
「お昼まで自由行動にしようと思ってるわ」
今日はアウローラのストレス発散も兼ねての外遊なので、アウローラに予定を聴くと意外な答えが帰ってきた。
アウローラの事なら一緒にあっちこっち行こうと誘ってくれると思ったのだが、そのアテが外れてエルピスはどこに行こうかと頭を動かす。
それにしても自由行動か……都合が良い。
「じゃあ俺は街の外でちょっと戦闘してくるね」
「あんた本当に暇な時はずっと戦ってるわね」
「人の事を戦闘狂見たいな言い方するの辞めてよ、ちょっと今回の一件でいろいろと足りなさを感じてるんだ」
金が稼げる上に戦闘経験を重ねられるからエルピスは暇さえあれば戦っているのであって、決して戦闘狂な訳では無いのだ。
それにアウローラに対して言った通り連合国での一件もある。
強くなれる時間があるのならば、少しでも強くなりたい。
「じゃあ私はアウローラについて行こうかしら」
「なら私はエルピスに付いて行こ──」
「貴方もこっちよ」
「なんでよセラ! 別に一緒に行っても良いじゃ無い!」
「貴方が一番疲れてるんだから当然でしょ」
そう言いながら暴れるエラの服を引って、セラはアウローラの所まで連れて行く。
なんだか最近セラがお姉さんっぽくなってきた事に少し笑みを浮かべながらも、エルピスは出立の準備をする。
とは言っても大体は収納庫に入っているので、特に何かするわけでは無いが。
「僕は姉さんに付いてくよ」
「人が多すぎてここはちょっと僕に合わないしエルピスについていくよ」
「良し! じゃあこれで決定だな。一時になったら中央広場で合流しようか」
「あ、私もエルピスさんの方ついてきますね、女性陣の方は怖いので」
「分かったわ、また後で」
男女で綺麗に別れ、エラ達女子組は街へと、エルピス達男組は近くの森へとその姿を消す。
どんな魔物がいるのか期待に胸を躍らせながら、エルピスは嬉々として街の外へと向かうのだった。
○
「あぁ…しんどかった~。一通りは倒せたんじゃ無いか?」
肩で息をしている灰猫を横目にエルピスも地面に倒れ込み、荒ぶる呼吸を抑える。
アウローラ達と別れて早二時間が経ち、灰猫とフェルも服は傷だらけで、身体こそ傷は無いものの戦闘回数の多さを物語っていた。
「あの妖狐のウザさと言ったら…本当に面倒ですね」
「まさかこっちの力量に合わせて変化するとはね、しかも隠蔽してようがおかまいなしで元の力で来るし」
「まぁそのおかげで僕以外に変化してくれた奴は、みんな消えてったから楽ではあったけどね」
そう言いながらエルピスは自分達の周りで転がっている魔物の中から、話題に上がっている妖狐を見つめる。
灰猫が言った通り、エルピスやフェルに変化しようとした妖狐はその悉くが力に耐え切れず爆散した。
意思も持たず、中堅程度の力しか無い魔物が神の称号や最上級悪魔の力に耐えられる訳も無かったのだ。
「そろそろ帰るか、結構戦ったし」
「それもそうですね。ではそろそろ行きましょうか」
「──悪いが先行っててもらえるか? 俺少し行く所があるから」
「まさか女の子?」
「ないない、信用しろよ」
「エラさん達には私の方から言わせてもらいます。それではまた後でエルピスさん」
なんとなく見透かしている様なフェルの目で見つめられ、少しエルピスはたじろぐが、すぐに返事をして転移魔法で飛んでいく一行を見送る。
それからすぐにエルピスも転移魔法を起動した、行き先は龍の森。
かつて自分が住んでいた場所だ。
/
良い子はお寝んねし、悪い子も殆どはお寝んねしてしまう今の時刻は夜中の3時。
森霊種の国の寒波が夜になって更にその力を強め、部屋の中でも少し寒いと思えるこの時刻に部屋にゆっくりと忍び寄る影が一つ。
その影はまるで事前に知っていたかの如く、いくつかある部屋の中からその部屋に入って行く。
部屋の中に居るのはニル達女子組だ。
