クラス転移で神様に?

空見 大

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幼少期:冒険者組合編

けじめ

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「ーーこれでラストか。アウローラ達の方は……どうやら無事みたいだな」

 片手間に依頼を片付け飛龍の巣の中で軽く休憩を取っていたエルピスは、〈神域〉を使いアウローラ達の安否を確認する。
 フェルが居るから余程の敵でも現れない限り何も問題はないと思うが、それでも心配になるのはアウローラ達の事を大切に思っているが故だ。

「クゥゥン……」
「大丈夫、街に手を出してない君達を攻撃する気は無いよ。ちょっとしたらどこか行くから、俺の魔力が定着するまで待っててな」

 近くで不安そうな鳴き声を出す飛竜に対して、エルピスは落ち着くように頭をなでながら言う。
 龍神の力に触れて萎縮していた飛竜もそれで少しは落ち着いていく。

『……何かと思ったら飛龍か、せっかく人が寝ていたと言うのに。ふぁぁぁ、ん? どこだここは? 今は何年だ?』
「久しぶりだなエキドナ、とは言っても迷宮以来だけど」
『そうなのか? 迷宮の事はよく覚えておらん、我的には島以来であるな』
「結構喋ってだんだけど。覚えてない?」
『そう言われればそんな夢を見た気もするな、名を知っているのはそれが原因か。古龍と戦ったのだったか?』

 龍神の力に感化されてか、影の中からその頭だけを出してエキドナは眠そうにしてエルピスに言葉を返す。
 今は飛龍の巣を住みやすくするために普段よりも強めに神としての力を使用しているので、それに当てられてか龍の鱗はいつもより輝きを増し、龍神であるエルピスのそばに常にいるからか力も増して見えた。

『それでここは?』
「王国でた時から話すと長いよ~? いろいろあったし」
『話さなくてもいい。暫く待て』
「ん? ……ああ、そういや記憶共有出来るのか」

 契約した生物とその契約者は、いくつか相互にとって利益になる能力が付与される。
 デメリットとして魔力量が減ったりなどいろいろあるが、それを凌駕するほどのメリットとして記憶の共有、能力の仮使用、魔力の譲渡などが挙げられる。
 普段使いしないので忘れてしまっていた効果ではあるが、言われてみればそんな便利な能力もあった。
 どこから記憶を覗かれているかはわからないが、とはいえ見られて困るような物は何も無いので別に問題はない。
 そう思いエルピスは素直に龍との記憶共有に身を任せていると、数秒して龍はゆっくりとため息を吐く。

『破龍の息子らしいといえばらしいが。どうやら大変だったようだな』
「結構いろいろあったからな、まぁ俺が原因なのもあるにはあるが」
『そのようだな。とはいえ神の力も十分に強くなっているし、龍神としての力は着々と積んでいる様だな』
「まぁ力は強くなったけど、エキドナもそろそろちゃんと起きて作業手伝ってよ。昔は結構組み手とかやってくれたじゃん」
『いまの我は…なんと言えば良いのだろうな? まぁ冬眠のような物だと思ってくれれば良い。なので普段通りの活動が出来ないのだよ」
「龍神の能力に感化されれば起きられる感じ?」
『起きる、と言うよりは起こされているが正しいな。寝ているときに耳の近くで大音量で音を鳴らされるような気分だ』

 なるほど確かにそう考えてみれば龍神の魔力がいきなり体の近くで吹き荒れるのだ、エキドナからすれば驚くのも無理はないだろう。
 龍神の魔力は龍からすれば、筆舌に尽くしがたいほどの旨味と力を備えた最高の一品だ。
 そばにいる飛龍が完全上位者であるエキドナが首を出しているのに、逃げ出しも服従もせずに動かないほどに。
 身体が逃げたいと思っていようと、本能が龍神であるエルピスから離れることを拒否しているのだ。
 そんな麻薬よりも中毒性のあるのが龍神の魔力であり、それが魔神の魔力によって更に強化されたエルピスの魔力は、筆舌に尽くしがたい程の魅力がある。

「なるほど、冬眠はどれくらいあったら終わるの?」
『どうだろうな、十年、二十年、もっとかも知れん。龍にとっての冬眠とは魔力の定着と増幅だ、まぁそこら辺が上手く行けばなんとかならい事は無いが? 我も魔力の定着は早くしてほしいしな、久々に街にも出たい』

