クラス転移で神様に?

空見 大

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幼少期編:王国

王の私室で

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 時刻は夕暮れ。
 王城内の仕事のほとんどは陽が沈むと同時に終わる。
 それは国王の仕事も例外ではなく、よっぽどの仕事であれば夜間まで持ち越すこともあるだろうが、いつもは基本的にこの時間帯に終わるのだ。
 そうして仕事を終えて一息ついた国王は、その私室で寛ぎながら目の前の少年に声をかける。

「そうだな……何から話すとしようか。ひとまず今回の話、君が人間社会で生きていくことができるかどうかを探ったという事に関しては理解してくれたかな?」

 国王の口から今回の出来事についてとうとうと語られ始める。
 事の始まりはエルピスが3歳の頃の話。
 そう、エルピスが初めてその魔法の才をこの世界に魅せつけた時である。
 まったく訓練もしていないような子供がいきなり魔法を使い始めた時点でも異常事態なのに、それに加えて普通ならば扱えないレベルの魔法すら簡単に操って見せた。
 半人半龍ドラゴニュートなので成長が早いのを前提として考えても散らかの扱い方を間違えさせないように気を付けようと考えたのがその時、そしてそんなエルピスが力の使いかたを間違えていないかを9歳の頃に確認した。
 クリムと共に冒険に出かけたのがそれであり、そこでエルピスは力の扱い方こそ間違えていない物の不安定さをみせてしまう結果となる。
 それが一時的な物なのかどうなのか、ストレスが掛かればそれだけで他者を簡単に傷つけてしまうのかどうかを注意深く観察していた。

「さっきも言ったが結果は合格、晴れてこれでお前さんは無罪放免ってわけだ」

「もしかして10歳になったら国王の元に連絡しに行くってのも……」

「あれか? あれ数百年前の風習だぞ。いまさらあんなのやってるやつほとんどいないよ、どうせ10歳になる前になんかの催しで王城に来るしな」

 大貴族の子供限定ならばまだ分からない話でもないと思って居たエルピスだったが、そもそもそんなものとっくの前に終わっていたという話を聞いて落ち込む。
 この世界の事を何も知らないのは外に出ていないから仕方がないという言い訳もできなくはないが、それでも20年以上生きていたのに見抜けなかったのは少し恥ずかしい。

「それでだが、君は先祖返りなのか?」

「先祖返り? 先祖返りって言うとあの先祖返りですよね? 」

 ムスクロルが言っている先祖返りがエルピスの知っている先祖返りならば、それは違うと断言出来る。
 先祖返りとは力有る生物が子孫を残した場合に起こる現象で、その力が子孫に受け継がれるというものだ。
 主に得られるのは強靭な肉体と特殊なスキル。
 だがエルピスの場合転生者だからこのスキルも生まれつきの物だし、別に強靭な肉体を得たわけでも特殊なスキルを貰った訳でも無いので、先祖返りと言うのは些か語弊があるだろう。
 これから生まれてくる妹はもしかしたら先祖返りかもしれないが、少なくとも自分は違う。
 突然の国王からの言葉に対して否定したエルピスだったが、そんなエルピスの言葉に対して国王は驚愕の一言を口にする。

「ならか。やっぱりヴァスィリオのとこの娘と一緒だな」

「……はぁっ!? ちょ! 何で俺が転生者だって分かったんですか!?」

 椅子から立ち上がり机に手を叩きつけんがら、エルピスはいままでで一番大きな声を出す。
 自分が転生者であるという事がバレないようにするために、一体どれだけこれまでの人生で気を使ってきたことか。
 エルピスがこの世界で胸の内に抱えた苦悩の内9割がそれだといっていい程であり、何とかばれないようにあれやこれやして来たというのに。
 まるで事も無げに口にした国王は、なぜバレていないと思って居るのかと言いたげだ。

「いや、そんなに驚かれてもな。だってそれ。見たら分かるじゃないか」

 そう言って国王が指差すのはエルピスの髪。
 確かにこの世界において黒髪の生物はかなり少ない、エルピスがあった中でも父とアウローラとその他少しと言ったところが。
 だがそれでもただの黒髪で転生者と判断されるのは冗談であってほしい。

