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共和国:番外版
幼い悪魔の一日
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豪華絢爛な装飾がなされたある宿屋の一室。
普段は質素を装っているある男の隠れ家であるこの部屋は、周囲に対しての完全な防音とある程度の魔力耐性を持っており、こうして秘密の話をするとき男は好んでこの場を使用していた。
だが普段と違うことが一つある。
それはいつもならばニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている男が、今日に限ってその笑みを何処かへとしまい込み、その分怒りの形相を浮かべていることだ。
「あの小僧めッ!! クソがクソがクソがァ!!」
そう言いながら悪魔の目の前で、中年の太った人間は狂ったように机を叩く。
握りしめた手からは僅かながら血も流れ、目はギラつき少なくはあるが魔力も漏れ出している。
この場に一般人でも居れば倒れる程の威圧感を放っている彼は、目の前にいる四人組ーー遥希達に八つ当たりを始めた。
「お前達は何をして居た!? いったい! いったい何の為に大金を積んでお前達を雇ったと思っているのだ!!」
怒鳴り散らす男を周りの執事達は諌めようともせず、ただただ主人の気が落ち着くのを待っている。
怒られている四人組も同様だ。
とはいえそれが正しい対処だと思うし、それをしなければ計画に狂いが生じる可能性も高いわけだから、彼等のしている事は間違って居ない。
だがーー
(この程度とは、思っても見ませんでしたね)
そんな彼等の行動に対して、悪魔が少なからず落胆の色を見せたのは仕方がない事だろう。
プライドを持てと言っているわけではない、そんなもの時には邪魔になるのだ、無い方がむしろ好都合だとも言える。
一番の問題は彼らの目だ、反抗を放棄し、ただ嵐が過ぎ去っていくのを眺めるだけなのは、悪魔から言わせれば人として死んでいるのと同じだ。
「秘書官、今回の被害総額はいかほどだ?」
「計り知れません…冒険者組合に渡った金銭もいくら程になるか」
「国民の方はどうなっている」
「暴動はなんとか抑えましたが、不満はやはりかなり積もっているようです。しかし二ヶ月もあればなんとか沈静化できるかと」
今回冒険者組合は膨大な資産のほぼ大半を失う代わりに、それ以上の価値ある品物を大量に手に入れた。
そうなってくるとどうでもいい依頼に組合も金を出さなくなり、商人達は組合の出す品物よりも良い品物を世に売り出さなければならない。
普段ならば迷宮一つでここまで市場が大荒れになる事などそう無いのだが、今回ばかりはその規模が違った。
組合が手に入れた資材も渡した金品も、数年かかっても得られないほどの莫大な金額だ。
だがそんな中で秘書官がそう答えた瞬間に、どこからとも無く安堵の吐息が漏れる。
当面悪化の一途は辿るが失墜する事はなくなった事を知り主人の機嫌が直ると思ったのだろう、しかし彼等の主人は気が良くなる所か、更に怒りの色を強めた。
「そこの貴様、今の状況がどういうものか、理解しているのか?」
「は、はい。確かに迷宮の魔物の素材を我が国が得られなかったというのは多少痛い出費では有りますが、結果的に見ればマイナス面は無いわけですし、経済も潤いますから何も悪い事は無いかと」
そう答える文官を見て男は深く、深く息を吐いた。
彼が言った事は間違っていない。
今回損をするのは他国に籍を置く商人や、冒険を生業とする冒険者達だけだ。
多少はそのもの達からの関税などが減りはするだろうが、その分組合の収める税は去年と比べ物にならないほどであるのは想像に難く無い。
烈火の如き怒りを浮かべて居た先程とはうって変わり、目の前の男は部下の無能さを嘆く様な表情を浮かべる。
「この国がどういう国か忘れたのか? 現在は序列1位を保てているとは言え、少しでも何か事が起きれば序列は直ぐに変わる。という事はつまり経済が回るのは、私にとって不利でしか無いのだよ」
「……っ! 失礼致しました」
「少し前に7位が暗殺されたばかりだと言うのに……まったく不幸とは重なるものよの」
ようやく気が収まったのか、男は深く椅子に腰をかけ落ち着きを取り戻した。
この国の序列七位の暗殺は、主人が手ずからしたと悪魔は既に聞き及んでいる。