普段なら侵入者に対して警戒し、眠りの甘いエラも今日限りは深く眠りにつき、セラも睡眠を不要とするはずなのにぐっすりと眠って居る。
まるで何者かに眠らされた様に──
そして返り血の様な真っ赤な服を着て、白い髭を生やしたその影は枕元に何かを置いて早々に部屋から退散して行った。
はっきり言ってあの二人がこの程度の魔法で眠るわけないので、この茶番に付き合ってくれているだけだろう。
勿論別の部屋で寝ている灰猫達の枕元にも贈り物を一つづつ。
「ちょっと時期は違うし季節遅れだけど、お疲れ様みんな」
暦上は今の季節は日本で言うところの一月相当であり、となるともうお年玉をあげる季節ではあるのだが、先にこちらから終わらせておきたかった。
それに今回の件ではみんなに頑張ってもらった、お礼も兼ねてこのタイミングが一番ちょうど良かったのだ。
「ついでに来たはいいけど……王族の寝床がこの警備のザルさはどうなんだ?」
グロリアスの枕元に立ちながら、呆れた様な顔をして赤い服の男はそう言う。
安らかな寝顔で眠る若王を見つめながら、再び森霊種の国へと帰るのだった。
/
「エルピス! エルピス!!」
「また朝っぱらからバタバタして…どうしたんだ?」
「これ見て!! 凄くない!?」
そう言われてアウローラに差し出されたのは、綺麗な真紅の赤と深い青色の宝石だ。
しかもそれらを嵌める事が出来るネックレスもアウローラの手にはかがげられている。
こちらは聖母の様な女性が何かを抱く様なデザインになっており、ここに宝石を嵌めるように作られたのだろう。
まるで王国を守ろうとするアウローラを表したかのように。
(まぁそれをイメージして作ったからそう見えてくれないと困るんだけど)
そう思いながらも、エルピスは我ながら良い出来だと改めて思う。
「確かに綺麗だね、昨日買ってきたの?」
「そんなわけ無いでしょ! 朝起きたら枕元に置いてあったのよ」
「何そのサンタさん的なノリ」
「──もしかしてだけどこの世界ってサンタが実在してるんじゃ……?」
「一部地方には居るけどこの辺りには居ないわね、サンタじゃないわよ」
──サンタ実在するんかい!
セラの言葉にそう言いたくなるのを堪えつつ、エルピスはこれを行なったのが自分だとバレない様に話を合わせる。
別に自分からのプレゼントだと言っても良かったが、これはこれでいつバレるかどうかのドキドキ感が楽しい。
「エルピス、枕元になんかあったんだけど」
「おはよう灰猫。何があったんだ?」
「これだよ」
そう言いながら灰猫がエルピスに差し出したのは、二振りの綺麗な彫刻が為された短剣。
片方は黒と青が混ざった綺麗な色をした刀身で、もう一つの刀身は朝日に照らされて薄くではあるが赤く輝いていた。
短剣にしては少し曲がって居るし、シミターにしては曲がりが少ない、まるで脇差の様な反りの珍しい短剣を嬉しそうに灰猫は振り回す。
室内で試し振りだとばかりに短刀を振り回す灰猫に向かって、エルピスは微笑みながら声をかける。
「落ち着け灰猫、さすがに室内は危ない」
「あ、ごめんエルピス。これ、ありがとね」
「俺にお礼言っても仕方ないだろ」
上手く隠したからセラとニル、あとフェル以外にはバレていないと思ったが、どうやら灰猫にもバレたらしい。
そういえば匂い対策をしていないので、あの短刀にはしっかりとエルピスの匂いがついていることだろう。
そりゃバレるわけである。
「エルピス! エルピス!」
「エラも貰ったのか? 何を貰ったんだ?」
「これ!」
エラがこちらに見せつけ──いや近いから、顔当たってるから。
エラがエルピスに見せつけて居るのは、オレンジ色の綺麗な水晶とそれを嵌め込めるネックレスだ。
ひし形に削られた水晶の中には綺麗な、それでいて研ぎ澄まされた剣がうっすらと写っていた。
それは反射によって剣から魔法、そして銃といろんな武器に色を変えていった。