 目の前でいままで気づいていなかったかと言いたげな顔をしている国王を見る限り、本当にそれだけの事で区別出来るんだと実感するには十分だった。
 偶々出会った人達の髪の色が黒じゃなかった訳ではなく、そもそも居なかっただけらしい。

「まぁ君の気持ちは分かるよ。あの娘も最初にそれを言ったら、何でバレたのか分からないって顔してたしな」

「いやまぁそれはそうでしょうね」

 自分以外この世界に自分が転生した事など知っていないだろうと思うのが普通だし、それをいきなり国王に当てられれば驚くのも無理はない。
 そこまで考えてエルピスはふと気が付く。
 国王が気が付いたということは、両親が髪の事について知っていてもなんらおかしくはないのだ。
 衝撃の事実に気づいたエルピスに対して国王は気怠そうな雰囲気を見せる。

「ようやく気付いたか……もうなんだ、警戒心も何もあったもんじゃ無いな。ふぁぁ、あー眠い。君の予想通りイロアスもクリムも君が異世界人だと知っている」

「会話中に欠伸しながら言うセリフですかそれ」

「細かい事気にし過ぎなんだよ、それで何か思う所とかあったりするか? 両親に自分が異世界人だと知られて」

 あるに決まって居るだろう。
 ここに至るまで一体どれだけそれで悩んできたことか。
 神であることがバレなかっただけまだマシなのかもしれないが、それでも知られていて何もなく笑みを浮かべていられるほど能天気ではない。
 次回顔を合わせるときにどうすればいいのか、いまの内に考えておいた方がいいだろう。

「驚いてますよ。非常にね」

「ふぅん……そうか」

 エルピスの事を一瞥してから、王はそう答える。
 ムスクロルが見たのは震えるエルピスの身体、もし親に拒否されたらと無意識の内に想定してしまっている目の前の少年に対してムスクロルは苦笑が溢れる。
 結局は異世界人であろうと何であろうと、見た目相応の少年だと思いながら。

「そういえばエルピス君、話は変わるが」

「なんでしょうか?」

「明日からアウローラと俺の息子や娘の指南役も任せたぞ」

「……は? え? どうしてでしょうか?家に帰ったらやりたいなと思ってたことが山のようにあるんですけど」

 そんな話は聞いていない。
 家に帰ったらひとまず畑の改良、銃の製造、工業用品への取り掛かりなどなど。
 神の力を開放できるようにするために鍛錬することだって忘れてはならない。
 正直王都で暇を潰す程度ならばまだしも定住するほどの時間などあるわけがない。

「別にどこで何やっても変わらんだろ? 」

「変わりますよ! と言うかこんなこと言いたくないですけどここら辺魔力農奴も薄いし研究場としては条件最悪です!」

「だがここには物資がある。人がいる。そして家庭教師をすれば金が入る。悪い話じゃないだろう? 成人になったのだからいつまでも家に甘える事だってできないだろう」

「……給料は?」

「一日に付き金貨3枚、教えるのは魔法だ。休みの日には王国の図書館や研究所を自由に使ってヨシ、これでどうだ?」

 これだけの条件を出すのだから出来ないわけがないだろう? 王の言葉はそう言っているように聞こえた。
 魔法の基礎程度しかまともに知らないエルピスだが、自分が魔法を使えている以上は出来ないなどという言い訳は通用しない。
 追加で出された条件は悪くない。
 多少ここで定住する程度であれば、条件を呑んだとしても悪くはないだろう。

「良かった良かった! じゃあこの事はイロアスとクリムに伝えないとな。とりあえず飯食うぞ」

 決定事項を告げる様にそう王は語る。
 王の指名なんて逃げられるものでも無いし、決定事項と言うのはあながち間違っていないか。
 かくしてエルピスのお使いは、王族と貴族の娘の教育係になると言う事で幕を閉じたのだった。
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