いままでは家族の事を案じて殺すことが出来なかったらしいが、二ヶ月ほど前に妻子も家から離れたらしく、国全体が混乱に陥っている今ならば一人が死んだ所で特に変わることもない。
執拗に陰湿に、それでいて狡猾で残虐な暗殺だったらしい。
誰にも知られる事なく、誰からもその身を守られる事なく、自らの罪を懺悔しながら痴れ者として処理される彼の身を考えると、自然と笑みがこぼれてくる。
普段は虫も殺さぬような顔をしておきながら、一度周りに誰もいなくなり己のみとなればその凶悪な本性をあらわにして、周囲に死を撒き散らすのだ。
まったく何と我が主人は素晴らしいのだろうか。
「あの小僧から巻き上げる事は出来んのか? 不当性を誇示しギルドに申し立てればどうだ?」
頭の中で主人に褒められる想像をして居た悪魔の思考を遮る様に、男は笑ってそう語る。
思考を遮られたことにチリ一つ残さず殺したいほどの殺意を感じるが、主人の計画を進行させるにはこの男が必要なので必死に我慢しておく。
そこら辺の底辺の悪魔とは違う、自分は言う事を守れる悪魔なのだから。
「本人に使いを出したところ『図々しいにも程がありますね、生きている事に価値があるって言葉、習いませんでしたか? まぁそんなに言うのなら冒険者組合にも迷惑ですしこれくらいならあげますよ』と言っていました」
渡されている紙に書いてある事を読んでいるだけとはいえ、そこに記載されているのはエルピスの言葉だとはいえ、よく怒り心頭の主人の前でこんな内容を読んだものだと悪魔も思う。
それと同時に秘書官が懐から出したのは、4枚の銅貨。
この国において銅貨四枚は平均した子供のお小遣いの金額、庶民の感覚からかけ離れているディタルティアがその事に気付いているかは別にして、侮辱されている事だけは嫌でも分かった。
「屁理屈を通り越してわがままだな、まったく…怒りを通り越して逆に冷静になってきた。この国にアルヘオ家の領地があった筈だろう、そこから財産没収と使用人を捕まえて晒し首にしておけ」
「既に試みましたがもぬけの殻でした。屋敷は忽然と消え、屋敷があった土地にはこれでもかと言うほど石がばら撒かれており、直ぐには使えそうにもありません」
「ーーそうか。ご苦労だった下がって良いぞ」
主人に労を労われた秘書官は、肩の荷が下りた様に部屋から退出する。
事前にやれる事は全てやっておいている辺り、随分と秘書官たちはこの男に振り回されてきたんだろうと言う事が容易に想像できた。
そんな可愛そうな秘書官を見送りながら、男もゆっくりと椅子から腰を上げる。
後を追う様に部屋から出て行く男は、四人組に一つ命令してから部屋を去っていった。
「フェルさん、居るんですよね?」
「うん。居るよ」
遥希に呼ばれた悪魔は、先程まで男が座っていた椅子に腰掛けた。
透明化の魔法を解除して突如現れたフェルに少し驚いた様子を見せながら、遥希は先程伝えられた命令を一字一句間違えないように気をつけながら正確に伝える。
「『3日以内に奴の首を持ってこい、さも無ければ……わかって居るな?』だそうです」
「それはそれは好都合。全く何故人間とはこうも分かりやすく動いてくれるんだろうね」
「それを言われると何とも言えないです。悪魔と違って人間は理性で動けませんから、この後はどう行動しますか?」
皮肉を上手く返された事を気にも止めず、悪魔は微笑む。
少なからず遊べそうなおもちゃを見つけた事に喜びながらも、並行して思考を進める。
このまま殺害した場合には裏から捜索される可能性が高い、その場合のデメリットは主人の行動範囲が狭まる事と、僕の評価が下がる。
弱みを握って居るから強制で返される事はないと思うが、そんなのは許容出来るものではない。
あんなに尽くしたいと思える主人など、今後一生現れないだろう。
それに邪神自体も現れたのは一体何年ぶりだろうか、自分が生まれて一度も無かったので数千年は前のことだろうが。
(となると、この作戦は無しだな)
はてさてどうしたものだろうかーー
「あ、あの1つ疑問なのですが、このあと僕達はどうすれば?」
「それに関してはエルピスさんより『王国に僕所有の屋敷があるからそこに行って』と言われて下ります」
主人の美声を脳内で再生しながら、悪魔は恍惚な表情を浮かべた。
まるで恋い焦がれた様な表情を浮かべて居る悪魔に、遥希は1つの提案をする。
再び邪魔をされたのは腹立たしいが、今回ばかりは話の途中にトリップしていた自分が悪いので、悪魔は表情には出さずに話を聞くこととする。
「1つ思いついた案があるのですが…」
「というと?」