実はこれは武器召喚術式が組み込んである結構すごい魔法道具で、ようは強化版十徳ナイフ的な便利アイテムだ。
彼女らしいと言えば彼女らしいネックレスの出来栄えに満足しつつ、似合ってる? と目で訴えかけてくるエラの頭を撫でる。
「似合ってるよ。すっごい可愛い」
「ありがとう! 大切にする!」
灰猫に引き続きエラもどうやら気づいたらしい。
こちらに関していえば匂いなのか魔力の残滓なのか気配なのか、どれで判断したのかは分からないがエルピスだと判断できるにたる何かがあったのだろう。
ネックレスをずっと眺めて居るエラの次は、予想していたがにっこりと笑みを浮かべたセラだった
「エルピ──」
「それで何を貰ったんだ?」
「最後まで言わせてくれてもいいと思うんだけど……」
なんだか少し残念な子になりつつあるセラが持ってきたのは、エルピスとセラが始めて有った時にセラが生やしていた翼があしらわれた盾だった。
基本的に防御しているところを見ないので盾は必要ないかと思ったが、この盾は一応魔法の補助をする役割もあるので盾として以外にも使うことができる。
そこには神話に出てきてもおかしくないような豪華な装飾が成された槍と剣が、翼を守る様に飾られていた。
「ありがとうエルピス!」
「気持ちは嬉しいけどもうちょっと声のボリューム下げようね、バレちゃうから」
「あら、私としたことが失敗失敗」
さてこれで終わりか。
冗談半分でそんな雰囲気をエルピスが出すと、セラの後ろでにっこにこしながら待っていたニルの顔が急激に歪む。
なんというか最近よく思う様になってきたが、狼というよりは犬に近い気がする。
「それでニルには何が届いたの?」
「僕にはこの杖が届いたんだよ! プレゼントなんて一体何千──何年ぶりかな?」
何千って所は聞かなかった事にしてやるから、泣くのはやめて欲しい。
そう思いながらニルが持っている杖を見ると、造形がかなりエルピスのものと酷似していた。
強いていうならニルの杖は握る所に少し丸い球体の様な物が付けられていて、更に色んな素材をごちゃ混ぜにしてあるのか、混ざった色が逆に神秘さを醸し出していた。
自分の上を参考にして作ったから似るのは当然だが、案外杖作りは難しかった、今度また綺麗に作り直してあげたほうがいいだろうか。
「まぁなんだ……良かったな」
「ええ、すっごく!すっごく嬉しい!!」
にっこりと笑みを浮かべるニルを見て、エルピスはやって良かったと笑みを浮かべる。
喜びかたひとつとっても普段ならばエルピスの望んだ通りの喜び方をするニルだが、今回はエルピスが想像していた以上だ。
それほど嬉しいと思ってくれたことが、エルピスにとっては何よりも嬉しい。
「よしっ、私達の部屋でファッションショーよ! この国で買った服も見せてあげる」
「分かったから引っ張るなって! 灰猫とフェルも行くだろ?」
「行きますけど僕のプレゼントはどこでしょうか!?」
引っ張られるエルピスに対してそんな事を口にするのはフェルである。
フェルのプレゼントも用意していた筈なのだが──
「枕元に置いといた、無いってことは吸収したんじゃ無いか? 魔力の塊置いといたから」
「んなばかな!?」
「ほらキャラ崩してないで行きますよ悪魔、あと魔力の塊はこれですね」
「うっわフェルよだれ垂れてるよ」
「灰猫ちょっとそれは傷つく。多分悪魔になったら分かるよこの感情」
悪魔であるフェルにとってみれば、邪神の魔力はこの世のどの食物よりも甘美で美味な食物であり、さらに一度摂取すれば数百年分は強くなる。
それが魔神と龍神の権能によってさらに強化されているのだ、この世のどんな薬物よりもフェルにとってみれば中毒性があるその至宝を、だがすぐに食べずにフェルは大事そうに自分のポケットに入れた。
今この場で食べれば進化は確実、だが急に進化すると自分がどうなるかは分かっているので、ちょっとずつ魔力にならしていこうという作戦だ。