 ニヤリと笑みを浮かべながらエルピスにエキドナはそう言った。
 エルピスの記憶を覗いている龍からすれば、本来ならば不可能である魔力定着という所業ではあるがそれが可能であることは分かっている。
 ただそれがかなり難しい事であることも。
 外で休んでいるセラと合同でやれば簡単なことではあるだろうが、それはなんだか負けたような気がして癪に触る。

「言うじゃないかやってやんよ。ついでに魔力の増強もやってやろうじゃん」
『言うな? 出来るのかお前に?』
「龍神と魔神の力を併せ持ったエルピスさん舐めんなよ? こんくらい余裕だわ!」

 そう言いながらエルピスは、龍の額の契約紋に魔力を無理やり注ぎ込む。
 本来なら全身に魔力伝達用の模様を描き、外殻から浸透させていくようにして体の内部を入れ替えていく方法を取る方が良いのだろうが、その方法は時間がかかる。
 それにどうせやるなら最短の時間で効率よく、そして最も龍が強くなれる方法がいい。
 この方法でやると多少龍に負担がかかるが、それくらいは強くなるためだ、許容してもらおう。
 一度エキドナの魔力を全て抜き取り、それをエルピスの魔力と混ぜながらエキドナの中へとゆっくり戻していく。
 他人の魔力を使用して冬眠を無理やり終わらせることは難しいが、エルピス自身の魔力を使って行えばその程度の事造作もない。
 なにせ半人半龍ドラゴニュートであったエルピスにももちろん冬眠はあったし、神人になった今でも似たようなことはあるが、1日もかかることなく終わらせることができるのだから。
 数分後、珍しく額に汗をかいているエルピスは、やりきったとばかりに大きく伸びをする。
 冬眠を無理やり終わらせることに成功したのだ。

『おお、さすがだな龍神。力が上がっているのも感じる』
「おいおいこんな狭いところで出てくるなって、飛龍もビビってるし。顔だけにしてくれ」
『ん? ああ居たのか気づかなかった、すまんな』

 陰から半分ほど体を出したところでエキドナはようやく飛龍の存在に気づき、申し訳なさそうに少しだけ体を影に戻す。
 何も彼が無視をしていたとかそう言う話ではなく、単純にそもそも龍からすれば飛龍など羽虫に等しいので認識すらしていなかったのだ。
 どちらかといえばそんな飛龍に対して気を使う龍の方が珍しいのだが、それはいまは置いておこう。

『人化できるようになるかと思ったが、まだ出来んようだな』
「性別の概念がないからじゃない? 確か古龍クラスでも上位じゃないと人化出来ないはずだし」
『いまの我の実力はそれくらいあると思うのだが……まぁ練習すればそのうち出来るようになるだろう。というか性別は関係ないぞ?』
「そうなの? 昔読んだ本にはそう書いてあったけど」

 これでもエルピスは、昔半年かけて王国の図書館だけではなく近隣諸国の様々な生き物に関する書物を全て読みあさっているから、知識だけには自信があった。
 だというのに当の本龍であるエキドナにその事実を否定され、エルピスは肩透かしを喰らわされた様な気分になる。

『まぁ一部の龍はそうかも知れないが……そもそも龍神も生殖器すらだろう?』
『ま、まぁ生えてないけどさ。そもそも神人だから生殖器機能必要ないし』

 この世界に来てから誰にも言ってないし、おそらく誰も疑問に思っていなかったのでここまで触れてこられなかったが、エルピスには人間でいうところの生殖器は存在しない。
 理由としては二つあって、そもそも半人半龍ドラゴニュートは生殖器を使って繁殖をしないから、もう一つは神人であるエルピスは種として完結しているので子を残す必要性がないからだ。
 魔力で擬似的な物は作れるので行為自体は問題なくしようと思えばできるが、上記の理由からエルピスは生殖器が
 ちなみにそれ以外にも食事、睡眠、排泄その他生理現象の全ては今のエルピスにとって必要がない。

「いまの話本当? それって結構問題じゃない?」

 ーーそう言いながらエルピスの横に立ったのは、いつのまにか洞穴の中に入ってきていたニルだ。

「びっくりした……急にどうしたんだよニル」
「びっくりしたのはこっちだよ、急にそんなカミングアウトされて。僕達女神は肉欲に溺れたりしないし、子供の作り方もまた違うからいいけど、エラちゃんとかかわいそうだなぁ」
「なんでそこでエラが出てくるのさ! というか下の話しこのまま続けるつもりなの?」
「いやいや、大事だよ~こういう話。狂愛を司る女神が言うのもなんだけどさ、男女関係における肉体的な関係って口に出すの忌避されるのは分かるけど、それでも尊い物なんだよ。だって生命を生み出す行為なんだから。それを好きな相手とできないとか、可哀想に」