「適当な魔物を殺してその首を俺達の首に魔法で偽装、その後その生首を発見させ俺達が死んだと思わせる。それなら追っ手も来ませんし、最善策かと」
「なるほど、その手がありましたか。人間とは面白い事を考えますね、それで行きましょう」
遥希の提案を受けて、悪魔は計画を立て直す。
自身が持っている能力と技能を用いれば可能だろう。
そう思った悪魔は主人に計画始動の通達をし、早急に作業を始める。
とっとと終わらせて、主人に褒めてもらうとしましょうかーー
#
「ーーと、思ったのですがねぇ」
首元に突き付けられた剣を横目で見おろしながら、悪魔は吐き捨てる様にそう呟く。
遥希達を逃したまでは良かったが、わざわざ作った生首を持ってきてあげたのにこの扱いだ。
全く何がいけなかったのか……。
どうやら言動からして遥希達の首が偽物であると言う事はバレていないようだし、もちろん悪魔が本気を出して作ったのだからバレるはずなど無いのだが、それならそれで不思議だ。
この場合使用人を殺されたとして攻撃してくるのならば百歩譲って分かるが、全く関係なしにこんなことされたら意味がわからない。
「誰の指図でこの者達を襲った?」
なるほどそう来たか、と悪魔は少し微笑みながらそう思う。
確かに魔物に喰われて殺されたという設定には無理があった、悪魔自身もそれは薄々思っていたが、こうして明確に言われると少々くるものはある。
なんとか挽回しようと上手い具合に相手の話に乗っかり、様子を見てみることにした。
「悪魔である私がわざわざ依頼者の情報。教えるとお思いで?」
「フッ。思っているさ」
悪魔が出した質問に、ディタルティアは笑みを浮かべながら答える。
周りに控えている神官や、聖騎士と思わしき者達も聞き出せると確信している様だ。
何か秘策があるのだろうかーー悪魔がそう思っていると、彼は懐から魔力の篭った血漿を取り出した。
その血漿を見て最初は一体なんなのかと思ったが、少ししてからその意味に気づく、確かにこれならば言う事を聞いてしまうかもしれない。
「悪魔であるお前なら、これが何かはわかるだろう? これをやるからとっとと吐け」
取り出した血漿を悪魔の目の前で、これでもかと見せつけながら彼はそういう。
目の前の王が取り出したその結晶は、この世界で稀に取れる魔力の結晶。
豊潤な魔力と圧倒的なまでの悪魔に対する誘惑性を有しており、並の悪魔なら見ただけでそのものの願い事をなんでも叶えたくなるというのが触れ込みだ。
しかしーー
「足りませんね、全然足りません。そもそも魔力だけで雇えるのは、低級悪魔だけと知らないのですか?」
「は?」
「だからその血漿で雇えるのは下級の雑魚だけですよ」
そんな事も知らなかったのだろうか?
そう思いながら丁寧に、優しく、落ち着かせる様に教えてあげる。
あんなもの、ある程度力を付けた悪魔ならば魅力を感じるほどの魔力量でも無いし、やろうと思えば作ることだってできる。
わざわざ他人に頭を下げて依頼を聞いてまであれをもらい受けようとするなど、悪魔に言わせれば愚の骨頂だ。
しかしそんな悪魔の思いとは裏腹に男は口を無様に開け、動悸が激しくなっている。
「か、下級だと? 超位の悪魔まで従えさせる事の出来るマジックアイテムだぞこれは!!」
「ーーん? だから下級と申して下ります。たかだか超位の悪魔など雑魚と申さずしてどう致しますか。数百年しか生きておらず、名付きの家からも出ていない悪魔など全て下級ではございませんか」
「ーーお前は一体何なんだ?」
恐れる様にそう言った青年を嘲笑いながら、悪魔はゆっくりとそれでいて普段の彼からすれば驚くほど低い声で告げる。
まるで別の何かの様に。
「そこまで気になるとおっしゃるのであれば、お教えしましょう私達の継名を。私達の名はーー」
「ーーば、馬鹿なそれはーー! その名は遥か太古に滅んだはずだっ!?」
事実を告げると真っ先に、悪魔の事をよく知っているであろう神官が悲鳴をあげる。
全く……これはどうしたものでしょうかねぇ……。
小さい悪魔は処理が面倒になった面々を見ながら、獰猛な笑みで本来の目的を果たすために魔力を開放しつつふとそんな事を考えるのだった。
普段は質素を装っているある男の隠れ家であるこの部屋は、周囲に対しての完全な防音とある程度の魔力耐性を持っており、こうして秘密の話をするとき男は好んでこの場を使用していた。
だが普段と違うことが一つある。
それはいつもならばニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている男が、今日に限ってその笑みを何処かへとしまい込み、その分怒りの形相を浮かべていることだ。