「──お疲れ様でした。エルピス様」
アウローラに連れられて女子の部屋に行く最中、すれ違った森霊種の召使いがエルピスに対してそうポツリと呟く。
やはりではあったが、メイドにもどうやらバレていたらしい。
まぁとは言えアウローラと灰猫にはバレていない様だし、それで良しとしよう。
「ほら早く!」
「──はいはい今行きますよ」
まだ寒さの残る廊下を歩きながら、元気に外へ走っていくアウローラにエルピスはそう返事をした。
こうしていくつかの謎を残しながらも、一連の騒動は完全に終結したのだった。
あれからさっと着替えを終えたアウローラが、朝は外で食べると駄々をこね出した為まだ何も食べれていないが、それを抜きにしても美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきている。
出店だけで無く、温泉宿の中に設置されたお店からも多種多様な食べ物が目に入った。
「あ! あれって温泉饅頭じゃない!?」
「饅頭か…温泉卵置いてないのかな?」
饅頭のあのなんとも言えない食感と風味を思い出し、逃げ道に温泉卵でも置いてないかと辺りを見回すが、どうやら置いて居ないようだ。
まぁこの世界に鶏なんか居ないから、仕方ない気もするが。
「あんた饅頭食べれなかったの? …人生の半分は損してるわね」
「そう言うアウローラだって、魚食べられないのは人生の半分損してると思うよ?」
「いや、あんなの平気で食べてるあんたやニルが可笑しいのよ!?」
確かにこの世界の魚は種類によっては死んでからも動くし、人の言葉を喋るけれど、そんな言い方しなくても良いだろうに。
味自体は一緒なのだ、見た目はゲテモノでも美味しい。
「それでこれからどうすんだ?」
「お昼まで自由行動にしようと思ってるわ」
今日はアウローラのストレス発散も兼ねての外遊なので、アウローラに予定を聴くと意外な答えが帰ってきた。
アウローラの事なら一緒にあっちこっち行こうと誘ってくれると思ったのだが、そのアテが外れてエルピスはどこに行こうかと頭を動かす。
それにしても自由行動か……都合が良い。
「じゃあ俺は街の外でちょっと戦闘してくるね」
「あんた本当に暇な時はずっと戦ってるわね」
「人の事を戦闘狂見たいな言い方するの辞めてよ、ちょっと今回の一件でいろいろと足りなさを感じてるんだ」
金が稼げる上に戦闘経験を重ねられるからエルピスは暇さえあれば戦っているのであって、決して戦闘狂な訳では無いのだ。
それにアウローラに対して言った通り連合国での一件もある。
強くなれる時間があるのならば、少しでも強くなりたい。
「じゃあ私はアウローラについて行こうかしら」
「なら私はエルピスに付いて行こ──」
「貴方もこっちよ」
「なんでよセラ! 別に一緒に行っても良いじゃ無い!」
「貴方が一番疲れてるんだから当然でしょ」
そう言いながら暴れるエラの服を引って、セラはアウローラの所まで連れて行く。
なんだか最近セラがお姉さんっぽくなってきた事に少し笑みを浮かべながらも、エルピスは出立の準備をする。
とは言っても大体は収納庫に入っているので、特に何かするわけでは無いが。
「僕は姉さんに付いてくよ」
「人が多すぎてここはちょっと僕に合わないしエルピスについていくよ」
「良し! じゃあこれで決定だな。一時になったら中央広場で合流しようか」
「あ、私もエルピスさんの方ついてきますね、女性陣の方は怖いので」
「分かったわ、また後で」
男女で綺麗に別れ、エラ達女子組は街へと、エルピス達男組は近くの森へとその姿を消す。
どんな魔物がいるのか期待に胸を躍らせながら、エルピスは嬉々として街の外へと向かうのだった。
○
「あぁ…しんどかった~。一通りは倒せたんじゃ無いか?」
肩で息をしている灰猫を横目にエルピスも地面に倒れ込み、荒ぶる呼吸を抑える。