 心底可哀想だと言うふうに、というより実際そう思っているのだろうが、ニルは大きくため息をつきながらそう言った。
 狂愛を司るニルの言葉は、エルピスからすればかなり重く心に響く。
 神はその司るものに関して嘘を言わない。
 責任感があるからとか義務付けられているからとか、そう言ったものでは決してない。
 もっと本質的なものだ。
 それは神であるエルピスだからこそ理解できるものであり、だからこそニルの言葉は本心であることがわかる。

「エラから聞いてもないのにそんな好きとか決めつけないの! あとエラを下の話に巻き込むな!」
「いえいえエルピス様、私達これでも愛の神ですよ? 確かに妹が言うのは言い過ぎだと思いますけど、そろそろはっきりなされないと男女関係で拗れてもいいことなんて一つもありませんよ?」

 またしてもいつのまにかエルピスの近くに来ていたのは、膝を折り飛龍にちょっかいをかけながらこちらを見るセラだ。
 この姉妹人の側に音もなく現れるのを生業にでもしてるのかと言いたくなるが、それよりもエルピスからすれば問題なのは敵が二人に増えたことだ。
 ニル一人ならなんとか言いくるめることも可能かもしれない、だが愛の女神が二人にもなってしまうとさすがにエルピスも言い返し切れる自信がない。
 だが一か八かにかけて、エルピスは自分で無理があると思っていながら反論する。

「いいのそういうのは旅が終わってからで! いまはみんなと一緒に遊んでたいの!」
「うっわ、典型的なダメ男のセリフじゃないですか。私はそんなところも好きですけど、どう思います姉さん?」
「一回エラとアウローラも交えてちゃんと話した方が良いわね、あ、飛龍ちゃんちょっと席外してくれる? ごめんね貴方の家なのに」
「くるるぅ」

 可愛らしく泣き声を上げてエルピスの最後の味方は何処かへと飛び出していき、後に残ったのは真面目な話をする雰囲気でこちらを見ている愛の神が二柱。
 はっきり言って絶対絶命だし孤立無援だし詰みだ。

「ありがとう。それでですがエルピス様、逃げてばかりでは始まりませんよ?」
『そうだそうだ、伴侶の一つくらいとっとと拵えればいい』
「そんな簡単に言わないでよ! 向こうの世界でも考えてなかったのに付き合うとかそんな」
『なんだ龍神、その年にもなって愛を囁き合った相手もいないのか……? 可哀想に、なんなら我が相手になってやろーー』
「「捻り潰しますよ蜥蜴」」
『ーーどうやらこの二人が相手になってくれるらしい。よかったな』

 エルピス的には全く良くないが話は纏まりそうなエキドナの提案を、だが二柱の神は圧だけで無かったことにする。
 怯えてしまうのも無理はない、この二柱はエルピスだって怖いのだ。

「頼りない…頼りないよ、進化して強くなったんじゃないの」
『たとえ龍神の力を手にしていたとしてもこの二人には抗おうとは思わないさ、現に目の前で龍神が敗北しているしな』
「まぁここでうだうだ言っていても始まりません。ちょうどアウローラ達も下山してきている様ですし、確か神の称号についてもそろそろ話そうとしていましたよね? ちょうどいいです。今日それも含めて一回会議しましょう」
「うん、それがいいと思うよ!」

 話が勝手に進んでいくのを止められないまま、いつのまにか今日中にエルピスは重大発表する事が決定されていた。
 言い返したいが愛というジャンルにおいてこの二人に口論では勝てないし、する気はないが実力行使に出てもこの二人と争ったところで勝てる未来が見えない。
 それにエルピスも確かにそろそろ覚悟を決めるべき時だとは薄々思っていた。
 自分の意思で決めたかったことではあるが、まぁいい頃合いでもあるだろう。

「わかりました!わかりましたよ、いったん宿屋に戻ってから何言うか考える」
「応援してますよエルピス様」
「最悪振られちゃっても僕が慰めてあげるよ」
「縁起でも無いこと言うのやめてくれ」

 何故か嬉しそうなニルとは対照的にエルピスは憂鬱な気分になりながら、誰とも決めきれない自分の不甲斐なさに頭を抱えて宿屋への道をとぼとぼと向かうのだった。
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