「あの小僧めッ!! クソがクソがクソがァ!!」
そう言いながら悪魔の目の前で、中年の太った人間は狂ったように机を叩く。
握りしめた手からは僅かながら血も流れ、目はギラつき少なくはあるが魔力も漏れ出している。
この場に一般人でも居れば倒れる程の威圧感を放っている彼は、目の前にいる四人組ーー遥希達に八つ当たりを始めた。
「お前達は何をして居た!? いったい! いったい何の為に大金を積んでお前達を雇ったと思っているのだ!!」
怒鳴り散らす男を周りの執事達は諌めようともせず、ただただ主人の気が落ち着くのを待っている。
怒られている四人組も同様だ。
とはいえそれが正しい対処だと思うし、それをしなければ計画に狂いが生じる可能性も高いわけだから、彼等のしている事は間違って居ない。
だがーー
(この程度とは、思っても見ませんでしたね)
そんな彼等の行動に対して、悪魔が少なからず落胆の色を見せたのは仕方がない事だろう。
プライドを持てと言っているわけではない、そんなもの時には邪魔になるのだ、無い方がむしろ好都合だとも言える。
一番の問題は彼らの目だ、反抗を放棄し、ただ嵐が過ぎ去っていくのを眺めるだけなのは、悪魔から言わせれば人として死んでいるのと同じだ。
「秘書官、今回の被害総額はいかほどだ?」
「計り知れません…冒険者組合に渡った金銭もいくら程になるか」
「国民の方はどうなっている」
「暴動はなんとか抑えましたが、不満はやはりかなり積もっているようです。しかし二ヶ月もあればなんとか沈静化できるかと」
今回冒険者組合は膨大な資産のほぼ大半を失う代わりに、それ以上の価値ある品物を大量に手に入れた。
そうなってくるとどうでもいい依頼に組合も金を出さなくなり、商人達は組合の出す品物よりも良い品物を世に売り出さなければならない。
普段ならば迷宮一つでここまで市場が大荒れになる事などそう無いのだが、今回ばかりはその規模が違った。
組合が手に入れた資材も渡した金品も、数年かかっても得られないほどの莫大な金額だ。
だがそんな中で秘書官がそう答えた瞬間に、どこからとも無く安堵の吐息が漏れる。
当面悪化の一途は辿るが失墜する事はなくなった事を知り主人の機嫌が直ると思ったのだろう、しかし彼等の主人は気が良くなる所か、更に怒りの色を強めた。
「そこの貴様、今の状況がどういうものか、理解しているのか?」
「は、はい。確かに迷宮の魔物の素材を我が国が得られなかったというのは多少痛い出費では有りますが、結果的に見ればマイナス面は無いわけですし、経済も潤いますから何も悪い事は無いかと」
そう答える文官を見て男は深く、深く息を吐いた。
彼が言った事は間違っていない。
今回損をするのは他国に籍を置く商人や、冒険を生業とする冒険者達だけだ。
多少はそのもの達からの関税などが減りはするだろうが、その分組合の収める税は去年と比べ物にならないほどであるのは想像に難く無い。
烈火の如き怒りを浮かべて居た先程とはうって変わり、目の前の男は部下の無能さを嘆く様な表情を浮かべる。
「この国がどういう国か忘れたのか? 現在は序列1位を保てているとは言え、少しでも何か事が起きれば序列は直ぐに変わる。という事はつまり経済が回るのは、私にとって不利でしか無いのだよ」
「……っ! 失礼致しました」
「少し前に7位が暗殺されたばかりだと言うのに……まったく不幸とは重なるものよの」
ようやく気が収まったのか、男は深く椅子に腰をかけ落ち着きを取り戻した。
この国の序列七位の暗殺は、主人が手ずからしたと悪魔は既に聞き及んでいる。
いままでは家族の事を案じて殺すことが出来なかったらしいが、二ヶ月ほど前に妻子も家から離れたらしく、国全体が混乱に陥っている今ならば一人が死んだ所で特に変わることもない。
執拗に陰湿に、それでいて狡猾で残虐な暗殺だったらしい。
誰にも知られる事なく、誰からもその身を守られる事なく、自らの罪を懺悔しながら痴れ者として処理される彼の身を考えると、自然と笑みがこぼれてくる。
普段は虫も殺さぬような顔をしておきながら、一度周りに誰もいなくなり己のみとなればその凶悪な本性をあらわにして、周囲に死を撒き散らすのだ。
まったく何と我が主人は素晴らしいのだろうか。
「あの小僧から巻き上げる事は出来んのか? 不当性を誇示しギルドに申し立てればどうだ?」
頭の中で主人に褒められる想像をして居た悪魔の思考を遮る様に、男は笑ってそう語る。