アウローラ達と別れて早二時間が経ち、灰猫とフェルも服は傷だらけで、身体こそ傷は無いものの戦闘回数の多さを物語っていた。
「あの妖狐のウザさと言ったら…本当に面倒ですね」
「まさかこっちの力量に合わせて変化するとはね、しかも隠蔽してようがおかまいなしで元の力で来るし」
「まぁそのおかげで僕以外に変化してくれた奴は、みんな消えてったから楽ではあったけどね」
そう言いながらエルピスは自分達の周りで転がっている魔物の中から、話題に上がっている妖狐を見つめる。
灰猫が言った通り、エルピスやフェルに変化しようとした妖狐はその悉くが力に耐え切れず爆散した。
意思も持たず、中堅程度の力しか無い魔物が神の称号や最上級悪魔の力に耐えられる訳も無かったのだ。
「そろそろ帰るか、結構戦ったし」
「それもそうですね。ではそろそろ行きましょうか」
「──悪いが先行っててもらえるか? 俺少し行く所があるから」
「まさか女の子?」
「ないない、信用しろよ」
「エラさん達には私の方から言わせてもらいます。それではまた後でエルピスさん」
なんとなく見透かしている様なフェルの目で見つめられ、少しエルピスはたじろぐが、すぐに返事をして転移魔法で飛んでいく一行を見送る。
それからすぐにエルピスも転移魔法を起動した、行き先は龍の森。
かつて自分が住んでいた場所だ。
/
良い子はお寝んねし、悪い子も殆どはお寝んねしてしまう今の時刻は夜中の3時。
森霊種の国の寒波が夜になって更にその力を強め、部屋の中でも少し寒いと思えるこの時刻に部屋にゆっくりと忍び寄る影が一つ。
その影はまるで事前に知っていたかの如く、いくつかある部屋の中からその部屋に入って行く。
部屋の中に居るのはニル達女子組だ。
普段なら侵入者に対して警戒し、眠りの甘いエラも今日限りは深く眠りにつき、セラも睡眠を不要とするはずなのにぐっすりと眠って居る。
まるで何者かに眠らされた様に──
そして返り血の様な真っ赤な服を着て、白い髭を生やしたその影は枕元に何かを置いて早々に部屋から退散して行った。
はっきり言ってあの二人がこの程度の魔法で眠るわけないので、この茶番に付き合ってくれているだけだろう。
勿論別の部屋で寝ている灰猫達の枕元にも贈り物を一つづつ。
「ちょっと時期は違うし季節遅れだけど、お疲れ様みんな」
暦上は今の季節は日本で言うところの一月相当であり、となるともうお年玉をあげる季節ではあるのだが、先にこちらから終わらせておきたかった。
それに今回の件ではみんなに頑張ってもらった、お礼も兼ねてこのタイミングが一番ちょうど良かったのだ。
「ついでに来たはいいけど……王族の寝床がこの警備のザルさはどうなんだ?」
グロリアスの枕元に立ちながら、呆れた様な顔をして赤い服の男はそう言う。
安らかな寝顔で眠る若王を見つめながら、再び森霊種の国へと帰るのだった。
/
「エルピス! エルピス!!」
「また朝っぱらからバタバタして…どうしたんだ?」
「これ見て!! 凄くない!?」
そう言われてアウローラに差し出されたのは、綺麗な真紅の赤と深い青色の宝石だ。
しかもそれらを嵌める事が出来るネックレスもアウローラの手にはかがげられている。
こちらは聖母の様な女性が何かを抱く様なデザインになっており、ここに宝石を嵌めるように作られたのだろう。
まるで王国を守ろうとするアウローラを表したかのように。
(まぁそれをイメージして作ったからそう見えてくれないと困るんだけど)
そう思いながらも、エルピスは我ながら良い出来だと改めて思う。
「確かに綺麗だね、昨日買ってきたの?」
「そんなわけ無いでしょ! 朝起きたら枕元に置いてあったのよ」
「何そのサンタさん的なノリ」
「──もしかしてだけどこの世界ってサンタが実在してるんじゃ……?」
「一部地方には居るけどこの辺りには居ないわね、サンタじゃないわよ」
──サンタ実在するんかい!
セラの言葉にそう言いたくなるのを堪えつつ、エルピスはこれを行なったのが自分だとバレない様に話を合わせる。
別に自分からのプレゼントだと言っても良かったが、これはこれでいつバレるかどうかのドキドキ感が楽しい。
「エルピス、枕元になんかあったんだけど」
「おはよう灰猫。何があったんだ?」
「これだよ」
そう言いながら灰猫がエルピスに差し出したのは、二振りの綺麗な彫刻が為された短剣。
片方は黒と青が混ざった綺麗な色をした刀身で、もう一つの刀身は朝日に照らされて薄くではあるが赤く輝いていた。
短剣にしては少し曲がって居るし、シミターにしては曲がりが少ない、まるで脇差の様な反りの珍しい短剣を嬉しそうに灰猫は振り回す。
室内で試し振りだとばかりに短刀を振り回す灰猫に向かって、エルピスは微笑みながら声をかける。
「落ち着け灰猫、さすがに室内は危ない」
「あ、ごめんエルピス。これ、ありがとね」
「俺にお礼言っても仕方ないだろ」
上手く隠したからセラとニル、あとフェル以外にはバレていないと思ったが、どうやら灰猫にもバレたらしい。
そういえば匂い対策をしていないので、あの短刀にはしっかりとエルピスの匂いがついていることだろう。
そりゃバレるわけである。
「エルピス! エルピス!」
「エラも貰ったのか? 何を貰ったんだ?」
「これ!」
エラがこちらに見せつけ──いや近いから、顔当たってるから。
エラがエルピスに見せつけて居るのは、オレンジ色の綺麗な水晶とそれを嵌め込めるネックレスだ。
ひし形に削られた水晶の中には綺麗な、それでいて研ぎ澄まされた剣がうっすらと写っていた。
それは反射によって剣から魔法、そして銃といろんな武器に色を変えていった。
実はこれは武器召喚術式が組み込んである結構すごい魔法道具で、ようは強化版十徳ナイフ的な便利アイテムだ。
彼女らしいと言えば彼女らしいネックレスの出来栄えに満足しつつ、似合ってる? と目で訴えかけてくるエラの頭を撫でる。
「似合ってるよ。すっごい可愛い」
「ありがとう! 大切にする!」
灰猫に引き続きエラもどうやら気づいたらしい。
こちらに関していえば匂いなのか魔力の残滓なのか気配なのか、どれで判断したのかは分からないがエルピスだと判断できるにたる何かがあったのだろう。
ネックレスをずっと眺めて居るエラの次は、予想していたがにっこりと笑みを浮かべたセラだった
「エルピ──」
「それで何を貰ったんだ?」
「最後まで言わせてくれてもいいと思うんだけど……」
なんだか少し残念な子になりつつあるセラが持ってきたのは、エルピスとセラが始めて有った時にセラが生やしていた翼があしらわれた盾だった。
基本的に防御しているところを見ないので盾は必要ないかと思ったが、この盾は一応魔法の補助をする役割もあるので盾として以外にも使うことができる。
そこには神話に出てきてもおかしくないような豪華な装飾が成された槍と剣が、翼を守る様に飾られていた。
「ありがとうエルピス!」
「気持ちは嬉しいけどもうちょっと声のボリューム下げようね、バレちゃうから」
「あら、私としたことが失敗失敗」
さてこれで終わりか。
冗談半分でそんな雰囲気をエルピスが出すと、セラの後ろでにっこにこしながら待っていたニルの顔が急激に歪む。
なんというか最近よく思う様になってきたが、狼というよりは犬に近い気がする。
「それでニルには何が届いたの?」
「僕にはこの杖が届いたんだよ! プレゼントなんて一体何千──何年ぶりかな?」
何千って所は聞かなかった事にしてやるから、泣くのはやめて欲しい。
そう思いながらニルが持っている杖を見ると、造形がかなりエルピスのものと酷似していた。