思考を遮られたことにチリ一つ残さず殺したいほどの殺意を感じるが、主人の計画を進行させるにはこの男が必要なので必死に我慢しておく。
そこら辺の底辺の悪魔とは違う、自分は言う事を守れる悪魔なのだから。
「本人に使いを出したところ『図々しいにも程がありますね、生きている事に価値があるって言葉、習いませんでしたか? まぁそんなに言うのなら冒険者組合にも迷惑ですしこれくらいならあげますよ』と言っていました」
渡されている紙に書いてある事を読んでいるだけとはいえ、そこに記載されているのはエルピスの言葉だとはいえ、よく怒り心頭の主人の前でこんな内容を読んだものだと悪魔も思う。
それと同時に秘書官が懐から出したのは、4枚の銅貨。
この国において銅貨四枚は平均した子供のお小遣いの金額、庶民の感覚からかけ離れているディタルティアがその事に気付いているかは別にして、侮辱されている事だけは嫌でも分かった。
「屁理屈を通り越してわがままだな、まったく…怒りを通り越して逆に冷静になってきた。この国にアルヘオ家の領地があった筈だろう、そこから財産没収と使用人を捕まえて晒し首にしておけ」
「既に試みましたがもぬけの殻でした。屋敷は忽然と消え、屋敷があった土地にはこれでもかと言うほど石がばら撒かれており、直ぐには使えそうにもありません」
「ーーそうか。ご苦労だった下がって良いぞ」
主人に労を労われた秘書官は、肩の荷が下りた様に部屋から退出する。
事前にやれる事は全てやっておいている辺り、随分と秘書官たちはこの男に振り回されてきたんだろうと言う事が容易に想像できた。
そんな可愛そうな秘書官を見送りながら、男もゆっくりと椅子から腰を上げる。
後を追う様に部屋から出て行く男は、四人組に一つ命令してから部屋を去っていった。
「フェルさん、居るんですよね?」
「うん。居るよ」
遥希に呼ばれた悪魔は、先程まで男が座っていた椅子に腰掛けた。
透明化の魔法を解除して突如現れたフェルに少し驚いた様子を見せながら、遥希は先程伝えられた命令を一字一句間違えないように気をつけながら正確に伝える。
「『3日以内に奴の首を持ってこい、さも無ければ……わかって居るな?』だそうです」
「それはそれは好都合。全く何故人間とはこうも分かりやすく動いてくれるんだろうね」
「それを言われると何とも言えないです。悪魔と違って人間は理性で動けませんから、この後はどう行動しますか?」
皮肉を上手く返された事を気にも止めず、悪魔は微笑む。
少なからず遊べそうなおもちゃを見つけた事に喜びながらも、並行して思考を進める。
このまま殺害した場合には裏から捜索される可能性が高い、その場合のデメリットは主人の行動範囲が狭まる事と、僕の評価が下がる。
弱みを握って居るから強制で返される事はないと思うが、そんなのは許容出来るものではない。
あんなに尽くしたいと思える主人など、今後一生現れないだろう。
それに邪神自体も現れたのは一体何年ぶりだろうか、自分が生まれて一度も無かったので数千年は前のことだろうが。
(となると、この作戦は無しだな)
はてさてどうしたものだろうかーー
「あ、あの1つ疑問なのですが、このあと僕達はどうすれば?」
「それに関してはエルピスさんより『王国に僕所有の屋敷があるからそこに行って』と言われて下ります」
主人の美声を脳内で再生しながら、悪魔は恍惚な表情を浮かべた。
まるで恋い焦がれた様な表情を浮かべて居る悪魔に、遥希は1つの提案をする。
再び邪魔をされたのは腹立たしいが、今回ばかりは話の途中にトリップしていた自分が悪いので、悪魔は表情には出さずに話を聞くこととする。
「1つ思いついた案があるのですが…」
「というと?」
「適当な魔物を殺してその首を俺達の首に魔法で偽装、その後その生首を発見させ俺達が死んだと思わせる。それなら追っ手も来ませんし、最善策かと」
「なるほど、その手がありましたか。人間とは面白い事を考えますね、それで行きましょう」
遥希の提案を受けて、悪魔は計画を立て直す。
自身が持っている能力と技能を用いれば可能だろう。
そう思った悪魔は主人に計画始動の通達をし、早急に作業を始める。
とっとと終わらせて、主人に褒めてもらうとしましょうかーー
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「ーーと、思ったのですがねぇ」
首元に突き付けられた剣を横目で見おろしながら、悪魔は吐き捨てる様にそう呟く。