強いていうならニルの杖は握る所に少し丸い球体の様な物が付けられていて、更に色んな素材をごちゃ混ぜにしてあるのか、混ざった色が逆に神秘さを醸し出していた。
自分の上を参考にして作ったから似るのは当然だが、案外杖作りは難しかった、今度また綺麗に作り直してあげたほうがいいだろうか。
「まぁなんだ……良かったな」
「ええ、すっごく!すっごく嬉しい!!」
にっこりと笑みを浮かべるニルを見て、エルピスはやって良かったと笑みを浮かべる。
喜びかたひとつとっても普段ならばエルピスの望んだ通りの喜び方をするニルだが、今回はエルピスが想像していた以上だ。
それほど嬉しいと思ってくれたことが、エルピスにとっては何よりも嬉しい。
「よしっ、私達の部屋でファッションショーよ! この国で買った服も見せてあげる」
「分かったから引っ張るなって! 灰猫とフェルも行くだろ?」
「行きますけど僕のプレゼントはどこでしょうか!?」
引っ張られるエルピスに対してそんな事を口にするのはフェルである。
フェルのプレゼントも用意していた筈なのだが──
「枕元に置いといた、無いってことは吸収したんじゃ無いか? 魔力の塊置いといたから」
「んなばかな!?」
「ほらキャラ崩してないで行きますよ悪魔、あと魔力の塊はこれですね」
「うっわフェルよだれ垂れてるよ」
「灰猫ちょっとそれは傷つく。多分悪魔になったら分かるよこの感情」
悪魔であるフェルにとってみれば、邪神の魔力はこの世のどの食物よりも甘美で美味な食物であり、さらに一度摂取すれば数百年分は強くなる。
それが魔神と龍神の権能によってさらに強化されているのだ、この世のどんな薬物よりもフェルにとってみれば中毒性があるその至宝を、だがすぐに食べずにフェルは大事そうに自分のポケットに入れた。
今この場で食べれば進化は確実、だが急に進化すると自分がどうなるかは分かっているので、ちょっとずつ魔力にならしていこうという作戦だ。
「──お疲れ様でした。エルピス様」
アウローラに連れられて女子の部屋に行く最中、すれ違った森霊種の召使いがエルピスに対してそうポツリと呟く。
やはりではあったが、メイドにもどうやらバレていたらしい。
まぁとは言えアウローラと灰猫にはバレていない様だし、それで良しとしよう。
「ほら早く!」
「──はいはい今行きますよ」
まだ寒さの残る廊下を歩きながら、元気に外へ走っていくアウローラにエルピスはそう返事をした。
こうしていくつかの謎を残しながらも、一連の騒動は完全に終結したのだった。
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そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
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このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
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五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
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この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
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もはや文字ですら無かった
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