遥希達を逃したまでは良かったが、わざわざ作った生首を持ってきてあげたのにこの扱いだ。
全く何がいけなかったのか……。
どうやら言動からして遥希達の首が偽物であると言う事はバレていないようだし、もちろん悪魔が本気を出して作ったのだからバレるはずなど無いのだが、それならそれで不思議だ。
この場合使用人を殺されたとして攻撃してくるのならば百歩譲って分かるが、全く関係なしにこんなことされたら意味がわからない。
「誰の指図でこの者達を襲った?」
なるほどそう来たか、と悪魔は少し微笑みながらそう思う。
確かに魔物に喰われて殺されたという設定には無理があった、悪魔自身もそれは薄々思っていたが、こうして明確に言われると少々くるものはある。
なんとか挽回しようと上手い具合に相手の話に乗っかり、様子を見てみることにした。
「悪魔である私がわざわざ依頼者の情報。教えるとお思いで?」
「フッ。思っているさ」
悪魔が出した質問に、ディタルティアは笑みを浮かべながら答える。
周りに控えている神官や、聖騎士と思わしき者達も聞き出せると確信している様だ。
何か秘策があるのだろうかーー悪魔がそう思っていると、彼は懐から魔力の篭った血漿を取り出した。
その血漿を見て最初は一体なんなのかと思ったが、少ししてからその意味に気づく、確かにこれならば言う事を聞いてしまうかもしれない。
「悪魔であるお前なら、これが何かはわかるだろう? これをやるからとっとと吐け」
取り出した血漿を悪魔の目の前で、これでもかと見せつけながら彼はそういう。
目の前の王が取り出したその結晶は、この世界で稀に取れる魔力の結晶。
豊潤な魔力と圧倒的なまでの悪魔に対する誘惑性を有しており、並の悪魔なら見ただけでそのものの願い事をなんでも叶えたくなるというのが触れ込みだ。
しかしーー
「足りませんね、全然足りません。そもそも魔力だけで雇えるのは、低級悪魔だけと知らないのですか?」
「は?」
「だからその血漿で雇えるのは下級の雑魚だけですよ」
そんな事も知らなかったのだろうか?
そう思いながら丁寧に、優しく、落ち着かせる様に教えてあげる。
あんなもの、ある程度力を付けた悪魔ならば魅力を感じるほどの魔力量でも無いし、やろうと思えば作ることだってできる。
わざわざ他人に頭を下げて依頼を聞いてまであれをもらい受けようとするなど、悪魔に言わせれば愚の骨頂だ。
しかしそんな悪魔の思いとは裏腹に男は口を無様に開け、動悸が激しくなっている。
「か、下級だと? 超位の悪魔まで従えさせる事の出来るマジックアイテムだぞこれは!!」
「ーーん? だから下級と申して下ります。たかだか超位の悪魔など雑魚と申さずしてどう致しますか。数百年しか生きておらず、名付きの家からも出ていない悪魔など全て下級ではございませんか」
「ーーお前は一体何なんだ?」
恐れる様にそう言った青年を嘲笑いながら、悪魔はゆっくりとそれでいて普段の彼からすれば驚くほど低い声で告げる。
まるで別の何かの様に。
「そこまで気になるとおっしゃるのであれば、お教えしましょう私達の継名を。私達の名はーー」
「ーーば、馬鹿なそれはーー! その名は遥か太古に滅んだはずだっ!?」
事実を告げると真っ先に、悪魔の事をよく知っているであろう神官が悲鳴をあげる。
全く……これはどうしたものでしょうかねぇ……。
小さい悪魔は処理が面倒になった面々を見ながら、獰猛な笑みで本来の目的を果たすために魔力を開放しつつふとそんな事を考えるのだった。
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私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
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五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
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もはや文字ですら無かった
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本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
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